労働衛生(有害業務)18第一種職業性疾病

衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問18:職業性疾病

職業性疾病の原因物質と主な健康影響の組み合わせとして、**誤っているもの**はどれか。

  • 塩化ビニル(塩化ビニルモノマー)の慢性曝露 ── 肝血管肉腫・手指末節骨の骨溶解(アクロオステオライシス)
  • フッ化水素(HF)および無機フッ素化合物の慢性曝露 ── 骨フッ素症(骨硬化・関節変形)・歯のフッ素症(歯牙フッ素症)
  • ベンゼンの慢性曝露 ── 末梢神経障害(多発性神経炎)・皮膚炎・角膜障害正答
  • ヒ素(砒素)化合物の慢性曝露 ── 皮膚角化症・ボーエン病(皮膚がん前駆状態)・肺がん・末梢神経障害
  • ノルマルヘキサン(n-ヘキサン)の慢性曝露 ── 手足の末梢神経障害(多発性神経炎)・代謝産物2,5-ヘキサンジオンによる軸索変性
正答:ベンゼンの慢性曝露 ── 末梢神経障害(多発性神経炎)・皮膚炎・角膜障害

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誤りはウです。ベンゼンの慢性曝露の主な健康影響は骨髄毒性(骨髄抑制)による造血障害(白血球減少・血小板減少・再生不良性貧血)および白血病(発がん性)です。ウで挙げられた「末梢神経障害・皮膚炎・角膜障害」はベンゼンの主な症状ではありません(他の化学物質の症状や軽微な副次的症状に過ぎない)。

ア(塩化ビニルモノマー→肝血管肉腫)・イ(フッ化水素→骨フッ素症)・エ(ヒ素→皮膚がん・肺がん)・オ(n-ヘキサン→末梢神経障害)はすべて正しい組み合わせです。

標準試験対策の基準レベル

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): 塩化ビニルモノマー(VCM)への慢性職業性曝露は、①肝血管肉腫(血管内皮細胞の悪性腫瘍・特異的な発がん性)、②アクロオステオライシス(手指末節骨の溶骨性変化)、③強皮症様皮膚変化を引き起こすことが確認されています。VCMはIARCグループ1(ヒトへの発がん性確認)。
  • イ(正): フッ化水素・フッ化物の慢性曝露では、骨フッ素症(弗素骨症)として骨硬化・靱帯石灰化・関節変形が生じます。また歯牙フッ素症(エナメル質の変色・凹み)も慢性曝露の所見。アルミニウム製錬・ガラス加工・フッ素化学等の従事者に見られます。
  • ウ(誤): ベンゼンの慢性曝露の主な健康影響は骨髄毒性です。具体的には白血球減少(顆粒球減少→感染リスク)・血小板減少(出血傾向)・再生不良性貧血・急性骨髄性白血病(AML)のリスク増加。「末梢神経障害・皮膚炎・角膜障害」はn-ヘキサンや他の溶剤の症状との混同です。
  • エ(正): ヒ素(砒素)化合物の慢性曝露では皮膚の異常(色素沈着・過角化・ボーエン病・皮膚がん)・肺がん・末梢神経障害・肝障害・膀胱がんが生じます。IARCグループ1の発がん物質(多臓器の発がん性)。
  • オ(正): n-ヘキサンの慢性曝露→代謝産物2,5-ヘキサンジオン→神経フィラメント架橋→遠位優位の多発性神経炎(glove-stocking pattern)→手足のしびれ・筋力低下。靴接着剤・印刷業等での曝露例が有名。

ベンゼン毒性の正確な整理:

| 影響 | 内容 |

|---|---|

| 急性 | 中枢神経抑制(高濃度曝露時)・めまい・意識障害 |

| 慢性(主要) | 骨髄毒性→造血障害(白血球減少・血小板減少・再生不良性貧血) |

| 発がん性 | 白血病(特に急性骨髄性白血病・AML)・IARC グループ1 |

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【理論的背景】

「物質と症状の正確な対応」は職業性疾病管理の基本であり、誤った対応付けによる見逃し・誤診は重大な健康被害につながります。特にベンゼンは「有機溶剤だから中枢神経抑制が主症状」と単純に考えると誤りで、骨髄毒性という特異的な作用機序を持つ点が重要です。骨髄毒性は他の多くの有機溶剤には見られないベンゼン特有の毒性プロファイルです。

ベンゼンの骨髄毒性の機序:

  • ベンゼン→肝臓での代謝(CYP2E1)→酸化代謝産物(ベンゼンオキシド・カテコール・ヒドロキノン・ベンゾキノン等)
  • 代謝産物が骨髄に移行→造血幹細胞・骨髄間質細胞に対してDNA損傷・アポトーシス誘導
  • 慢性的な骨髄抑制→顆粒球減少・血小板減少・赤血球減少(汎血球減少)→再生不良性貧血
  • 発がんメカニズム: 代謝産物によるDNA付加体形成→染色体異常・遺伝子変異→白血病(特に急性骨髄性白血病)

ベンゼンは現在、日本では一般的な溶剤としての使用は原則禁止(安衛法第55条・使用禁止化学物質)ですが、試験研究・製造中間体等での使用(許可制)は継続しており、特化則の第2類物質として厳しく管理されています。

【実務・条文構造】

主要職業性疾病の物質-症状対応表(完全版):

| 物質 | 主な職業的曝露源 | 特徴的な症状・疾患 | 規制区分 |

|---|---|---|---|

| ベンゼン | 石油精製・化学合成(過去:溶剤) | 骨髄毒性・白血病(AML)・再生不良性貧血 | 特化則第2類・使用禁止(許可制) |

| n-ヘキサン | 靴製造・印刷・食用油抽出 | 末梢神経障害(2,5-ヘキサンジオン) | 有機則第2種 |

| 二硫化炭素(CS₂) | レーヨン製造・農薬 | 中枢・末梢神経・視神経・動脈硬化 | 有機則第1種 |

| 塩化ビニルモノマー | 塩ビ製造 | 肝血管肉腫・アクロオステオライシス | 特化則第2類 |

| ベンゾトリクロリド | 農薬・染料中間体 | 強発がん性(肺がん等)・特化則第1類 | 特化則第1類 |

| ヒ素化合物 | 農薬・精錬・ガラス | 皮膚がん・肺がん・末梢神経障害 | 特化則第2類 |

| クロム酸(六価Cr) | めっき・顔料 | 肺がん・鼻中隔穿孔 | 特化則第2類 |

| フッ化水素 | アルミ精錬・ガラス加工 | 骨フッ素症・歯牙フッ素症・皮膚腐食 | 特化則第3類 |

| マンガン | 溶接・製鉄 | マンガニズム(パーキンソン様) | 特化則第2類(溶接ヒューム) |

| 鉛 | はんだ・蓄電池・印刷 | 貧血・末梢神経障害・腹部疝痛・鉛縁 | 鉛則 |

| 石綿(アスベスト) | 建設・造船・断熱材 | 中皮腫・石綿肺・肺がん | 特化則第2類・製造禁止 |

塩化ビニルモノマー(VCM)の特異的疾患:

  • 肝血管肉腫(hepatic angiosarcoma): 非常に稀な肝臓の悪性腫瘍だが、VCM曝露との特異的関連が確立。暴露から発症まで15〜30年の潜伏期。
  • アクロオステオライシス: 手指末節骨が溶骨性に変化する特異な骨変化。VCM曝露労働者(特に重合タンクの洗浄作業者)に特有の所見。

【試験での位置づけ】

物質-症状対応問題の最頻出は「ベンゼン=骨髄毒性・白血病(末梢神経障害はn-ヘキサン)」「n-ヘキサン=末梢神経障害(2,5-ヘキサンジオン)」「塩化ビニルモノマー=肝血管肉腫」「ヒ素=皮膚がん・肺がん」「二硫化炭素=多臓器(神経・血管)」の5点です。ウのようにn-ヘキサンや他の溶剤の症状をベンゼンに当てはめる誤りは最頻出の引っかけパターンです。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 塩化ビニルモノマー(VCM)による肝血管肉腫は、VCM曝露労働者の大規模疫学調査(1970年代)によって初めて確認された特異的ながんです。現在の製造工程では密閉化・自動化が進み曝露は大幅に低減されましたが、古い時代に重合タンク内の清掃作業を行った労働者での発症が継続的に報告されています。
  • イ: フッ化水素の皮膚への直接接触は、皮膚の深部まで浸透して骨のカルシウムと結合(フッ化カルシウム形成)するという特殊な経皮毒性があり、外見上軽微な接触でも重篤な局所壊死・全身性低カルシウム血症・心不全をきたす可能性があります。皮膚症状が遅れて出現する点も特徴で、グルコン酸カルシウムの局所投与が解毒の観点から推奨されています。
  • ウ: ベンゼンは発見の経緯が有機化学の歴史と密接に結びついており(Kekulé のベンゼン環発見・1865年)、化学・医薬品・染料製造に広く使用されましたが、その毒性(骨髄毒性・発がん性)の確認により段階的に規制が強化されてきました。現在の日本での製造・使用は厳格な許可制となっています。
  • エ: ヒ素は人類最古の毒薬・殺鼠剤として知られる物質ですが、職業的曝露は鉱石精錬(金・銀・銅の精錬で副産物として生成)・農薬(砒酸鉛等)・木材防腐剤(CCA=クロム・銅・砒素)・半導体製造(ヒ化ガリウム等)でのリスクがあります。日本では和歌山カレー事件(1998年)で亜砒酸が使用され、社会的な知名度が高まりました。
  • オ: n-ヘキサンによる末梢神経障害の歴史的事例として、1970年代の日本の製靴業(靴底接着剤としてn-ヘキサン含有シクロヘキサンを使用)での集団発症があります。密閉された作業場での慢性吸入曝露により、多数の労働者に多発性神経炎が発症しました。この事件が有機溶剤中毒予防規則の整備を促進する契機の一つになりました。

【根拠】医学的事実(確立した職業医学・毒性学)。ベンゼンの主な毒性は骨髄毒性・白血病(末梢神経障害ではない)・各物質の特異的な標的臓器・疾患は職業医学の確立した知識。特化則・有機則の区分も準拠。

【補足】ウ(誤): ベンゼン=骨髄毒性・白血病(末梢神経障害はn-ヘキサン)。塩化ビニルモノマー=肝血管肉腫・アクロオステオライシス。ヒ素=皮膚がん・肺がん。n-ヘキサン=末梢神経障害(2,5-ヘキサンジオン)。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した職業医学・毒性学)。ベンゼンの主な毒性は骨髄毒性(白血病)であり、末梢神経障害・皮膚炎・角膜障害は主症状ではない。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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