衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問85:食中毒・感染症
職場での感染症と就業管理に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アHIV感染者(エイズウイルス保有者)は、日常的な職場での接触(握手・同じ机での作業・共用のトイレ等)によってHIVが感染することはなく、HIV感染を理由とした就業制限・解雇は合理的根拠のない差別として法的にも問題となる。
- イ結核は飛沫核感染(空気感染)によって伝播する感染症であり、活動性結核(排菌している状態)の患者が職場での業務に従事する場合、周囲の労働者への感染リスクがあるため適切な就業管理が必要である。
- ウインフルエンザに罹患した労働者については、感染症法・学校保健安全法等に基づいて、発症翌日から5日間かつ解熱後2日間が経過するまでは出勤を禁止しなければならず、事業者はこれを無給欠勤扱いにしてはならない。正答
- エ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止措置として、陽性確定者・濃厚接触者の就業制限が事業者に求められた時期があり、これは感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づく措置として実施された。
- オ結核の早期発見のために、健康診断でのツベルクリン反応・インターフェロンγ遊離試験(IGRA)・胸部X線検査が活用されており、結核患者の発見・治療開始が周囲への感染拡大防止に重要である。
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誤りはウです。「発症翌日から5日間かつ解熱後2日間が経過するまで出勤禁止」という基準は、学校保健安全法に基づく学校(幼稚園〜高等学校)での出席停止基準です。一般の職場(企業・工場等)に対して法令上同じ期間の就業禁止を義務付ける規定はなく、職場での就業制限は就業規則・内規・労働者との合意等に基づいて判断されます。また「無給欠勤扱いにしてはならない」という義務規定も感染症法・労基法等には明示的に設けられていません。
ア・イ・エ・オはすべて正しい内容です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): HIVは血液・体液(精液・腟分泌液・母乳等)を介した感染経路を持ち、日常的な接触(握手・会話・共用トイレ等)では感染しません。HIV感染を理由とした就業制限・採用拒否・解雇は、医学的根拠のない差別として労働基準法・障害者差別解消法等により問題となります。
- イ(正): 結核(Mycobacterium tuberculosis)は排菌患者の咳・くしゃみによる飛沫核(飛沫が乾燥した超微小粒子)による空気感染によって伝播します。活動性結核の確定診断後は、適切な抗結核療法による排菌停止と、職場での集団感染防止措置(接触者検診・就業調整)が必要です。
- ウ(誤): 「発症翌日から5日間かつ解熱後2日間」という期間は学校保健安全法第19条に基づく学校での出席停止基準(幼児・小中高生対象)です。一般の職場への法的義務規定ではなく、また欠勤を「無給扱いにしてはならない」という法令上の明示的規定もありません(有給休暇との関係は別途の労使間合意による)。
- エ(正): COVID-19対応として、感染症法に基づく就業禁止(陽性者への外出自粛要請・就業制限)が実施されました(特に2020〜2023年の法的対応期間)。現在は感染症法上の位置づけが変化していますが、感染症法が就業管理の根拠となった点は正しい記述です。
- オ(正): IGRAテスト(クォンティフェロン等)は従来のツベルクリン反応より特異性が高く、BCG接種既往の影響を受けにくい検査として職業性感染(医療従事者等)の定期検査に活用されています。
【理論的背景】
職場における感染症就業管理は、「個人の就労権・プライバシーの尊重」と「周囲の労働者・顧客への感染拡大防止」のバランスをとる必要があります。感染症法・労働安全衛生法・学校保健安全法の3法律が異なる適用対象・義務規定を持っており、混同しないことが重要です。
学校保健安全法(学校向け)と職場(一般事業場)の就業制限の違い:
| 項目 | 学校保健安全法 | 一般職場 |
|---|---|---|
| 対象 | 幼稚園〜高等学校(一部大学) | 企業・工場・医療機関等 |
| インフルエンザ | 発症翌日から5日間かつ解熱後2日間(幼児は3日間) | 法定義務なし(就業規則・内規等による) |
| 法的性格 | 法令による義務(出席停止命令) | 任意・就業規則等による |
職場でのインフルエンザ対応の実務:
法的義務はないが多くの企業では就業規則・感染症対策規程で「インフルエンザ等の感染症にかかった場合の出社禁止期間」を定めています(「症状消失後48時間は出社禁止」等)。この期間の休業は有給休暇充当・会社都合の有給措置・欠勤扱い等、企業によって異なります。
HIV就業管理の原則(厚生労働省指針):
- HIV感染・エイズは「職場での通常の就業を制限すべき疾患」ではない
- HIV感染を理由とした採用拒否・解雇・降格は合理的な理由のない差別
- ただし医療従事者(手術を行う外科医等)については、患者への感染防止の観点から特別な検討が必要な場合がある
【実務・条文構造】
主要感染症の職場管理の根拠法令と実務対応:
| 感染症 | 根拠法令 | 職場での就業制限 |
|---|---|---|
| 結核(活動性・排菌) | 感染症法第18条(就業制限) | 排菌停止まで就業制限(法的義務) |
| インフルエンザ | 職場には法定義務なし(学校のみ) | 就業規則等による(任意・推奨) |
| 新型コロナウイルス | 感染症法(対策期間中) | 状況に応じた就業制限(対策期間中) |
| HIV/エイズ | 差別禁止(合理的理由なし) | 就業制限は原則不可(医療職は別検討) |
| 腸チフス・赤痢等 | 感染症法・食品衛生法(食品取扱者) | 排菌停止まで就業制限(法的義務) |
感染症法に基づく就業制限(感染症法第18条):
- 対象: 1〜3類感染症(コレラ・腸チフス・細菌性赤痢・結核等の法定感染症)の患者
- 内容: 都道府県知事が就業を禁止できる(強制力あり)
【試験での位置づけ】
感染症と就業管理の問題では「インフルエンザの5日間・解熱後2日間は学校保健安全法の基準(職場への法定義務はない)」「HIV感染を理由とした就業制限は差別」「結核の空気感染と排菌停止まで就業制限」「感染症法に基づく就業制限の仕組み」が頻出事項です。ウのような「職場でも法令上の義務がある」という誤りは、学校向け規定を職場に誤適用した典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: HIVに関する職場差別の問題は、HIV感染が判明すると解雇・配置転換を強要されたという事例が報告されており、厚生労働省は「HIV感染者・エイズ患者の雇用管理に関する対策指針(指針)」を発出しています。HIV感染者が職場で差別を受けないようにするための啓発教育が事業者に求められます。
- イ: 職場での結核接触者調査(クラスター対策)は、確定患者の隣席者・同室者・食事を共にした者等を優先的に検診します。IGRA(インターフェロンγ遊離試験)による潜在性結核感染症(LTBI)の診断と、必要に応じた予防的治療(抗結核薬の予防投与)が医療機関と連携して行われます。
- ウ: 職場でのインフルエンザ感染予防として、インフルエンザワクチンの接種推奨・職場での飛沫感染対策(マスク・換気・手洗い)・感染者の早期在宅療養(出社しない文化の醸成)が重要です。法的義務はなくても、感染拡大を防ぐための「出社禁止の文化・制度」を職場に根付かせることが産業保健スタッフの役割です。
- エ: COVID-19の感染症法上の位置づけは2023年5月に2類相当から5類感染症(季節性インフルエンザと同等)に変更されました。これにより就業制限の法的義務は解除されましたが、感染予防対策(マスク・換気・手洗い)の継続や罹患時の自主的な療養は推奨されています。
- オ: ツベルクリン反応は感度が高いですが特異性が低い(BCG接種者で偽陽性になる)という問題があります。IGRAはBCG接種の影響を受けないため、BCG接種が一般的な日本でも結核感染の鑑別に有用です。医療従事者・HIV感染者・免疫抑制状態の患者等の定期的なIGRA検査が推奨されています。
【根拠法令】感染症法・学校保健安全法第19条(出席停止)・労働安全衛生法。
【補足】インフルエンザの「発症翌日から5日間・解熱後2日間」は学校保健安全法の学校向け基準(職場への法定義務でない)。HIV就業制限は合理的理由のない差別。結核排菌状態は感染症法に基づく就業制限対象。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 感染症法・学校保健安全法・労働基準法。インフルエンザの「発症翌日から5日間かつ解熱後2日間」という出席停止基準は学校保健安全法の規定(学校内の子供向け)であり、一般の職場への義務的適用規定ではない。また「無給扱い禁止」は感染症法・労基法には明示的に規定されていない。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。