衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問41:有害化学物質の分類と性状
粉じんの粒径と肺内沈着に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア粒径10μm以上の粒子は上気道(鼻腔・咽頭・喉頭)でほぼ捕捉・排出されるため、肺胞への到達は少なく、吸入性粉じんとして健康影響が小さい。
- イ「呼吸性粉じん」とは、おおむね直径5μm以下の粒子で構成される粉じんであり、上気道のフィルター機能を通過して肺胞領域にまで到達し、慢性的なじん肺等を引き起こすリスクが最も高い。
- ウ粉じん測定では、全粉じん(総粉じん)と呼吸性粉じんを区分して評価することが重要であり、粉じん則では呼吸性粉じんの管理濃度が全粉じんの管理濃度より高く設定されている。正答
- エヒューム(金属の高温溶融・蒸発後の冷却固化粒子)は粒径が0.01〜1μm程度と非常に小さく、肺胞深部まで到達して沈着しやすいため、溶接作業でのヒューム吸入は特に注意が必要である。
- オ吸入性粉じん(inspirable dust)は鼻・口から吸い込まれる粉じん全体を指し、胸郭内粉じん(thoracic dust)は上気道を通過して胸腔内に達する粉じん、呼吸性粉じん(respirable dust)はさらに肺胞領域に達する粉じんを指し、粒径が小さいほど深部に到達する。
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誤りはウです。粉じん則における呼吸性粉じんの管理濃度は、全粉じんの管理濃度より低く(より厳しく)設定されているのが基本的な方向性です。呼吸性粉じんは肺胞に到達して健康障害を引き起こす主要な原因となるため、全粉じん濃度より厳しく管理する必要があります。「呼吸性粉じんの管理濃度が全粉じんより高い」という記述は誤りです。
アの上気道捕捉・イの呼吸性粉じん(5μm以下)の定義・エのヒュームの粒径と深部沈着・オの吸入性/胸郭内/呼吸性粉じんの3区分はすべて正しい内容です。
粉じんの粒径と肺内沈着部位の関係:
| 粒径の目安 | 主な沈着部位 | 健康への影響 |
|---|---|---|
| 10μm超 | 鼻腔・咽頭・喉頭(上気道)でほぼ捕捉 | 粘膜刺激が主 |
| 5〜10μm | 気管・気管支 | 慢性気管支炎のリスク |
| 1〜5μm(呼吸性粉じん) | 肺胞領域(最も危険) | じん肺・肺線維症・発がんリスク |
| 0.01〜1μm(ヒューム等) | 肺胞深部に沈着(一部は呼気で排出) | 肺胞炎・発がんリスク |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 粒径10μm以上の粒子は上気道(鼻毛・粘液・繊毛運動)で大部分が捕捉・排出されます。この「上気道フィルター機能」が大粒子の深部到達を防ぐ自然防護機構です。
- イ(正): 呼吸性粉じん(respirable dust)は粒径5μm以下が目安(ACGIH・ISO定義では50%カット径4μmの採取曲線に従う)。肺胞に達して貪食されたマクロファージが炎症・線維化反応を起こします。
- ウ(誤): 呼吸性粉じんの管理濃度は全粉じんの管理濃度より「低く(厳しく)」設定されているのが正しい方向性です。「高く設定されている」は誤りです。呼吸性粉じんは健康障害への寄与が大きいため、より厳しい管理が求められます。
- エ(正): 溶接ヒュームは2021年4月に特化則第2類物質として追加されており、肺がん・肺線維症との関連から規制が大幅強化されました。
- オ(正): 3区分(吸入性・胸郭内・呼吸性)は国際的な標準的定義(ISO 7708等)に基づく粒径別分類で、測定・評価の基準となります。
【理論的背景】
粉じんの健康影響は「どこに沈着するか」が決定的な意味を持ちます。上気道でほとんどの粗大粒子が除去される自然防護の仕組みがある一方で、この機構をすり抜けて肺胞に到達する「呼吸性粉じん」は、体の排除機能が最も脆弱な場所に直接蓄積します。肺胞に沈着した粒子は肺胞マクロファージに貪食されますが、特に遊離珪酸(石英SiO₂)等の特定粉じんはマクロファージを傷害・壊死させるため、繰り返し新たなマクロファージが貪食→傷害→炎症メディエーター放出→線維芽細胞活性化というサイクルが持続し、肺線維化(じん肺)が進行します。
粒径が小さいほど深部到達する理由(物理的機序):
- 慣性衝突: 大粒子は気流の変化に追従できず気管・気管支壁に衝突して沈着
- 重力沈降: 中粒子(2〜10μm)は細気管支・終末細気管支で沈降して沈着
- 拡散: 超微粒子(1μm以下・ヒューム等)はブラウン運動によって肺胞壁と接触して沈着
- 各機構の寄与は粒径によって異なり、1〜5μmの呼吸性粉じん領域が各機構の「谷間」に入って最も沈着効率が高くなる(「呼吸性粉じん」の危険性の物理的根拠)
【実務・条文構造】
粉じん測定の種別と管理濃度(粉じん則・作業環境評価基準):
全粉じん濃度と呼吸性粉じん濃度の関係:
- 作業環境測定では全粉じんサンプラーまたは呼吸性粉じんサンプラーを使い分けます
- 呼吸性粉じんの管理濃度は、物質の種類により設定値が異なりますが、全粉じん基準より質量換算で低い(厳しい)値となることが多い
- 例:遊離珪酸含有率の高い粉じん(特定粉じん)は、非特定粉じんより管理濃度が低く設定されています
粉じん則の「特定粉じん」と「非特定粉じん」の区分:
- 特定粉じん: 遊離珪酸含有率が7%以上の粉じんを発生する作業(採石・けい砂採取・岩石破砕等)
- 非特定粉じん: それ以外の粉じん業務
- 特定粉じんは非特定粉じんより規制が厳しく、除じん装置の設置義務・保護具(防じんマスク)の着用義務等が規定される
呼吸性粉じんのサンプリング原理(10mmサイクロンサンプラー等):
- 吸引ポンプで空気を吸引し、遠心力を利用して粒径の大きい粒子(非呼吸性)をサイクロン部で除去
- 5μm以下の粒子(呼吸性粉じん相当)のみをフィルターで捕集
- フィルターを秤量して呼吸性粉じん濃度(mg/m³)を算出
【試験での位置づけ】
粉じん粒径問題の最頻出は「呼吸性粉じんの粒径(5μm以下・肺胞到達)」「粒径と沈着部位の関係(大きい粒子→上気道、小さい粒子→肺胞)」「呼吸性粉じんの管理濃度は全粉じんより低い(厳しい)」「ヒュームの特殊性(超微細・肺胞深部まで到達)」の4点です。ウのような「呼吸性粉じんの管理濃度が全粉じんより高い(緩い)」という誤りは、管理濃度の方向性を逆にした典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 上気道の防御機構として、鼻毛(粗大粒子の物理的フィルター)・鼻粘膜の粘液(粒子を捕捉)・繊毛(mucociliary escalator・捕捉した粒子を咽頭方向に運搬して排出)が協調して働きます。この機構が機能しなくなる(鼻の通気障害・繊毛機能不全)と粗大粒子も肺深部に到達しやすくなります。
- イ: 「呼吸性粉じん」の国際定義は粒径の50%カット径が4μm(ACGIH・ISO 7708)、または空気力学的径が5μm以下(日本の粉じん則の実務的定義)と微妙な差があります。試験では「おおむね5μm以下」と覚えることで対応できます。
- エ: 溶接ヒュームの2021年規制強化は衛生管理者試験で頻出の近年の改正事項です。特化則第2類物質への追加により、屋内溶接作業では全体換気装置・局所排気装置の設置または有効な呼吸用保護具の使用が義務化されました。溶接ヒューム中の酸化マンガン(マンガニズムの原因)・クロム・ニッケル(発がん性)の吸入が問題です。
- オ: 3区分(吸入性・胸郭内・呼吸性)は欧米の産業衛生基準(ACGIH TLV・EU規制)で使用される概念で、日本の粉じん則の「全粉じん・呼吸性粉じん」の二分類とは若干異なりますが、試験では3区分の概念的理解が求められます。
【根拠】職業医学的事実(確立した粉じん工学)・粉じん障害防止規則(粉じん則)。呼吸性粉じんの定義・粒径と沈着部位の関係・呼吸性粉じん管理濃度の厳格性は産業衛生学の確立した知識。
【補足】ウ(誤): 呼吸性粉じんの管理濃度は全粉じんより「低く(厳しく)」設定(「高く」は逆)。呼吸性粉じん=5μm以下(肺胞到達・最もリスクが高い)。ヒューム=超微細粒子(0.01〜1μm・肺胞深部まで到達)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 職業医学的事実(確立した粉じん工学・産業衛生学)・粉じん障害防止規則(粉じん則)。呼吸性粉じんの管理濃度は全粉じん管理濃度より低い(厳しい)のが実際の規制の方向性。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。