衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問52:メンタルヘルス・健康保持増進
メンタルヘルス疾患による休業労働者の職場復帰支援に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、職場復帰の支援プロセスを「主治医による職場復帰可能の判断」「就業上の配慮を行いながら段階的な職場復帰」等の複数のステップで構成しており、職場復帰の最終決定は事業者(使用者)が行う。
- イ職場復帰を判断する際の「職場復帰可能」という医師の診断は、「通常業務に完全に対応できる状態」を意味するのではなく、「職場復帰後の就業上の配慮を前提として職場復帰が可能な状態」を意味する。
- ウ職場復帰支援においては、産業医は主治医と情報共有を行い、職場復帰の可否・就業上の配慮に関する意見を事業者に対して述べる役割を担うが、労働者本人の同意なく主治医の診断書の内容を事業者に詳しく開示することはできない。
- エ職場復帰後の「リワーク支援(職場復帰支援プログラム)」は、復帰後の再発を防ぐために事業場が義務として実施しなければならないと法令で規定されており、50人以上の事業場では必ず導入することが求められている。正答
- オ職場復帰支援において、「試し出勤制度(リハビリ勤務)」を実施する場合、試し出勤中の安全配慮義務は事業者が負い、万が一試し出勤中に体調が悪化した場合の対応についても事業者が責任を持つ必要がある。
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誤りはエです。リワーク支援(職場復帰支援プログラム)は事業者が義務として実施しなければならない法令上の義務ではなく、事業者が自主的に取り組むことが推奨されるもの(努力義務的な位置づけ)です。「50人以上の事業場では必ず導入することが求められている」という表現は誤りです。
ストレスチェック(50人以上で実施義務)と混同させる典型的な引っかけです。職場復帰支援の手引きは「指針・推奨」であり、法令で義務化されているわけではありません。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 職場復帰支援の手引きでは5つのステップを示しており、最終的な職場復帰の可否の判断は事業者(使用者)が行います。主治医の「職場復帰可能」という判断は重要な情報ですが、最終決定権は事業者にあります。産業医・事業場の判断が加わって総合的に職場復帰が決定されます。
- イ(正): 「職場復帰可能」という診断は、「完全に元通りに戻った」ことを意味しない点が重要です。実際には「就業上の配慮(残業制限・業務の簡易化・定期的な面談等)を前提として、段階的に職場復帰する準備ができた状態」を指します。この認識がないと、復帰直後に無理な業務負荷をかけて再発を招くリスクがあります。
- ウ(正): 産業医・保健師が主治医から情報を得て活用する場合、労働者本人の同意が必要です(個人情報保護・守秘義務)。診断書の内容は労働者個人の医療情報(要配慮個人情報)であり、同意なく事業者に詳細を開示することは適切でありません。産業医は最小限の情報を得て就業上の意見を述べることが求められます。
- エ(誤): リワーク支援(職場復帰支援プログラム)は、法令上の義務ではなく、事業者が自主的に実施することが望ましいとされる支援活動です。50人以上の事業場に義務があるのはストレスチェックの実施(安衛法第66条の10)であり、リワーク支援とは別の制度です。「50人以上で必ず導入」は誤りです。
- オ(正): 試し出勤(リハビリ勤務・慣らし勤務)中であっても、労働者が事業場に出勤している以上、事業者は安全配慮義務(労働契約法第5条)を負います。試し出勤中に体調が悪化した場合の緊急連絡体制・受診勧奨・帰宅措置等についても事業者が責任を持って対応する必要があります。
【理論的背景】
メンタルヘルス疾患(うつ病・適応障害・双極性障害等)による休業者の職場復帰は、単に「医師が復帰可能と判断した」だけでは成功しません。職場環境・業務内容・上司・同僚との関係・本人の自己管理能力等の複合的な要因が複帰の成否を左右します。再発率が高く(うつ病の再発率は50〜80%とされる)、支援なしの職場復帰は再発・再休業を招くリスクが高いため、体系的な職場復帰支援プログラムが重要とされています。
【実務・条文構造】
職場復帰支援の5ステップ(厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」):
第1ステップ: 病気休業開始および休業中のケア
- 主治医への診断書(病気休業診断書)の提出
- 事業者から休業者へ安心して療養に専念できることを伝える
- 休業中の連絡手段・頻度の取り決め
- 休業中に会社が行うケアの確認
第2ステップ: 主治医による職場復帰可能の判断
- 主治医が「職場復帰可能」の意見を診断書等で示す
- この段階での「職場復帰可能」は段階的な職場復帰を前提とした判断
- 必要に応じて産業医が情報収集・補足
第3ステップ: 職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成
- 事業者が産業医・主治医の意見等を基に職場復帰の可否を判断
- 職場復帰後の就業上の配慮(業務内容・業務量・残業制限・出張制限等)を含む職場復帰支援プランの作成
- 労働者・上司・人事・産業医・保健師等が連携してプランを策定
第4ステップ: 最終的な職場復帰の決定
- 事業者による最終判断(主治医・産業医の意見を参考に)
- 就業上の配慮の具体化・期間の設定
- 関係者(労働者・上司・同僚・人事)への情報提供(最小限・労働者の同意の上)
第5ステップ: 職場復帰後のフォローアップ
- 定期的な面談(産業医・保健師・上司等)による状態確認
- 就業上の配慮の内容の見直し・調整
- 再発徴候の早期発見・早期対応
- 職場環境の問題(ハラスメント・業務過多等)への対処
リワーク(Return to Work)プログラムについて:
- 事業場でのリワーク支援(試し出勤・慣らし勤務)
- 医療機関・障害者職業センター等でのリワークプログラム(集団療法・作業療法・職場復帰に向けたトレーニング)
- これらは法令義務ではなく、事業場・医療機関が自主的に取り組む支援活動
【試験での位置づけ】
職場復帰支援の問題では「5ステップの流れ(休業→主治医判断→産業医・事業者の判断→プラン作成→復帰→フォロー)」「職場復帰の最終決定は事業者(主治医ではない)」「職場復帰可能の意見は完全回復ではなく配慮前提」「リワーク支援は義務ではない(努力義務的位置づけ)」が頻出です。エのように「リワーク支援が50人以上事業場で義務」とする選択肢は、ストレスチェック制度(50人以上で義務)との混同を狙った典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 職場復帰の最終決定が「事業者」にある理由は、労働契約上の「使用者の権限(就労場所・業務内容の決定権)」に基づくものです。医師は医学的意見を提供しますが、復帰後の業務内容・就業条件の決定は事業者の権限です。ただし事業者が医師の意見を恣意的に無視することは、安全配慮義務違反につながる可能性があります。
- イ: 「段階的な職場復帰」の例として、最初は週3日・午前のみ出勤→1か月後に週4日・午前〜午後3時出勤→2か月後に週5日・定時までという段階的な勤務時間の延長が行われます。この間、業務内容も簡易なものから徐々に元の業務量・難易度に戻していくことが推奨されます。
- ウ: 産業医と主治医の情報共有において、「産業医が直接主治医に連絡する」ことは労働者の同意が前提です。実務では「産業医への情報提供に関する同意書」を労働者に署名・提出してもらい、その上で主治医と産業医が連携する形が望ましいとされています。
- エ: リワークプログラムを提供している機関の種類: ①医療機関(精神科・心療内科)でのデイケア型リワーク②地域障害者職業センターでの職場復帰支援(リワーク)③事業場内リワーク(慣らし出勤・試し出勤)。これらはいずれも任意・自主的な取組みであり、法令義務ではありません。
- オ: 試し出勤中の安全配慮義務に関する裁判例では、試し出勤中でも労働者が事業場に在籍し事業者の指揮下にある場合、労災保険の適用や安全配慮義務が問われた事例があります。試し出勤中の位置づけ(労働か否か)・賃金支払の有無については、各事業場の就業規則・制度設計によって異なり、事前の取り決めが重要です。
【根拠】厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(令和4年3月改訂)・労働安全衛生法第66条の10(ストレスチェック)・労働契約法第5条(安全配慮義務)。
【補足】職場復帰支援の5ステップ: 休業→主治医判断→事業者判断・プラン作成→最終決定→復帰後フォロー。最終決定は事業者。リワーク支援は義務ではない(ストレスチェック50人義務と混同しない)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(令和4年3月改訂)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。