行政書士 行政法 問56:行政事件訴訟法の訴訟類型
行政事件訴訟法(以下「行訴法」という)が定める訴訟類型に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア行訴法上の「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいい、取消訴訟・無効等確認訴訟・不作為の違法確認訴訟・義務付け訴訟・差止め訴訟の5種類が法定類型として規定されている。
- イ行訴法上の「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認しまたは形成する処分または裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの、および公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。
- ウ行訴法上の「民衆訴訟」とは、国または公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、法律に定める場合において法律に定める者に限り提起することができる客観訴訟である。
- エ行訴法上の「機関訴訟」とは、国または公共団体の機関相互間における権限の存否またはその行使に関する紛争についての訴訟で、法律に定める場合において法律に定める者に限り提起することができるものをいう。
- オ民衆訴訟および機関訴訟は、行政処分によって権利利益を侵害された者の救済を目的とする主観訴訟である。正答
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オが誤りです。民衆訴訟と機関訴訟は、自己の権利利益の救済を目的とするのではなく、法の適正な執行を確保するための「客観訴訟(客観的訴訟)」です。主観訴訟(自己の権利利益の救済を目的とする訴訟)は抗告訴訟と当事者訴訟です。民衆訴訟(5条)は「国または公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟」であり、自己の個別的権利侵害がなくても提起できる点で客観訴訟に分類されます(選挙人が提起する選挙無効訴訟や住民訴訟が典型例)。機関訴訟(6条)は国または公共団体の機関相互間の権限紛争を裁判所が解決する訴訟であり、これも客観訴訟です。
行訴法の4つの訴訟類型と主観訴訟・客観訴訟の区分:
| 訴訟類型 | 主観/客観 | 特徴 |
|---|---|---|
| 抗告訴訟(3条) | 主観訴訟 | 行政の公権力行使への不服。取消訴訟を中心に法定類型5種 |
| 当事者訴訟(4条) | 主観訴訟 | 公法上の法律関係(処分性のない行政活動への対抗等) |
| 民衆訴訟(5条) | 客観訴訟 | 法規適合性の是正。法律の定めがある場合のみ・限定的 |
| 機関訴訟(6条) | 客観訴訟 | 機関相互間の権限紛争。法律の定めがある場合のみ |
アの補足(抗告訴訟の法定類型): 行訴法3条が規定する法定類型は、①取消訴訟(2項)、②無効等確認訴訟(4項)、③不作為の違法確認訴訟(5項)、④義務付け訴訟(6項)、⑤差止め訴訟(7項)の5種類。これ以外に法定外抗告訴訟(無名抗告訴訟)の可能性も学説・判例上議論されています。アの記述は正しいです。
民衆訴訟の典型例: 公職選挙法上の選挙無効訴訟・当選無効訴訟、地方自治法上の住民訴訟(242条の2)、住民監査請求前置の後に提起するもの。個人の具体的権利侵害がなくても「選挙人」「住民」の資格で提起できる点が主観訴訟と本質的に異なります。
機関訴訟の典型例: 国地方係争処理委員会に不服申立てをした後の国と地方公共団体間の権限紛争(地方自治法251条の5・6)。機関相互間(国 vs 地方)の法的紛争を司法に持ち込む仕組みです。
【主観訴訟と客観訴訟の理論的意義】
主観訴訟と客観訴訟の区別は、行政法学の根本的な論点です。主観訴訟は「自己の権利利益を守るための訴訟」であり、訴える側(原告)が自分の法的利益の侵害を主張することが前提です。一方、客観訴訟は「法秩序の適正な維持・法規の客観的適合性確保」を目的とするものであり、提起者が自己の具体的権利侵害を主張する必要がありません。
日本の行政事件訴訟法が客観訴訟を認めている根拠:民衆訴訟・機関訴訟は本来的に「法律上争訟」(事件性・訴訟性の要件を満たす具体的権利義務紛争)ではない可能性がありますが、行訴法5条・6条が「法律に定める場合において法律に定める者に限り」許容することで、裁判所法3条1項の「法律上の争訟」の外延として政策的に認められています。
主観訴訟(抗告訴訟・当事者訴訟)が原則であることの帰結:原告適格(取消訴訟では9条の「法律上保護された利益を有する者」)の制約は主観訴訟である抗告訴訟に特有の問題です。客観訴訟では原告適格の問題はなく、「法律に定める者」(例:選挙人・住民)という身分の問題になります。
【当事者訴訟の広がり(4条)】
当事者訴訟は「形式的当事者訴訟」と「実質的当事者訴訟」に分かれます。
- 形式的当事者訴訟: 処分または裁決の効力を前提に法律関係を確認・形成する訴訟であって、法令により法律関係の一方を被告とするもの(例:土地収用法における補償金増額訴訟・収用委員会でなく起業者を被告)。
- 実質的当事者訴訟: 公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の訴訟(例:公務員の給与請求訴訟・国籍確認訴訟・生活保護受給権の確認訴訟)。
実質的当事者訴訟は、取消訴訟の法定制度(処分性・原告適格・出訴期間の制約)をくぐり抜けて公法上の権利救済を求める「抜け道」として活用されることがあり、2004年改正で実質的当事者訴訟の規定が明確化されました(4条後段「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」)。
【無名抗告訴訟論:法定外の抗告訴訟の可能性】
行訴法3条は「次の各号に掲げるものをいう」として法定の抗告訴訟5種を列挙しています(列挙型)。これに加えて、法定外の抗告訴訟(無名抗告訴訟・義務付けの訴え・予防的不作為訴訟等)が認められるかどうかは学説上争いがありました。2004年改正で義務付け訴訟・差止め訴訟が法定化されたことで、以前は無名抗告訴訟として議論されていた類型が法定類型に組み込まれました。現在も法定外の抗告訴訟が完全に排除されているかは学説・実務上の論点です。
【2004年改正で法定化された義務付け・差止め訴訟の意義】
2004年改正前は、取消訴訟・不作為違法確認訴訟という「消極的・確認的救済」が中心でした。2004年改正により義務付け訴訟(行政に積極的に処分をさせる訴訟)と差止め訴訟(行政の処分を事前に止める訴訟)が法定化されたことで、行政訴訟の実効性が大幅に向上しました。アで「5種類」とされているのはこの2004年改正後の姿であり、改正前は3種類(取消・無効確認・不作為違法確認)が法定類型でした。
【根拠条文】
行政事件訴訟法 第2条(行政事件訴訟の種類)、第3条(抗告訴訟:5種の法定類型)、第4条(当事者訴訟)、第5条(民衆訴訟)、第6条(機関訴訟)
【補足】
民衆訴訟・機関訴訟は「客観訴訟」(自己の権利利益救済でなく法秩序の適正確保)。抗告訴訟・当事者訴訟は「主観訴訟」。客観訴訟は「法律に定める場合のみ・法律に定める者に限る」という二重の限定付き。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 行政事件訴訟法 第2条(行政事件訴訟)・第3条(抗告訴訟)・第4条(当事者訴訟)・第5条(民衆訴訟)・第6条(機関訴訟) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。