衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問31:メンタルヘルス・健康保持増進
精神疾患による休職者の職場復帰支援に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア職場復帰の可否判断において、復帰直前に主治医が「復帰可能」と判断すれば、産業医・人事部門の判断は必要なく、即時に職場復帰を実現させる義務が事業者にある。
- イ試し出勤(リハビリ出勤)制度を設ける場合、試し出勤中の労働者に対して給与相当額の報酬を支払うことが労働基準法上義務付けられている。
- ウ職場復帰後のフォローアップにおいて、管理監督者は復帰した労働者の業務量や精神状態の変化を定期的に把握し、異変を感じた場合は産業保健スタッフや人事部門に相談することが求められる。正答
- エ精神疾患による休職からの職場復帰においては、原則として休職前と全く同じ部署・業務・勤務時間で即時フル復帰させることが最も回復を促進するため、段階的な復帰(短時間勤務・軽作業)は推奨されない。
- オ職場復帰支援計画(復帰支援プラン)の策定は産業医のみが行うものであり、管理監督者・人事部門・本人は計画策定に関与することができない。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠法令も明記。
正しいのはウです。職場復帰後のフォローアップは「第5ステップ」として厚生労働省の手引きに規定されており、管理監督者が復帰した労働者の業務量・精神状態を定期的に確認し、異変を感じた場合に産業保健スタッフや人事部門に連絡することが求められています。管理監督者は専門的な治療を行うのではなく「変化への気づき・つなぎ役」として機能します。
ア→主治医判断だけで即時復帰は不可(産業医・人事部門の判断も必要)。イ→試し出勤中の賃金は法律上義務付けられていない(事業場の就業規則・制度設計による)。エ→段階的復帰が推奨される(即時フル復帰が最良とは言えない)。オ→復帰支援計画は産業医・人事・管理監督者・本人の協働で策定。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 主治医が「復帰可能」と判断しても、産業医が職場環境・業務負荷・主治医診断書の内容を総合的に評価し、事業者(人事部門・管理監督者)が最終的な復帰可否を決定します。主治医の判断はあくまで「医学的な状態の評価」であり、職場での「就労可能性」は別途産業医が評価することが必要です(手引きの第3・第4ステップ)。
- イ(誤): 試し出勤中の賃金(給与)支給は法律上義務付けられていません。試し出勤は「労働契約に基づく通常の就労」ではなく、事業場が設ける制度(任意の措置)であり、賃金支払いの有無は各事業場の就業規則・制度設計で決まります。傷病手当金との関係も考慮する必要があります(就労中は傷病手当金が停止されるため調整が必要)。
- ウ(正): 職場復帰後フォローアップ(第5ステップ)の管理監督者の役割として正確に記述されています。管理監督者は「治療者」ではなく「早期の変化に気づき、専門職(産業医・産業保健スタッフ・人事)につなぐ役割」が求められます。
- エ(誤): 職場復帰後の段階的な業務復帰(短時間勤務→通常時間・軽業務→通常業務の段階的移行)が推奨されており、即時フル復帰は再発リスクが高くなるとされています(手引きの推奨)。
- オ(誤): 職場復帰支援プランの策定は産業医だけでなく、管理監督者・人事部門・本人も参加して多職種・当事者参加で行うことが手引きで推奨されています。本人が復帰プランの内容を理解・納得していることが復帰成功の重要な要素です。
【理論的背景】
精神疾患(特にうつ病)からの職場復帰は、身体疾患からの復帰と異なる特有の困難さがあります。うつ病では認知機能の低下(注意力・集中力・判断力の低下)・倦怠感・睡眠障害が残遺することが多く、主治医が「復帰可能」と判断した状態でも職場での高い業務負荷に耐えられない場合があります。
産業医と主治医の役割分担:
- 主治医: 疾患の診断・治療・「医学的に就労可能かどうか」の判断(治療の観点)
- 産業医: 職場環境・業務内容の把握・「この職場のこの業務で就労可能かどうか」の判断(職場適応の観点)
主治医が「復帰可能」としても産業医が「もう少し療養が必要」と判断することはあり得ます。逆に主治医が「まだ治療中」でも産業医と協議して段階的な復帰プランを設計するケースもあります。最終的な復帰決定権は事業者(人事部門)にあります。
【実務・条文構造】
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(改訂版)」の5ステップと主要関与者:
| ステップ | 内容 | 主要関与者 |
|---|---|---|
| 第1 | 病気休業開始・休業中のケア | 主治医・産業保健スタッフ・人事 |
| 第2 | 主治医による復帰可能の判断(診断書) | 主治医 |
| 第3 | 職場復帰可否の判断・復帰支援プランの作成 | 産業医・人事・管理監督者・本人(協働) |
| 第4 | 最終的な職場復帰の決定 | 事業者(人事・産業医の意見を総合) |
| 第5 | 職場復帰後のフォローアップ | 産業医・管理監督者・人事・主治医(連携) |
第5ステップ(フォローアップ)で管理監督者が確認する主なポイント:
- 出退勤の状況(遅刻・早退・欠勤の有無・増加傾向)
- 業務遂行状況(ミスの増加・業務のこなし具合)
- 本人の表情・言動・体調の変化
- 同僚・上司との人間関係の状況
- 残業・休日出勤の状況(段階的業務増加の計画通りか)
試し出勤中の取り扱い(実務上の注意点):
- 労働災害保険の適用: 試し出勤中の傷害は「業務上」か「業務外」か事前に明確化が必要
- 傷病手当金: 就労実績がある日は傷病手当金を受給できない(健保法による)
- 賃金支払い: 就業規則の規定による(無給・全額・一部支払いなどの制度設計が事業場ごとに異なる)
【試験での位置づけ】
職場復帰支援の問題では「主治医判断だけでは不十分・産業医・人事の判断も必要(ア)」「段階的復帰が推奨(エ)」「復帰支援プランは多職種・本人参加で策定(オ)」「第5ステップ(フォローアップ)での管理監督者の役割(ウ)」が頻出です。アのような「主治医判断で即時復帰義務あり」という誤りは、産業医・事業者の役割を無視した典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 主治医の診断書には「復帰可能」と記載されていても、実際の業務内容・職場環境を知らないまま作成されることが多く、産業医が「職場訪問・業務内容の確認」を行ったうえで現実的な復帰条件を判断することが重要です。主治医と産業医の認識ギャップが問題になることがあり、産業医が主治医に意見照会・情報共有を行う仕組みが推奨されています。
- イ: 試し出勤制度の設計で最も注意が必要なのは「傷病手当金との関係」です。就労した日は傷病手当金を受給できないため、無給試し出勤の場合は収入が途絶えるリスクがあります。事業場が試し出勤中に「見舞金・研修手当」等の名目で支給する場合も、健保組合・協会けんぽとの事前調整が必要です。
- ウ: 管理監督者がフォローアップで特に注意すべき「再発のサイン」としては、①出社時刻が遅くなってきた②会話が減った・表情が暗い③ミスが急に増えた④「もう大丈夫です」と言うが顔色が悪い、などがあります。本人が「大丈夫」と言っていても、客観的な変化を見逃さないことが重要です。
- エ: 段階的復帰の具体的なスケジュール例(一般的な目安): ①試し出勤(通勤のみ・2〜4週間)→②短時間勤務(4〜6時間/日・4〜6週間)→③通常時間・軽業務(8週間)→④通常業務(以降は定期フォローアップ)。このスケジュールは個人の回復状況・疾患の特性・職種によって大きく異なります。
- オ: 本人が復帰支援プランの策定に参加することで「自分の意見が尊重された」という感覚が生まれ、プランへの納得感・主体的な取り組みが促進されます。また本人が「自分の回復状況と職場への期待」を表現することで、プランの現実性・実行可能性が高まります。
【根拠】厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(改訂版)」(5ステップ)。
【補足】第5ステップ(フォローアップ)での管理監督者の役割は「変化への気づき・専門職へのつなぎ」。復帰支援プランは産業医だけでなく管理監督者・人事・本人が協働で策定。段階的業務復帰が推奨(即時フル復帰は再発リスクあり)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(改訂版)」(第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。