衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問34:腰痛予防・作業管理
腰痛予防対策に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、男性労働者が持ち上げる重量物の重量目安は体重の50%以下とされており、女性はその60%以下を目安とする。
- イ腰痛は筋骨格系疾患に分類されるが、職場における腰痛の発生に心理的・社会的要因(ストレス等)は関係がないとされており、身体的負荷のみが要因として評価される。
- ウ重量物を持ち上げる際は、腰への負担を軽減するため膝を伸ばしたまま腰を大きく曲げる姿勢(前屈姿勢)を基本とし、重心を体から遠ざけて持ち上げることが推奨される。
- エ「職場における腰痛予防対策指針」では、男性労働者が取り扱う重量物は体重の40%以下を目安とし、女性労働者はその60%以下(すなわち男性目安の60%相当)を目安とするとされている。正答
- オ腰痛予防のための職場体操・ストレッチは、腰痛の発生予防としては効果がなく、既に腰痛が発症した後のリハビリテーションにのみ有効であるとされている。
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正しいのはエです。厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」では、重量物を取り扱う場合の重量目安として、男性労働者: 体重の40%以下、女性労働者: 男性目安の60%相当(すなわち体重の40%×60%)を目安としています。
アは「50%」としている点が誤り(正しくは40%)。イは「心理的要因は関係ない」が誤り(腰痛は心理・社会的要因も重要)。ウは「膝を伸ばして前屈」が誤り(膝を曲げてしゃがんで持ち上げるのが正しい)。オは「発症後のリハビリのみ有効」が誤り(予防にも有効)。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 男性の目安は体重の「50%以下」ではなく40%以下です。50%では腰椎への負担が過大になる可能性があります。女性はその60%以下(男性の40%×0.6=男性体重の24%相当)です。「50%と60%」という数値の入れ替えは典型的な引っかけです。
- イ(誤): 腰痛の発生には身体的負荷だけでなく、職場の心理的・社会的要因(仕事のコントロール感のなさ・職場の人間関係・ストレス・睡眠不足等)も重要な要因とされています。指針でも心理的要因を含めた「個人的要因・職場環境要因・心理社会的要因」を総合的に評価することが求められています。
- ウ(誤): 重量物を持ち上げる際の正しい姿勢は、膝を曲げてしゃがみ、できるだけ体に近づけて重心を低く保ちながら持ち上げる方法です。膝を伸ばして前屈する姿勢は腰椎に過大な負荷をかけます。また重心を体から遠ざけるほど腰への負担は増大します。
- エ(正): 指針の重量目安の正確な記述です。男性40%以下・女性はその60%(=男性目安の60%相当)が正しい数値です。
- オ(誤): 職場体操・ストレッチは腰痛の発症予防にも有効であるとされています。指針においても作業開始前の準備体操・作業後のストレッチを含む健康管理対策が推奨されています。
【理論的背景】
腰痛は職業性疾患の中で最も多い訴えの一つであり、労働損失・労災補償費用の観点からも重大な職業保健上の問題です。腰痛の病態は多因子性であり、身体的負荷(重量物取扱い・前屈・ねじり姿勢・全身振動等)だけでなく、心理的・社会的要因(職場ストレス・仕事の裁量度の低さ・対人関係の問題・睡眠障害等)が発症・遷延に大きく関与することが現在では確立した医学的知見となっています。
重量物取扱いの生体力学的背景: 腰椎第4〜5番(L4-L5)・第5腰椎〜第1仙骨(L5-S1)の椎間板は、前屈姿勢で重量物を保持するときに極めて大きな圧縮力・剪断力を受けます。体重60kgの男性が体重の40%(24kg)の重量物を正しい姿勢で持ち上げる場合と、前屈姿勢で持ち上げる場合では、腰椎にかかる圧縮力が2〜3倍以上異なることが生体力学的研究で示されています。
【実務・条文構造】
「職場における腰痛予防対策指針」(厚生労働省・平成25年6月18日改訂)の主要内容:
1. 腰痛リスクの評価と対策: 腰痛発生リスクが高い業種・業務(介護・看護・重量物取扱い・立ち仕事・全身振動作業)に対し、リスクアセスメントを実施する。
2. 重量物取扱いの目安:
- 男性労働者: 体重の40%以下を目安(継続作業では25%以下)
- 女性労働者: 男性目安の60%以下(継続作業も同様の補正)
- ただし目安であり、個人の体力・健康状態・作業頻度を考慮して設定する
3. 作業姿勢・動作の基本原則:
- 床面の重量物: 膝を曲げてしゃがみ、体に近づけて持ち上げる(前屈禁止)
- 腰のねじり動作を避ける: 持ち替える際は足を動かして体ごと向きを変える
- 高所への持ち上げは台を使用する
- 作業姿勢・頻度・重量を組み合わせたトータルな負担軽減を設計する
4. 職場体操・健康管理:
- 作業前の準備体操・作業後のストレッチを実施する
- 定期健康診断の活用・腰痛の早期発見と適切な就業措置
- 心理的要因を含めた包括的な健康管理
5. 福祉・医療・介護分野の腰痛対策: ノーリフトポリシー(人力のみによる患者移乗の禁止)・移乗補助機器(スライディングボード・リフト等)の導入が推奨されている。
【試験での位置づけ】
腰痛予防対策指針から出題される問題は「重量物の重量目安の数値(男性40%・女性はその60%)」「正しい持ち上げ姿勢(膝を曲げて体に近づける)」「腰痛に心理的要因が関係する(Yes)」の3点が最頻出です。アのように「50%」という誤った数値、またはイのように「心理的要因は無関係」という誤りは典型的な引っかけパターンです。数値は「男性40%・女性はその60%」のセットで覚えることが重要で、「60%」が女性の体重比ではなく「男性目安の60%」であることに注意が必要です(女性の体重が60kgなら女性の目安は40%×0.6=体重の24%相当)。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 「50%と40%」の数値混同は最も多い誤りです。40%という数値の根拠は、職業保健の研究において腰椎への安全な圧縮力限界から導出されており、体重の40%を超える重量物を繰り返し取り扱う場合に腰椎障害リスクが有意に上昇するとされています。
- イ: 心理的要因(仕事のコントロール感・職場の人間関係・仕事満足度)は腰痛の遷延化(慢性腰痛化)に特に大きく関与します。急性腰痛の慢性化予防には身体的治療と並んで心理的アプローチ(認知行動療法的アプローチ)が重要とされています。
- ウ: 「前屈してものを拾う」動作は日常的に行われますが、重量物を頻繁に取り扱う作業では膝を使ったスクワット式の持ち上げが必須です。日本の職場では介護・看護職員の腰痛が深刻な問題となっており、ノーリフト原則と補助機器の導入が進んでいます。
- エ: 男性40%・女性60%の目安は「継続的・反復的な取扱い」が前提です。稀に行う重作業や瞬間的な最大努力は別途評価します。また個々の労働者の体力・年齢・健康状態によって実際の限界値は異なります。
- オ: 腰痛予防のための職場体操は、腰痛経験のない労働者に対しても「予防的ストレッチ・体幹筋強化」として科学的根拠が認められています。毎日5〜10分の腰部ストレッチを継続することで、腰痛の発生率を統計的に有意に下げられることが複数のRCT(ランダム化比較試験)で示されています。
【根拠】厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月18日基発0618第1号)。重量物の重量目安・作業姿勢・心理的要因の取扱いはすべて同指針に準拠。
【補足】男性40%以下・女性はその60%以下(=男性目安の60%相当)。前屈禁止・膝を曲げて体に近づけて持ち上げる。心理的要因も重要な腰痛リスク要因。職場体操は予防にも有効。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月18日改訂)。重量物の重量目安は指針別表第1に規定。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。