衛生管理者 労働生理 問1:呼吸
呼吸の調節に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア呼吸は主として延髄の呼吸中枢によって調節されており、動脈血中の酸素分圧(PaO₂)の低下が最も強い呼吸促進刺激となる。
- イ動脈血中のCO₂分圧(PaCO₂)が上昇すると、血液のpHが低下(酸性化)し、これが呼吸中枢および末梢化学受容器を刺激して呼吸を促進させる。正答
- ウ呼吸筋(横隔膜・肋間筋)は自律神経系のみによって支配されており、意識的に呼吸をコントロールすることはできない。
- エチェーン・ストークス呼吸(Cheyne-Stokes呼吸)は、健康な成人が十分な睡眠をとっているときに見られる正常な呼吸パターンである。
- オ肺の総容量は、機能的残気量と1回換気量の合計に等しい。
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正しいのはイです。CO₂(二酸化炭素)が血液中に増えると、血液が酸性になり(pHが下がり)、これが呼吸中枢を刺激して呼吸が速く・深くなります。「CO₂が増える→血液が酸性化→呼吸が促進される」というルートが、通常の呼吸調節の主役です。
各誤りの要点: ア→最も強い呼吸促進刺激はO₂の低下ではなくCO₂の上昇(血液の酸性化)。ウ→呼吸筋は体性神経(随意神経)でも支配されており、意識的にコントロール可能(深呼吸・息止め等が可能)。エ→チェーン・ストークス呼吸は心不全・脳障害等でみられる異常呼吸パターン。オ→肺の総容量の計算式が誤り(総容量=残気量+肺活量=残気量+1回換気量+予備吸気量+予備呼気量)。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 延髄の呼吸中枢という部位は正しいですが、最も強い呼吸促進刺激は「O₂分圧の低下」ではなく「CO₂分圧の上昇(血液pH低下)」です。O₂分圧は極端に低下した場合(高山・酸欠等)に末梢化学受容器(頸動脈小体・大動脈小体)を通じて呼吸を促進しますが、通常の生理的範囲では主調節はCO₂です。
- イ(正): CO₂+H₂O → H₂CO₃(炭酸)→ H⁺+HCO₃⁻ という反応によりPaCO₂上昇→血液pH低下(酸性化)。これが延髄の中枢化学受容野と末梢化学受容器を刺激→呼吸数・換気量増加→CO₂排出→pH回復というフィードバック機構が働きます。
- ウ(誤): 呼吸筋(横隔膜・肋間筋)は体性神経(横隔神経・肋間神経)によって支配されており、随意的にコントロール可能です(深呼吸・息止め・腹式呼吸等)。自律神経は気道の平滑筋・分泌腺を支配しますが、呼吸筋の主要な支配は体性神経です。
- エ(誤): チェーン・ストークス呼吸は、漸増・漂白する振幅の呼吸と無呼吸が交互に出現するパターンで、重篤な心不全・脳幹障害・尿毒症・睡眠時無呼吸症候群(の一型)等でみられる異常呼吸です。健康成人の正常な睡眠時の呼吸ではありません。
- オ(誤): 肺の総容量(Total Lung Capacity: TLC)= 肺活量(VC)+ 残気量(RV)= 1回換気量 + 予備吸気量 + 予備呼気量 + 残気量。機能的残気量(FRC)は「平静呼気後に肺に残る空気量 = 予備呼気量 + 残気量」であり、選択肢の計算式は正しくありません。
【理論的背景】
呼吸は「自動的・不随意」で行われる機能と「随意的・意識的」でコントロールできる機能の両面を持つ生命活動です。安静時は脳幹(延髄・橋)にある呼吸中枢が自動的に呼吸リズムを生成し、化学受容器からの情報(CO₂・O₂・pH)でフィードバック調節されます。運動時や意識的な深呼吸では、大脳皮質からの随意的な制御が加わります。
呼吸調節の二段階:
1. 化学的調節(最重要): 動脈血ガス分析・血液pH変化→化学受容器→呼吸中枢→呼吸筋
- 中枢化学受容野(延髄腹側): 主にpH変化(CO₂起因)に鋭敏
- 末梢化学受容器(頸動脈小体・大動脈小体): O₂分圧・CO₂分圧・pHに反応
2. 機械的調節(補助): 肺の伸展受容器からの迷走神経フィードバック(ヘーリング・ブロイアー反射)
【実務・条文構造】
肺の容量区分(試験頻出の用語と数値:成人男性の目安):
| 用語 | 定義 | 目安値(成人男性) |
|---|---|---|
| 1回換気量(TV) | 安静呼吸で1回に出入りする量 | 約500mL |
| 予備吸気量(IRV) | 安静吸気後に追加で吸入できる量 | 約2,000〜3,000mL |
| 予備呼気量(ERV) | 安静呼気後にさらに呼出できる量 | 約1,000〜1,500mL |
| 残気量(RV) | 最大呼気後も肺に残る空気量 | 約1,000〜1,500mL |
| 肺活量(VC)= TV+IRV+ERV | | 約3,000〜4,000mL |
| 機能的残気量(FRC)= ERV+RV | 安静呼気終末での肺気量 | 約2,000〜2,500mL |
| 全肺気量(TLC)= VC+RV | 最大吸気時の肺気量 | 約5,000〜6,000mL |
CO₂と呼吸の具体的なフィードバック:
- PaCO₂の正常値: 35〜45mmHg
- PaCO₂が45mmHg超(高CO₂血症)→血液pH低下→呼吸中枢刺激→換気増加→CO₂排出促進→PaCO₂低下→pHが正常化
O₂の役割が「補助的」な理由:
- 通常の室内酸素濃度(21%)では PaO₂は95〜100mmHg程度
- 末梢化学受容器(頸動脈小体)がO₂低下に反応するのはPaO₂が60mmHg以下に低下した場合
- 高山(3,000m以上)や一酸化炭素中毒での組織低酸素ではO₂主導の刺激が増大する
【試験での位置づけ】
呼吸調節問題では「主要な化学刺激がO₂低下かCO₂上昇か(正: CO₂上昇・血液pH低下が主)」「呼吸筋が体性神経支配で随意コントロール可能(自律神経のみという誤り)」「チェーン・ストークス呼吸が異常呼吸(正常と誤る引っかけ)」「肺容量の用語と計算(残気量の定義・機能的残気量の構成)」が最頻出です。アの引っかけ(O₂が主役という誤り)は毎回登場すると言っても過言ではありません。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 「O₂が呼吸の主たる調節因子」という誤りは直感的に理解しやすい(酸素が少ないから息をする、というイメージ)ことから定着しやすいです。しかし実際には通常の酸素分圧(95〜100mmHg)はかなり余裕があり、CO₂が少量増えるだけで強い呼吸促進が起きます。ダイビングでの「過換気→低CO₂→呼吸刺激減少→水中で突然意識を失う」事故のメカニズムも、CO₂が主調節因子であることを示す実例です。
- イ: Henderson-Hasselbalch方程式: pH = 6.1 + log([HCO₃⁻] / (0.03 × PaCO₂))。CO₂が増えると分母のPaCO₂が増える→比率が下がる→logが下がる→pHが下がる(酸性化)というメカニズム。これが「呼吸性アシドーシス」の機序です。
- ウ: 横隔膜は横隔神経(C3-5由来)、外肋間筋は肋間神経によって体性神経支配されています。頸椎損傷(C3以上)では横隔膜も麻痺して自発呼吸不能となります。これは呼吸筋が体性神経支配である証拠です。
- エ: チェーン・ストークス呼吸の機序は「化学受容器感受性の亢進+循環時間の延長(心不全)」。呼吸が止まる→CO₂蓄積→強い呼吸刺激→過換気→CO₂過排出→呼吸抑制→無呼吸→CO₂蓄積…というサイクルが生まれます。健康成人の睡眠中にも軽度のチェーン・ストークス様パターンが出ることはありますが、顕著なものは病的状態のサインです。
- オ: 機能的残気量(FRC)は「肺がつぶれないための最低必要量」という役割があります。FRCが少なすぎると(新生児・ARDS等)肺胞が呼気時につぶれてしまい(無気肺)ガス交換効率が著しく低下します。
【根拠】医学的事実(確立した生理学)。CO₂分圧と血液pH・呼吸調節の関係は生理学の基礎概念として確立。
【補足】呼吸の主要化学刺激は「CO₂上昇・血液pH低下」(O₂低下は補助的)。呼吸筋は体性神経支配→意識的コントロール可能。チェーン・ストークス呼吸は病的所見(正常ではない)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。CO₂分圧と血液pHの関係・呼吸中枢の調節機序は生理学の基本原則。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。