衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問26:局所排気装置・保護具
防毒マスクおよび吸収缶に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア防毒マスクは、活性炭等の吸収剤によりガスや蒸気状の有害物質を吸着・除去する保護具であり、吸収缶の選定は対象とする有害物質の種類(塩素・有機ガス・アンモニア等)に合わせて行う必要がある。
- イ防毒マスクは吸収缶に含まれる吸収剤が有害物質を吸着する仕組みであるため、使用するにつれて吸収剤の吸着能力が低下し、最終的には有害物質が吸収缶を通過してしまう(「破過」)。破過前に吸収缶を交換する適切な管理が必要である。
- ウ一酸化炭素(CO)は無臭・無味のガスであり、防毒マスクの有機ガス用吸収缶(活性炭主体)を使用すれば、一酸化炭素に対しても十分な防護効果が得られる。正答
- エ防毒マスクの顔面への密着性(フィット)が不十分な場合、有害物質がマスクの縁から漏れ込み、吸収缶の種類・性能とは無関係に有害物質の吸入が生じる可能性がある。
- オ防毒マスクの吸収缶には有効使用時間(吸収能が維持される限界時間)があり、この時間は有害物質の種類・濃度・使用者の呼吸量・気温・湿度等によって変わるため、吸収缶の管理では破過時間の推算または定期交換が重要である。
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誤りはウです。一酸化炭素(CO)は活性炭主体の有機ガス用吸収缶では防護できません。COは活性炭への吸着性がほとんどないため、有機ガス用吸収缶を使ってもCOは素通りします。一酸化炭素に対応できる吸収缶はCO専用の触媒式吸収缶(ホプカライト等の酸化触媒でCOをCO₂に変換する)です。また無臭のCOは吸収缶が「破過」しても臭いで気づけないため、特に危険なガスです。
ア(吸収缶の種類と対象ガス)・イ(破過の概念)・エ(フィット不良による漏れ)・オ(有効使用時間の管理)はすべて正しい内容です。
防毒マスクの吸収缶の種類と対象ガスの整理:
| 吸収缶の種類 | 吸収剤の種類 | 主な対象ガス・蒸気 |
|---|---|---|
| 有機ガス用 | 活性炭 | 有機溶剤蒸気(トルエン・キシレン・酢酸エチル等) |
| 一酸化炭素用 | 触媒(ホプカライト等) | CO(活性炭では吸収不可) |
| ハロゲンガス用 | 活性炭+特定の化学吸収剤 | 塩素(Cl₂)・フッ化水素・臭素 |
| 亜硫酸ガス用 | 特定の化学吸収剤 | SO₂・H₂S |
| アンモニア用 | 酸性吸着剤 | NH₃ |
| 酸性ガス用 | アルカリ性吸着剤 | SO₂・H₂S・Cl₂等の酸性ガス(複合) |
| 防じん防毒兼用 | 吸収缶+フィルター層 | ガス・蒸気+粒子(兼用) |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 吸収缶の選定は対象ガスへの吸着・吸収能力を基に行います。誤った吸収缶は防護能なし(非常に危険)。
- イ(正): 破過(breakthrough)は吸収剤の吸着容量が飽和した際に有害物質が突破する現象。適切な交換管理・破過時間の推算が重要。
- ウ(誤): 有機ガス用吸収缶(活性炭)はCOを吸着できません。CO専用吸収缶(ホプカライト:MnO₂-CuO触媒)が必要。「有機ガス用吸収缶でCOも防護できる」は危険な誤りです。
- エ(正): フィットテスト(密着性確認)は保護具の有効性を担保するために重要。顔の形・あご鬚・傷跡等により密着が不十分になりやすい。
- オ(正): 有効使用時間(破過時間)の推算: 吸収剤量・ガスの種類・濃度・流量(呼吸量)・温度・湿度等から計算または経験的に判断。一般に高濃度・高温・高湿度・高流量で破過時間は短くなる。
【理論的背景】
防毒マスクの吸収缶は「物理吸着(主に活性炭)」または「化学反応(触媒・化学吸収剤)」のいずれかの機序で有害ガス・蒸気を除去します。一酸化炭素(CO)が特別な扱いを要するのは、COが物理吸着しにくい分子特性(非極性の小分子・沸点が低く活性炭との相互作用が弱い)を持つためです。
COが活性炭で吸着されにくい理由:
- CO分子は非極性で小さい(分子量28)→活性炭表面との物理的吸着力が弱い
- 沸点が-191℃と非常に低い→常温では気体として活性炭細孔を素通りする傾向
- 通常の有機溶剤(トルエン等、分子量92・沸点111℃)は活性炭細孔に良好に吸着
ホプカライト(CO専用触媒)の作用機序:
- ホプカライト: MnO₂(二酸化マンガン)とCuO(酸化銅)の混合酸化物触媒
- CO + 1/2 O₂ → CO₂(COを二酸化炭素に酸化)
- この触媒反応は室温でも進行するため、COを無害なCO₂に変換して「除去」する
- ただし高湿度(湿度が高い環境)ではホプカライトの触媒活性が低下するため、水分保護ケースが必要
【実務・条文構造】
防毒マスクの管理体制(安衛則第593条等):
選定の原則:
- 対象有害物質に適合した吸収缶を必ず選定(SDSシートの「ばく露防止及び保護措置」欄を確認)
- 吸収缶の色別コード(旧JIS T8152): 有機ガス用(黒)・ハロゲンガス用(灰・白)・亜硫酸ガス用(黄)・アンモニア用(緑)・CO用(赤)等
吸収缶の有効使用時間(破過時間)の管理:
- 定量的推算: メーカー提供の破過時間計算式・試験データ(試験濃度・流量での破過時間)から使用条件での補正計算
- 感覚的指標: 臭いがある物質(有機溶剤等)は「臭いが感じ始めたら交換」。ただしCO(無臭)・HCN(感受性個人差大)等は臭いによる判断が困難→時間管理が不可欠
- 実用的ルール: 使用開始時に記録・推定破過時間の80%程度で予防交換(安全マージン確保)
- 保管: 密封(ポリ袋等)で有害ガス・湿度・光から保護
密着性(フィット)の確認(日本でも推奨・一部業務で義務化方向):
- 定性的フィットテスト(Qualitative Fit Test・QLFT): 臭い・甘み等の試験物質をマスク装着状態で使用者が感知できるかを確認
- 定量的フィットテスト(Quantitative Fit Test・QNFT): 機器(PortaCount等)を用いて顔面とマスクの隙間から侵入する粒子量を測定し、Fit Factor(FF)を算出
- あご鬚・傷跡・顔の形等でフィットが得られない場合: 顔面密着に依存しない電動ファン付き保護具(PAPR)への切り替えを検討
【試験での位置づけ】
防毒マスク問題の最頻出は「CO専用吸収缶(ホプカライト・触媒式)が必要(活性炭では防護不可)」「吸収缶の種類ごとの対象ガス(有機ガス用の活性炭・アンモニア用の酸性吸着剤・CO用の触媒)」「破過の概念と破過前交換の重要性」「酸欠環境では防毒マスク使用禁止(給気式が必要)」の4点です。ウのような「有機ガス用吸収缶でCOも防護できる」という誤りは、COの特殊性(活性炭非吸着・無臭)を無視した典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 吸収缶の選定ミスは重大な健康被害につながります。実例として、有機ガス用吸収缶でシアン化水素(HCN)曝露作業を行った場合、活性炭はHCNをある程度吸収しますが吸着能が弱く、短時間で破過する恐れがあります(HCNには専用のシアン化水素用吸収缶が必要)。SDSシートでの確認が必須です。
- イ: 破過時間は一般に「吸収缶の容量(吸収剤の量・細孔容積)」と「ガスの種類・濃度・流量・温度・湿度」から決まります。有機溶剤の場合、高分子量・高沸点の物質ほど活性炭への吸着が強く破過時間が長くなる傾向があります(低分子量・低沸点の溶剤は早く破過)。
- ウ: COの特殊性(無臭・活性炭非吸着)は試験での最重要知識です。CO中毒では「気づいたときには意識を失っている」という危険があります。CO専用吸収缶(ホプカライト)でも高濃度・高湿度環境では有効使用時間が短くなるため、高濃度CO環境では送気マスク・空気呼吸器が最も安全です。
- エ: 電動ファン付き保護具(PAPR)はフィット(顔への密着性)への依存が小さい(陽圧タイプでは密着不良でも漏れリスクが低減)ため、あご鬚・特殊顔形状等でフィットが困難な作業者に有効です。また重量が重いマスクを長時間装着することへの負担を軽減できる点もPAPRの利点です。
- オ: 高湿度環境でのCO専用吸収缶(ホプカライト)の性能低下は実用上の重要な課題です。ホプカライトは湿度が高い環境(汗をかく作業・雨天屋外作業等)では触媒活性が著しく低下します。このような環境では送気マスクまたは空気呼吸器への切り替えが必要です。
【根拠】医学的事実(確立した労働衛生工学)。COは活性炭で吸着できず専用触媒(ホプカライト)が必要・破過の機序・吸収缶の種類と対象ガスの対応は安衛則第593条・JIS T8152等に準拠。
【補足】ウ(誤): COは活性炭では防護不可→CO専用触媒吸収缶(ホプカライト)が必要。COは無臭なので破過を感知できない(特に危険)。有機ガス用=活性炭→有機溶剤蒸気に有効(COには効果なし)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した労働衛生工学)。一酸化炭素(CO)は活性炭では吸収されず、CO専用吸収缶(触媒式)が必要。防毒マスクの選択・管理は安衛則第593条等に準拠。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。