衛生管理者 関係法令(有害業務) 問58:酸素欠乏症等防止規則(酸欠則)・緊急時の安全確保
酸素欠乏症等防止規則(酸欠則)が定める酸素欠乏危険作業における緊急時の対応(救出・退避等)に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア酸素欠乏の危険がある場所で労働者が倒れているのを発見した場合、一刻も早い救出のため、発見した者は直ちに素手・無防護で救出作業を開始しなければならない。
- イ事業者は、酸素欠乏の危険が生じるおそれがある場所に労働者を立ち入らせる場合、当該労働者には空気呼吸器等を携行させなければならないが、作業前の酸素濃度測定は任意とされている。
- ウ酸素欠乏症の患者の救出にあたる者に対し、事業者は送気マスク・空気呼吸器等の適切な呼吸用保護具を使用させなければならず、当該保護具を着用していない者を救出作業に就かせることは禁止されている。正答
- エ酸素欠乏危険作業を行う作業場に酸欠の危険が生じた場合、事業者は当該作業場に関係のない労働者を立ち入らせてはならないが、当該作業場内で直接作業を行っていた労働者は自己判断で退避してよい。
- オ酸素欠乏危険作業において、酸素濃度の測定値が16%を下回った時点で初めて退避命令が生じ、それ以前(16〜18%未満)では退避命令は不要である。
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正しいのはウです。酸欠則第16条により、事業者は酸素欠乏症等にかかった者を救出する作業に従事する労働者に対し、空気呼吸器等(送気マスク・空気呼吸器・酸素呼吸器)を使用させなければなりません。保護具を使用していない者を救出作業に就かせることはできません。
各誤りの要点: ア→無防護での救出は厳禁。救出者自身も酸欠で倒れる「二次災害(連鎖事故)」の最大原因です。イ→作業前の酸素濃度測定は義務(任意ではない・酸欠則第3条)。エ→作業者の退避は「事業者の退避命令」によって行われ、自己判断任せではありません。オ→18%未満(法定基準)を下回れば退避義務が生じます(16%という数値は特段の意味を持たない)。
酸欠則の緊急時対応規定(第14〜15条):
| 状況 | 義務・禁止 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 酸欠の危険が生じた場合の作業者の退避 | 事業者は直ちに労働者を退避させる義務 | 酸欠則第14条第1項 |
| 退避後の立入禁止 | 酸欠危険が解消するまで関係者以外の立入禁止 | 酸欠則第14条第2項 |
| 救出作業者への空気呼吸器等使用義務 | 送気マスク・空気呼吸器等を必ず使用させる | 酸欠則第16条 |
| 保護具なしでの救出禁止 | 空気呼吸器等を使用しない者を救出作業に就かせることは禁止 | 酸欠則第16条 |
| 避難用具等の備付け | 空気呼吸器等・はしご・繊維ロープ等を備える | 酸欠則第15条 |
| 作業前の酸素濃度測定義務 | 作業開始前の酸素濃度測定(任意ではない) | 酸欠則第3条 |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 無防護での救出は二次災害(連鎖事故)の最大原因です。酸欠事故での死者の多くが「救出しようとした人」であることが統計上明らかになっており、酸欠則第16条は救出作業に従事する労働者への空気呼吸器等の使用を絶対要件として規定しています。
- イ(誤): 酸欠則第3条により、酸素欠乏危険作業を行う前に当該作業場の酸素濃度(及び硫化水素濃度)を測定することは義務です(任意ではありません)。
- ウ(正): 酸欠則第16条が定める救出作業者への空気呼吸器等の使用義務です。送気マスク・空気呼吸器・酸素呼吸器等の「空気(酸素)を供給できる呼吸用保護具」が必要です(防じんマスク・防毒マスクは酸素を供給しないため不可)。
- エ(誤): 退避は事業者の指揮のもとで行われるものです。「自己判断で退避してよい」という表現は、退避に関する組織的な管理体制の趣旨に反します(実際には自ら退避する権限は認められていますが、それを「自己判断任せ」とする法令規定はありません)。
- オ(誤): 酸素欠乏の法定基準は「酸素濃度18%未満」(酸欠則第2条第1号の定義)です。18%未満であれば測定直後から作業禁止・退避義務が生じます。16%という数値に特別な法的意義はありません。
【理論的背景】
酸素欠乏事故の最大の特徴は「連鎖災害(二次事故)」の発生率が極めて高いことです。厚生労働省の統計によると、酸欠事故で死亡した者の約3〜4割が「救出しようとして倒れた人」であるとされています。これは「倒れた人を見て反射的に助けに飛び込んだ」結果、救出者自身も酸欠状態に陥るためです。
連鎖事故が発生するメカニズム:
1. 作業者が酸素欠乏環境(タンク内・下水槽・地下ピット等)に入り倒れる
2. 仲間が倒れているのを発見し、とっさに飛び込む(無防護)
3. 飛び込んだ者も同様に酸欠で倒れる
4. さらに次の人が飛び込む→連鎖的に死者が増える
酸素欠乏の特性(なぜ「飛び込んでしまう」か):
- 酸素欠乏空気は無色・無臭(窒素・二酸化炭素自体は臭いがない)
- 入口から見ると「普通の空間」に見える
- 入った瞬間から急激に意識が低下→助けを呼ぶ間もなく倒れる
- 救出者も同じ理由で倒れる
この連鎖事故を防ぐために酸欠則第16条は「救出作業に従事する労働者への空気呼吸器等の使用義務」を絶対的に規定しています。
【実務・条文構造】
酸欠則の緊急時対応規定の詳細体系:
退避命令と立入禁止(酸欠則第14条):
- 第14条第1項: 酸欠の危険が生じた場合、事業者は直ちに作業者を退避させる義務
- 第14条第2項: 危険が解消されるまで、当該場所への立入禁止(関係者以外)
- 危険解消の確認: 酸素濃度(および第2種作業場では硫化水素濃度)の再測定により、酸素18%以上・硫化水素10ppm以下を確認
救出作業者への空気呼吸器等の使用義務(酸欠則第16条):
- 対象者: 酸素欠乏症等にかかった者の救出作業に従事する労働者
- 必要な保護具: 送気マスク・空気呼吸器・酸素呼吸器のいずれか(空気呼吸器等)
- 防じんマスク: 使用不可(粒子捕集機能のみで酸素供給なし)
- 防毒マスク: 使用不可(特定ガス除去機能のみで酸素供給なし)
- 送気マスク: 使用可(遠隔の清浄空気をホースで供給)
- 空気呼吸器(SCBA): 使用可(ボンベから空気を供給・自己完結型)
- 事業者は救出用の保護具を「事前に備え付けておく義務」がある
酸素濃度の測定(酸欠則第3条):
- 酸素欠乏危険作業(第1種・第2種)を行う前の義務的測定
- 測定方法: 酸素濃度計(検知管・電気化学式等)
- 第2種酸素欠乏危険作業: 酸素濃度に加えて硫化水素濃度の測定も必要
- 測定記録の保存: 3年間
酸素欠乏の法定基準値(酸欠則第2条の定義):
- 「酸素欠乏」: 空気中の酸素濃度が18%未満の状態(酸欠則第2条第1号)
- 「硫化水素中毒」の基準: 空気中の硫化水素濃度が100万分の10(10ppm)を超える状態(酸欠則第2条)
- 退避義務の発動基準: 酸素濃度が18%を下回った時点(16%ではない)
【試験での位置づけ】
酸欠則の緊急時対応で最も重要な論点は「救出時の保護具着用義務(保護具なし救出禁止・連鎖事故防止)」「酸欠の法定基準値=18%未満(16%ではない)」「作業前の酸素濃度測定は義務(任意ではない)」の3点です。特に「素手・無防護での救出が二次事故の主因であり絶対禁止」という点は実務的にも重要で、試験でも高い頻度で問われます。
【発展:酸欠事故の統計と近年のトレンド】
厚生労働省の労働災害統計によると、酸素欠乏・硫化水素中毒事故はタンク内・下水道・ビルの地下ピット・農業用サイロ等で繰り返し発生しています。特に2010年代以降は建設業・製造業でのタンク内清掃作業、農業分野での有機物発酵サイロでの事故が目立ちます。事故が減らない理由として「知識不足(酸欠の危険を認識していない)」「手順の省略(測定なしに作業開始)」「連鎖事故への無防備な対応」が挙げられます。衛生管理者はこの3点を職場で継続的に指導する責務を負っています。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 「助けに飛び込む」という行動は人間の本能的な反応ですが、酸素欠乏環境では救出者自身が数秒〜数分で意識を失います。現場での「叫んで呼ぶ・ロープを使う・換気する」という間接的な救出を試みることが先決であり、直接飛び込むのは適切な保護具を着用してから行う必要があります。
- イ: 酸素欠乏危険作業の「作業前測定」は安全確認の最初のステップです。測定なしに「目視で大丈夫そう」と判断して作業を開始した結果、事故が発生したケースが多数あります。酸欠は「見えない・臭わない」という特性を理解することが重要です。
- エ: 退避は事業者の指揮・命令のもとで組織的に行われるべきですが、労働者自身が危険を感知して退避する権利(緊急退避権)も認められています。ただし「自己判断任せ(事業者の退避命令は不要)」という表現は法令の趣旨に反します。
- オ: 「16%」という数値は、人体への影響が顕著になる濃度として生理学的には知られていますが(頭痛・めまい・判断力低下等)、法定の酸欠基準値は「18%未満」です。16%まで下がってから退避するのでは手遅れになる可能性があります。18%という法定値は「安全マージンを持った予防的基準」として設定されています。
【根拠法令】酸素欠乏症等防止規則第2条(定義:酸素欠乏=18%未満・硫化水素中毒=10ppm超)・第3条(作業前の酸素濃度等の測定義務)・第14条(退避)・第15条(避難用具等の備付け)・第16条(救出作業に従事する労働者への空気呼吸器等の使用義務)
【補足】救出者は必ず送気マスク・空気呼吸器等を着用してから救出(無防護救出は絶対禁止・連鎖事故の主因)。酸欠法定基準値は「18%未満」(16%ではない)。作業前の酸素濃度測定は義務(任意ではない)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 酸素欠乏症等防止規則第2条(定義:酸素欠乏=酸素濃度18%未満)・第3条(作業環境測定:作業開始前の酸素濃度等の測定義務・任意ではない)・第14条(退避)・第15条(避難用具等の備付け)・第16条(救出作業に従事する労働者に空気呼吸器等を使用させる義務)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。