衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問24:食中毒・感染症
職場の集団給食施設における食中毒予防に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア食品の冷蔵保存(4℃以下)は、すべての食中毒細菌の増殖を完全に停止させるため、冷蔵保存した食品は加熱処理をしなくても安全に提供できる。
- イ集団給食施設で食中毒が発生した場合、原因食品と同一ロットの保存食(検食)が最低50g保存されていることが食中毒調査において重要であり、保存期間は最低72時間(3日間)以上とされている。
- ウ食品の交差汚染(クロスコンタミネーション)とは、生の食肉・魚・卵から加熱済み食品や野菜へ、まな板や包丁などの調理器具を介して病原体が移行することを指し、予防のためには食材ごとに調理器具を区別することが重要である。正答
- エ給食を提供した後に多数の喫食者が同様の消化器症状を訴えた場合でも、発症者の割合が50%未満であれば食中毒ではなく個人の体調不良と判断し、保健所への届出は不要である。
- オHACCPシステムは、食品製造・給食施設における衛生管理の手法であり、製造工程の管理は行わず、完成した製品の抜き取り最終検査のみによって安全性を保証する事後確認型の管理方式である。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠法令も明記。
正しいのはウです。交差汚染(クロスコンタミネーション)は集団食中毒の主要な原因の一つです。生の食肉・魚・卵には食中毒菌が存在することがあり、これらに触れた調理器具を洗浄・消毒せずに調理済み食品や野菜に使用すると、菌が移行して食中毒を起こします。食材ごとに専用の包丁・まな板を用意する(色分け管理)ことが予防の基本です。
ア→冷蔵でも増殖する菌がある(リステリア菌は4℃でも増殖)。イ→検食の保存量は50gが目安として正しいが、保存期間は「2週間以上」(72時間ではなく)が学校給食等では規定される。エ→食中毒が疑われる場合は発症割合に関わらず保健所への届出が必要。オ→HACCPは工程管理による予防的アプローチであり、「最終検査のみで安全性を保証する事後確認型」とするのは逆で誤り。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 冷蔵保存(4℃以下)は食中毒細菌の増殖を「抑制」しますが、完全には停止させません。リステリア菌(Listeria monocytogenes)は4℃以下でも増殖可能であり、冷蔵食品でも食中毒を起こすことがあります。また冷蔵は芽胞や毒素を除去しないため、「冷蔵済み=加熱不要で安全」は誤りです。
- イ(誤): 検食の保存期間については、学校給食衛生管理基準では「2週間以上」の保存が規定されており(50g以上)、「最低72時間(3日間)」は不十分です。特定給食施設での検食保存に関しては保存期間の規定が施設種別によって異なりますが、「72時間で足りる」という断定は誤りです。
- ウ(正): 交差汚染(クロスコンタミネーション)の定義と予防策として正確な記述です。生の食材と調理済み食品・加熱不要食品(生野菜)との接触を防ぐために、まな板・包丁の色分け使用・専用器具の使用・調理手順の管理が重要です。
- エ(誤): 食中毒が疑われる場合(複数の喫食者が同様の症状を訴えた場合)は、発症者の割合に関わらず医師・施設管理者が保健所へ届け出る義務があります(食品衛生法第63条・医師は食中毒と診断した場合24時間以内に保健所長へ届出)。「50%未満なら届出不要」は誤りです。
- オ(誤): HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:危害要因分析・重要管理点)の核心は「製品の最終検査から工程管理への転換」であり、製造の各工程で危害因子を継続的にモニタリング・管理する予防的アプローチです。選択肢オの「工程管理は行わず最終検査のみで安全性を保証する事後確認型」という記述は、HACCPの本質(工程管理による予防)を従来の最終検査方式と取り違えた誤りです。HACCPはまさに「最終検査だけに依存しない」点に意義があります。
【理論的背景】
交差汚染(クロスコンタミネーション)は食中毒の「三大汚染経路」の一つです(ほかに直接汚染・環境からの汚染)。特に職場の集団給食施設では、1回の食事で多数の労働者が同じ食品を摂取するため、食中毒が発生した場合の被害規模が大きくなります。
交差汚染の主な発生経路:
1. まな板・包丁の共用: 生の食肉用に使用した器具を野菜・調理済み食品に転用
2. 調理者の手指: 生の食材を扱った手指を洗わずに他の食材に触れる
3. 調理台・シンクの共用: 生の食材と調理済み食品が同じ作業面で処理される
4. 冷蔵庫内での接触: 生の食肉から滴る肉汁が下段の食品に接触する(生肉は下段に保管が原則)
HACCPシステムの7原則:
1. 危害要因分析(HA): 製造工程で発生しうる生物的・化学的・物理的危害を特定
2. 重要管理点(CCP)の特定: 危害を防止・除去・許容水準まで低減できる工程を特定
3. 管理基準(CL)の設定: 各CCPでの管理限界値(例:加熱工程では中心温度75℃以上1分)
4. モニタリング方法の設定: CCPを確実に管理できているかを継続的に監視する手順
5. 是正措置の設定: 管理基準を逸脱した場合の対応手順
6. 検証方法の設定: HACCPシステムが有効に機能しているかの確認方法
7. 記録の保持: モニタリング・是正措置等の記録作成・保管
【実務・条文構造】
食中毒が疑われる場合の対応手順(食品衛生法・給食施設の実務):
届出義務(食品衛生法第63条):
- 医師が食中毒患者・疑い例を診断した場合: 24時間以内に保健所長へ届出
- 給食施設の管理者が食中毒を疑った場合: 直ちに保健所に連絡(任意報告)
保健所の調査内容(食中毒発生時):
1. 患者の問診(症状・摂食した食品・発症時刻)
2. 検食(保存食)の収集・細菌検査
3. 施設の実地調査(調理記録・温度管理記録の確認)
4. 調理従事者の便培養検査
5. 原因食品の特定・汚染経路の推定
検食(保存食)の管理(学校給食衛生管理基準・2009年):
- 保存量: 1食分(各料理)につき50g以上
- 保存期間: 2週間以上(原則として冷凍保存)
- 目的: 食中毒発生時の原因調査
冷蔵保存の限界(リステリア菌の例):
- Listeria monocytogenesは0〜45℃で増殖(冷蔵温度4℃でも緩やかに増殖)
- 妊娠者・免疫低下者・高齢者で特に危険(敗血症・脳炎・流産の原因)
- 加熱処理(75℃1分以上)で死滅するため、生のまま食べない生ハム・スモークサーモン等の注意が必要
【試験での位置づけ】
集団給食・食中毒予防の問題では「交差汚染の定義と予防策」「HACCP概念(予防的アプローチ)」「冷蔵でも増殖する菌の存在(リステリア等)」「食中毒疑いの届出義務(発症割合に関わらず)」「検食の保存期間(2週間以上)」が出題されます。エのような「発症割合50%未満なら届出不要」という誤りは、法的義務の理解を問う典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 冷蔵(4℃以下)が完全な増殖停止をもたらさない別の例としては、腸炎ビブリオ(10℃以下では増殖しにくいが0℃近くでも生存可能)・エルシニア菌(4℃でも増殖)があります。冷凍(-15℃以下)でも多くの細菌は死滅しませんが(冷凍は菌を「休眠」させるだけ)、毒素は冷凍でも活性を保ちます。
- イ: 検食の2週間保存という規定は、カンピロバクター食中毒のような長潜伏期間(1〜7日)の食中毒でも、発症後に遡って原因食品を調査できるように設計されています。「72時間(3日間)」では長潜伏期間の食中毒に対応できません。
- ウ: 色分けまな板の使用は日本の業務用厨房では広く普及しています(例:生の食肉用=赤/生鮮魚介用=青/野菜用=緑/加熱済み食品用=黄)。単に器具を区別するだけでなく、使用後の適切な洗浄・消毒(熱水消毒または次亜塩素酸ナトリウム消毒)が実施されているかの確認が重要です。
- エ: 食中毒の届出義務(食品衛生法第63条)では、発症者の数・割合に関わらず「食中毒であると診断した医師」が届け出る義務を負います。また給食施設の管理者は自主的に保健所に相談・連絡することが強く推奨されます。届出を怠ると食品衛生法違反となる可能性があります。
- オ: HACCPは「最終検査のみで安全性を保証する事後確認型」ではなく、工程管理による予防型である点が本質です(選択肢オの記述はこの本質を取り違えた誤り)。HACCPシステムは2021年6月から日本の食品事業者(原則全業種)に衛生管理計画の作成・実施・記録が義務化されました(食品衛生法改正・2018年)。大規模施設は国際標準(コーデックス7原則)に基づく完全なHACCPが必要ですが、小規模事業者等には「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」という簡略版が許容されています。
【根拠】医学的事実(確立した食品衛生学)・食品衛生法(届出義務)・学校給食衛生管理基準(検食保存規定)・HACCPシステム(コーデックス委員会・食品衛生法改正2018年)。
【補足】交差汚染=生の食材から調理済み食品への病原体移行→器具の色分け・専用化が予防の基本。冷蔵は増殖を「抑制」するが「完全停止」ではない(リステリア菌等は4℃でも増殖)。食中毒疑いは発症割合に関わらず届出義務あり。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した食品衛生学・HACCPシステムの概念)。交差汚染防止・HACCP概念は食品衛生法に基づく取り組み。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。