衛生管理者 労働生理 問4:神経・筋
神経および筋肉に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア交感神経が興奮すると、心拍数が増加し、気管支が拡張し、瞳孔が散大し、消化管の運動が抑制される。
- イ副交感神経が興奮すると、唾液分泌が増加し、心拍数が低下し、胃腸の運動が促進される。
- ウ骨格筋は随意筋であり横紋筋に分類されるが、心筋は不随意筋でありながら横紋筋構造を持ち、平滑筋は不随意筋であり横紋構造を持たない。
- エ疲労によって骨格筋中にグリコーゲンが蓄積し、筋収縮のエネルギー源として利用できる量が増加するため、運動を続けるほど筋持久力が高まる。正答
- オ有髄神経線維(A線維)は無髄神経線維(C線維)よりも興奮の伝導速度が速く、A線維の中でもAα線維が最も速い伝導速度をもつ。
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誤りはエです。筋肉が疲労するのはグリコーゲンが消費・減少するからであり、「蓄積する」のは逆です。激しい運動でグリコーゲンが使われ尽くされると、筋肉はエネルギー不足に陥り、筋収縮力が低下します。「運動を続けるほど筋持久力が高まる」という記述も誤りで、疲労が蓄積するにつれて筋持久力は低下します(適切な休息なしでは)。
その他の選択肢はすべて正しい内容です。交感神経・副交感神経の作用(ア・イ)、筋肉の3分類(横紋筋/平滑筋・随意/不随意)(ウ)、有髄vs無髄神経の伝導速度(オ)は確実に覚えましょう。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 交感神経(「闘争か逃走(Fight or Flight)」反応)の効果: 心拍数増加・気管支拡張(気道抵抗低下で換気量増加)・瞳孔散大・消化管運動抑制(エネルギーを四肢の筋肉へ集中)・発汗・血糖上昇(肝グリコーゲン分解)等。
- イ(正): 副交感神経(「休息と消化(Rest and Digest)」反応)の効果: 唾液・消化液分泌促進・心拍数低下・気管支収縮・消化管運動促進・膀胱収縮・瞳孔収縮(縮瞳)等。
- ウ(正): 筋肉の3分類:
- 骨格筋: 随意筋・横紋筋・体性神経支配
- 心筋: 不随意筋・横紋筋(骨格筋と同じく横紋構造)・自律神経支配(+自動性)
- 平滑筋: 不随意筋・横紋なし(非横紋筋)・自律神経支配(消化管壁・血管壁等)
- エ(誤): 疲労によって骨格筋中のグリコーゲンは「減少(消費)」します。蓄積はしません。嫌気的代謝で乳酸が蓄積し、pH低下・筋酵素機能低下が疲労の一因です。「運動を続けるほど筋持久力が高まる」は適切な回復期間を含めたトレーニングの場合に限られる話であり、疲労中は持久力は低下します。
- オ(正): 神経線維の伝導速度: A線維(有髄)>B線維(有髄・細い)>C線維(無髄)。Aα線維(骨格筋への運動線維・筋紡錘からの感覚線維)が最速(70〜120m/s)。痛みを伝えるC線維は最低速(0.5〜2m/s)。
【理論的背景】
自律神経系(交感神経・副交感神経)と体性神経系(運動神経・感覚神経)の区別、そして筋肉の3分類(骨格筋・心筋・平滑筋)は、労働生理の基礎中の基礎です。職業性疾患の病態理解(有機溶剤中毒による中枢神経抑制・振動障害による末梢循環障害・熱中症における体温調節)に応用されます。
交感神経と副交感神経の拮抗作用の一般原則:
- 交感神経: カテコラミン(ノルアドレナリン・アドレナリン)→α受容体・β受容体に作用
- 副交感神経: アセチルコリン→ムスカリン受容体(M受容体)に作用
- 多くの臓器で両者が拮抗的に作用し、生理的バランスを保つ
【実務・条文構造】
交感神経・副交感神経の作用比較(試験頻出臓器別一覧):
| 臓器 | 交感神経 | 副交感神経 |
|---|---|---|
| 心臓 | 心拍数増加・収縮力増強 | 心拍数低下・収縮力低下 |
| 気管支 | 拡張 | 収縮 |
| 消化管 | 運動抑制・括約筋収縮 | 運動促進・括約筋弛緩 |
| 唾液腺 | 少量・粘稠な唾液 | 多量・漿液性の唾液 |
| 瞳孔 | 散大(散瞳) | 縮小(縮瞳) |
| 膀胱 | 壁弛緩・括約筋収縮(蓄尿) | 壁収縮・括約筋弛緩(排尿) |
| 血管 | 皮膚・内臓血管収縮(骨格筋は拡張) | 主に一部の血管拡張 |
| 汗腺 | 発汗促進(コリン作動性) | ほぼなし |
| 立毛筋 | 収縮(鳥肌) | ほぼなし |
神経線維の分類と速度(試験重要事項):
- Aα線維(有髄・最大径): 骨格筋運動・筋紡錘感覚 / 70〜120m/s
- Aβ線維: 触覚・圧覚 / 30〜70m/s
- Aγ線維: 筋紡錘制御 / 15〜30m/s
- Aδ線維(細い有髄): 鋭い痛み・温度(冷) / 5〜30m/s
- B線維(細い有髄): 自律神経節前線維 / 3〜15m/s
- C線維(無髄): 鈍い痛み・温度(温)・自律神経節後線維 / 0.5〜2m/s
筋疲労のメカニズム:
1. グリコーゲン枯渇: 筋グリコーゲンが使われると嫌気的代謝に移行→乳酸産生
2. pH低下: 乳酸蓄積→筋細胞内pH低下→筋収縮蛋白の機能低下・筋酵素活性低下
3. ATP枯渇: エネルギー基質の枯渇→筋収縮力の低下
4. 神経筋接合部の疲労: 神経伝達物質(アセチルコリン)の放出低下
5. 中枢性疲労: 大脳皮質の運動野の疲弊(運動への意欲・集中力の低下)
【試験での位置づけ】
自律神経問題は「交感=緊張・活動(Fight or Flight)・副交感=安静・消化(Rest and Digest)」のパターンを覚えると整理しやすいです。筋肉の3分類(横紋筋/平滑筋・随意/不随意)は「心筋が横紋筋かつ不随意筋」という点が最頻出の確認ポイントです。神経線維の伝導速度は「有髄>無髄・Aα線維が最速」の2点を押さえれば対応できます。エのような「疲労でグリコーゲンが蓄積する」誤りは、グリコーゲンの基本的な役割(エネルギー貯蔵・消費される側)の理解で防げます。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 交感神経の活性化(ストレス応答)で消化管運動が抑制されるのは、「危険から逃げる際に消化に回すエネルギーを節約する」ための適応です。過剰な交感神経活性化(慢性ストレス)は消化器症状(過敏性腸症候群・胃潰瘍)の原因になります。有機リン系農薬中毒(コリンエステラーゼ阻害)ではアセチルコリン過剰→副交感神経過活性→SLUDGE症状(唾液分泌・流涙・尿失禁・下痢・消化管過運動・縮瞳)が出ます。
- イ: 副交感神経優位の状態(食後・安静時)では、消化・吸収が促進されます。これが「食後すぐに激しい運動すると消化が悪い」メカニズムの一部です(交感神経優位になると消化管の血流が低下)。
- ウ: 心筋が横紋筋でありながら不随意筋である理由は、心筋細胞が特殊な電気的接続(ギャップ結合)で互いに連結し、洞房結節からの電気刺激が自動的に伝わる独自の伝導系を持つためです。
- エ: 「運動で筋持久力が高まる」のはスポーツトレーニングの観点で正しいですが、これは回復期間(超回復)を伴うトレーニングのサイクルを指します。疲労の最中にはグリコーゲンが減少し、乳酸が蓄積して筋持久力は低下します。
- オ: C線維が伝える「鈍い痛み・灼熱感」と、Aδ線維が伝える「鋭い痛み」は性質が違います。歯の痛みで最初の鋭い痛み→後から続くズキズキとした鈍い痛みという二段階の感覚は、Aδ線維(速い)とC線維(遅い)の伝導速度の差に対応しています。
【根拠】医学的事実(確立した生理学)。交感・副交感神経の拮抗作用・筋肉3分類・神経線維分類と伝導速度は生理学の基礎概念として確立。
【補足】疲労→筋グリコーゲン「消費・減少」(蓄積は誤り)。心筋は「不随意筋かつ横紋筋」(平滑筋と混同させる引っかけに注意)。有髄(A線維)>無髄(C線維)の伝導速度。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。疲労時の筋内グリコーゲン変化は生理学の基本知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。