衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問43:職業性疾病
職場における熱中症(職業性熱ストレス疾患)の病型と応急処置に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア熱けいれん(heat cramps)は、大量発汗による塩分喪失と、塩分を含まない水のみの大量補給による低ナトリウム血症が原因で生じる四肢・腹部の有痛性筋けいれんであり、0.1〜0.2%程度の食塩水またはスポーツドリンクの補給が治療の基本となる。
- イ熱失神(heat syncope)は、高温環境での皮膚血管拡張と発汗による脱水から生じる一過性の意識消失(立ちくらみ・失神)であり、涼しい場所への移動・仰臥位での安静・水分補給により多くの場合は速やかに回復する。
- ウ熱射病(heat stroke)の特徴的な三徴候は「体温40℃以上・意識障害・皮膚が多量の発汗で湿潤している(皮膚湿潤)」であり、発汗が停止することはない。正答
- エ熱疲労(heat exhaustion)は頭痛・倦怠感・吐き気・冷汗・蒼白・血圧低下等の症状を呈し、体温は正常または軽度上昇(38℃程度まで)にとどまり、意識は比較的清明であることが熱射病との重要な鑑別点である。
- オ熱中症が疑われる患者の応急処置として、まず患者を涼しい場所に移動させ、衣服を緩め、皮膚に水をかけて扇風機等で冷却することにより蒸発散熱を促進する方法(蒸発冷却)は熱射病の場合にも有効な冷却法の一つとして用いられる。
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誤りはウです。熱射病の典型的な三徴候は「体温40℃以上・意識障害(昏睡・錯乱)・発汗の減少または停止(皮膚乾燥)」です。ウの「皮膚が多量の発汗で湿潤している(皮膚湿潤)」という記述が誤りです。熱射病では体温調節中枢が破綻して発汗が停止するため、皮膚は乾燥・高温になることが特徴です(特に「古典的熱射病」に典型的)。この「体温が高いのに皮膚が乾燥している」という逆説的な所見が熱射病の重要な診断ポイントです。
ア(熱けいれんと塩分補給)・イ(熱失神の定義)・エ(熱疲労と熱射病の鑑別)・オ(蒸発冷却法)はすべて正しい内容です。
熱中症の病型と特徴的所見の比較:
| 病型 | 重症度 | 体温 | 発汗 | 意識 | 特徴的所見 |
|---|---|---|---|---|---|
| 熱失神 | 軽症 | 正常〜軽度上昇 | あり | 一過性消失後回復 | 立ちくらみ・失神 |
| 熱けいれん | 軽〜中等症 | ほぼ正常 | あり(多量) | 清明 | 四肢・腹部の有痛性けいれん |
| 熱疲労 | 中等症 | 〜38℃程度 | あり(冷汗・多量) | 比較的清明 | 頭痛・倦怠・吐き気・蒼白 |
| 熱射病 | 重症 | 40℃超 | 停止または減少(皮膚乾燥) | 昏睡・意識障害 | 体温調節破綻・多臓器不全リスク |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 熱けいれんの原因(大量発汗→塩分喪失+純水補給による低Na血症)と治療(塩分水・スポーツドリンク)の記述として正確。0.1〜0.2%食塩水は経口補水の推奨濃度です。
- イ(正): 熱失神は皮膚血管拡張・下肢への血液貯留による脳への血流低下が機序。迷走神経性失神との鑑別が必要な場合もあるが、高温環境との関連が明確であれば熱失神として対応する。
- ウ(誤): 熱射病の皮膚は「乾燥・高温(灼熱感)」が典型的所見(古典的熱射病)。「多量の発汗で湿潤している」は熱疲労・熱けいれんの所見であり、熱射病の三徴候ではありません。労作性熱射病では発汗が継続する場合もあるが、全体として「発汗停止・皮膚乾燥」が熱射病の警戒すべき所見です。
- エ(正): 体温・意識レベルが熱疲労と熱射病の最重要鑑別点。熱疲労は早期に涼しい場所での休息・水分補給で改善するが、熱射病は生命危機であり直ちに医療機関への搬送が必要。
- オ(正): 蒸発冷却法(水をかけてうちわや扇風機で蒸発を促進)は体表面温度を効率よく下げる有効な応急冷却法。アイスパック(頸部・腋窩・鼠径部)と組み合わせると冷却効率が上がります。
【理論的背景】
熱射病(heat stroke)は「体温調節中枢の機能的・器質的破綻」が起きる段階であり、単なる暑さによる不調から生命危機への転換点です。「体温40℃超・意識障害・発汗停止」という三徴候は、視床下部の体温調節中枢が高体温によって機能停止した結果として理解できます。体温調節中枢が破綻すると発汗指令が出なくなり→冷却機能が失われ→体温がさらに上昇するという悪循環が生じます。
古典的熱射病(Classic heat stroke)と労作性熱射病(Exertional heat stroke)の違い:
- 古典的熱射病: 高齢者・乳幼児・慢性疾患者が酷暑環境(猛暑日の屋内等)に長時間さらされて発症。発汗機能自体が慢性的に障害されているか(高齢者の発汗能低下)または熱暴露が長時間にわたり発汗能が枯渇している→皮膚乾燥が顕著
- 労作性熱射病: 若い健康な作業者・スポーツ選手が激しい運動・労働中に短時間で発症。発汗は継続していることが多いが、産熱が散熱を大幅に上回り体温が急上昇→意識障害へ至る。皮膚が発汗で湿潤していても熱射病の可能性がある点が臨床的に重要。
試験では一般的な「熱射病=皮膚乾燥」という記述(古典的熱射病の典型像)で問われることが多いため、ウのような「皮膚が発汗で湿潤している」という記述は誤りとして扱われます。
【実務・条文構造】
職場における熱中症予防対策の法令根拠:
安衛法第20条(安全基準)・第21条(衛生基準)に基づく屋内作業場の温湿度管理:
- 事務作業: 室温17〜28℃・相対湿度40〜70%が目安
- 高温・多湿作業場: 安衛則・各業種別規則に基づく具体的な措置義務
熱中症予防のためのWBGT管理(厚生労働省指針「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」):
- WBGTの測定・モニタリング(作業前・作業中)
- WBGT基準値超過時: 作業計画の見直し・冷却設備(スポットクーラー等)の設置・休憩頻度の増加
- 熱への順化(acclimation)計画: 初めて暑熱作業に就く者・長期間休業後の復職者は段階的に作業強度・時間を増加させる(熱への適応に7〜14日程度必要)
熱中症予防の4原則(実務指導):
1. WBGT管理と作業計画の調整
2. 水分・塩分補給の徹底(定期的補給・渇きの自覚を待たない)
3. 作業者の健康管理(慢性疾患・薬剤の影響・前日の飲酒・睡眠不足等のチェック)
4. 応急処置体制の整備(管理者への報告体制・救急搬送の手順確認)
【試験での位置づけ】
熱中症病型問題の最頻出は「熱射病の三徴候(40℃超・意識障害・皮膚乾燥=発汗停止)」「熱けいれんの原因と治療(低Na血症→塩分含む水分補給)」「熱疲労と熱射病の鑑別(体温・意識)」「熱射病の応急処置(冷却+救急搬送)」の4点です。ウのような「熱射病で発汗が多量にある」という誤りは熱射病と熱疲労・熱けいれんの所見を入れ替えた典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 熱けいれんの塩分補給の具体的な方法として、経口補水液(ORS)・0.1〜0.2%食塩水・スポーツドリンクが推奨されます。「水のみ大量摂取は禁止(低Na血症を悪化させる)」「アルコール飲料は脱水を促進するため禁止」が現場指導の重要な内容です。
- イ: 熱失神は皮膚血管の「積極的な拡張(体温放散のための生理的反応)」が過度になって脳への血流が低下するという機序です。長時間の起立姿勢(仕事で立ちっぱなし等)・突然の立ち上がり動作が誘発因子となります。仰臥位にすることで重力による脚への血液貯留が改善し、脳への血流が回復します。
- エ: 熱疲労と熱射病の鑑別が遅れると(熱疲労と思っていたら実は熱射病だった)、適切な冷却・搬送が遅れて死亡・重篤な後遺症につながります。意識状態の評価(JCS・GCS等)が現場での迅速な重症度判断に重要です。「返事はするが何か変」という変容した意識状態は熱射病の早期サインである可能性を念頭に置く必要があります。
- オ: 蒸発冷却の効率は湿度に大きく依存します。湿度が高い(夏の高湿度環境)では蒸発が起こりにくく冷却効率が低下します。水のかけ方(広い面積に均一に)と送風(蒸発を促進する気流)を組み合わせることで効率が向上します。アイスバス(冷水浸漬)は最も効率的な冷却法として研究され、熱射病の救急医療では最優先される方法とされています。
【根拠】医学的事実(確立した熱中症の分類・救急医学)・熱中症の予防対策に係るガイドライン(厚生労働省)。熱射病の三徴候(40℃超・意識障害・発汗停止/皮膚乾燥)・熱けいれんの塩分補給の必要性は確立した医学的事実。
【補足】ウ(誤): 熱射病は「発汗停止・皮膚乾燥(高温)」が特徴(「多量の発汗で湿潤」は熱疲労・熱けいれんの所見)。熱射病の三徴=体温40℃超+意識障害+発汗停止。熱けいれん=塩分含む水分補給(純水のみは禁忌)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した熱中症の分類・救急医学)。熱射病の三徴候は「体温40℃超・意識障害・発汗の減少または停止(皮膚乾燥・古典的熱射病)」であり、「発汗が停止しない」という記述が誤り。ただし労作性熱射病では発汗が続く場合もある点に注意が必要。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。