衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問48:職業性疾病
アクリルアミドによる健康障害に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- アアクリルアミドは高い水溶性・経皮吸収性を持つ化学物質であり、主な職業性曝露経路は吸入であり、皮膚からの吸収は無視できるほど少ない。
- イアクリルアミドの慢性職業性曝露による主な健康障害は、骨髄毒性(白血球減少・再生不良性貧血)であり、n-ヘキサンとは全く異なる毒性プロファイルを持つ。
- ウアクリルアミドの慢性曝露は、末梢神経障害(多発性神経炎)を引き起こすことが確認されており、手袋・靴下型のしびれ・脱力・自律神経障害(過剰発汗・起立性低血圧等)が主な症状として現れる。正答
- エアクリルアミドは常温では固体(粉末状)または水溶液の形態で取り扱われるため、作業環境中での蒸気曝露のリスクはなく、吸入による健康障害は生じない。
- オアクリルアミドは特定化学物質障害予防規則(特化則)の規制対象外であり、日本では現時点では作業環境測定・特殊健康診断の義務がない。
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正しいのはウです。アクリルアミドの慢性職業性曝露の主な健康障害は末梢神経障害(多発性神経炎)であり、手袋・靴下型の感覚異常(しびれ・疼痛)・筋力低下に加えて、自律神経障害(過剰発汗・皮膚の紅潮・体位性低血圧等)が特徴的です。この自律神経障害が顕著という点がn-ヘキサン等の他の溶剤型末梢神経障害との違いです。
ア→アクリルアミドは皮膚からの吸収が重要な曝露経路。イ→主毒性は骨髄毒性ではなく末梢神経障害。エ→アクリルアミド取扱い作業での粉じん・エアロゾル吸入リスクがある(「吸入リスクなし」は誤り)。オ→アクリルアミドは特化則第2類物質として規制対象。
アクリルアミドの健康障害のまとめ:
| 曝露の種類 | 主な健康障害 |
|---|---|
| 急性大量曝露 | 中枢神経毒性(小脳失調・意識障害) |
| 慢性職業性曝露 | 末梢神経障害(多発性神経炎)+自律神経障害 |
| 発がん性 | IARC グループ2A(動物実験で発がん性確認・ヒトへの発がん性の証拠は限定的) |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): アクリルアミドは高い水溶性・低分子量(71.08)で皮膚への浸透が容易であり、皮膚からの吸収が重要な曝露経路の一つです。皮膚への直接接触を防ぐ保護手袋の着用が作業管理上重要です。「皮膚からの吸収は無視できる」は誤りです。
- イ(誤): 骨髄毒性はベンゼンの主毒性であり、アクリルアミドの主毒性ではありません。アクリルアミドはn-ヘキサンと同様に末梢神経障害が主毒性ですが、自律神経障害が顕著という点でn-ヘキサンとは異なる特徴があります。
- ウ(正): アクリルアミドの末梢神経障害と自律神経障害(過剰発汗・起立性低血圧等)は確立した職業医学的知識。グラウトアクリルアミド(地盤改良材)取扱い労働者での集団発症例が報告されています。
- エ(誤): アクリルアミド粉末の取扱いや加熱・反応工程での粉じん・エアロゾルの発生があり、吸入曝露のリスクが存在します。「吸入リスクなし」は誤りです。また水溶液の取扱いでも液滴(ミスト)の吸入リスクがあります。
- オ(誤): アクリルアミドは特化則第2類物質として規制されており、作業環境測定(6か月ごとに1回)・特殊健康診断(6か月ごとに1回)・局所排気装置等の設備義務が課されています。
【理論的背景】
アクリルアミド(CH₂=CH-CO-NH₂)はビニル基を持つ反応性の高いモノマーで、水溶性高分子(ポリアクリルアミド)の原料として土木(グラウト材・地盤改良)・製紙・廃水処理・電気泳動ゲル(電気泳動の分離媒体)等に広く使用されています。ポリアクリルアミド(重合体)は低毒性ですが、未反応のモノマー(アクリルアミド)が毒性を持つため、ポリアクリルアミド製品中の残存モノマー濃度の管理が重要です。
アクリルアミドの末梢神経障害の分子機序:
- アクリルアミドは求電子性のマイケル付加反応により、タンパク質(特にシステイン・リジン残基)と反応してアダクトを形成
- 軸索輸送に関与するタンパク質(チューブリン・ニューロフィラメント等)を優先的に障害→軸索輸送の障害→遠位軸索の変性(dying-back型の軸索障害)
- n-ヘキサンのように「特定の代謝産物による架橋反応」ではなく「直接的なタンパク質付加体形成」が機序という点で異なる
自律神経障害の特徴(アクリルアミド特有の所見):
- 過剰発汗(特に手掌・足底):交感神経の過活動
- 皮膚の紅潮・発赤
- 起立性(体位性)低血圧:交感神経系の圧反射障害
- 手指の皮膚変色・剥離
これらの自律神経症状はn-ヘキサン中毒ではほとんど見られないため、アクリルアミド中毒との鑑別に有用な所見です。
【実務・条文構造】
アクリルアミドの職業曝露管理(特化則第2類物質):
作業環境測定:
- 6か月以内ごとに1回の測定義務
- 測定方法:空気中アクリルアミド濃度(GC-FIDまたはHPLC等の分析法)
- 管理濃度:0.1mg/m³(作業環境評価基準別表・毒性の強さを反映した低い値)
特殊健康診断(特化則第39条):
- 6か月以内ごとに1回
- 主な検査項目:
- 業務歴・曝露歴
- 末梢神経症状(しびれ・筋力・反射等)の問診・診察
- 神経学的検査(必要に応じて):振動感覚・痛覚・腱反射
- 自律神経系の評価(発汗異常・体位性低血圧の確認)
保護具の要件:
- 皮膚保護が最重要:不浸透性の保護手袋(ニトリルゴム等)・保護衣・防護眼鏡
- 呼吸器保護:粉末・エアロゾル取扱い時は防じんマスク(RS2以上)または防毒マスク(有機ガス用)
食品中のアクリルアミド(参考):
アクリルアミドは加熱食品(フライドポテト・トースト・コーヒー等)にも微量含まれることが2002年以降明らかになり、公衆衛生上の問題として注目されています。職業曝露(工業的使用での高濃度曝露)と食品経由曝露(低濃度)のリスク評価は別途行われます。
【試験での位置づけ】
アクリルアミド問題の最頻出は「末梢神経障害が主毒性(骨髄毒性は誤り)」「自律神経障害(過剰発汗・起立性低血圧)という特徴」「皮膚からの吸収が重要(経皮吸収を過小評価してはいけない)」「特化則第2類物質(規制対象・健診・測定義務あり)」の4点です。イのような「骨髄毒性が主」という誤りとオのような「特化則規制外」という誤りは典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: アクリルアミドの経皮吸収は非常に効率的です。ボランティア研究によると、皮膚表面に塗布されたアクリルアミドの吸収率は高く、手袋なしでの作業中に検出可能な血中・尿中濃度上昇が確認されています。保護手袋なしでのアクリルアミド水溶液取扱いは、吸入よりも経皮吸収の方が実際の曝露量が多い場合すら報告されています。
- イ: n-ヘキサンとアクリルアミドは「両方とも末梢神経障害が主毒性」という点で共通しますが、発症機序・特徴的症状・生物学的モニタリング指標が異なります。n-ヘキサン=代謝産物(2,5-ヘキサンジオン)による架橋反応・自律神経症状は軽微。アクリルアミド=直接的なタンパク質付加体形成・自律神経症状が顕著。
- エ: グラウトアクリルアミドを使用したトンネル工事(1997年以降特に問題となったスウェーデン・日本等の事例)では、材料の混合作業・注入作業での皮膚接触と換気不足による吸入曝露が組み合わさって多数の末梢神経障害患者が発生しました。この集団発症事例がアクリルアミドの職業衛生管理強化の契機となりました。
- ウ: 自律神経障害の「起立性低血圧」は、急に立ち上がると血圧が低下してふらつく・失神しそうになるという症状です。アクリルアミド中毒では交感神経系の末梢神経(特に自律神経線維)も障害されるため、血圧調節(圧受容体反射)が障害されます。高齢者や心疾患患者では特に転倒・失神のリスクが高まります。
【根拠】医学的事実(確立した職業医学・毒性学)・特定化学物質障害予防規則(特化則)第2条・第39条。アクリルアミドの末梢神経障害と自律神経障害(過剰発汗・起立性低血圧)・経皮吸収の重要性は確立した職業医学的知識。特化則第2類物質としての管理義務(作業環境測定・特殊健診)。
【補足】ウ(正): アクリルアミド=末梢神経障害+自律神経障害(過剰発汗・起立性低血圧)が特徴。ア(誤): 経皮吸収が重要な曝露経路。イ(誤): 骨髄毒性はベンゼン(アクリルアミドの主毒性は末梢神経障害)。オ(誤): 特化則第2類物質として規制(健診・測定義務あり)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した職業医学・毒性学)・特定化学物質障害予防規則(特化則)。アクリルアミドの末梢神経障害・自律神経障害は確立した職業医学的知識。特化則第2類物質として管理濃度・特殊健診・作業環境測定の義務あり。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。