労働衛生(有害業務)36第一種職業性疾病

衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問36:職業性疾病

騒音による健康障害(騒音性難聴)に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。

  • 騒音性難聴は、強大な音への曝露によって蝸牛の基底膜近傍の有毛細胞が障害される感音性難聴であり、最初に1,000Hz(1kHz)付近の聴力が低下することが特徴的である。
  • 騒音性難聴の初期に現れる特徴的な聴力変化は「4,000Hz(4kHz)における聴力低下(いわゆるC5-dip)」であり、この変化は早期発見の指標として特殊健康診断で重視される。正答
  • 騒音性難聴は、騒音への曝露を中止することによって障害された有毛細胞が自然回復し、適切な治療を行えば聴力の完全回復が可能な疾病である。
  • 耳栓(防音保護具)は、着用することで耳に届く音の強さ(音圧レベル)を大幅に低減できるが、耳栓の遮音性能は使用者が正しく装着しなくてもカタログ値の性能が発揮されるように設計されている。
  • 会話音域(500〜2,000Hz)の聴力は騒音性難聴の進行に伴い早期に低下するため、騒音性難聴の患者は騒音曝露の初期段階から日常会話に著しい支障を来す。
正答:騒音性難聴の初期に現れる特徴的な聴力変化は「4,000Hz(4kHz)における聴力低下(いわゆるC5-dip)」であり、この変化は早期発見の指標として特殊健康診断で重視される。

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正しいのはイです。騒音性難聴(職業性難聴)の最も特徴的な早期変化は、4,000Hz(4kHz)における聴力低下(C5-dip)です。オージオグラムでは4kHzに谷型の低下(dip)が現れることから「C5-dip」または「4kHz-dip」と呼ばれ、特殊健康診断でのオージオメトリー検査で早期発見に用いられます。

各誤りの要点:ア→最初に影響を受けるのは4kHz(1kHzではない)。ウ→騒音性難聴の有毛細胞障害は不可逆(自然回復・完全治癒は不可能)。エ→耳栓の遮音性能は正しい装着が必須(誤装着ではカタログ値の性能は発揮されない)。オ→会話音域は比較的遅くまで保たれる(4kHzが先に低下し、日常会話への支障は後期に現れる)。

標準試験対策の基準レベル

騒音性難聴の進行パターン(オージオグラムの変化):

| 段階 | 周波数変化 | 自覚症状 |

|---|---|---|

| 初期(早期) | 4kHz付近に限局したdip(C5-dip) | ほぼなし(自覚できない) |

| 中期 | 4kHz中心のdipが深くなり拡大(2〜6kHz) | 高音域の聞こえが悪くなる感覚 |

| 後期 | 2〜4kHzに拡大・1kHzまで広がり始める | 日常会話(500〜2kHz)に支障が出始める |

| 末期 | 全周波数にわたる聴力低下 | 著しい難聴・補聴器が必要 |

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(誤): 騒音性難聴が最初に影響する周波数は4kHz(4,000Hz)。1kHzではなく4kHzが選択的に障害される理由は、4kHz付近の周波数に対応する有毛細胞が蝸牛の最初に傷害されやすい解剖学的位置(蝸牛の入口から約1/4の部位)に集中しているため。
  • イ(正): C5-dipは騒音性難聴の診断における最重要所見。「C5」は4kHzを指す音楽的表記(ピアノのC5=4,186Hz)に由来するが、現在では「4kHz-dip」として知られる。特殊健康診断(騒音健診)では4kHzの純音聴力検査が必須の検査項目。
  • ウ(誤): 騒音によって損傷した蝸牛の有毛細胞(内・外有毛細胞)は再生しない。哺乳類(人間を含む)の内耳有毛細胞は出生後に再生する能力を持たないため、騒音性難聴は不可逆的。
  • エ(誤): 耳栓の遮音性能(NRR:Noise Reduction Rating)はラボラトリーでの理想的装着条件で測定されたカタログ値。実際の使用では正確な装着(外耳道への挿入深さ・サイズ選択)が必須で、誤装着では性能が大幅に低下する(カタログ値の50%以下になる場合も)。
  • オ(誤): 会話音域(500〜2,000Hz)は騒音性難聴の進行において比較的後期まで保たれる。初期のC5-dip段階では日常会話には支障が少なく、患者が自ら難聴に気づきにくい(自覚症状の乏しさが早期発見を困難にする)。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

騒音性難聴は職業性難聴(occupational hearing loss)として最も頻度が高い職業病の一つです。日本では騒音作業に従事する労働者が多く、特に製造業・建設業・採石業・鋳造業での有訴率が高いことが知られています。騒音性難聴の最大の特徴は「進行が非常に緩やかで自覚症状が遅れて出現する」点であり、気づいたときには既に相当な障害が固定化しているという「サイレント疾患」としての側面を持ちます。

4kHzが最初に障害される解剖学的理由:

蝸牛は「カタツムリ」形の液体で満たされた螺旋構造を持ち、異なる周波数の音は蝸牛の異なる部位で最大振動を生じます(周波数-場所のマッピング:tonotopic organization)。高周波数(高音)ほど蝸牛の入口(基底部)近くで振動・低周波数(低音)ほど蝸牛の先端(頂点部)近くで振動します。4kHzに対応する外有毛細胞は蝸牛基底部から約1/4の位置に集中していますが、この部位が特に強大音への曝露に対して脆弱な理由については「この部位への血流供給の特性」「エネルギー集中の特異的なパターン」等が考えられていますが、完全には解明されていません。

一時性難聴(TTS)と永続性難聴(PTS):

  • 一時性閾値変動(TTS: Temporary Threshold Shift): 強大音の単発的・短時間曝露後に生じる一過性の聴力低下。回復時間は曝露強度・曝露時間による(通常12〜24時間で回復)。
  • 永続性閾値変動(PTS: Permanent Threshold Shift): 慢性的な騒音曝露の累積によって生じる不可逆的な聴力低下。有毛細胞の壊死・消失による。

TTSの繰り返しがPTSへの移行を促進すると考えられており、職業性騒音曝露による難聴はTTS→PTS移行の累積プロセスとして理解されます。

【実務・条文構造】

騒音障害防止規則(騒音則・安衛則第590条等):

騒音作業の定義(安衛令別表第2):

  • 等価音圧レベルが85dB(A)以上の場所での作業(騒音作業)が管理対象
  • 作業環境測定:6か月以内ごとに1回の作業環境測定(騒音レベルの測定)が義務

騒音障害に係る特殊健康診断(安衛則第590条等):

  • 騒音作業に常時従事する労働者に対する健診が義務(6か月以内ごとに1回)
  • 必須検査項目:①業務歴・既往歴・自覚症状の問診・②外耳道・鼓膜の診察・③純音聴力検査(気導:1,000Hz・4,000Hzの両耳)
  • 二次健診(一次で異常あり):語音聴力検査・専門医への紹介等

耳栓・イヤーマフの性能と正しい使用(安衛則第595条):

  • 耳栓の遮音性能(NRR: Noise Reduction Rating)はANSI規格の試験方法で測定した値だが、実際の現場での遮音効果はNRR値の50%以下になる場合が多い(APF: Assigned Protection Factorの概念)
  • イヤーマフ(耳全体を覆う形式): 耳栓より確実に装着できるが、重くて不快感が大きい
  • 両用(耳栓+イヤーマフ): 極めて高騒音の作業場での二重防護として使用

許容騒音レベルと時間の関係(5dB交換率):

  • 85dB(A) → 8時間/日が許容上限
  • 90dB(A) → 4時間/日
  • 95dB(A) → 2時間/日(5dBが倍増するごとに許容時間が半減する「5dB交換率」)

日本の労働衛生基準(許容基準): 安衛則で85dB(A)以上が騒音作業の対象だが、実際の日本産業衛生学会勧告は「許容基準85dB(A)・8時間」が基本。

【試験での位置づけ】

騒音性難聴問題の最頻出は「C5-dip(4kHzが最初に障害される)」「有毛細胞の不可逆障害(完治しない)」「会話音域は後期まで保たれる(早期は自覚なし)」「耳栓の遮音性能は正しい装着が必須(誤装着では性能不発揮)」「騒音健診で4kHzの純音聴力検査が必須」の5点です。アのような「最初に1kHzが影響を受ける」という誤りは「会話音域(500〜2kHz)が最初に影響を受けると思い込む」という誤解を利用した引っかけです。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 1kHzは「会話音域の中心」であり、騒音性難聴が1kHzから始まるなら早期から会話に支障が出るはずですが、実際にはC5-dip(4kHz)が先に現れて会話音域は後期まで比較的保たれます。この乖離(検査で異常はあるが本人が自覚しない)が騒音性難聴の早期発見を困難にし、スクリーニングとしての特殊健診の重要性が高い理由です。
  • ウ: 内耳の有毛細胞が哺乳類で再生しない理由は、発生過程での末端分化(terminal differentiation)によって細胞増殖能が失われているためです。対照的に魚類・両生類・鳥類では内耳有毛細胞が再生できます。近年、幹細胞治療・遺伝子治療による有毛細胞再生の研究が進んでいますが、臨床応用にはまだ至っていません(2025年時点)。
  • エ: 耳栓の正しい装着(フォーム耳栓の場合): ①耳栓を細くつぶす→②反対の手で耳介を上後方に引っ張って外耳道を直線化→③耳栓を外耳道深部まで挿入→④30秒程度押さえて膨らむのを待つという手順が必要です。この手順を省略すると遮音効果が大幅に低下します。職場での耳栓教育・装着確認(フィットチェック)が重要です。
  • オ: 騒音性難聴で「日常会話に支障が少ない」ことが逆に「障害が進行していても患者が認識しない」危険を生みます。「会話は普通にできるから聴力は問題ない」という誤解が適切な受診・防音対策を遅らせる原因となります。特殊健康診断(オージオメトリー検査)による客観的評価の必要性を示す重要な事実です。

【根拠】医学的事実(確立した聴覚生理学・職業医学的事実)・安衛則第590〜595条(騒音障害防止)。4kHz C5-dip・有毛細胞の不可逆障害・耳栓の装着依存性・会話音域の保存は職業医学の確立した知識。

【補足】イ(正): 騒音性難聴の初期変化=4kHz C5-dip(1kHzではない)。ウ(誤): 有毛細胞障害は不可逆(完治不可)。エ(誤): 耳栓は正しい装着が必須(誤装着では性能大幅低下)。オ(誤): 会話音域(500〜2kHz)は後期まで保たれる(初期は自覚症状が乏しい)。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した聴覚生理学・職業医学的事実)。4kHzのC5-dip(騒音性難聴の初期変化)・有毛細胞の不可逆障害・耳栓の装着依存性は職業医学・聴覚医学の確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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