労働衛生(有害業務以外)10温熱環境・作業環境測定

衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問10:温熱環境・作業環境測定

発汗と体温調節に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • 体温調節における発汗の冷却効果は、汗が皮膚表面で蒸発するときに体表面から蒸発熱(気化熱)を奪うことによって生じる。
  • 精神性発汗は、精神的緊張や情動刺激によって手掌・足底・腋窩などに生じる発汗であり、体温調節とは直接関係しない。
  • 温熱性発汗(体温調節性発汗)は、体温上昇に伴って体全体から生じ、主に体温を下げる役割を担う。気温が上昇するほど発汗量は増加するが、湿度が高い環境では発汗量は低下する。正答
  • 不感蒸泄とは、汗腺からの意識的な発汗ではなく、皮膚や呼吸器粘膜から水分が常時少量蒸発している現象であり、1日あたり約600〜900mlの水分が失われる。
  • 高温環境での長時間作業では、大量発汗によって体内のナトリウムが失われ、水分のみを補給すると血中ナトリウム濃度が低下して熱けいれん(筋肉の痛みを伴うけいれん)を起こすことがある。
正答:温熱性発汗(体温調節性発汗)は、体温上昇に伴って体全体から生じ、主に体温を下げる役割を担う。気温が上昇するほど発汗量は増加するが、湿度が高い環境では発汗量は低下する。

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誤りはウです。「湿度が高い環境では発汗量は低下する」という部分が誤りです。湿度が高い環境では汗が蒸発しにくくなるため、体は体温を下げようとしてさらに多くの汗を分泌します。つまり発汗量は増加します(ただし蒸発効率が低下するため冷却効果は得られにくい)。「発汗量が低下する」という記述は誤りです。

ア(蒸発熱で冷却)・イ(精神性発汗の部位)・エ(不感蒸泄の定義と量)・オ(熱けいれんの機序)はいずれも正しい内容です。発汗の種類(温熱性・精神性・味覚性)と不感蒸泄の区別は試験の基本事項です。

標準試験対策の基準レベル

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): 水1gの蒸発熱(気化熱)は約580cal(2.43kJ)。体温調節における蒸発散熱は高温・高強度作業時に特に重要な冷却機序であり、気温が高くなるほど輻射・対流による放熱が困難になるため、蒸発散熱への依存が増大します。
  • イ(正): 精神性発汗は交感神経(コリン作動性)の活性化によって生じ、主な分布部位は手掌・足底・腋窩です。体温とは関係なく、緊張・恐怖・痛みなどの精神的刺激で生じます。緊張したときに「手に汗をかく」のはこのメカニズムです。
  • ウ(誤): 湿度が高い環境では汗の蒸発が阻害されるため、体は体温を下げようとしてさらに多くの汗を産生します。発汗量は増加します。ただし蒸発できない汗は体温冷却に寄与しません(滴り落ちるだけの「無効発汗」)。「発汗量は低下する」は誤りです。
  • エ(正): 不感蒸泄(insensible perspiration)は汗腺活動とは別に、皮膚・呼吸器粘膜からの水分蒸発として常時起きています。1日約600〜900ml(成人安静時)の水分が失われており、発熱・高温環境・運動で増加します。
  • オ(正): 熱けいれん(heat cramp)は大量発汗後に水分のみ補給した場合に生じる希釈性低ナトリウム血症によって起こります。筋肉(特に使用した筋肉)の有痛性けいれんが特徴で、塩分補給で回復します。Ⅰ度熱中症の一症状です。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

発汗は人体最大の体温調節手段であり、暑熱環境や運動時における体温の過度な上昇を防ぐために必須の生理機能です。発汗は以下の3種類に分類されます。

発汗の3分類:

1. 温熱性発汗(体温調節性発汗): 体温上昇・環境高温への反応として全身から生じる。体温調節を目的とする。汗腺:エクリン腺(全身)。

2. 精神性発汗(感情性発汗): 精神的緊張・情動刺激による。手掌・足底・腋窩・額に多い。交感神経(コリン作動性)が支配。体温調節とは独立。

3. 味覚性発汗: 辛い食物摂取後に顔面・頭部に生じる発汗。三叉神経の副交感神経刺激によると考えられている。

湿度と発汗の関係(重要):

  • 低湿度環境: 汗が素早く蒸発→冷却効果大→発汗量は比較的少なくて済む
  • 高湿度環境: 汗が蒸発しにくい→冷却効果が低下→体温が下がらないため汗の分泌がさらに促進される→発汗量は増加するが冷却効率は低下

このため「高温多湿環境では体感温度が高く熱中症リスクが増大し、かつ大量の無効発汗によって脱水・電解質喪失も進行する」という二重の問題が生じます。

【実務・条文構造】

発汗による水分・電解質喪失と補給の実務:

| 発汗量(1時間あたり) | 状況 |

|---|---|

| 300〜600ml | 軽作業・快適温熱環境 |

| 600〜1,200ml | 中等度作業・暑熱環境 |

| 1,200〜2,400ml | 重作業・高温環境 |

発汗中に失われる電解質(1Lの汗あたりの主な成分):

  • ナトリウム(Na⁺): 20〜70mEq/L(順化によって低下)
  • カリウム(K⁺): 3〜8mEq/L
  • マグネシウム(Mg²⁺): 0.2〜1.5mEq/L

水分・電解質補給の指針(厚生労働省・日本スポーツ協会):

  • 水分: 作業前・作業中・休憩中に1回200〜250ml程度をこまめに補給(喉が渇く前に)
  • 塩分: 0.1〜0.2%食塩水(または等張スポーツドリンク・経口補水液)
  • 大量発汗後(2L超): 電解質補給を積極的に行い、水のみの大量補給は避ける

不感蒸泄と体水分管理:

  • 安静時の不感蒸泄: 皮膚から約600ml/日 + 呼吸から約300ml/日 = 計約900ml/日
  • 発熱時: 体温1℃上昇ごとに不感蒸泄が約15%増加
  • 高温環境・運動時: 発汗量が不感蒸泄を大幅に上回る

【試験での位置づけ】

発汗に関する問題では「湿度が高い環境での発汗量の変化(増加する・冷却効率は低下する)」「温熱性発汗・精神性発汗・不感蒸泄の区別」「熱けいれんの機序(水分のみ補給による低ナトリウム血症)」「蒸発熱による体温冷却の原理」が頻出です。ウのような「湿度が高いと発汗量が低下する」という誤りは、「湿度が高いと汗が蒸発しない→汗をかかなくなる」という誤った直感に基づく典型的な引っかけです。実際は逆で「蒸発できないから体温が下がらず、さらに発汗が促進される」という生理的反応を理解することが重要です。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 蒸発熱による冷却は「気温>体温」の高温環境でも機能できる唯一の冷却機序です(輻射・対流は気温が体温より高い場合は逆効果になる)。このため発汗能力は生命維持に直結する重要な体温調節機能です。無汗症(先天性外胚葉形成不全症など)の患者が高温環境で危険にさらされる理由がここにあります。
  • イ: 精神性発汗と温熱性発汗は神経支配は同じ(交感神経・コリン作動性)ですが、発汗部位と誘発刺激が異なります。緊張状態(面接試験・試験中)で手掌に汗をかくのが精神性発汗、暑い部屋で全身から汗をかくのが温熱性発汗です。
  • ウ: 「無効発汗」という概念が重要です。高湿度環境での大量発汗の多くは蒸発せずに皮膚表面を流れ落ちるだけの「無効な発汗」です。このため高湿度環境では体温調節のために大量発汗しても冷却効果が得られず、かえって脱水・電解質喪失だけが進行するという危険な状況が生じます。
  • エ: 不感蒸泄は臨床上も重要な概念で、長期臥床患者・ICU患者などで水分バランスを計算する際に計上する必要があります。「不感」(感じない)の通り、汗として意識されることはなく、皮膚が常に微量の水分を放散していることで皮膚の保湿も維持されています。
  • オ: 熱けいれん(熱性筋けいれん)の予防には、作業前後の食事(塩分摂取)と作業中の電解質補給が重要です。「水は補給できているのに筋肉がつる・痛む」という症状は低ナトリウム血症のサインであり、経口補水液や生理食塩水の補給・場合によっては医療機関での点滴が必要です。

【根拠】医学的事実(確立した生理学・温熱生理学)。発汗の分類・不感蒸泄の概念は生理学教科書の確立した知識。

【補足】高湿度環境では発汗量は「増加」する(蒸発できないため体温が下がらず発汗が促進される)。「低下する」は誤り。不感蒸泄は皮膚・呼吸器粘膜からの水分蒸発で1日約600〜900ml。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学・温熱生理学)。不感蒸泄の概念は生理学教科書の基本事項。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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