衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問65:職業性疾病
情報機器(VDT)作業による健康障害および厚生労働省「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(2019年・令和元年)に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アVDT(Visual Display Terminal)作業者に多い健康障害として、「視疲労(眼精疲労)」「頸肩腕症候群(肩こり・頸部痛・腕のしびれ等)」「腰痛」「精神的疲労・ストレス」が代表的な職業性健康問題として知られている。
- イ2019年の厚生労働省ガイドラインでは、ノートパソコン・タブレット端末・スマートフォン等も「情報機器」として対象に含め、スマートフォンのみを使用する作業は「その他の情報機器作業」として管理対象に追加された。
- ウVDT作業における視環境管理として、ディスプレイ画面の輝度・コントラストの適切な調整・照明によるグレア(まぶしさ・反射光)の防止・ディスプレイ画面の見下ろし角(目からディスプレイまでの垂直角)の確保が重要な対策として挙げられる。
- エ2019年ガイドラインでは、一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の連続作業との間に10〜15分の作業休止時間を確保することが推奨されているが、近視・乱視等の屈折異常のある作業者への特別な配慮は定められていない。正答
- オVDT作業による頸肩腕症候群(筋骨格系疾患)の予防として、作業時間の管理・適切な作業姿勢(椅子・デスクの高さ調整・モニターの位置調整等)・ストレッチ等の準備体操・適切な休憩の確保が重要な対策として挙げられる。
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誤りはエです。2019年の厚生労働省ガイドラインでは、一連続作業時間が1時間を超えないよう・次の連続作業との間に10〜15分の作業休止時間を確保するという推奨に加えて、「近視・遠視・乱視等の屈折異常がある作業者・中高年の老視(老眼)がある作業者等については、眼科医による矯正等の措置が必要な場合があることへの配慮が必要」という内容が含まれています。「特別な配慮は定められていない」という記述が誤りです。
ア(VDT作業の代表的健康障害)・イ(2019年改訂でスマートフォンも対象追加)・ウ(視環境管理の具体的対策)・オ(頸肩腕症候群の予防対策)はすべて正しい内容です。
情報機器作業ガイドラインの主要規定(2019年改訂版):
| 規定事項 | 内容 |
|---|---|
| 一連続作業時間の制限 | 1時間を超えないこと(推奨) |
| 作業休止時間 | 次の連続作業との間に10〜15分の休止(推奨) |
| 休止中の小休止 | 作業中にも1〜2回の小休止(数分程度)を挟む(推奨) |
| 屈折異常等への配慮 | 近視・遠視・乱視・老視等は眼科医による措置・適切な矯正眼鏡の使用が必要な場合あり |
| 照明・グレア対策 | ディスプレイへの映り込み防止・照明は500lux以下・コントラスト確保 |
| 作業姿勢 | 椅子・机の高さ調整・モニター位置の適切な設定 |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): VDT作業の4大健康問題(視疲労・頸肩腕症候群・腰痛・精神的ストレス)は現代の職業健康管理の重要な課題。日本の労働者の過半数がVDT作業に従事しており、その健康影響は広範囲に及びます。
- イ(正): 2019年改訂では従来のパソコン(CRT・液晶モニター)に加え、ノートPC・タブレット・スマートフォンも「情報機器」として対象化。スマートフォンのみを業務使用する労働者にも「その他の情報機器作業」として一定の管理が求められるようになりました。
- ウ(正): 視環境管理の基本(グレア防止・輝度調整・適切な見下ろし角の確保)は正確な記述。「見下ろし角」は「目とモニター中心の角度が水平から10〜20度下方向が適切(見上げは眼精疲労・頸部筋肉への負担が増す)」という原則があります。
- エ(誤): 「屈折異常への特別な配慮は定められていない」は誤り。ガイドラインでは屈折異常(近視・遠視・乱視)・老視のある作業者への配慮として眼科医への受診・適切な矯正への配慮が定められています。特に「画面用眼鏡(VDT用眼鏡)の作成・使用への支援」が事業者に求められています。
- オ(正): 頸肩腕症候群の予防として、姿勢管理・作業時間制限・ストレッチ等の体操の推奨は正確。静的な姿勢での長時間作業が主な原因であることから、「定期的な姿勢の変更・ストレッチ・休憩の確保」が基本的な対策となります。
【理論的背景】
VDT(Visual Display Terminal)作業による健康問題は、20世紀後半からのコンピューター普及に伴い新たに認識された「現代型職業病」です。かつての製造業中心の職業性疾患(じん肺・鉛中毒等の重厚長大型)とは異なり、「化学物質への曝露はなし・物理的有害因子も限定的」という点で従来の有害業務とは本質的に異なります。VDT作業による健康問題の本質は「静的で繰り返しの多い姿勢・長時間の眼の酷使・心理的ストレス」という「過負荷の累積」にあります。
眼精疲労(Visual fatigue)の生理学的機序:
VDT作業での眼精疲労の主な要因:
1. 眼の調節(accommodation)の疲労:近見作業(ピント合わせ)を長時間継続→毛様体筋の疲労→調節力の低下・近距離視力の一時的低下
2. 開散・輻輳(binocular fusion)の疲労:両眼での立体視・近見時の輻輳(内向き眼球運動)の長時間維持→外眼筋の疲労
3. 瞬目(まばたき)の減少:VDT作業中は瞬目回数が通常(15〜20回/分)の約1/3に低下→角膜・結膜の乾燥→ドライアイ→眼の刺激感・疲労感
4. 輝度コントラストと照明環境:グレア(まぶしさ)や明暗差の大きい環境での眼の適応→不快感・眼精疲労の増大
頸肩腕症候群の発症機序(筋骨格系への影響):
VDT作業での頸肩腕症候群の主な発症経路:
- 前傾姿勢での頸部・肩の静的筋収縮の持続(頸部の前傾:頭部の重さが頸部筋への負荷となる)
- キーボード・マウス操作での前腕・手首の反復動作(肩・腕・手首の筋腱への繰り返し負荷)
- 不良姿勢(猫背・片側への体重負荷等)の長期継続
- ストレス(精神的緊張)による筋緊張の増大
老視(老眼)・屈折異常への配慮が特に重要な理由:
- 老視(40歳以降に増加):水晶体の弾性低下→調節力の低下→近距離のピント合わせに余分な努力が必要→眼精疲労が進みやすい。「VDT用眼鏡(中距離用の単焦点または累進レンズ)」の適切な使用が視疲労の大幅な軽減につながります。
- 近視・乱視未矯正または不十分な矯正:ピント合わせに余分な調節努力が必要→眼精疲労が増大。「コンタクトレンズ使用者でのドライアイのリスク増大」も配慮が必要な点。
【実務・条文構造】
2019年ガイドラインの主要ポイント(実務的なチェックリスト):
作業時間管理:
- 一連続作業:1時間以内
- 作業休止:10〜15分(連続作業間)
- 小休止:1〜2回(作業中)
- 1日の総作業時間の上限:ガイドラインでは「適切に管理すること」として特定の上限時間の明記はないが、長時間化を防ぐ管理が求められる
視環境:
- 照明:作業面500lux以下(JIS照明基準参照)・ディスプレイの周辺輝度との比率を適切に管理
- グレア防止:画面への映り込み防止(画面の向き・ブラインド・フィルム)・画面を窓に向けない
- ディスプレイ位置:目の高さより少し低く(10〜20度下方向)・目から40〜70cm程度の距離
作業姿勢・環境:
- 椅子の高さ:肘が約90度になるよう(高低調節可能な椅子が理想)
- 机の高さ:キーボードで肘が自然な角度
- モニター位置:視距離40〜70cm・見下ろし角10〜20度
健康管理:
- 健康診断:自覚症状の問診(眼・頸部・肩・腰の症状)・眼科的検査(視力・調節機能等)
- 屈折異常等への配慮:眼科受診の勧奨・VDT用眼鏡の作成支援
【試験での位置づけ】
情報機器作業ガイドライン問題の最頻出は「一連続作業時間は1時間以内(推奨)」「作業休止は10〜15分」「2019年改訂でスマートフォンも対象追加」「屈折異常(近視・老眼等)への配慮が規定されている」「グレア防止・モニター位置・姿勢管理が主な対策」の5点です。エのような「屈折異常への配慮は定められていない」という誤りは、ガイドラインの特定の部分の記述を誤った典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: VDT作業と精神的健康(メンタルヘルス)の関係も重要です。「テクノストレス(Technology stress)」として、ITシステムへの過度の依存・情報過多・常時接続による休息不足・IT障害発生時のストレス等が精神的健康に影響することが認識されています。特にリモートワーク環境でのオン・オフの境界の不明確さが精神的疲労を増大させる問題が近年顕在化しています。
- イ: 2019年のガイドライン改訂は「VDT指針(2002年)からの大幅な見直し」として、スマートフォン・タブレットの普及という技術環境の変化に対応したものです。スマートフォンの小画面での長時間作業は「スマホ首(ストレートネック)」「眼精疲労」等の新しい健康問題として認識されています。
- エ: 「中高年労働者の老視(老眼)への配慮」は実務上非常に重要です。40〜50代以上の労働者は老眼の影響でVDT作業での視疲労が特に増大しやすく、「老眼鏡では近すぎて(老眼鏡は近距離40cm程度向け)・遠用眼鏡では近すぎる距離のモニターにピントが合いにくい」という状況が生じます。「VDT専用眼鏡(中距離用:60〜70cm程度の作業距離に合わせたレンズ)」の作成支援が事業者に求められています。
【根拠】厚生労働省「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12日・基発0712第3号)。一連続作業時間1時間以内・作業休止10〜15分・屈折異常等への配慮規定・スマートフォン等の情報機器として対象追加は2019年ガイドラインの規定。
【補足】エ(誤): 2019年ガイドラインでは近視・老視等の屈折異常のある作業者への配慮(眼科受診の勧奨・VDT用眼鏡等)が定められている(「配慮は定められていない」は誤り)。ア(正): VDT作業の4大健康障害=視疲労・頸肩腕症候群・腰痛・精神的疲労。イ(正): 2019年改訂でスマートフォンも「情報機器」として管理対象追加。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12日・基発0712第3号)。ガイドラインでは近視・乱視等の屈折異常等がある作業者については眼科的ケアへの配慮が定められており、「屈折異常への特別な配慮は定められていない」という記述が誤り。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。