衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問50:職業性疾病
電離放射線の種類・性質および遮蔽に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アα(アルファ)線はヘリウム原子核(陽子2個・中性子2個)の粒子線であり、飛程(空気中での到達距離)が非常に短く(数cm程度)、透過力が極めて弱い。紙一枚・皮膚の角質層で遮蔽できるため、外部被ばくにおける危険性は比較的低いが、吸入・経口で体内に取り込まれた場合(内部被ばく)は非常に危険である。
- イβ(ベータ)線は電子(高速)の粒子線であり、α線より透過力が強く、アルミニウム板・プラスチック板等で遮蔽できる。エネルギーが高い場合、β線の遮蔽には高原子番号の鉛板を使用すると制動X線(ブレムスシュトラーレン)が発生する可能性があるため、低原子番号材料(アルミ・プラスチック)での遮蔽が推奨される。
- ウγ(ガンマ)線は電磁波(光子)であり、X線と本質的に同じ電磁放射線であるが、γ線は原子核の崩壊から放出されX線は加速された電子(電子線管)から放出されるという発生源の違いがある。いずれも透過力が高く、鉛・コンクリート等の高密度材料で遮蔽する。
- エ中性子線は原子核を構成する中性子の流れであり、電荷を持たないため物質を深く透過できる。遮蔽には水・パラフィン・ポリエチレン等の水素を多く含む材料(水素での弾性散乱で中性子を減速・吸収)が有効であり、高原子番号の鉛は中性子の遮蔽に最も効果的である。正答
- オ内部被ばく(放射性物質を体内に取り込んだ場合)では、体外からの被ばく(外部被ばく)では遮蔽によって防護できる放射線も、体内から直接組織に照射されるため遮蔽による防護ができない。このため内部被ばくの防止(吸入・経口・経皮での取り込み防止)が最重要の対策となる。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠法令も明記。
誤りはエです。エの後半「高原子番号の鉛は中性子の遮蔽に最も効果的」という記述が誤りです。中性子線は電荷を持たないため「弾性散乱(はじき飛ばし)による減速」が主な遮蔽機序であり、水素のような低原子番号・低質量の原子核と衝突する際に最もエネルギーを失います。鉛(高原子番号・高質量)では中性子はあまりエネルギーを失わずに通過してしまいます。中性子遮蔽には水・パラフィン・ポリエチレン等の水素含有材料が有効で、鉛ではありません(鉛はγ線・X線の遮蔽に有効)。
ア・イ・ウ・オはすべて正しい内容です。
放射線の種類と遮蔽材の比較:
| 放射線 | 実体 | 透過力 | 有効な遮蔽材 | LET | 主な危険(外部/内部) |
|---|---|---|---|---|---|
| α線 | ヘリウム核 | 最も弱い(紙・皮膚で止まる) | 紙・薄いプラスチック | 最も高い | 内部被ばく |
| β線 | 電子(高速) | 中程度 | アルミ・プラスチック(低原子番号) | 中程度 | 両方(外部は皮膚・水晶体) |
| γ線・X線 | 電磁波(光子) | 最も高い | 鉛・コンクリート | 最も低い | 外部被ばく(全身透過) |
| 中性子線 | 中性子 | 高い | 水・パラフィン・ポリエチレン(水素含有材料) | 高い | 両方(特に中性子捕獲→γ線発生) |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): α線の外部被ばく時の安全性(透過力が弱い)と内部被ばくでの高危険性(LETが最大→局所への高密度電離→発がんリスク大)は、放射線防護の基本知識として正確。ラドン(α線放出核種)の吸入による肺がんリスクが代表例。
- イ(正): β線遮蔽での「低原子番号材料(アルミ・プラスチック)の優先使用」は重要な実務知識。高原子番号の鉛でβ線を遮蔽しようとすると、β線と鉛原子核の相互作用で制動放射(bremsstrahlung)X線が発生し、遮蔽の意味が薄れます。
- ウ(正): γ線(原子核崩壊由来)とX線(電子の加速・減速由来)は発生源が異なるが物理的実体は同じ電磁波(光子)。いずれも透過力が高く鉛・コンクリートで遮蔽。
- エ(誤): 中性子遮蔽に鉛が「最も効果的」は誤り。中性子(中性の粒子)はボルン散乱で水素核(陽子)と衝突する際に最大のエネルギー移動が起こる(質量が等しい物体間での最大エネルギー交換)。鉛核は中性子より大幅に重いため散乱での減速が非効率です。
- オ(正): 内部被ばくの遮蔽不可能性と防止の最重要性は放射線防護の基本原則として正確。特にα線放出核種の内部被ばく(ラドン・プルトニウム等)は外部被ばくと比較して単位量当たりの健康影響が極めて大きい(LETが最高)。
【理論的背景】
電離放射線の種類ごとに「透過力・LET・適切な遮蔽材」が大きく異なる理由は、各放射線の「物質との相互作用の物理的機序」が根本的に異なるためです。電磁波(γ線・X線)は光電効果・コンプトン散乱・電子対生成という機序で物質にエネルギーを与えますが、荷電粒子(α線・β線)はクーロン力による電離・励起が主要機序、中性子線は核力による弾性散乱・非弾性散乱・捕獲反応が主要機序です。この違いが「遮蔽材の選択」の根拠となります。
中性子遮蔽の物理的理由(詳細):
中性子(質量≈1.0u・電荷なし)の遮蔽には3段階のプロセスが必要:
1. 高速中性子の減速(弾性散乱):水素(質量≈1.0u)との衝突で最大のエネルギー交換→1回の衝突で高速中性子が熱中性子レベルまで減速することも可能。鉛(質量≈207u)は中性子より200倍以上重いため、衝突でもエネルギーをほとんど移動できない(「ピンポン球とボーリングボールの衝突」の比喩)
2. 熱中性子の吸収:ホウ素(¹⁰B)・カドミウム(Cd)等のn,α反応やn,γ反応で熱中性子を吸収
3. 捕獲後のγ線の遮蔽:中性子捕獲で発生するγ線は鉛・コンクリートで遮蔽
実際の中性子遮蔽では「水(減速)+ホウ素含有コンクリート(吸収)+鉛(二次γ線遮蔽)」という複合的な遮蔽が原子炉施設等で使用されます。
α線の内部被ばくの深刻性(詳細):
- ラドン(²²²Rn)吸入→肺内でα崩壊→肺上皮細胞への高LET照射→肺がんリスク増加(屋内ラドン濃度と肺がんリスクの関連が疫学的に確立)
- プルトニウム(²³⁹Pu)吸入→肺内沈着→長い半減期(24,110年)の間α崩壊を継続→肺がん・骨腫瘍のリスク
- α線のLET(線エネルギー付与)は約100keV/μmと非常に高い(X線の約1keV/μmと比較して100倍)→DNAの二重鎖切断が複雑・修復困難→発がん効率が高い
【実務・条文構造】
電離放射線障害防止規則(電離則)の遮蔽に関する規定:
線源遮蔽の義務(電離則第5条等):
- 放射線業務従事者の線量が実効線量限度(5年100mSv)を超えないよう、遮蔽設計が義務付けられている
- 遮蔽設計計算では各放射線の種類に応じた減弱係数・透過曲線を使用
管理区域の設定(電離則第3条):
- 実効線量が週1.3mSvを超えるおそれがある区域を「管理区域」として標識
- 管理区域内では放射線遮蔽・放射線モニタリング・個人線量測定等の管理が義務付けられる
放射性物質取扱い施設での内部被ばく防止:
- 密封放射線源(カプセル封入):外部被ばくのみが問題→遮蔽で対応
- 非密封放射性物質(液体・気体・粉末):内部被ばくリスクが高い→取扱いは専用の排気フード(放射線フード)・手袋ボックス等で隔離管理→吸入・経口・経皮取り込みの防止が最重要
【試験での位置づけ】
放射線遮蔽問題の最頻出は「α線=内部被ばくが最危険(外部は紙で遮蔽・内部はLET最大)」「β線の遮蔽は低原子番号材料(鉛は制動X線発生のため非推奨)」「γ線・X線=鉛・コンクリート(透過力最高)」「中性子線=水・パラフィン等の水素含有材料(鉛は不適)」の4点です。エのような「中性子に鉛が最も有効」という誤りは「遮蔽には鉛が有効」という大雑把な知識の誤用から生じる典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: ラドン(Rn)はウランの壊変系列に含まれる気体の放射性核種で、花崗岩・コンクリート・土壌等から発生します。密閉した建物の地下・低階層に滞留しやすく、屋内ラドン濃度と肺がんリスクの関係は疫学的によく確立されています。特に鉱山・洞窟での作業ではラドン吸入による職業性肺がんリスクが問題であり、電離則での管理が必要です。
- イ: β線の制動放射(bremsstrahlung)は医療画像診断(X線管球の動作原理でもある)として利用されますが、放射線遮蔽の観点では「遮蔽しようとしたのに別の放射線(X線)が発生する」という問題です。遮蔽設計の誤りによる制動X線の発生は、遮蔽効果を損なうだけでなく追加の遮蔽が必要になります。
- エ: 原子炉施設の遮蔽壁は「内側から:水(熱中性子減速・一部は中性子過多で放射化しない軽水炉冷却水)→コンクリート(ホウ素添加・中性子吸収+γ線遮蔽)→鉛板(残存γ線遮蔽)→外壁コンクリート」という多層構造を持ちます。γ線のみなら鉛だけで対応できますが、中性子線が存在する場合は水素含有材料が不可欠です。
- オ: 内部被ばく管理の実務:核医学施設(PET・シンチ等)での放射性医薬品取扱い・放射性同位体研究施設での非密封線源取扱いでは、内部被ばく防止のための排泄物・汚染物の管理が重要です。尿・血液等に放射性核種が含まれる患者の看護者も内部被ばくリスクに注意が必要です。
【根拠】放射線医学(確立した物理学・遮蔽工学)・電離放射線障害防止規則(電離則)。中性子遮蔽には水素含有材料(水・パラフィン等)が有効(鉛は電磁放射線の遮蔽に有効)・α線は内部被ばくで危険(LET最高)・β線は低原子番号材料で遮蔽(制動X線防止)は確立した物理的事実。
【補足】エ(誤): 中性子遮蔽に「鉛が最も効果的」は誤り→水・パラフィン等の水素含有材料が有効(鉛は中性子には不適)。鉛はγ線・X線の遮蔽に有効。α線=内部被ばくが特に危険(LET最高)。β線遮蔽=低原子番号材料(アルミ・プラスチック)推奨。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 放射線医学(確立した物理学的事実)。中性子線の遮蔽に「鉛が最も効果的」という記述が誤り。中性子は電荷を持たないため鉛のような高原子番号材料では減速しにくく、水素を多く含む材料(水・パラフィン等)が有効。鉛は電磁放射線(γ線・X線)の遮蔽に有効。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。