労働衛生(有害業務)12第一種職業性疾病

衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問12:職業性疾病

二硫化炭素(CS₂)に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。

  • 二硫化炭素は有機則において第3種有機溶剤に区分されており、毒性が比較的低いため、局所排気装置の設置義務が免除されている。
  • 二硫化炭素の慢性曝露による健康障害の主な症状は、肝臓への強い毒性(黄疸・肝細胞壊死)のみであり、神経系や血管系への障害は生じないことが特徴とされている。
  • 二硫化炭素は揮発性が低く(蒸気圧が低い)、引火点が高い(常温では引火の危険性がない)ことから、火気管理の必要性は乏しく、消防法上の危険物にも該当しない。
  • 二硫化炭素の慢性曝露は、中枢神経系の障害(精神神経症状・記憶障害)・末梢神経障害・視神経炎・動脈硬化促進(心筋梗塞・脳卒中リスクの増加)という多臓器への障害を引き起こす。正答
  • 二硫化炭素による末梢神経障害の機序はn-ヘキサンと同一であり、両物質とも代謝産物として2,5-ヘキサンジオンが産生されることにより神経線維を障害する。
正答:二硫化炭素の慢性曝露は、中枢神経系の障害(精神神経症状・記憶障害)・末梢神経障害・視神経炎・動脈硬化促進(心筋梗塞・脳卒中リスクの増加)という多臓器への障害を引き起こす。

AI解説(初心者・標準・上級)

理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠法令も明記。

初心者向けまずはここから。やさしく要点を解説

正しいのはエです。二硫化炭素(CS₂)の慢性曝露は、中枢神経障害(精神症状・記憶力低下)・末梢神経障害・視神経炎・動脈硬化の促進(心筋梗塞・脳卒中)という多臓器にわたる重篤な健康障害を引き起こします。これは他の有機溶剤と比べて毒性が特に強い理由の一つです。

各誤りの要点: ア→二硫化炭素は有機則の第1種有機溶剤(最も規制が厳しい区分)。イ→肝毒性のみではなく神経・血管系への障害が主な特徴。ウ→二硫化炭素は実際には揮発性が高く(沸点46℃)、引火点が非常に低い(約-30℃)極めて引火しやすい物質であり、消防法上の危険物(第4類・特殊引火物)に該当する(ウは事実と正反対の誤り)。オ→n-ヘキサンの神経障害の機序(2,5-ヘキサンジオン)と二硫化炭素の機序は異なる(CS₂は別の機序で神経を障害)。

標準試験対策の基準レベル

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(誤): 二硫化炭素は有機則において第1種有機溶剤に区分されます(毒性が最も強い区分)。局所排気装置の設置義務が免除されるどころか、最も厳しい設備義務が課される物質です。
  • イ(誤): 二硫化炭素の慢性曝露の特徴は肝毒性「のみ」ではなく、神経系・血管系・眼への多臓器毒性です。肝障害は軽微で、主な健康障害は神経・血管系です。「肝毒性のみ」は誤りです。
  • ウ(誤): 二硫化炭素は実際には揮発性が高く(沸点46℃・蒸気圧が高い)、引火点が約-30℃と非常に低く、爆発範囲(1.3〜50%)も広い極めて引火しやすい物質で、消防法上の危険物(第4類・特殊引火物)に該当します。ウの「揮発性が低く・引火点が高く・火気管理の必要性は乏しく・危険物に該当しない」という記述は事実と正反対であり誤りです。
  • エ(正): 多臓器毒性(中枢神経・末梢神経・視神経・動脈硬化)が正確に記述されており正しい。
  • オ(誤): 2,5-ヘキサンジオンはn-ヘキサン(およびメチルn-ブチルケトン)の代謝産物であり、二硫化炭素の神経毒性の機序ではありません。CS₂はCS₂そのものが神経組織に親和性を持つ機序や、血管系への影響を介した神経障害が関与しています。

二硫化炭素の臓器別障害:

| 臓器・系統 | 障害の内容 |

|---|---|

| 中枢神経 | 精神症状(躁状態・うつ・幻覚)・記憶障害・認知機能低下 |

| 末梢神経 | 多発性神経炎(手足のしびれ・筋力低下) |

| 眼(視神経) | 視神経炎・網膜動脈変化(動脈瘤・出血) |

| 血管系 | 動脈硬化促進→心筋梗塞・脳卒中リスク上昇 |

上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

二硫化炭素(CS₂)は、かつてレーヨン(人造絹糸)・セロハン等の粘性繊維素(ビスコース)の製造に大量に使用された有機溶剤であり、20世紀の職業医学史において最も重要な職業病原因物質の一つです。欧米・日本での纎維業労働者の間で大規模な中毒被害が発生し、多臓器への慢性毒性が詳細に研究されました。現在はビスコース法レーヨン生産の縮小と代替製法への移行が進んでいますが、農薬製造・粘性セメント等で依然として使用される場面があります。

二硫化炭素の物理化学的特性(揮発性・引火性):

  • 沸点: 46.2℃(非常に低い)→常温で大量に蒸発
  • 引火点: -30℃(非常に低い)→冬季でも引火の危険
  • 爆発範囲: 1.3〜50.0 vol%(非常に広い)→爆発リスクが高い
  • 密度: 1.26(水より重い液体)→流れた場合に低所に溜まりやすい
  • 蒸気密度: 2.64(空気より重い)→換気が不十分な低所に滞留

このため、二硫化炭素は毒性だけでなく火災・爆発の危険性という物理的危険性も極めて高い物質です。

【実務・条文構造】

二硫化炭素の毒性機序(詳細):

中枢神経毒性:

  • CS₂分子が中枢神経に対して直接毒性を持つ
  • 精神症状(初期:不安・不眠・躁状態、慢性:うつ・幻覚・妄想)
  • CS₂がドパミン・セロトニン等の神経伝達物質の代謝に影響する可能性が研究されている
  • ビスコースレーヨン工場での「マンガロール熱」等の症例が歴史的に記録されている

末梢神経毒性:

  • n-ヘキサンと異なるメカニズム(2,5-ヘキサンジオンは関与しない)
  • CS₂がピリドキシン(ビタミンB6)と反応してジチオカルバミン酸塩を形成→補酵素機能を阻害
  • CS₂が神経線維タンパク質と反応→軸索変性

血管系毒性(動脈硬化促進):

  • CS₂曝露により脂質代謝異常(LDLコレステロール増加・HDL減少)
  • 血管内皮障害→動脈硬化の加速
  • 疫学研究: ビスコースレーヨン工場労働者で心筋梗塞リスクが有意に増加
  • 冠動脈・脳動脈・網膜動脈の動脈硬化性変化が確認されている

眼(視神経・網膜)毒性:

  • 視神経炎→視野狭窄・色覚異常・視力低下
  • 網膜動脈の動脈瘤・出血(眼底検査で確認可能)
  • 動脈硬化性変化の一部として起こる

有機則における第1種有機溶剤の規制強度:

  • 局所排気装置の設置義務(適切な機種の選択が必要)
  • 6か月ごとの作業環境測定義務
  • 特殊健康診断(6か月ごと)
  • 有機溶剤作業主任者の選任義務

【試験での位置づけ】

二硫化炭素問題の最頻出は「第1種有機溶剤(第3種は誤り)」「多臓器毒性(中枢神経・末梢神経・視神経・動脈硬化)という特徴的な広さ」「物理的危険性(揮発性が高く引火点-30℃の特殊引火物・ウの逆転記述に注意)」「n-ヘキサンとの機序の違い(2,5-ヘキサンジオンはCS₂の代謝産物ではない)」の4点です。オのようにn-ヘキサンの機序をCS₂に当てはめる誤りと、イのように「肝毒性のみ」という主症状の絞り込み誤り、ウのように物理的危険性を正反対に記述する誤りは典型的な引っかけです。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 第1種有機溶剤の代表物質: 二硫化炭素・クロロホルム・四塩化炭素・1,2-ジクロロエタン等の、毒性が強く(特に神経毒性・肝毒性・腎毒性・発がん性のいずれか)かつ有害性が高い物質。
  • イ: 肝毒性が特に強い有機溶剤としては四塩化炭素・クロロホルム・トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素が挙げられます。二硫化炭素はこれらとは毒性プロファイルが異なり、神経・血管系毒性が前景に立ちます。
  • ウ: 二硫化炭素の物理的危険性(沸点46℃で揮発性が高い・引火点-30℃・爆発範囲1.3〜50%)は実際には極めて高く、消防法上の危険物(第4類・特殊引火物)としての規制も受けます。作業環境管理では毒性対策と同時に防火・防爆対策も重要です。選択肢ウはこの事実を正反対に記述しているため誤りです。
  • エ: 動脈硬化促進という血管系毒性は二硫化炭素に特徴的な毒性プロファイルです。他の多くの有機溶剤では中枢神経抑制・肝毒性が中心ですが、CS₂は心血管リスクを高める点で特異的です。歴史的な疫学データがこの特徴の根拠となっています。
  • オ: n-ヘキサンの神経毒性の特徴は「代謝産物(2,5-ヘキサンジオン)による神経フィラメントの架橋反応→長い神経線維から障害(長さ依存性多発性神経炎)」という明確な機序があります。二硫化炭素の神経毒性の機序は複数の説があり(直接毒性・ビタミンB6代謝阻害等)、n-ヘキサンとは本質的に異なります。

【根拠】医学的事実(確立した職業医学・毒性学)。二硫化炭素の多臓器毒性(中枢神経・末梢神経・視神経・動脈硬化)・第1種有機溶剤の区分・n-ヘキサンとの機序の差異は職業医学の確立した知識。

【補足】二硫化炭素は第1種有機溶剤(最も厳しい規制)。多臓器毒性(中枢神経・末梢神経・視神経・動脈硬化促進)が特徴。n-ヘキサンの神経障害機序(2,5-ヘキサンジオン)とは異なる。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した職業医学・毒性学)。二硫化炭素の多臓器毒性(神経・血管・眼)は職業医学の確立した知識。有機則の区分(第1種)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

関連論点

二硫化炭素・多臓器毒性・有機溶剤区分頻出度B

労働衛生(有害業務)の他の問題

1
作業環境測定と評価
2
職業性疾病
3
職業性疾病(粉じん・石綿)
4
局所排気装置・保護具
5
局所排気装置・保護具
6
有害化学物質の分類と性状

科目別に解いて、衛生管理者に合格

関係法令・労働衛生・労働生理を260問。第一種・第二種対応。各問に根拠法令とAI解説(3レベル)付き。