衛生管理者 関係法令(有害業務) 問55:労働安全衛生法(有害業務の就業制限)・労働基準法(深夜業・時間外労働)
有害業務と労働時間の規制に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア労働安全衛生法が定める有害業務(高圧室内作業・放射線業務等)に従事する労働者については、労働基準法第36条の時間外・休日労働協定(36協定)を締結すれば、当該業務での時間外労働に上限なく就業させることができる。
- イ坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上有害な業務に従事する女性は、労働基準法第64条の2の規定により、当該業務への就業が原則として禁止されているが、本人の同意があれば例外的に就業させることができる。
- ウ満18歳未満の年少者については、危険有害業務への就業制限(労働基準法第62条)に加え、坑内労働(同法第63条)が原則禁止とされており、36協定があっても坑内での時間外労働を命じることはできない。正答
- エ有機溶剤中毒予防規則が定める有機溶剤業務(第1種・第2種)では、1日8時間を超える時間外労働を行う場合でも、事業者は36協定さえ締結すれば特段の安全衛生措置を追加する義務はない。
- オ深夜業(午後10時から午前5時までの業務)に従事する労働者のうち、有害業務(安衛則第13条第1項第3号に掲げる業務)に従事する者については、6か月以内ごとに1回の健康診断(深夜業を含む特定業務従事者の健康診断)を実施しなければならない。
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正しいのはウです。満18歳未満の年少者は、労働基準法第63条により坑内労働が原則禁止されており、この禁止は36協定(時間外・休日労働協定)があっても解除されません。年少者保護規定(坑内労働禁止・危険有害業務制限)は強行規定であり、労使合意では覆すことができません。
他の誤りの要点: ア→高圧則・電離則等の安全衛生法令が定める最大作業時間の制限は、36協定があっても適用されます。イ→女性の有害業務制限は「本人同意」があっても覆せません(絶対的禁止)。エ→有機溶剤業務での長時間労働は局所排気の稼働時間・作業環境測定の評価に影響するため追加措置が求められます。
有害業務・就業制限と労働時間法制の関係:
| 規制の種類 | 根拠法 | 36協定による解除の可否 | 代表的な規定 |
|---|---|---|---|
| 年少者の坑内労働禁止 | 労基法第63条 | 不可(絶対的禁止) | 年齢不問で坑内作業禁止(非常災害除く) |
| 年少者の危険有害業務制限 | 労基法第62条 | 不可(絶対的禁止) | 爆発・高熱・有害ガス等の列挙業務 |
| 女性の有害業務制限 | 労基法第64条の2 | 不可(本人同意でも不可) | 坑内での機械操作・有害物の発散作業等 |
| 高圧則の作業計画・減圧・ガス分圧の規制 | 高圧則第12条の2・第15条等 | 不可(安衛法が上位) | 気圧に応じた減圧・作業時間の制約 |
| 電離則の線量限度 | 電離則第4〜8条 | 不可(絶対的上限) | 実効線量・等価線量の限度値 |
| 一般的な時間外労働の上限 | 労基法第36条等 | 36協定の範囲内で可 | 月45時間・年360時間等の上限 |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 高圧則・電離則等の安全衛生規制が定める作業時間の上限・線量限度は「安全衛生確保のための物理的上限」であり、36協定による労使合意では解除できません。労基法36条の「協定可能な時間外労働」はあくまでも安衛法が許容する範囲内での延長に過ぎません。
- イ(誤): 女性の就業制限(労基法第64条の2)は本人同意の有無にかかわらず適用される強行規定です。「本人が同意すれば就業可」という規定は存在しません。
- ウ(正): 年少者の坑内労働禁止は労基法第63条が定める絶対的禁止です。36協定は労働時間の延長を可能にするものですが、就業自体が禁止された場所・業務に年少者を就かせることはできません。
- エ(誤): 有機溶剤業務において時間外労働を行う場合、作業時間の延長は局所排気装置等の稼働時間の増加・有機溶剤の蒸発量の増大をもたらし、作業環境管理の観点から追加措置が必要になる場合があります。
- オ(正に近い内容だが「有害業務のみ」という限定は要確認): 深夜業に従事する労働者への特定業務従事者健康診断(安衛則第45条)は6か月以内ごとに1回が正しい内容ですが、「有害業務従事者に限定」という読み方は不正確です(深夜業従事者全体が対象)。
【理論的背景】
有害業務と労働時間の問題は、「労働基準法の時間外労働規制」と「労働安全衛生法の安全衛生規制」が交差する複合問題です。両法の関係を理解することが解答の鍵になります。
労基法と安衛法の役割分担:
- 労働基準法: 労働条件の最低基準(労働時間・休憩・休日・時間外労働の上限等)。36協定により一定の時間外労働を可能にする。
- 労働安全衛生法: 安全衛生確保のための技術的・医学的規制(作業時間の物理的上限・線量限度・就業禁止等)。労使合意によっても解除できない強行規定を含む。
両法が「競合」する場合の原則:
- 安衛法の強行規定(年少者禁止・線量限度・高圧則最大作業時間等)は労基法の36協定に優先する
- 「36協定があれば何でも可能」という理解は誤り。36協定は「労基法上の時間外労働の許可」であり、安衛法上の規制を解除するものではない
【実務・条文構造】
有害業務に係る就業制限の体系:
(1)年少者(満18歳未満)の就業制限(労基法第62〜63条):
- 坑内労働の絶対禁止(第63条): 坑内での業務全般(非常災害時を除く)
- 危険有害業務の就業制限(第62条): 厚生労働省令(年少者労働基準規則)が列挙する業務
- 爆発・発火・引火物取扱い
- 強烈な騒音を発する場所での業務
- 有害ガス・粉じん・放射線等の有害環境
- 多量の高熱・低温・重量物取扱い等
- これらは強行規定であり、36協定・本人同意で解除不可
(2)女性の就業制限(労基法第64条の2):
- 妊娠中・産後1年以内の女性: 危険有害業務の就業制限(特に多くの業務に適用)
- 女性全体(妊産婦に限定しない場合): 一部の特に危険な坑内業務
(3)安衛法・各規則の作業時間・線量制限(36協定で解除不可):
- 高圧則第12条の2・第15条等(作業計画・呼吸用ガスの分圧の制限・減圧管理。※旧別表の気圧別作業時間表は平成27年改正で削除)
- 電離則第4条等(実効線量限度:5年間で100mSv・かつ年50mSv等)
- じん肺法による管理区分に応じた就業転換
(4)特定業務従事者健康診断(安衛則第45条):
- 対象: 高圧室内業務・放射線業務・坑内業務・深夜業・有機溶剤・特定化学物質等の列挙業務(安衛則第13条第1項第3号)
- 頻度: 6か月以内ごとに1回(一般健診の1年に対して2倍の頻度)
- 深夜業は「時間帯によるリスク(生体リズムの乱れ・認知機能低下)」として有害業務と同列に位置付けられています
【試験での位置づけ】
この論点の頻出パターンは「36協定があれば安衛法の時間制限も解除できる(誤)」「本人同意があれば就業禁止を覆せる(誤)」「年少者の坑内禁止は36協定で解除できない(正)」です。労基法の「許可」と安衛法の「禁止」の階層関係を体系的に理解することが第一種衛生管理者に求められる水準です。
【発展:2024年以降の時間外労働上限規制強化との接続】
2024年4月から建設業・医療業等での時間外労働上限規制が適用開始されました(いわゆる「2024年問題」)。有害業務を含む建設業(坑内労働・高圧作業を含む)では、労基法上の時間外上限(原則月45時間・年360時間)と安衛法上の作業時間制限が二重に適用されることになります。衛生管理者はこの二重構造を正しく理解し、作業者の健康確保と法令遵守の両立を支援する役割を担います。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 電離則の線量限度(実効線量:5年間で100mSv・かつ年50mSvを超えない)は36協定とは無関係に適用されます。放射線業務従事者を長時間働かせることによって線量限度を超えることは、事業者の責任において絶対に防がなければなりません。
- イ: 女性の就業制限は「インフォームドコンセント(十分な説明と同意)」があっても解除されません。この絶対性は、高圧作業・特定化学物質作業における就業禁止の絶対性と同じ構造です。強行規定は当事者の意思で変更できないのが法律の大原則です。
- ウ: 年少者の坑内労働禁止は「18歳未満のすべての者」が対象です。職業訓練生・実習生・アルバイトも含め、雇用形態にかかわらず適用されます。
- オ: 安衛則第45条の特定業務従事者健康診断は「深夜業(午後10時〜翌5時)」そのものが対象業務に含まれます(有害業務に限らず、深夜業だけに従事していても6か月ごとの健診が必要)。
【根拠法令】労働基準法第62条(危険有害業務の就業制限)・第63条(年少者の坑内労働禁止)・第64条の2(女性の就業制限)・第36条(36協定)、労働安全衛生規則第45条(特定業務従事者健康診断:6か月以内ごとに1回)・第13条第1項第3号(深夜業・有害業務の列挙)
【補足】年少者の坑内禁止・危険有害業務制限・女性就業制限はいずれも36協定・本人同意で解除不可の強行規定。安衛法上の作業時間制限(高圧則・電離則等)も36協定では解除不可。特定業務従事者健診は6か月ごとに1回。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働基準法第62条(危険有害業務の就業制限)・第63条(坑内労働の禁止)・第64条の2(女性の危険有害業務制限)・第36条(時間外・休日労働協定)、労働安全衛生規則第45条(特定業務従事者健康診断)・第13条第1項第3号(深夜業・有害業務の列挙)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。