衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問56:職業性疾病
騒音作業の管理と騒音性難聴の予防に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア日本の安衛則における騒音作業の対象は、等価騒音レベルが90dB(A)以上の屋内作業場を対象としており、85〜89dBの作業場では作業環境測定の義務はない。
- イ騒音の許容基準(8時間等価騒音レベル)として、日本産業衛生学会が推奨する基準値は95dB(A)であり、95dB(A)を下回る騒音であれば曝露時間の長短にかかわらず職業性難聴のリスクはないとされている。
- ウ騒音作業での聴力保護のため、耳栓・イヤーマフ等の聴覚保護具の使用は義務付けられているが、聴覚保護具の遮音性能(NRR値)は使用者の正しい装着・誤装着に関係なく常に同一の性能を発揮する。
- エ騒音作業に係る特殊健康診断(騒音健診)の必須検査項目には「純音聴力検査」が含まれているが、検査周波数は1,000Hzと2,000Hzの2周波数のみで十分であり、4,000Hzの検査は任意とされている。
- オ騒音の「5dB交換率(5dB trade-off rule)」とは、騒音レベルが5dB増加するごとに許容曝露時間が半減するという原則であり、基準値85dB(A)・8時間を起点として90dB→4時間・95dB→2時間・100dB→1時間という形で許容時間が短くなる。正答
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正しいのはオです。「5dB交換率」は騒音の許容基準の計算原則で、騒音レベルが5dB増えるごとに許容曝露時間が半分になるというものです。85dB(A)・8時間を起点として90dB→4時間・95dB→2時間・100dB→1時間と許容時間が短くなります。
各誤りの要点:ア→安衛則での騒音作業の対象は85dB(A)以上(90dBは誤り)。イ→日本産業衛生学会の許容基準は85dB(A)・8時間(95dBは誤り)であり、85dB以下でも長期曝露で聴力低下が生じうるため「曝露時間に依らずリスクなし」も誤り。ウ→耳栓・イヤーマフの遮音性能は正しい装着が必須(誤装着では大幅に低下)。エ→騒音健診の純音聴力検査では4,000Hzが必須(任意ではない・C5-dipの発見に不可欠)。
騒音の許容基準と5dB交換率(日本産業衛生学会・NIOSH等):
| 等価騒音レベル | 1日の許容曝露時間 |
|---|---|
| 85dB(A) | 8時間 |
| 90dB(A) | 4時間 |
| 95dB(A) | 2時間 |
| 100dB(A) | 1時間 |
| 105dB(A) | 30分 |
| 110dB(A) | 15分 |
(5dBごとに許容時間が半減する「5dB交換率」)
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 安衛則第590条等では、等価騒音レベルが85dB(A)以上の屋内作業場が騒音作業の対象(作業環境測定義務・特殊健診義務の対象)。90dBは誤り。85dB以上からが管理対象です。
- イ(誤): 日本産業衛生学会の許容基準は85dB(A)・8時間であり「95dB(A)」は誤り。また85dB以下でも長期・慢性曝露で聴力低下が生じることがあるため「95dBを下回れば曝露時間に依らずリスクなし」も誤りです。許容基準は「ゼロリスクの閾値」ではなく「許容可能なリスクレベル(残余リスクあり)」として設定された値です。
- ウ(誤): 聴覚保護具(耳栓・イヤーマフ)の遮音性能は正しい装着が必須。誤装着では実際の遮音効果がNRR値の50%以下になる場合もあります(APF:Assigned Protection Factorの概念)。「装着に関係なく同一性能を発揮する」は誤りです。
- エ(誤): 騒音健診の必須検査として4,000Hzの純音聴力検査が義務(安衛則等)。騒音性難聴の初期変化(C5-dip・4kHzの谷)の早期発見のために4kHzが特に重要であり、任意ではありません。
- オ(正): 5dB交換率の計算原則として正確な記述。85dB・8時間を起点として5dBごとに許容時間が半減するという計算は、米国OSHA基準で採用され、衛生管理者試験でも標準的に用いられます。(注:日本産業衛生学会・NIOSHは等エネルギー則に厳密な3dB交換則を採用しているが、本問のオの数値計算=85dB/8h→90dB/4h→95dB/2h→100dB/1hは「5dB交換則」の計算として正しい。)
【理論的背景】
「5dB交換率」は騒音エネルギーの等エネルギー則(equal energy principle)に基づく概念です。騒音性難聴のリスクは「音のエネルギー(音圧の2乗)×曝露時間」に比例するという原則から、音圧レベルが3dB上昇すると音のエネルギーは2倍になるため、「3dB上昇→許容時間半減」というのが純粋な物理的な等エネルギー則です。実際の規制・推奨では交換率が機関により異なり、米国職業安全衛生局OSHAは5dB交換率、米国NIOSH及び日本産業衛生学会は等エネルギー則に厳密な3dB交換率を採用しています。日本の衛生管理者試験では伝統的に「5dB交換率(5dBごとに許容時間が半減)」の計算が標準的に用いられます。
85dBという基準値の根拠:
- 疫学研究(職業性難聴の発生率と騒音曝露量の関係調査)から「85dB(A)・8時間・40年間の職業曝露で有意な聴力障害が生じるリスクが一定水準以下になる」という観察に基づく
- 「ゼロリスク」の閾値ではなく「許容可能なリスクレベル(残余リスクあり)」として設定されたという点が重要
- 85dB以下でも長期・慢性曝露により聴力低下が生じることはあり、より低い目標値(80dB以下)を推奨する見解もある
個人による聴力感受性の差:
同一の騒音曝露量でも聴力低下の程度には個人差があります。遺伝的要因(内耳の抗酸化能・修復能力の差)・加齢・喫煙・耳毒性薬剤(アミノグリコシド系抗生物質等)との相互作用が感受性に影響します。このため「同じ騒音レベルでも人によって難聴になりやすい・なりにくい」という個人差を前提とした管理(個別の聴力モニタリング)が重要です。
【実務・条文構造】
聴覚保護プログラム(Hearing Conservation Program:HCP)の概念:
米国OSHAが先導し、日本でも推奨されている包括的な騒音健康管理プログラム。HCPの構成要素:
1. 騒音曝露評価(作業環境測定・個人曝露量測定)
2. 工学的対策(騒音源の封じ込め・防音扉・遮音・防振)
3. 行政的管理(作業ローテーション・高騒音作業時間の制限)
4. 聴覚保護具の提供・教育・装着確認
5. 聴力検査(入職時ベースライン・定期6か月ごと)
6. 教育・訓練プログラム(騒音リスク・保護具の正しい使い方)
7. 記録・評価(プログラムの有効性の継続的評価)
日本での騒音作業管理(安衛則の規定):
- 作業環境測定(安衛則第590条):85dB以上の屋内作業場で6か月以内ごとに1回
- 特殊健康診断(安衛則第590条・第591条):騒音作業に常時従事する者に6か月以内ごとに1回
- 検査項目:①業務歴・既往歴・問診(耳鳴り・難聴の自覚症状)②外耳道・鼓膜の診察③純音聴力検査(気導:1,000Hz・4,000Hz・両耳)
- 二次健診(一次で異常あり):語音聴力検査・専門医への紹介
- 聴覚保護具の使用(安衛則第595条):騒音作業場での耳栓・イヤーマフの使用義務
【試験での位置づけ】
騒音管理問題の最頻出は「作業環境測定の対象は85dB以上(90dBは誤り)」「4,000Hzの純音聴力検査が必須(任意ではない)」「5dB交換率による許容時間の計算(85dB・8時間起点)」「耳栓の遮音性能は正しい装着が必須(装着不問で同一性能は誤り)」の4点です。アのような「対象は90dB以上」という誤りとエのような「4kHz聴力検査は任意」という誤りは最頻出の引っかけパターンです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 85dBという閾値は「工業的に達成可能であり、職業性難聴を有意に減少できる最低限の管理水準」として設定されています。100dBを超えるような高騒音作業(飛行機エンジン整備・重機オペレーター等)では、工学的対策(防音キャビン・消音器等)と聴覚保護具の組み合わせが必須です。
- ウ: 耳栓の正しい装着の困難さは実務上の重大な問題です。研究では、訓練なしの作業者が耳栓を装着した場合の実際の遮音効果は、ラボ試験(NRR値)の50%以下であることが多いという結果があります。日本でも企業レベルの聴覚保護プログラムで「耳栓装着訓練・フィット確認」を実施する事業場が増えています。
- エ: 4,000HzはC5-dip(騒音性難聴の初期変化)の出現部位であり、この周波数の測定なしには騒音性難聴の早期発見ができません。「1,000Hz・2,000Hzのみ」では普通の老人性難聴(高音域難聴)と職業性難聴の区別が困難になります。4kHzを含む複数の周波数での定期的な測定と「基準値からの変化(Standard Threshold Shift:STS)」の評価が早期発見の鍵です。
- オ: 5dB交換率(OSHA基準)と3dB交換率(NIOSH基準・等エネルギー則に厳密)の違いは、特に間欠的な高騒音への曝露(インパクト音・工具使用等)の評価で差が出ます。3dB交換率のほうが科学的に厳密ですが、5dBの方が記憶・計算が簡単(5dBごとに半減という単純なルール)であるため実務教育では5dBが使われることが多いです。
【根拠】安衛則第588条・第590条(85dB以上が騒音作業の対象・6か月以内ごとに等価騒音レベルを測定)・第595条(聴覚保護具の義務)。騒音健診の必須検査項目(4,000Hzの純音聴力検査)は確立した騒音管理の知識。5dB交換率は米国OSHA基準で、衛生管理者試験で標準的に用いられる計算(日本産業衛生学会・NIOSHは3dB交換率を採用)。日本産業衛生学会の許容基準は85dB(A)・8時間。
【補足】オ(正): 5dB交換率=騒音5dB増加ごとに許容時間が半減(85dB・8時間→90dB・4時間→95dB・2時間→100dB・1時間)。ア(誤): 作業環境測定の対象は85dB以上(90dBは誤り)。イ(誤): 日本産業衛生学会の許容基準は85dB(A)(95dBは誤り)・85dB以下でも長期曝露でリスクあり。エ(誤): 騒音健診では4,000Hzが必須(任意ではない・C5-dip検出のため)。ウ(誤): 聴覚保護具は正しい装着が必須(誤装着では性能大幅低下)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 騒音障害防止のための許容騒音値の原則(日本産業衛生学会勧告・NIOSH等の国際的基準)。5dB交換率・85dB(A)・8時間を起点とした許容時間の計算は確立した騒音管理の知識。安衛則第590条等では85dB以上が作業環境測定の対象(90dBは誤り)。騒音健診では4,000Hzの純音聴力検査が必須(任意ではない)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。