労働衛生(有害業務)64第一種職業性疾病

衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問64:職業性疾病

減圧症(decompression sickness:DCS)に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。

  • 減圧症は、急速な減圧によって血中・組織に溶解していた窒素が気泡化することで引き起こされるが、窒素気泡が生成されるのは主として脂肪組織のみであり、関節・骨・神経組織への影響は生じない。
  • 減圧症のI型(軽症)は主として皮膚・リンパ系・関節への症状(皮膚のかゆみ・大理石様変色・関節痛等)が中心であり、直ちに医療機関への搬送が必要なほどの緊急性はない。
  • 高圧酸素療法(再加圧療法)は減圧症の治療において最も確立した有効な方法であり、発症後できるだけ速やかに(6時間以内が望ましい)実施することが症状の改善に重要である。正答
  • 減圧症を予防するための「段階的減圧(減圧停止)」は、浮上中に特定の深度で一定時間停止することで、血中の窒素を徐々に放出させる方法であるが、近年は減圧表(decompression table)の使用が法令上禁止され、ダイブコンピューターによる自動計算のみが認められるようになった。
  • 減圧症の晩発性合併症(Dysbaric osteonecrosis・圧骨壊死)は、急性の減圧症が完全に回復した後には発症しないことが確認されており、無症状期間後に骨壊死が発見されることはない。
正答:高圧酸素療法(再加圧療法)は減圧症の治療において最も確立した有効な方法であり、発症後できるだけ速やかに(6時間以内が望ましい)実施することが症状の改善に重要である。

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正しいのはウです。高圧酸素療法(再加圧療法)は、減圧症患者に対して高圧(2〜3気圧)の純酸素環境を提供することで、①体内の窒素気泡を圧縮・溶解させる・②虚血組織への酸素供給を改善する・③二次的な炎症を軽減するという複合的な効果をもたらします。発症後できるだけ速やかに(6時間以内が理想)実施することで治療効果が高まります。

各誤りの要点:ア→気泡は脂肪組織のみでなく関節・骨・神経・血管等の多くの組織に生じる。イ→I型(軽症)でも医療機関への搬送・再加圧治療が推奨される(緊急性がないとは言えない)。エ→段階的減圧(減圧停止)の説明自体は正しいが、「減圧表の使用が法令上禁止されダイブコンピューターのみ認められる」という記述は事実無根の誤り(減圧表・ダイブコンピューターの両方が用いられる)。オ→圧骨壊死(Dysbaric osteonecrosis)は急性減圧症から回復した後でも発症することがある。

標準試験対策の基準レベル

減圧症の型と症状・治療:

| 分類 | 症状の主な部位 | 代表的な症状 | 緊急度 |

|---|---|---|---|

| I型(軽症) | 皮膚・リンパ系・関節 | 皮膚のかゆみ・大理石様変色・関節痛(ベンズ)・リンパ浮腫 | 緊急(再加圧を推奨) |

| II型(重症) | 脊髄・脳・内耳・心肺 | 対麻痺・視野障害・めまい・難聴・胸痛・循環障害 | 最緊急(直ちに搬送・再加圧) |

| 晩発性合併症 | 骨(大腿骨頭・上腕骨頭等) | 圧骨壊死(dysbaric osteonecrosis)→無菌性骨壊死 | 数か月〜数年後に発症 |

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(誤): 窒素気泡は脂肪組織(可溶性が高い→多くの窒素が溶解)のみでなく、関節・骨(無菌性骨壊死の原因)・神経組織(脊髄・脳・末梢神経)・血管・内耳等の多様な組織に生じます。「脂肪組織のみ」は誤りです。
  • イ(誤): I型(軽症)であっても、医療機関への搬送と高圧酸素療法(再加圧治療)が推奨されます。「緊急性はない」という記述は誤りで、症状が軽くても再加圧を怠ると後遺症が残る可能性があります。
  • ウ(正): 高圧酸素療法(再加圧療法)の有効性と早期実施の重要性は正確。発症後6時間以内が理想とされており、時間が経過するほど治療効果が低下します。
  • エ(誤): 段階的減圧(decompression stop)の原理の説明は正しいものの、「減圧表の使用が法令上禁止されダイブコンピューターのみが認められるようになった」という記述は事実無根です。実際には減圧表(米海軍減圧表等)とダイブコンピューターの両方が現在も用いられており、減圧表の使用を禁止する法令はありません。この後半部分が誤りです。
  • オ(誤): 圧骨壊死(dysbaric osteonecrosis)は急性減圧症の晩発性合併症として、急性症状が回復した後の数か月〜数年後に骨壊死が発見されることがあります。「急性減圧症から回復した後には発症しない」は誤りです。
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【理論的背景】

減圧症の物理的・生理的機序は「ヘンリーの法則(気体の溶解量は分圧に比例)」と「気泡核形成理論」によって理解されます。潜水中の高圧環境では大量の窒素が血液・組織(特に脂肪・神経組織)に溶解しますが、急速な浮上(減圧)により溶解量が急激に低下すると、過飽和状態になって窒素が気泡として析出します。この気泡が「物理的閉塞(血管・組織の機械的圧迫)」と「続発する炎症・凝固異常」により多様な症状を引き起こします。

組織別の窒素溶解度と気泡形成のリスク:

  • 脂肪組織:窒素の溶解度が水の約5倍(脂質親和性が高い)→最も多くの窒素が蓄積→気泡形成のリスクが高い。大腿・臀部・腹部等の脂肪組織で多く発生する理由。
  • 神経組織(脊髄等):比較的脂質成分が多い→窒素の蓄積→気泡による脊髄梗塞→II型減圧症の脊髄症状
  • 関節腔・滑膜:関節腔内の窒素が気泡化→関節痛(ベンズ)→I型減圧症の典型症状
  • 骨(骨髄脂肪等):長時間の骨髄への気泡形成→骨髄血流障害→骨壊死(圧骨壊死:晩発性合併症)

高圧酸素療法(HBO:Hyperbaric Oxygen Therapy)のメカニズム(詳細):

1. 窒素気泡の圧縮・溶解:2〜3気圧の環境→気泡体積が1/2〜1/3に縮小→徐々に再溶解・排泄

2. 高分圧酸素による治療:純酸素を吸入→血中の物理的溶解酸素量が増加→虚血組織への酸素供給改善(ヘモグロビン非依存的な酸素溶解)

3. 抗炎症・抗浮腫効果:高分圧酸素による血管内皮細胞保護・炎症サイトカインの抑制

4. 血液粘稠度の低下:気泡による血小板活性化・凝固亢進への対応

米国海軍の減圧症治療表(USN Treatment Table 6等)が世界標準的な再加圧プロトコルとして使用されています。

【実務・条文構造】

高気圧作業安全衛生規則(高圧則)の減圧症予防規定:

段階的減圧の義務(高圧則第12条等):

  • 高気圧業務従事者の浮上・減圧は所定の減圧表に従い段階的に実施
  • 浮上速度の制限:通常0.3〜0.9m/分程度(潜水種別・深度・時間により異なる)
  • 最終停止深度:通常3〜6mで最終停止

特殊健康診断(高圧則第38条):

  • 高気圧業務就業前健診・定期健診(6か月ごとに1回)
  • 検査項目:骨のX線検査(圧骨壊死の早期発見)・肺機能・循環器・耳・関節等

急性減圧症発症時の対応手順(実務):

1. 浮上停止(可能ならば)・または作業停止

2. 100%酸素の吸入(現場での応急措置・気泡の縮小促進)

3. 大量の水分補給(血液の粘稠度低下・循環改善)

4. 横臥位での安静(立位は気泡の上方移動を促す可能性)

5. 最寄りの高圧酸素治療施設への緊急搬送(時間が勝負)

【試験での位置づけ】

減圧症問題の最頻出は「高圧酸素療法(再加圧療法)が標準治療・早期実施が重要」「I型(関節痛・皮膚症状)vs II型(脊髄・脳等の重症)の区分」「圧骨壊死(晩発性合併症・急性症状回復後にも発症する)」「段階的減圧(減圧表・ダイブコンピューター使用)による予防」の4点です。アのような「気泡は脂肪組織のみ」・オのような「圧骨壊死は急性回復後には発症しない」という誤りは減圧症の複雑な病態を単純化した典型的な引っかけです。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 窒素気泡が脂肪組織に多く形成される一方で、関節・骨・神経組織での気泡形成も重要です。特に骨の長骨(大腿骨・上腕骨等)の骨頭部では骨髄の脂肪組織に気泡が形成され、長期的には骨壊死につながります。職業的ダイバーでは経年的な潜水歴に伴い圧骨壊死の有病率が増加することが疫学的に確認されています。
  • イ: I型(軽症)でも高圧酸素療法(再加圧)を行わないと後遺症が残る場合があります。特に「皮膚の大理石様変色(cutis marmorata)」は実は軽症に見えてもII型への移行のサインである場合があり、症状の軽重に関わらず高圧酸素療法施設への搬送が推奨されます。
  • エ: 段階的減圧の計算には、従来からの減圧表(米海軍減圧表等)とダイブコンピューターの両方が用いられます。減圧表の使用を禁止する法令は存在せず、「ダイブコンピューターのみが認められる」という選択肢エの後半は誤りです。ダイブコンピューターは潜水中のリアルタイムでの減圧停止時間計算を行う電子機器で、現代のレジャーダイビング・職業潜水の両方で広く使用されています。ただしダイブコンピューターを正しく使用しても個人の体調(疲労・脱水・低体温等)によって減圧症リスクが変動することは免れません。

【根拠】医学的事実(確立した潜水医学・高圧環境医学)・高気圧作業安全衛生規則(高圧則)。高圧酸素療法(再加圧療法)が減圧症の確立した標準治療・早期実施の重要性(6時間以内が理想)は潜水医学の確立した知識。圧骨壊死(dysbaric osteonecrosis)は急性回復後にも発症する晩発性合併症。

【補足】ウ(正): 高圧酸素療法(再加圧療法)=減圧症の標準治療・発症後できるだけ早期実施が重要(6時間以内が理想)。ア(誤): 気泡は脂肪組織のみでなく関節・骨・神経等の多くの組織で形成。エ(誤): 段階的減圧の計算には減圧表・ダイブコンピューターの両方が用いられる(「減圧表の使用が禁止されダイブコンピューターのみ」は事実無根)。オ(誤): 圧骨壊死は急性減圧症回復後にも発症する(晩発性合併症)。イ(誤): I型でも再加圧治療が推奨(緊急性がないとは言えない)。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した潜水医学・高圧環境医学)。高圧酸素療法(再加圧療法)が減圧症の標準的かつ最も有効な治療法であること・できるだけ速やかな(6時間以内が理想)実施の重要性は確立した潜水医学の知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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科目別に解いて、衛生管理者に合格

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