衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問16:職業性疾病
電離放射線による健康影響および被ばく管理に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア電離放射線の健康影響には、一定線量(しきい値)以上の被ばくで確実に生じる「確定的影響」(急性放射線症・白内障・不妊等)と、線量に比例してリスクが増加するが必ず発症するわけではない「確率的影響」(がん・遺伝的影響等)がある。
- イ電離放射線障害防止規則では、放射線業務従事者の実効線量限度は5年間で100mSv(かつ1年間で50mSvを超えないこと)とされており、これを超えた場合は直ちに就業停止となる。
- ウ女性の放射線業務従事者(妊娠する可能性がないと診断された者を除く)については、腹部の表面における線量の限度として、3か月間で5mSv(実効線量限度とは別に設けられた追加の制限)が定められている。
- エ電離放射線による確定的影響の「白内障」は、水晶体への被ばくによるものであり、現在は以前に比べてしきい値が引き下げられ、より低い線量でも生じる可能性があることが認識されている。
- オX線は電磁放射線の一種であり、透過力が非常に高く、α線・β線よりも人体への電離密度(LET)が高いため、同じ線量でも最も大きな生物学的影響を与える放射線である。正答
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠法令も明記。
誤りはオです。X線(電磁放射線)は透過力は高いですが、電離密度(LET: 線エネルギー付与)はα線やβ線に比べて低いです。最もLETが高い(生物学的影響が大きい)放射線はα線であり、同じ線量ではα線が最も大きな生物学的影響を与えます。ただしα線は透過力が非常に弱く(紙一枚で遮蔽可能)、体外からよりも体内に取り込まれた場合(内部被ばく)に特に危険です。
ア(確定的影響・確率的影響の区分)・イ(実効線量限度)・ウ(女性腹部の3か月5mSv)・エ(白内障のしきい値引き下げ)はすべて正しい内容です。
電離放射線の種類と特性:
| 放射線の種類 | 実体 | 透過力 | LET(電離密度) | 遮蔽材 |
|---|---|---|---|---|
| α線 | ヘリウム核 | 最も弱い(紙で止まる) | 最も高い | 紙・数cm空気 |
| β線 | 電子(高速) | 中程度 | 中程度 | アルミ板・プラスチック |
| γ線・X線 | 電磁波(光子) | 最も高い | 最も低い | 鉛・厚いコンクリート |
| 中性子線 | 中性子 | 高い | 高い | 水・パラフィン(水素含む) |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 確定的影響(deterministic effect)=しきい値以上で必ず発症・線量が大きいほど重症(骨髄抑制・白内障・皮膚紅斑・不妊等)。確率的影響(stochastic effect)=しきい値なし・線量に比例してリスク増加(がん・遺伝的影響)。
- イ(正): 電離則第4条。5年100mSv(1年50mSv超えない)が放射線業務従事者の実効線量限度。
- ウ(正): 電離則第6条。妊娠可能な女性は腹部3か月5mSv(胎児保護のための追加制限)。
- エ(正): 水晶体の確定的影響(放射線白内障)のしきい値は、ICRPの2011年勧告で以前の5Gyから引き下げられ(0.5Gyが推定しきい値)、職業上の眼の水晶体の等価線量限度も見直しが行われています。
- オ(誤): X線・γ線はLETが低い(電離密度が低い)。最もLETが高いのはα線。「X線がα線より生物学的影響が大きい」は誤りです。ただしX線は体内深部まで到達するため、総被ばく量としての問題は大きい。
【理論的背景】
電離放射線の健康影響は「確定的影響(deterministic effect)」と「確率的影響(stochastic effect)」の2つの概念で整理されます。この分類はICRP(国際放射線防護委員会)の勧告体系の根幹をなすものであり、放射線業務従事者の線量限度設定の理論的根拠となっています。
LET(線エネルギー付与・Linear Energy Transfer)と放射線加重係数(WR):
- LETが高い放射線(α線・中性子線)は単位経路長あたりに多くのイオン対を生成→DNAへの損傷が密集・修復が困難→生物学的効果が大きい
- LETが低い放射線(X線・γ線・β線)は電離が疎散→DNA損傷が少ない(といっても十分危険)
- 放射線加重係数(WR): α線=20・中性子線=最大20・X線・γ線・β線=1
実効線量(Sv)= 吸収線量(Gy)× 放射線加重係数(WR)× 組織加重係数(WT)
この計算体系により、α線の実効線量は同じ吸収線量でもX線の20倍の「実効的な害」として評価されます。
【実務・条文構造】
電離則の主要線量限度(電離則第4条〜第6条):
放射線業務従事者の実効線量限度:
- 5年間で100mSv(かつ1年間で50mSvを超えないこと): 確率的影響(主にがん)のリスクを許容水準に抑えるための限度
- 女性(妊娠可能性のある者)の腹部: 3か月で5mSv(胎児への影響防止)
等価線量限度(確定的影響の防止目的):
- 目の水晶体: 5年間で100mSvかつ1年間で50mSv(2021年4月1日施行の電離則改正で従来の「1年150mSv」から引き下げ済み。ICRP 2011年声明を反映)
- 皮膚: 1年間で500mSv
確定的影響の臓器別しきい値(推定値):
| 臓器・影響 | しきい値(推定) |
|---|---|
| 精巣(一時的不妊) | 0.1Gy |
| 卵巣(永続的不妊) | 2.5〜6Gy |
| 水晶体(白内障) | 0.5Gy(ICRP 2011年改訂後) |
| 骨髄(急性造血障害) | 0.5Gy |
| 皮膚(紅斑) | 3〜6Gy |
確率的影響の管理(線量限度の根拠):
放射線による発がんリスクは、実効線量1Svあたり約5%の致死的ながんリスク増加(ICRP 2007勧告)という推定値に基づき、職業被ばくの許容年間リスクが設定されています。
【試験での位置づけ】
電離放射線問題の最頻出は「確定的影響(しきい値あり・確実)vs確率的影響(しきい値なし・確率的)の区別」「実効線量限度(5年100mSv・1年50mSv)」「女性腹部の3か月5mSvという追加制限」「放射線の種類とLET(α線が最も高い・X線・γ線は低い)」の4点です。オのような「X線がα線より生物学的影響が大きい」という逆転の誤りは、「透過力が高い=危険」という直感的な誤解を利用した典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 確率的影響の代表的な例は「放射線誘発がん(白血病・甲状腺がん・乳がん等)」と「遺伝的影響(生殖細胞への影響で次世代への遺伝)」です。遺伝的影響はヒトでの証明は困難ですが、動物実験での根拠から線量限度設定に含まれています。なおICRPの最新勧告では遺伝的影響の相対的なリスク寄与は以前の推定より低いとされています。
- イ: 実効線量限度の5年100mSvという設定は、5年間すべて50mSvを受けても合計100mSvとなるが、特定の1年で50mSvを超えることは禁止という二重制約になっています。これにより1年での急峻な被ばくを防ぎつつ、5年間の平均的な被ばく管理を可能にしています。
- ウ: 女性腹部の3か月5mSvという限度は、胎児への被ばくを制限するための措置です。妊娠が確認された場合には、さらに厳しい制限(残りの妊娠期間の腹部線量を1mSv以下)が課されます。職場での放射線管理において女性労働者への特別な配慮が求められる根拠です。
- エ: 水晶体の放射線白内障は、ICRP 2011年勧告以降、職業被ばくにおける眼の水晶体管理の見直しが世界的に進みました。日本では2021年4月1日施行の電離則改正で眼の水晶体の等価線量限度が「年150mSv」から「5年間で100mSvかつ1年間で50mSv」に引き下げられ、介入放射線業務(カテーテル治療等)に従事する医療従事者での管理強化が図られています。
- オ: α線の「外部被ばくは安全だが内部被ばくは危険」という特性は重要です。α線はLETが最も高く細胞損傷能が大きいが、透過力が非常に弱いため皮膚の最外層(角質層)すら通過できない→体外からのα線曝露は問題になりにくい。しかし吸入・経口で体内に取り込まれると内部組織(肺・消化管・骨等)に直接高LETの電離を起こす→内部被ばくによる発がんリスクが高い(ラドン気体の吸入による肺がんリスクが代表例)。
【根拠】電離放射線障害防止規則(電離則)第4条(実効線量限度)・第5条(等価線量限度)・第6条(女性の追加制限)。放射線医学(LET・放射線加重係数・確定的/確率的影響の区分)。
【補足】オ(誤): X線はLETが低く(α線・中性子線の方がLETが高い)。最もLETが高い=α線。5年実効線量限度=100mSv(1年で50mSvを超えない)。女性腹部追加制限=3か月で5mSv。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 電離放射線障害防止規則(電離則)第4条・第5条・第6条。放射線の種類とLET・実効線量限度は電離則および放射線医学の確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。