衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問16:換気・事務室環境
事務室の換気に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア事務室に必要な換気量は、在室者が呼吸によって排出するCO₂量と外気のCO₂濃度・許容CO₂濃度の差から算出することができ、計算式は「必要換気量(m³/h)= CO₂発生量(m³/h)÷ (許容濃度-外気濃度)」で表される。
- イ同じ広さの事務室であっても、在室者の人数が増えると呼吸によるCO₂産生量が増加するため、同じ換気能力では室内CO₂濃度が上昇し、必要な換気量が増加する。
- ウ外気のCO₂濃度は約400ppm(0.04%)であり、事務室のCO₂許容濃度(1,000ppm)との差は600ppm(0.06%)であるため、この差を大きくする(外気CO₂を下げる)ほど、同じCO₂発生量に対して必要換気量は減少する。
- エ換気には「自然換気」と「機械換気」があるが、自然換気は気圧・温度差・風などの自然力に依存するため、室内外の温度差がない夏季には換気が全く行われなくなる。正答
- オ必要換気量の計算において、CO₂発生量は活動強度(安静・軽作業・中作業等)によって異なり、重い作業ほどCO₂発生量が多くなるため、より多くの換気量が必要となる。
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誤りはエです。自然換気は室内外の温度差だけでなく、風(気圧差)によっても生じます。温度差を利用する「温度差換気(浮力換気)」に加え、風が建物に当たることで生じる「風圧換気」があります。したがって「夏季に室内外温度差がなくても、風が吹いていれば換気が行われる」ことがあります。「全く行われなくなる」は誤りです。
ア(必要換気量の計算式)・イ(人数増加と換気量)・ウ(外気CO₂濃度と許容値の差)・オ(活動強度とCO₂発生量)はいずれも正しい内容です。換気量の計算式(CO₂発生量÷濃度差)は試験頻出の計算問題の基礎です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): CO₂ベースの必要換気量計算式: Q=k÷(p-q)(Q=必要換気量、k=CO₂発生量、p=室内許容濃度、q=外気CO₂濃度)。この式の分母(p-q)が大きいほど換気量は少なくて済み、分子(k)が大きいほど(在室者が多い・活動強度が高い)換気量が多く必要です。
- イ(正): 在室者増加→CO₂発生量増加→同換気量では許容濃度超過→必要換気量が増加する、という関係は正しい。事務室定員の設定・換気設備の能力設計に直接関係します。
- ウ(正): 外気CO₂濃度(約400ppm)と許容濃度(1,000ppm)の差(600ppm)が換気の「余裕」です。外気CO₂濃度が高い(都市部・渋滞地域)場合はこの差が小さくなり、同じCO₂発生量に対してより多くの換気量が必要になります。逆に外気CO₂濃度が低い(農村・森林地帯)場合は換気効率が向上します。
- エ(誤): 自然換気の駆動力は「温度差(重力換気・浮力換気)」だけでなく「風(風圧換気)」も含まれます。夏季に室内外温度差が小さくても、風が吹けば風圧差による換気が生じます。「全く行われなくなる」は誤りです。ただし自然換気は機械換気と異なり安定性が低く、計算上の換気量を保証することが難しい点は事実です。
- オ(正): 成人の安静時CO₂産生量は約0.020〜0.022m³/h、軽作業は約0.030〜0.040m³/h、中程度作業は0.050〜0.080m³/h程度と活動強度に比例して増加します。重筋作業を行う作業場では安静状態より大幅に多い換気量が必要です。
【理論的背景】
換気(ventilation)は室内空気と外気を交換することで、室内の汚染物質濃度を低下させ、快適で健康的な空気環境を維持するための基本的な衛生管理手段です。換気の目的は①酸素の供給とCO₂の排出②室内発生汚染物質(CO・ホルムアルデヒド・臭気・細菌・ウイルス)の希釈除去③温度・湿度の調整の3つです。
自然換気の2種類のメカニズム:
1. 温度差換気(重力換気・浮力換気): 室内外の温度差による空気密度差を利用。室内が温かい(密度が低い)と上部から外気が流入し下部から排気される。冬季・温暖な春秋に有効。夏季に室内外温度差が小さい場合は換気力が弱くなる。
2. 風圧換気(風力換気): 風が建物の外壁に当たることで生じる気圧差を利用。風上側が正圧(高気圧)・風下側が負圧(低気圧)となり、気圧差によって換気が促進される。季節・昼夜を問わず風が吹けば換気が生じる。
【実務・条文構造】
必要換気量の計算(CO₂ベース)の詳細:
計算式: Q = k ÷ (p - q)
- Q: 必要換気量(m³/h)
- k: CO₂発生量(m³/h)=在室人数 × 一人あたりのCO₂産生量
- p: 許容CO₂濃度(=0.001=1,000ppm)
- q: 外気CO₂濃度(=0.0004=400ppm)
計算例(在室者10人・軽作業・外気CO₂400ppm・許容1,000ppm):
- k = 10人 × 0.030m³/h = 0.30m³/h
- Q = 0.30 ÷ (0.001 - 0.0004) = 0.30 ÷ 0.0006 = 500m³/h
- 一人あたり: 500 ÷ 10 = 50m³/h/人
活動強度別CO₂産生量の目安(成人男性・安静時36℃相当):
| 活動強度 | CO₂産生量(m³/h/人) |
|---|---|
| 安静 | 約0.012〜0.015 |
| 軽作業(事務・歩行) | 約0.022〜0.030 |
| 中程度作業(立ち作業・軽い運動) | 約0.040〜0.060 |
| 重作業(肉体労働・激しい運動) | 約0.080〜0.120 |
換気回数(空気交換回数):
- 換気回数(回/h)= 換気量(m³/h)÷ 室容積(m³)
- 一般事務室の目安: 3〜6回/h
機械換気の種類(換気力学的分類):
- 第1種換気: 給気・排気ともに機械(全熱交換型・最も確実)
- 第2種換気: 給気のみ機械・排気は自然(陽圧室・クリーンルーム向き)
- 第3種換気: 排気のみ機械・給気は自然(厨房・化学実験室向き・居室は通常非推奨)
【試験での位置づけ】
換気問題では「必要換気量の計算式(CO₂発生量÷濃度差)の分子・分母の理解」「自然換気の2種類のメカニズム(温度差換気と風圧換気)」「エのような『温度差がなければ換気ゼロ』という誤り」が出題ポイントです。計算問題では「分子と分母を逆にする誤り」「単位変換(ppm→小数)の誤り」に注意が必要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 必要換気量計算式の分母(p-q)は「換気の余裕」を表します。分母が小さい(許容濃度に近い外気CO₂)ほど必要換気量が増大します。実務では「外気が汚染されている(大気汚染・都市部)」場合の計算を修正する必要があります。
- イ: 密閉した会議室での長時間会議は、在室者のCO₂産生と換気不足によってCO₂濃度が急速に1,000ppmを超えることがあります。コロナ禍でCO₂センサーが普及したことで、この問題が可視化されました。会議中のドア・窓の開放や換気回数の増加が有効な対策です。
- ウ: 外気CO₂濃度は産業革命以前は約280ppmでしたが、現在は約420ppm(2024年時点)まで上昇しています。この上昇により事務室換気計算で使用する「外気CO₂濃度」の値も更新が必要ですが、試験では慣例的に「約400ppm」が用いられています。
- エ: 自然換気は気候・建物の向き・開口部の配置に依存するため、確実な換気量を保証できません。建築物衛生法(ビル管理法)では一定規模以上のビルで機械換気設備の設置と管理が義務付けられており、自然換気のみへの依存は避けるべきとされています。
- オ: CO₂発生量は年齢・性別・体格・健康状態によっても異なります。高齢者・小児は成人より少なく、肥満者は除脂肪体重あたりの代謝が高い傾向があります。実務的な換気設計では「成人男性・軽作業」の標準値を基準として計算し、実測値との比較で調整します。
【根拠】事務所衛生基準規則・換気工学(医学的事実)。必要換気量計算式はCO₂ベースの換気量計算の標準手法。
【補足】自然換気の駆動力は「温度差換気(重力換気)」と「風圧換気」の2種類。温度差がゼロでも風があれば換気は起こる→「全く行われなくなる」は誤り。必要換気量=CO₂発生量÷(許容濃度-外気濃度)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 事務所衛生基準規則・換気の物理的原理(換気工学・医学的事実)。自然換気は温度差に加え「風(風圧換気)」によっても生じる。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。