行政書士 憲法 問46:憲法
法人の人権享有主体性に関する次の記述のうち、**最高裁判所の判例・通説の趣旨に照らして正しいもの**はどれか。
- ア憲法の人権規定は「個人」を前提としており、法人はその性質上いかなる人権も享有することができないとするのが判例・通説の立場である。
- イ会社(株式会社)は選挙権・被選挙権を有しないが、政治的意見を公に表明する自由(表現の自由)は法人としての性質に反せず、憲法上保障される余地があるとされている。正答
- ウ法人が人権を享有できるかどうかは、法律(民法・会社法等)が権利能力を認めているかどうかのみによって決まり、憲法上の問題ではない。
- エ放送局が表現・報道活動を行う場合、その自由は放送局の社員・職員たる自然人のみに帰属し、法人としての放送局自体の表現の自由は憲法上保障されない。
- オ宗教法人は宗教活動を目的として設立されるが、法人格を取得した時点でその実体は「個人」ではないため、宗教法人の信教の自由は憲法20条によって一切保護されない。
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法人(会社・団体等)も、権利の性質上可能な限り、憲法上の人権の享有主体になれるというのが判例・通説(性質説)の立場です。八幡製鉄事件(最大判昭45.6.24)は、会社も政治的行為をする自由を有するという前提に立ちます。イは「会社は選挙権を持たないが、政治的意見を表明する表現の自由は保障される余地がある」という内容で、性質説と整合します。アは「いかなる人権も享有できない」という点が誤りです。ウは「民法・会社法のみで決まる」という点が誤りです(憲法上の問題でもある)。エ・オは「一切保護されない」という断定が誤りです。
法人の人権享有主体性については、「性質説」が判例・通説です。権利の性質上、自然人のみに認められる権利(選挙権・被選挙権・生存権等の性質を持つもの)は法人には及ばない一方、性質上法人にも及びうる権利(表現の自由・財産権・適正手続等)は法人にも保障されます。八幡製鉄事件(最大判昭45.6.24)は、会社が政党に政治献金することが、株主の意思に反するとして問題となった事件であり、最高裁は「会社は自然人たる国民と同様、国や政治的ないし社会的活動を行う自由を有する」と判示しました。これはイが示す方向(表現の自由等は法人にも保障される余地)と整合します。選挙権・被選挙権は「権利の性質上」自然人のみを対象とするため法人には及びません(イの「選挙権・被選挙権を有しない」は正しい)が、政治的意見の表明(表現の自由)自体は法人にも及びうるとされます(イが正答)。エについて、放送局の表現・報道の自由については、法人としての放送局自体も憲法21条の保護が及びうると解されています。オについて、宗教法人の信教の自由(宗教活動の自由)も、性質上法人に及びうるものとして保護されると解されています。
【理論的背景】
法人の人権享有主体性は、「文言説(2条・10条の『国民』は自然人のみ指すため法人は除外)」と「性質説(権利の性質に反しない限り法人にも及ぶ)」の対立があります。判例・通説は性質説を採用しており、法人が享有できる権利かどうかは「その権利の性質が法人という存在と矛盾するか否か」によって判断します。八幡製鉄事件(最大判昭45.6.24)は「憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきである」と明示しており、これが日本法における法人の人権享有主体性の基本的な判示です。
【実務・条文構造】
法人に享有が「及ぶもの」と「及ばないもの」の区別は行政書士試験で頻出です。
- 法人に及ぶと解されるもの(例): 表現の自由(21条)、財産権(29条)、適正手続(31条・法人にも手続保障が及ぶ余地)、営業の自由(22条1項・会社等に当然認められる)
- 法人に及ばないもの(例): 選挙権・被選挙権(参政権)、生命・身体の自由(性質上自然人のみ)、婚姻の自由(24条)、生存権(25条)
放送局の場合、報道の自由・取材の自由は報道機関(法人)に帰属するものとして保護されると解されています(博多駅事件・最大決昭44.11.26 参照)。宗教法人の信教の自由については、20条の「宗教団体」という文言が宗教的結合体の自由を一定程度包含しており、法人格を取得した宗教法人にも及ぶと解されています。
【試験での位置づけ】
行政書士試験での法人の人権に関する出題ポイントは次の3つです。①性質説の採用(判例・通説):「権利の性質上可能な限り」法人にも及ぶ。②選挙権等(参政権)は及ばない:自然人固有の権利。③八幡製鉄事件の意義:会社も政治的・社会的活動の自由を有するという判示が基本。典型的な引っかけは「法人には一切の人権が保障されない(ア)」という断定と「法律上の権利能力の有無だけで決まる(ウ)」という条文外の論拠です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 誤り。判例・通説は性質説を採用し、権利の性質上可能な限り法人にも人権保障が及ぶとする。「いかなる人権も享有できない」は誤り。
- イ: 正答。法人(会社)は選挙権・被選挙権という参政権は性質上有しないが、政治的意見の表明や政治的活動の自由(表現の自由の一態様)は、性質上法人にも及びうるものとして保障される余地があるとするのが判例(八幡製鉄事件)・通説の立場。
- ウ: 誤り。法人の人権享有主体性は憲法解釈の問題であり、民法・会社法の権利能力規定のみで決まるものではない。性質説という憲法解釈によって決まる。
- エ: 誤り。放送局(法人)の報道・表現の自由は、法人としての放送局自体にも憲法21条の保護が及ぶと解されている。「自然人のみに帰属する」という断定は誤り。
- オ: 誤り。宗教法人の宗教活動の自由(信教の自由)は、性質上宗教法人という法人にも及びうるとされており、「一切保護されない」という断定は誤り。
【根拠条文】
日本国憲法 第21条(表現の自由)、第20条(信教の自由)、第29条(財産権)
【参照判例】
八幡製鉄政治献金事件(最大判 昭和45年6月24日):法人も性質上可能な限り憲法の人権保障が及ぶ
博多駅事件(最大決 昭和44年11月26日):報道の自由・取材の自由の保障
【補足】
本問は「性質説」の理解と、法人に及ぶ権利・及ばない権利の区別が核心。八幡製鉄事件の「性質上可能な限り」という文言を正確に理解することが重要。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 日本国憲法 第21条(表現の自由)、第3条・第13条(人権の享有主体) 参照: 八幡製鉄政治献金事件(最大判 昭和45年6月24日)の法人の権利能力に関する判示 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。