労働衛生(有害業務)38第一種職業性疾病

衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問38:職業性疾病

高気圧業務(潜函作業・潜水作業等)に関連する健康障害に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • 高気圧業務に従事する労働者は、高気圧下での作業終了後、段階的に圧力を下げる「減圧操作(段階的減圧)」を行わずに急速に常圧に戻ると、血中や組織に溶解していた窒素ガスが気泡化し、血管閉塞や組織障害を引き起こす減圧症(ケーソン病)を発症するリスクがある。
  • 窒素酔い(窒素ナルコーシス)は、高圧下での空気潜水時に窒素の分圧が上昇することによって生じる中枢神経への麻酔様作用であり、水深30m以深(絶対気圧約4気圧以上)から出現し始めることが多い。
  • 減圧症(潜水病)の治療として最も有効かつ確立しているのは、高圧酸素療法(再加圧療法)であり、発症した場合はできるだけ速やかに高圧酸素治療施設で再加圧治療を受けることが推奨される。
  • 潜水作業中に使用する空気は、窒素を取り除いた純酸素のみで構成するのが最も安全であり、純酸素潜水は水深の制限なく安全に使用できる。正答
  • 高気圧業務に係る特殊健康診断は、業務就業前・業務中(6か月以内ごとに1回)に実施することが義務付けられており、肺・心臓・耳・関節等の検査が含まれる。
正答:潜水作業中に使用する空気は、窒素を取り除いた純酸素のみで構成するのが最も安全であり、純酸素潜水は水深の制限なく安全に使用できる。

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誤りはエです。潜水作業中に純酸素のみを使用することは非常に危険であり、「水深の制限なく安全に使用できる」という記述は誤りです。純酸素は高圧下(水深6m以深・絶対気圧1.6以上)では酸素毒性(肺毒性・中枢神経毒性:痙攣発作)を引き起こす危険があります。純酸素使用可能な深度は通常水深6m以浅に制限されており、より深い場所ではナイトロックス(窒素+酸素の混合ガス)や通常空気が使用されます。

ア(減圧症の機序)・イ(窒素酔いの出現深度)・ウ(高圧酸素療法の有効性)・オ(高気圧業務の特殊健診)はすべて正しい内容です。

標準試験対策の基準レベル

高気圧業務に関連する主な健康障害:

| 疾患名 | 原因 | 発症タイミング | 主な症状 |

|---|---|---|---|

| 減圧症(潜水病・ケーソン病) | 急速減圧→溶解窒素の気泡化 | 浮上後・常圧復帰後 | 関節痛・皮膚症状・神経障害・循環器症状 |

| 窒素酔い(窒素ナルコーシス) | 高圧下での窒素分圧上昇による麻酔様作用 | 水深30m以深(潜水中) | 判断力低下・陶酔感・協調運動障害 |

| 酸素中毒 | 高分圧酸素による毒性 | 純酸素使用時・深度超過 | 肺毒性(慢性)・中枢神経毒性(急性・痙攣) |

| 気圧外傷(バロトラウマ) | 圧力変化による気体含有腔の膨張・収縮 | 潜降・浮上時 | 鼓膜穿孔・副鼻腔痛・肺過膨張 |

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): 減圧症(decompression sickness, DCS)の機序として正確。高圧下で血中・組織に溶解していた窒素が急速減圧で気泡化し、血管閉塞(ガス塞栓)・組織障害を引き起こす。段階的減圧(減圧停止)によって予防できる。
  • イ(正): 窒素酔いは水深30m以深(約4気圧以上)から出現するとされる。深くなるほど重症化し、水深60〜70m(約7〜8気圧)では意識消失に至ることもある。この危険から深い潜水ではヘリウム・酸素混合ガス(ヘリオックス)が使用される。
  • ウ(正): 減圧症の標準的治療は高圧酸素療法(再加圧・純酸素呼吸の組み合わせ)。気泡を縮小・溶解させ、虚血組織への酸素供給を改善する。発症後できるだけ早期(6時間以内が望ましい)に再加圧治療施設(高圧酸素チャンバー)での治療が必要。
  • エ(誤): 純酸素は高分圧(PO₂が1.6気圧以上:通常水深6m以深に相当)で急性酸素毒性(CNS毒性:痙攣・意識消失)を引き起こす。潜水での純酸素使用は水深6m以浅に制限される。それより深い場所では通常空気・ナイトロックス(Nitrox)・トライミックス等が使用される。
  • オ(正): 高圧則に基づく特殊健康診断が義務付けられている。肺・心臓(循環器)・耳(鼓膜・中耳)・関節・骨の検査が含まれる(減圧症による無菌性骨壊死の検索も重要)。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

高気圧業務の健康管理は「圧力の物理学」と「体内でのガス溶解・析出の生理学」の理解が前提となります。ボイルの法則(圧力とガスの体積の関係)・ヘンリーの法則(圧力とガスの溶解量の関係)が基礎となります。

ヘンリーの法則と減圧症の機序:

ヘンリーの法則は「液体に溶解するガスの量は、そのガスの分圧に比例する」というものです。潜水(高気圧環境)では、呼吸する空気中の窒素の分圧が高くなるため、血液・組織に溶解する窒素量が増加します。

  • 水深10m(絶対圧2気圧): 常圧の2倍の窒素が溶解
  • 水深30m(絶対圧4気圧): 常圧の4倍の窒素が溶解

この溶解窒素が、減圧操作なしに急速に常圧に戻ると、溶解量と圧力のバランスが崩れて「過飽和状態」になり、体内でガス気泡が形成されます(シャンパンのコルクを抜いたときに気泡が生じる現象と同じ原理)。

減圧症の型と症状の詳細:

  • I型減圧症(軽症): 皮膚症状(かゆみ・皮膚の大理石様変色)・関節痛(ベンズ)・リンパ管閉塞による浮腫。生命には直接危険ではないが治療が必要。
  • II型減圧症(重症): 脊髄症状(対麻痺・排尿障害)・脳症状(視野障害・意識障害)・内耳症状(めまい・難聴)・循環器症状(ショック)。放置すると永続的な障害や死亡につながる。

純酸素の毒性(Paul Bert effectとLorrain Smith effect):

  • 急性CNS毒性(Paul Bert効果): 高分圧酸素(PO₂>1.6気圧が目安)への短時間曝露で生じる痙攣発作。「電撃的発症」が特徴で、水中での痙攣は溺死のリスクがある。
  • 慢性肺毒性(Lorrain Smith効果): 比較的低い分圧(PO₂>0.5気圧程度)への長時間曝露で生じる肺炎症・肺水腫。

純酸素の安全な使用は水深6m以浅(PO₂<1.6気圧を保つ)に制限されており、深い潜水では酸素濃度を低下させたナイトロックス(例: 21〜40%酸素)が使用されます。

【実務・条文構造】

高気圧作業安全衛生規則(高圧則)の主要規定:

作業主任者の選任(高圧則第10条):

  • 高気圧作業(ゲージ圧力0.1メガパスカル以上の気中作業・潜水作業)に際しては「高圧室内作業主任者」または「潜水士」の資格を有する者の選任が義務付けられる
  • 高圧室内作業主任者: 高圧室内作業主任者技能講習修了者
  • 潜水業務: 潜水士免許を有する者(国家試験)

作業計画・減圧計画(高圧則第11条等):

  • 高気圧業務の実施前に「作業計画」を作成
  • 減圧計画(減圧停止時間・減圧速度)の事前設定と遵守
  • 緊急時のための高圧酸素チャンバーの準備・連絡体制

特殊健康診断(高圧則第38条):

  • 高気圧業務に就業させようとするときの就業前健診
  • 業務中の定期健診(6か月以内ごとに1回)
  • 主要検査項目: 既往歴・業務歴、肺機能・X線、循環器(心電図等)、耳(鼓膜・聴力)、骨の変化(無菌性骨壊死:大腿骨頭等のX線検査)

無菌性骨壊死(圧骨壊死・dysbaric osteonecrosis):

反復的な高気圧業務(潜水・潜函)後に生じる骨の壊死病変(大腿骨頭・上腕骨頭等の負荷関節が多い)。減圧症の遅発性合併症として生じ、長期間無症状のまま進行することがあります。特殊健診でのX線検査による早期発見が重要です。

【試験での位置づけ】

高気圧業務問題の最頻出は「減圧症の機序(急速減圧→溶解窒素の気泡化)と治療(高圧酸素療法)」「窒素酔いの出現深度(30m以深)」「純酸素の危険性(6m以浅に制限)」「段階的減圧による予防」「潜水士免許・高圧室内作業主任者の選任義務」の5点です。エのような「純酸素は水深の制限なく安全」という誤りは、「純酸素=無害な酸素」という誤解から生じる典型的な引っかけです。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 「ケーソン病」は19世紀にケーソン(潜函)工法による橋脚・トンネル基礎工事の労働者が多数発症したことに由来する名称です(ニューヨークのブルックリン橋建設工事等で多数発症した歴史があります)。現代では潜水作業の普及とともに「減圧症」「潜水病」の呼称が一般的になりました。
  • イ: 窒素酔いは「アルコールに酔った状態」に似た症状(陶酔感・判断力低下・感覚の鈍化)から「窒素に酔う」と表現されます。深い水深では意思決定能力が低下するため、パニック・安全管理の誤りが重大事故につながるリスクがあります。これが深い潜水でヘリウム混合ガスを使用する理由(ヘリウムは窒素酔いを起こさない)です。
  • ウ: 高圧酸素療法(HBO療法)は減圧症以外にも「一酸化炭素中毒・空気塞栓・難治性創傷・放射線性骨壊死等」の治療にも使用されます。減圧症の再加圧プロトコル(US Navy Treatment Tables等)は深さ・時間の厳密な計画に基づいて実施されます。
  • オ: 高気圧業務の特殊健診で重要な「無菌性骨壊死(圧骨壊死)」は、圧力変化による脂肪塞栓説・気泡塞栓説等の機序が考えられています。初期はX線で変化がなくMRI(MRI撮影)でのみ確認できる場合があり、進行すると骨頭の陥没・変形性関節症へと進展します。

【根拠】高気圧作業安全衛生規則(高圧則)第10条・第38条等・潜水医学(確立した知識)。減圧症の機序・窒素酔い・純酸素毒性(6m以浅制限)・高圧酸素療法は潜水医学の確立した知識。

【補足】エ(誤): 純酸素は水深6m以浅に制限(それ以深では急性酸素毒性:痙攣のリスク)。「水深の制限なく安全」は誤り。減圧症=急速減圧→窒素気泡化→治療は高圧酸素療法。窒素酔い=水深30m以深。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 高気圧作業安全衛生規則(高圧則)・医学的事実(確立した潜水医学の知識)。純酸素潜水の制限(水深6m以浅)・減圧症の機序・窒素酔いの出現深度・高圧酸素療法の有効性は潜水医学の確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

関連論点

高気圧業務・減圧症・窒素酔い・潜水作業頻出度B

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科目別に解いて、衛生管理者に合格

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