衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問3:救急処置
職場における救急処置として行う心肺蘇生法に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア傷病者に反応(意識)がなく、正常な呼吸が認められない場合、または呼吸の有無が判断できない場合には、直ちに胸骨圧迫を開始する。
- イ胸骨圧迫は、傷病者の胸骨の下半分に手根部を当て、1分間に100〜120回のテンポで、胸が少なくとも5cm(6cmを超えない深さを目安)沈み込むように押し下げる。
- ウ人工呼吸を行う場合は、胸骨圧迫30回に対して人工呼吸2回の比率で実施し、人工呼吸ごとに1秒かけて吹き込む。
- エAED(自動体外式除細動器)を使用する際は、通電(ショック)の実施後は直ちに脈拍の確認を行い、脈拍があることが確認できた場合にのみ胸骨圧迫を再開する。正答
- オ傷病者が小児(1歳以上8歳未満程度)の場合、胸骨圧迫の深さは胸の厚みの約3分の1を目安とし、成人より浅い圧迫となることが多い。
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誤りはエです。AEDでショックを行った後は「脈拍を確認してから胸骨圧迫を再開する」のではなく、ショック直後にすぐ胸骨圧迫を再開します。脈拍の確認に時間をかけると心臓が血液を送らない時間が長引いて生存率が下がります。AEDが次の解析タイミングまで(約2分間)は、脈拍確認をせずに胸骨圧迫を続けるのが正しい手順です。
その他の選択肢は正しい内容です。胸骨圧迫のテンポ(100〜120回/分)と深さ(5〜6cm)、30:2の比率、正常な呼吸がない場合に直ちに胸骨圧迫を開始する点は必ず覚えましょう。
各選択肢の正誤と根拠(JRC蘇生ガイドライン2020準拠):
- ア(正): JRCガイドライン2020の通り。「反応なし、正常な呼吸なし」または呼吸の判断が困難な場合は10秒以上かけずに胸骨圧迫を開始します。死戦期呼吸(あえぎ呼吸)があっても心停止として扱い、胸骨圧迫を開始します。
- イ(正): 胸骨圧迫の部位(胸骨下半分)・テンポ(100〜120回/分)・深さ(5cm以上6cm以下)はガイドラインで定められた推奨値です。
- ウ(正): 一般市民による救助では、人工呼吸の訓練を受けていない場合は胸骨圧迫のみ(Compression-Only CPR)でも可。訓練を受けた者が人工呼吸を行う場合は30:2の比率で1秒かけて吹き込みます。
- エ(誤): AEDのショック後は脈拍確認なしに直ちに胸骨圧迫を再開します。2分間(約5サイクル)の胸骨圧迫を行った後、AEDが再度解析を促します。脈拍確認は一般市民の救助では行わない(確認に時間がかかりすぎるため)のが現在の標準手順です。「脈拍があることが確認できた場合にのみ胸骨圧迫を再開」は誤りです。
- オ(正): 小児(1歳以上8歳未満程度)では胸の厚みの約1/3を目安に圧迫。成人の5〜6cm基準より体格に応じて浅くなります。
【理論的背景】
心肺蘇生法(CPR: Cardiopulmonary Resuscitation)は、心停止・呼吸停止状態の傷病者に対して、脳や心臓への血流を維持するために行う応急処置です。心停止後4〜6分で脳に不可逆的な障害が生じ始めるため、迅速な対応が生死を分けます。
蘇生の連鎖(Chain of Survival)の概念:
1. 早期認識・通報(119番通報・AED手配)
2. 早期CPR(胸骨圧迫主体)
3. 早期除細動(AEDによる電気ショック)
4. 高度な蘇生処置(救急隊・病院での治療)
各リンクを早めることが生存率向上に直結します。特に「第2リンク(早期CPR)」と「第3リンク(早期除細動)」の開始が1分遅れるごとに生存率が7〜10%ずつ低下するとされています。
【実務・条文構造】
JRC蘇生ガイドライン2020の主要推奨事項:
胸骨圧迫の詳細:
- 部位: 胸骨の下半分(剣状突起(みぞおちの上)を避ける)
- テンポ: 100〜120回/分(1秒で約1.7回のイメージ)
- 深さ: 5cm以上6cm以下(成人)。過圧迫(6cm超)は肋骨骨折・内臓損傷リスクがある
- 完全な胸壁の戻り: 圧迫の間、胸が完全に元の位置に戻ることを確認
- 中断時間を最小化: 胸骨圧迫の中断は10秒以内に
AED使用の流れ:
1. AED電源ON(自動で音声ガイド開始)
2. 電極パッドを貼付(右鎖骨下・左脇腹下)
3. AEDが心電図を解析(この間は傷病者に触れない)
4. 除細動適応の場合: 「ショックを行います」→全員離れる→ショックボタン押下
5. ショック直後に胸骨圧迫を再開(脈拍確認なし)← エの誤りの根拠
6. 約2分後にAEDが再解析
除細動が効果的な理由: 心室細動(VF)や無脈性心室頻拍(VT)は電気ショックで止められます。ショック後に自己心拍が再開しても微弱な場合が多く、すぐに胸骨圧迫を続けることが重要です。
小児・乳児のCPRの違い:
- 小児(1歳以上8歳未満): 圧迫深さ=胸の厚みの1/3目安・AEDは小児用モード使用(専用パッドまたは小児用アダプター)
- 乳児(1歳未満): 2本指での圧迫・深さ=胸の厚みの1/3・人工呼吸は口と鼻を覆う(口対口鼻法)
【試験での位置づけ】
心肺蘇生法の問題は「胸骨圧迫のテンポ(100〜120回/分)」「深さ(5〜6cm)」「30:2の比率」「AEDショック後の対応(脈拍確認なしに直ちに胸骨圧迫再開)」「死戦期呼吸の扱い(心停止として扱う)」が最頻出です。エのような「脈拍確認してから再開」という誤りは典型的な引っかけパターンです。ガイドラインは定期的に改定されるため(国際版は5年ごと・JRCは対応して改訂)、受験前に最新版(2020年版基準)を確認することを推奨します。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 死戦期呼吸(あえぎ呼吸・下顎呼吸)は心停止直後に見られる異常呼吸であり、「呼吸している」と誤認すると胸骨圧迫の開始が遅れます。「正常な呼吸かどうか分からない場合は心停止として対応する」という判断基準が重要です。
- イ: テンポ100〜120回/分のイメージとして、音楽「Stayin' Alive」(BeeGees)のリズム(約104BPM)が参考にされます。テンポが速すぎると(120回/分超)圧迫が浅くなり・胸壁が戻りきらないという問題が生じます。
- ウ: 人工呼吸の吹き込みは「1秒かけて・胸が上がる量」が目安。過剰に吹き込むと胃への空気流入(胃膨満→嘔吐リスク)が生じます。人工呼吸に自信がない場合は「胸骨圧迫のみ(ハンズオンリーCPR)」でも有効な蘇生ができます。
- エ: 「ショック後の脈拍確認不要」は2005年版ガイドライン改訂で標準化された重要な変更点。旧版(2000年以前)では脈拍確認が推奨されていたため、古い知識を持つ人が間違えやすいポイントです。
- オ: 小児用AEDパッドは成人用より電極面積が小さく・出力エネルギーが低い設定になっています。専用パッドがない場合は成人用を使用しますが、パッドが重ならないよう配置を工夫します。
【根拠】医学的事実(確立した救急医学)。JRC(日本蘇生協議会)蘇生ガイドライン2020(JRC Resuscitation Guidelines 2020)準拠。
【補足】AEDショック後は「脈拍確認なしに直ちに胸骨圧迫再開」が正しい手順。「脈拍確認してから再開」は典型的な誤り。胸骨圧迫テンポ100〜120回/分・深さ5〜6cm・比率30:2は必須暗記。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した救急医学)。JRC(日本蘇生協議会)蘇生ガイドライン2020に基づく。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。