行政書士 基礎法学 問14:裁判制度・裁判の種類と民事・刑事・行政の区別
裁判の種類に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア民事裁判とは、個人・法人などの私的な権利義務に関する紛争を裁判所が解決する手続であり、国家が当事者として加わることは絶対にない。
- イ刑事裁判とは、犯罪行為を行ったとされる者に対して国家が刑罰権を行使する手続であり、当事者は検察官(原告側)と被告人(被告側)である。正答
- ウ行政裁判とは、行政機関が行った処分に対する不服を、行政機関内部の機関である行政裁判所が審査する手続であり、日本では現在も行政裁判所が設置されている。
- エ民事裁判と刑事裁判は全く別個の手続であるため、同一の事実関係について民事裁判と刑事裁判が同時に進行することはない。
- オ家事審判は、家庭裁判所が婚姻・親子・相続等の家族関係に関する事件について行う手続であるが、その性格は通常の民事訴訟と全く同一であり、当事者対立構造・公開主義・厳格な証拠規則がそのまま妥当する。
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裁判には民事裁判・刑事裁判・行政裁判等の種類があります。イは刑事裁判の構造として正確です。刑事裁判では、国家(検察官)が犯罪を訴追し、被告人がその相手方となります。アは「国家が当事者となることは絶対にない」とする点が誤りで、行政事件等では国が当事者になります。ウは「現在も行政裁判所が設置されている」が誤りで、日本国憲法76条2項は特別裁判所の設置を禁止しており、行政事件も通常の司法裁判所(行政裁判所ではなく地方裁判所等)が担当します。エは同一事実について民事・刑事が同時進行することはよくあることであり誤りです。オは「家事審判は通常の民事訴訟と全く同一の性格」とする点が誤りで、家事審判は当事者対立構造をとらず非公開・職権探知で進む非訟的手続であり、民事訴訟とは性格が異なります。したがって正答はイのみです。
イが正答です。刑事裁判は国家(公訴を提起する検察官)が一方当事者となり、被告人(刑事訴訟法第2編の「公訴」で訴追を受ける者)が相手方となる手続です。刑事事件では私人が被告人を直接訴追することはできず、検察官のみが起訴権限を持ちます(起訴独占主義・刑事訴訟法247条)。アは誤りです。民事裁判でも国・地方公共団体が当事者(被告・原告)となる場合があります(例:国家賠償請求訴訟・行政財産の使用に関する民事的紛争等)。ウは日本国憲法76条2項の内容と正反対です。同条2項は「特別裁判所は、これを設置することができない」と定めており、戦前に存在した行政裁判所(普通裁判所から独立した行政機関内部の裁判所)は廃止されました。現在、行政事件も通常の司法裁判所(地方裁判所・高等裁判所・最高裁判所)が担当し、行政事件訴訟法がその手続を規律します。エは誤りです。同一の事実関係について民事裁判と刑事裁判が並行して進行することは実際によくあります(例:交通事故で加害者が刑事訴追されつつ被害者から民事損害賠償請求も提起される場合)。両者は独立した手続であり、刑事判決の結果が民事裁判を直接拘束するわけではありませんが、刑事確定判決の内容が民事裁判における事実認定に影響することがあります(民事訴訟法248条参照ではなく、証拠価値として)。オは家事審判の性格として正確な記述です。家事審判は当事者対立構造をとらず、裁判所が後見的・後見補充的に判断する非訟手続(家事事件手続法)であり、通常の民事訴訟とは異なる性格を持ちます。ただし、設問の選択肢の中でイが最も明確に「正しいもの」として機能します。
【理論的背景:裁判の種類と日本の司法制度の特徴】
日本の裁判制度は、日本国憲法76条の「司法権の一元化」原則に基づき、すべての司法権が最高裁判所を頂点とする通常裁判所(最高裁・高裁・地裁・家裁・簡裁)に集中しています。明治憲法下では行政事件は行政裁判所が管轄する「行政裁判制度」が存在しましたが、日本国憲法76条2項が「特別裁判所を設置することができない」と定めたため廃止されました。現在、行政事件・刑事事件・民事事件・家事事件・少年事件は、すべて通常の司法裁判所が担当しています(ただし特別の審判機関として弾劾裁判所が憲法64条で認められています)。
【各選択肢の正誤と論拠】
アは「国家が当事者となることは絶対にない」とする断定が誤りです。民事裁判の当事者は私人(個人・法人)に限らず、国・地方公共団体も当事者となりえます。行政財産の使用・国有財産の売買・国の契約に基づく民事上の紛争では国が当事者となります。また、国家賠償請求訴訟(国賠法1条・2条)は国・公共団体が被告となる民事裁判です(行政事件訴訟法の取消訴訟と並行して提起されることも多い)。イが正答です。刑事裁判の構造として、検察官(刑事訴訟法247条の起訴権限者)が公訴を提起し(訴追)、被告人がその相手方となります。検察官は「公益の代表者」として犯罪の訴追権限を独占しており、私人が直接刑事訴追を行う私訴制度は日本では採用されていません(告訴・告発は捜査の端緒であって訴追ではない)。ウは日本国憲法76条2項「特別裁判所は、これを設置することができない」に正面から違反する記述です。明治憲法下(大日本帝国憲法61条)では行政裁判所が普通裁判所(司法裁判所)から独立して行政事件を管轄する制度がありましたが、これが戦後の憲法改正で廃止されました。現在、行政事件は行政事件訴訟法に基づいて地方裁判所(第一審)・高等裁判所(控訴審)・最高裁判所(上告審)が担当します。エは誤りです。民事裁判と刑事裁判は独立した別手続ですが、同一の事実関係(例:傷害・詐欺・交通事故等)について両者が並行して進行することは一般的です。刑事裁判と民事裁判で異なる事実認定がなされることもあり(無罪でも民事では不法行為が認定される場合)、「刑事裁判での有罪判決が民事裁判を自動的に拘束する」わけではありません(もっとも、確定した刑事判決の認定事実は民事裁判で証拠として重視されます)。オは誤りです。家事審判は家事事件手続法に基づき家庭裁判所が行う非訟的手続であり、通常の民事訴訟(当事者対立構造・厳格な証拠規則・公開の原則)とは性格が異なります。具体的には、家庭裁判所が後見的・職権的に事実を探知し(家事事件手続法56条)、非公開で進行します(家事事件手続法33条)。したがって「通常の民事訴訟と全く同一の性格であり、当事者対立構造・公開主義・厳格な証拠規則がそのまま妥当する」とするオは、家事審判の非訟的性格を正反対に述べたものであり誤りです。本問で正しいのはイのみです。
【行政裁判所廃止の歴史的背景と行政事件訴訟法の制度】
明治憲法下の行政裁判所制度は、行政権の独立性を強調する大陸法(フランス・ドイツ)の影響を受けたものでした。当時の行政裁判所は行政部に属し、司法部から独立した組織として行政事件を担当していました。この制度は行政に対する司法統制が不十分であるという批判を受け、日本国憲法76条2項によって廃止されました。戦後の行政事件訴訟制度は、1962年に制定された行政事件訴訟法(2004年大改正)によって整備されており、取消訴訟・義務付け訴訟・差止め訴訟等の訴訟類型が設けられています。また、行政不服審査法による行政機関内部の不服申立て制度(審査請求等)は存在しますが、これは裁判所による司法審査とは別物です。
【試験での位置づけと学習ポイント】
裁判の種類に関する問題では、①行政裁判所(特別裁判所)は現在の日本には存在しない(憲法76条2項)、②刑事裁判の当事者は検察官と被告人(私人による訴追は不可)、③民事・刑事の並行進行は可能、④家事審判は非訟手続、という各点を確実に押さえてください。「現在も行政裁判所が存在する」という選択肢は憲法76条2項の知識で即座に否定できます。
【根拠条文】
日本国憲法 第76条第2項(特別裁判所の禁止)
刑事訴訟法 第247条(国家訴追主義・起訴独占主義)
家事事件手続法 第1条(目的)・第33条(非公開原則)・第56条(職権探知主義)
【補足】
本問は裁判の種類(民事・刑事・行政・家事)の基本的区別と、日本に行政裁判所が存在しないという憲法上の制度的事実を問うもの。「現在も行政裁判所が設置されている」は憲法76条2項と正面から矛盾する。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 日本国憲法 第76条第2項(行政裁判所の禁止)。刑事訴訟法。家事事件手続法 第1条。 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。