衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問79:温熱環境・作業環境測定
職場での熱中症発症者への応急処置に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア意識が清明(はっきりしている)な軽症の熱中症患者に対して、水分・塩分の補給を促す際には、水分補給として冷たい水道水のみを大量(2L以上)に素早く飲ませることが最も効果的な応急処置である。
- イ熱中症で体温が高く意識が混濁している(呼びかけに応じない等)重症患者の場合は、急激な体温低下による合併症を避けるため現場での積極的な冷却は行わず、毛布で保温しながら救急車の到着を待つことが最優先である。
- ウ熱中症発症者が意識障害(呼びかけに反応しない状態)になった場合でも、口から水分補給を試みることで急速に回復する場合があるため、スプーン等を使って少量ずつ口に水を流し込む方法が推奨されている。
- エ熱中症患者の冷却では、冷却した皮膚の血管が収縮して体内の熱が拡散しにくくなるため、全身冷却よりも「風通しの良い涼しい場所に移動して休ませるだけ」の方が冷却効率が高い。
- オ熱中症発症者を発見した場合、まず涼しい環境(エアコンの効いた室内・日陰等)へ移動させ、衣服を緩めてネクタイ・ベルト等を外し、体を冷やしながら意識状態・呼吸・脈拍を確認し、必要に応じて119番通報を行う。正答
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正しいのはオです。熱中症発症者を発見した場合の応急処置の基本は「①涼しい環境へ移動→②衣服を緩める→③体を冷やす(首・腋窩・鼠径部の冷却等)→④意識・呼吸・脈拍の確認→⑤意識がある場合は水分・塩分補給→⑥必要に応じて119番通報」という手順です。
各誤りの要点: ア→水のみ大量補給は低ナトリウム血症リスク(水+塩分が必要)。イ→重症熱中症ではむしろ現場での積極的冷却(冷水浸漬・冷却パック等)が最優先であり「保温して待つ」は誤り。ウ→意識障害のある患者への経口水分補給は誤嚥・窒息の危険がある(禁忌)。エ→積極的な冷却(冷水浸漬・冷却パック等)は有効であり「休ませるだけ」より冷却効率が高い。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 水分補給は重要ですが「冷水のみ大量に(2L以上)素早く」は誤りです。大量の水分のみを急速に補給すると希釈性低ナトリウム血症(低塩分血症)を引き起こし症状が悪化します。正しくは「スポーツドリンク・経口補水液・0.1〜0.2%食塩水等で水分と塩分を同時に補給」し、意識障害がある場合は経口補給そのものが危険(後述)です。
- イ(誤): 重症熱中症(意識障害・体温40℃以上)では、現場での積極的な冷却(冷水浸漬・氷嚢を頸部・腋窩・鼠径部に当てる・スプレーと扇風機の組み合わせ)が体温を下げる最重要処置であり、救急搬送の手配と並行して処置を中断せずに行います。「積極的冷却を行わず保温して待つ」は誤りで、冷却の遅れは多臓器不全・死亡リスクを高めます。重症熱中症で問題となるのは冷却のしすぎではなく冷却の遅れです。
- ウ(誤): 意識障害(呼びかけに反応しない状態)の患者への経口水分補給は誤嚥・窒息の危険があるため禁忌です。意識のない患者に口から液体を流し込む行為は気道に液体が入り窒息・誤嚥性肺炎を引き起こします。救急搬送を待ち、輸液(点滴)による水分補給が必要です。
- エ(誤): 積極的な冷却(体を直接冷やす)が最も効果的です。「涼しい場所に移動して休ませるだけ」では、体温が40℃以上に上昇している重症熱中症には対応できません。冷却パック・氷嚢・冷水による冷却が体温低下に有効です。
- オ(正): 熱中症応急処置の正しい手順を正確に記述しています。「涼しい環境への移動→衣服を緩める→体の冷却→意識・呼吸・脈拍の確認→意識ある場合は水分・塩分補給→必要に応じて119番」は確立した応急処置の手順です。
【理論的背景】
熱中症の重症度に応じた応急処置の選択は、傷病者の生命を救うための最重要判断です。特に「意識障害の有無」が応急処置の分岐点となり、意識障害ありの場合(Ⅲ度熱中症・熱射病)では現場での積極的冷却と救急搬送が最優先となります。
熱中症の重症度と応急処置の分岐:
| 重症度 | 主な症状 | 意識 | 最優先処置 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ度(軽症) | めまい・筋肉痛・失神(一過性)・大量発汗 | 清明 | 涼しい環境へ移動・水分塩分補給・休息 |
| Ⅱ度(中等症) | 頭痛・嘔吐・倦怠感・虚脱感 | 清明〜やや低下 | 医療機関搬送・点滴等の医療処置 |
| Ⅲ度(重症・熱射病) | 意識障害・体温40℃超・多臓器不全 | 障害あり | 積極的冷却 + 直ちに救急搬送 |
「意識障害ある場合の経口補給禁忌」のメカニズム:
意識障害がある場合、嚥下(飲み込み)反射・咳反射が低下または消失しています。このため口から液体を流し込むと「気管」に液体が入り(誤嚥)、急性窒息または誤嚥性肺炎を引き起こします。これは熱中症の悪化よりも即座の生命リスクになる可能性があるため、「意識障害あり→経口補給禁止→救急搬送待ち→輸液(点滴)」という判断が重要です。
【実務・条文構造】
熱中症応急処置の標準的な手順(現場対応フロー):
Step 1: 環境移動
- 日射・熱源から離れた涼しい場所(エアコン室・日陰)へ移動
- 移動困難な場合は現場でのシェード・冷却設備の確保
Step 2: 衣服の処置
- ネクタイ・ベルト・ボタン等を外して身体の締め付けを解除
- 作業服・防護服等の熱がこもりやすい衣服の脱衣(可能な範囲で)
Step 3: 冷却
- 氷嚢・保冷剤を首(頸部)・腋窩(わきの下)・鼠径部(大腿内側)の太い血管が通る部位に当てる
- 濡れタオルや冷水スプレー + 扇風機の組み合わせで全身を冷やす
- 可能なら冷水浴(バケツ・ビニールシートを使った冷水浴)
Step 4: 意識・状態の確認
- 意識があるか確認(声かけ・肩を叩く)
- 呼吸・脈拍の確認
Step 5: 水分・塩分補給(意識がある場合のみ)
- スポーツドリンク・経口補水液・0.1〜0.2%食塩水等で水分と塩分を同時補給
- 一度に大量ではなく少量ずつこまめに
- 意識障害あり・嘔吐がある場合は経口補給しない(誤嚥リスク)
Step 6: 119番通報の判断
- 重症Ⅲ度(意識障害・体温40℃超): 直ちに119番通報して救急搬送手配
- 中等症Ⅱ度(自力で水分補給できない・改善ない): 医療機関搬送
- 軽症Ⅰ度: 応急処置後に改善するか観察・改善なければ医療機関受診
【試験での位置づけ】
熱中症応急処置の問題では「意識障害ありの場合は経口補給禁忌」「冷却は積極的に行う(頸部・腋窩・鼠径部)」「水分補給は水のみでなく塩分も必要」「正しい処置の手順(環境移動→冷却→水分塩分補給→状態確認→必要に応じ搬送)」が頻出事項です。ウのような「意識障害があっても口から水を流し込む」という誤りは、誤嚥・窒息という即死リスクをもたらす危険な行為を肯定しており、典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: スポーツドリンクの塩分濃度(0.1〜0.2%相当)は、汗で失われる塩分を補給するのに適しています。経口補水液(ORS)はスポーツドリンクより塩分・電解質濃度が高く、脱水が激しい場合により有効です。自作する場合は水1Lに食塩3g・砂糖30〜40gを溶かした「簡易経口補水液」が参考値として知られています。
- イ(誤りの補足): 重症熱中症(Ⅲ度)では、保温して待つのではなく積極的冷却で体温を下げることが最優先です。冷水浸漬(Ice Water Immersion: IWI)は現在最も効果的な冷却法として認められており、マラソン大会・スポーツイベントでの熱中症対応に普及しています。職場での緊急対応としては氷嚢・冷水スプレー+扇風機が現実的な手段です。冷却と救急搬送手配は並行して行い、搬送中も冷却を継続します。
- ウ: 意識障害のある傷病者への「スプーンで少量ずつ」という行為も禁忌です。意識障害があれば嚥下・咳反射が低下しており、「少量」でも誤嚥が生じる可能性があります。善意の行為が呼吸困難・窒息という致命的な合併症を引き起こすことは医療現場で繰り返し教育される重要な警告事項です。
- オ: 119番通報のタイミングは「重症Ⅲ度を疑ったら直ちに」が基本です。「少し様子を見てから」という判断は、体温上昇が続く重症熱中症では致命的な遅延につながります。軽症か重症かの判断に迷う場合は早めに119番通報することが推奨されます。
【根拠】医学的事実(確立した救急医学)・厚生労働省「職場における熱中症の予防について(基発0620第3号)」準拠。
【補足】意識障害ありの熱中症患者への経口水分補給は誤嚥リスクのため禁忌。正しい手順: 涼しい環境移動→冷却→意識確認→(意識ある場合のみ)水分塩分補給→必要に応じ119番。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した救急医学)・厚生労働省「職場における熱中症の予防について(基発通達)」。熱中症発症者への応急処置の基本的な手順(環境移動→冷却→水分補給→状態確認→必要に応じ救急搬送)は確立した医学的知見。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。