行政書士 行政法 問50:行政不服審査法上の執行停止
行政不服審査法が定める執行停止に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア審査請求の提起は、処分の効力、処分の執行または手続の続行を停止しないことを原則とする(執行不停止原則)。
- イ審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てによりまたは職権で、処分の効力、処分の執行または手続の続行の全部または一部の停止その他の措置をとることができる。
- ウ審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁である場合においては、審査請求人の申立てがあったときは、処分の効力、処分の執行または手続の続行の全部または一部の停止をしなければならない。ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある場合はこの限りでない。正答
- エ執行停止は、処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができる場合には、処分の効力の停止をすることができない。
- オ処分庁の上級行政庁以外の審査庁は、執行停止をしようとするときは、あらかじめ処分庁の意見を聴かなければならない。
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ウが誤りです。行審法25条4項は、審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁である場合において、審査請求人の申立てがあったときは「重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるとき」に執行停止をしなければならないと定めています(義務的執行停止)。ただしウのような無条件の義務ではなく、「重大な損害を避けるために緊急の必要がある」という要件が必要です。また「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある場合」は例外とされており、その点はウも含んでいますが、「申立てがあれば原則停止しなければならない」という書き方が過剰です。アは正しく(執行不停止原則)、イは任意的執行停止として正しく、エ・オも正しい記述です。
行審法25条の執行停止には二種類あります。
任意的執行停止(25条2項・イが正しい根拠): 審査庁は「必要があると認める場合」に、申立てによりまたは職権で、執行停止その他の措置をとることができます(裁量的規定)。どの審査庁にも認められます。
義務的執行停止(25条4項・ウが誤りの根拠): 審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁である場合のみ、申立てがあり、かつ「重大な損害を避けるために緊急の必要がある」と認めるときは、執行停止をしなければなりません(義務規定)。ただし例外として、①公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、②本案(審査請求)について理由がないとみえるときは、停止不要です。
ウの誤りは「申立てがあれば当然停止しなければならない(緊急の必要という要件を無視している)」点です。
エ(補充性・25条6項): 処分の効力の停止(最強の措置)は、それ以外の措置(執行の停止・手続の続行停止)で目的を達せられる場合には認められません(補充性の原則)。
オ(意見聴取・25条7項): 処分庁の上級行政庁以外の審査庁(例:処分庁と無関係の第三者機関が審査庁の場合)が執行停止するときは、あらかじめ処分庁の意見を聴かなければなりません。
【行訴法の執行停止との比較】
行審法の執行停止と行訴法25条の執行停止を対比することが試験の核心です。
| 比較項目 | 行審法25条 | 行訴法25条 |
|---|---|---|
| 原則 | 執行不停止(25条1項) | 執行不停止(25条1項) |
| 申立主体 | 審査請求人 または 職権 | 申立人(原告)のみ |
| 任意的停止の要件 | 必要と認める場合(2項) | 重大な損害を避けるため緊急の必要(2項)|
| 義務的停止 | 上級庁・処分庁が審査庁の場合で重大な損害等(4項) | なし(裁判所は裁量)|
| 内閣総理大臣の異議 | なし | あり(27条)|
| 補充性 | あり(効力停止は他の方法で目的達成不可の場合のみ・6項) | あり(効力停止は執行・手続停止で目的達成不可の場合のみ・2項ただし書)|
行訴法では「重大な損害」を避けるための緊急の必要が要件(積極要件)として求められるのに対し、行審法の任意的執行停止(25条2項)は「必要があると認める場合」という緩やかな要件で認められます。一方、義務的執行停止(25条4項)は「重大な損害を避けるために緊急の必要がある」という行訴法と類似した積極要件が必要です。
【義務的執行停止の詳細要件(25条4項)】
義務的執行停止が認められる要件(すべて充たす必要):
1. 審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁であること
2. 審査請求人の申立てがあること(職権では不可)
3. 「重大な損害を避けるために緊急の必要がある」こと
義務的執行停止が認められない場合(除外事由):
1. 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき
2. 本案について理由がないとみえるとき
3. 処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができるとき(補充性の問題)
「重大な損害」の判断にあたっては、損害の回復困難性・緊急性が考慮されます。申請人が業務停止処分を受けて事業が存続不能になるリスク等が典型例です。
【補充性の意義(エの根拠・25条6項)】
執行停止には強度順に①処分の効力の停止(最強)→②処分の執行の停止→③手続の続行の停止があります。処分の効力を全面的に停止することは行政作用を大きく阻害するため、補充性が求められます。つまり、より限定的な措置(執行の停止・手続の続行の停止)で目的を達成できるなら、より強い効力停止は認められないという段階的制約です。これは行訴法25条2項ただし書の補充性要件とパラレルな規定です。
【実務的判断と申立て戦略】
審査請求実務では、義務的執行停止(25条4項)の申立てにより迅速な権利救済を図る戦略が重要です。特に業許可の取消処分・業務停止命令等、放置すると回復困難な損害が生じる処分に対しては、審査請求と同時に執行停止申立てを行うことが実務上の鉄則です。義務的執行停止の要件(重大な損害・緊急の必要)を疎明資料(売上減少見通し・顧客契約の喪失可能性等)で具体的に示すことが申立て成功の鍵となります。
なお、仮の義務付け・仮の差止め(行訴法37条の5)に相当する行審法上の制度は2016年改正では設けられていない点も確認が必要です(行審法上の暫定的措置は執行停止に限られます)。
【根拠条文】
行政不服審査法 第25条第1項(執行不停止原則)、第25条第2項(任意的執行停止)、第25条第4項(義務的執行停止)、第25条第6項(補充性)、第25条第7項(処分庁の意見聴取)
【参照条文】
行政事件訴訟法 第25条(執行停止・比較対照のため)
【補足】
義務的執行停止(4項)の要件「重大な損害を避けるために緊急の必要」と「上級庁・処分庁が審査庁」の2条件を押さえる。任意的執行停止(2項)は「必要と認める場合」の緩やかな要件。行訴法との比較が頻出。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 行政不服審査法 第25条(執行停止) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。