衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問57:有害化学物質の分類と性状
2022年(令和4年)の安衛法改正・2023年4月施行の化学物質管理の自律管理型への転換に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア2023年4月施行の改正により、リスクアセスメント対象物質(安衛令別表第9)の数が従来の約674物質から約2,900物質以上に大幅拡大され、より多くの職場での化学物質リスクアセスメントの実施が義務付けられた。
- イ2023年4月施行の改正により、リスクアセスメント対象物質を製造・取り扱う事業場においては「化学物質管理者」の選任が一定の要件を満たす事業場に義務付けられ、化学物質管理者はSDSの入手・リスクアセスメントの実施・保護具の選定等の役割を担う。
- ウ2023年施行の改正で新設された「保護具着用管理責任者」は、リスクアセスメントの結果に基づいて有効な保護具の選定・労働者への適切な保護具の使用の確認・保護具の管理等の業務を担当するが、特化則・有機則等の既存の特別規則の対象物質を取り扱う業務では選任義務はない。
- エ2022年改正の自律管理型への転換によって、特化則・有機則等の既存の特別規則は廃止され、すべての化学物質管理はリスクアセスメントに基づく自律管理のみで行うことになった。正答
- オリスクアセスメントの実施において、「CREATE-SIMPLE」「コントロール・バンディング」等の厚生労働省が提供するリスクアセスメントツールを使用することができ、化学物質の危険有害性とばく露量を考慮した定量的・半定量的なリスク評価が可能となっている。
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誤りはエです。2022年改正により化学物質管理の方向性が自律管理型に転換されましたが、特化則・有機則等の既存の特別規則は廃止されていません。エの「特別規則が廃止され自律管理のみになった」という記述が誤りです。特別規則は引き続き有効であり、これらの規則の対象物質については特別規則の義務を守りつつ、さらにリスクアセスメントに基づく自律管理も行うという「両者の並存」が現在の運用です。
ア(対象物質の拡大)・イ(化学物質管理者の新設義務)・ウ(保護具着用管理責任者)・オ(リスクアセスメントツール)はすべて正しい内容です。
2022年改正・2023年4月施行の主な変更点:
| 改正事項 | 改正前(2023年以前) | 改正後(2023年4月以降) |
|---|---|---|
| リスクアセスメント対象物質数 | 約674物質 | 約2,900物質以上に拡大 |
| 化学物質管理者 | 義務なし | 一定要件の事業場で選任義務 |
| 保護具着用管理責任者 | 義務なし | 一定要件の事業場で選任義務 |
| RA結果の記録保存 | 義務なし | 記録・保存義務化 |
| 特別規則(特化則・有機則等) | 有効 | 引き続き有効(廃止なし) |
| 管理の方向性 | 物質リスト型(特別規則中心) | 自律管理型+特別規則の並存 |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 安衛令別表第9の物質数が約674→約2,900以上に拡大(2023年4月施行)。より多くの職場でのリスクアセスメント実施が法的義務となりました。
- イ(正): 化学物質管理者(CMR: Chemical Management Responsible person)の選任義務が新設。化学物質管理者の役割:①SDS・GHSラベルの内容確認②リスクアセスメントの実施③保護具の選定・管理④健康診断の実施確認等。
- ウ(正): 保護具着用管理責任者は、化学物質(リスクアセスメント対象物質)への曝露リスクが高い業務において労働者の保護具着用を管理する責任者。選任義務の対象範囲は「リスクアセスメントの結果として保護具の使用が必要と判断された業務が存在する事業場」等で規定されます。
- エ(誤): 特化則・有機則等の特別規則は廃止されていない。これらは引き続き有効であり、特別規則の対象物質については特別規則の規定を守ることが義務です。改正後は「特別規則による規制(従来型)」に加えて「リスクアセスメントに基づく自律管理(新設)」が加わった形です。
- オ(正): 「CREATE-SIMPLE」(中小事業場向けの化学物質リスクアセスメントツール・厚生労働省提供)・「コントロール・バンディング」(IOHA・WHOが開発した半定量的リスク評価手法)等のツールが利用可能で、事業者が専門家の支援なしでも一定のリスク評価を実施できるよう整備されています。
【理論的背景】
2022年改正の自律管理型への転換は、日本の化学物質管理制度の「パラダイムシフト」と評価されます。従来の「法令で指定された特定物質を個別規則で管理する方式(リスト型規制)」は、職場で実際に使用されている化学物質(数万種類)のうち特別規則で管理されているのは数百種類に過ぎない、という根本的な限界がありました。改正後は「取り扱うすべての化学物質についてリスクを評価し、そのリスクに応じた対策を事業者が自主的に選択・実施する」という自律管理モデルが基本となります。
特別規則(特化則・有機則等)との関係:
特別規則は「廃止」されるのではなく「特別規則の対象物質については特別規則を守ることに加えて、さらに自律管理も行う」という「上乗せ」の関係になります。特別規則は過去の職業病事例・科学的知見に基づいて設定された最低限の安全基準であり、自律管理では事業者がリスクに応じてさらに高い水準の対策を実施することが期待されます。「特別規則は廃止→自律管理のみ」という誤解は最も重要な誤りパターンです。
化学物質管理者の役割と資格要件:
化学物質管理者に必要な能力として厚生労働省が示すガイドラインでは以下が求められます:
- 化学物質の危険有害性の把握(SDS・GHSラベルの読み取り)
- リスクアセスメントの実施能力(定性的・半定量的な評価手法)
- 保護具の種類・性能に関する知識
- 関係法規(安衛法・特化則・有機則・GHS等)の理解
資格要件の具体的な規定はなく、事業者が適切な能力を持つ人材を選任する責任があります。
【実務・条文構造】
2023年4月以降の化学物質管理のフロー(実務的な流れ):
ステップ1:SDS・GHSラベルの確認
- 取り扱う化学物質のSDS(16項目)を入手・確認
- リスクアセスメント対象物質(安衛令別表第9)かどうかの確認
ステップ2:リスクアセスメントの実施
- 危険有害性の特定(SDS・GHSラベルのハザード情報)
- ばく露の可能性の評価(作業内容・使用量・換気条件等)
- リスクの見積もり(定性的:高/中/低・または定量的)
- ツール活用:CREATE-SIMPLE・コントロール・バンディング等
ステップ3:リスク低減措置の選択・実施
- 工業衛生の優先順位(代替→密閉化→換気→保護具)
- 特別規則(特化則・有機則等)の要件の確認・遵守
- 追加の自律管理措置(必要に応じて)
ステップ4:記録・評価
- リスクアセスメントの実施結果の記録(保存期間の規定あり)
- 化学物質管理者による確認・承認
- 定期的な見直し(化学物質の変更・作業方法の変更時等)
2024年4月以降の追加施行事項(参考):
- 特別規則が適用されない物質のばく露濃度基準(SY濃度基準値)の設定と遵守義務
- ばく露濃度基準値(管理濃度相当)を超えた場合の医師による健康相談等の義務
【試験での位置づけ】
2022年改正問題の最頻出は「特別規則は廃止されていない(自律管理と並存)」「リスクアセスメント対象物質の拡大(674→約2,900以上)」「化学物質管理者・保護具着用管理責任者の新設選任義務」「リスクアセスメントツール(CREATE-SIMPLE等)の活用」の4点です。エのような「特別規則が廃止された」という誤りは、「自律管理型への転換=既存規制の廃止」という誤解を利用した典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 拡大後の約2,900物質には、従来は特別規則の対象外だった多数の化学物質が含まれます。例えば、広く使用されているにもかかわらず特別規則がなかった有機化学物質・金属化合物等が新たにリスクアセスメントの義務対象になりました。中小事業場では初めてのリスクアセスメント実施となる場合が多く、支援ツール・専門家への相談体制の整備が課題です。
- イ: 化学物質管理者の選任義務の対象となる事業場は「リスクアセスメント対象物質を製造・取り扱う事業場のうち一定の要件を満たすもの」です。全すべての事業場が対象ではなく、要件の確認が必要です(具体的な要件は規模・物質の危険性等による)。
- ウ: 保護具着用管理責任者は「化学物質管理者」と同一人物でも可能ですが、事業場の規模・業務内容によっては別々に選任することが望ましい場合もあります。保護具の正しい選定・着用確認は化学物質管理の中でも実務的に最も課題が多い部分の一つです。
【根拠】労働安全衛生法(2022年改正)・2023年4月施行の化学物質管理の自律管理型転換内容(厚生労働省)。特化則・有機則等の特別規則は廃止されていない(自律管理と並存)・リスクアセスメント対象物質の拡大(約2,900以上)・化学物質管理者・保護具着用管理責任者の新設義務は改正安衛法の規定。
【補足】エ(誤): 特別規則(特化則・有機則等)は廃止されていない(自律管理+特別規則の並存が現在の体制)。ア(正): RA対象物質が約674→約2,900以上に拡大。イ(正): 化学物質管理者の選任義務(新設)。ウ(正): 保護具着用管理責任者(新設義務)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働安全衛生法の2022年改正・2023年4月施行内容。既存の特別規則(特化則・有機則等)は廃止されておらず、自律管理型と特別規則による規制型が並存する形となっている。特別規則は「より高い安全水準」を保証するものとして維持される。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。