行政書士 民法 問3:制限行為能力者・取消権・追認
制限行為能力者が行った法律行為の取消しと追認に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア制限行為能力者が行為能力者となった後に、取消しうる行為の目的物を第三者に譲渡した場合、法律上当然に追認したものとみなされる。正答
- イ取消しの効果は将来に向かってのみ生じ、契約締結時に遡って効力を失うものではない。
- ウ制限行為能力を理由とする取消権は、追認できる時から5年間行使しないとき、又は行為の時から20年を経過したときに時効により消滅する。
- エ法定代理人が制限行為能力者の行った取消しうる行為を追認した場合でも、制限行為能力者本人がその後に取り消すことができる。
- オ制限行為能力者が行為能力者となった後に、取消しうる行為から生じた債務の全部を履行した場合、黙示的に追認したものとして取消権が消滅する。
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アが正しいです。民法125条は、追認できる状態になった後に「履行」「履行の請求」「更改」「担保の供与」「取消しうる行為によって取得した権利の全部または一部の譲渡」「強制執行」をした場合には追認したものとみなす(法定追認)と定めており、目的物の第三者への譲渡はこれに含まれます。イは誤りです。取消しは遡及効を持ち(民121条)、行為の時から無効とみなされます。ウは誤りです。取消権の消滅時効は「追認できる時から5年」または「行為の時から20年」ですが(民126条)、時効ではなく「期間の制限」として規定されています(除斥期間とみる有力説)。エは誤りです。有効な追認後は取消権が消滅し、本人も取り消せません。
アが正解です。民法125条の法定追認は、追認できる状態(制限行為能力者が行為能力者になった後、または法定代理人が取消権の存在を知った後)に一定の行為をすることで、当然に追認したものとみなす制度です。同条各号に「取消しうる行為によって取得した権利の全部または一部の譲渡」(5号)が含まれており、目的物を第三者に譲渡した場合はこれに該当し、法定追認が成立します。
イは誤りです。民法121条は「取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす」と定めており、取消しには遡及効(さかのぼって無効とする効力)があります。「将来に向かってのみ」という記述は誤りです。
ウは誤りです。民法126条の「5年・20年」は、条文上「時効によって消滅する」とは規定されておらず、「時効消滅」か「除斥期間」かについては学説上争いがあります(通説・判例は除斥期間に近い取扱い)。なお期間自体はアの論点と独立した問題です。
エは誤りです。法定代理人・保佐人等が追認した場合、取消権は消滅します(民122条)。有効な追認後に本人が改めて取り消すことはできません。追認権者(民120条)のいずれかが追認すれば取消権は消滅する構造です。
オは誤りです。「全部を履行した場合」は確かに法定追認の一事由(民125条1号)ですが、それ自体は正しいです。しかしオは「黙示的に追認したものとして」という理由付けが誤りです(法定追認は黙示の追認ではなく、法律の規定によってみなされるもの)。設問全体の記述は正しいように見えますが、イと対比してみると、法定追認の根拠規定(125条)の理解を問う選択肢として、最も正確な記述であるアを選ぶことになります。
【理論的背景】
取消制度は、取消原因(制限行為能力・意思表示の瑕疵)が存在した状態でなされた法律行為について、事後的に当初から無効とすることができる制度です(形成権としての取消権)。しかしながら、相手方・第三者の法的安定性の観点から、無制限に取消権を認めることは問題があります。そこで民法は、①追認によって取消権の消滅を認め(民122条)、②一定の行為があった場合に追認を擬制し(民125条・法定追認)、③一定期間の経過によって取消権を消滅させる(民126条)という三層の安定化制度を設けています。
【条文構造】
法定追認(民125条)の要件を整理します。
「追認できる時以後に」次の行為があった場合に法定追認が成立します。
1号:全部または一部の履行
2号:履行の請求
3号:更改
4号:担保の供与
5号:取消しうる行為によって取得した権利の全部または一部の譲渡(本問アの根拠)
6号:強制執行
法定追認が成立するためには、「追認できる状態」(行為能力者になった後、または法定代理人等が取消権の存在を知った後)であることが必要です。制限行為能力者の状態中に目的物を譲渡しても法定追認は成立しません(追認できる時以後でないため)。また、異議をとどめてした場合(民125条ただし書)は法定追認が成立しないとされます。
取消権の期間制限(民126条)については、「追認できる時から5年間行使しないとき」または「行為の時から20年を経過したとき」に取消権が消滅します。条文上は「時効によって消滅する」と規定されていますが、取消権は形成権であり時効の更新等を認めるのは適当でないことから、これらの期間(特に20年)の性質を除斥期間と解する見解が学説上有力です(争いがあり、確立した最高裁判例による断定は避けるべき領域)。本問ウの「時効により消滅する」という表現は、この性質論の対立を踏まえると不正確と評価できます。
【試験での位置づけ】
本論点は「取消しの効果(遡及的無効 vs. 将来効)」と「法定追認の事由」が頻出です。特に遡及効(民121条)は売買・贈与問題との絡みで出題されます。取り消された場合の原状回復については民法121条の2が規律しており(改正で明文化)、「給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う」という現行規律を押さえておく必要があります。
また、取消権者の範囲(民120条)も頻出です。制限行為能力を理由とする取消権者は「制限行為能力者本人・その代理人・承継人・同意をすることができる者」です。「相手方も取消権者」という誤りに注意が必要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正答。民法125条5号が根拠。「行為能力者となった後」という「追認できる時以後」の要件も充足している点がポイント。
- イ: 民121条「初めから無効であったものとみなす」が根拠。遡及効により、例えば代金を受領していた場合には不当利得として返還義務が生じる(民121条の2による原状回復義務)。
- ウ: 民126条は条文上「時効によって消滅する」と規定するが、取消権(形成権)の性質から、特に「行為の時から20年」の期間を除斥期間と解する学説が有力で争いがある。条文の期間の起算点(「追認できる時から5年」「行為の時から20年」)の理解が重要。
- エ: 追認権者(民120条)が一度追認すると取消権は消滅し、本人も含め誰も取り消せない。これは法的安定性の確保のためであり、「追認は撤回できない」という原則(民124条4項参照)と合わせて理解する。
- オ: 法定追認の法的性質は「みなす(擬制)」であり、「黙示の追認」とは区別される。黙示の追認は意思表示としての追認(民122条・124条)であり、法定追認(民125条)は意思の有無にかかわらず一定の行為があれば法律上当然に追認効果が発生する。
【根拠条文】
民法 第120条(取消権者)、第121条(取消しの効果)、第121条の2(原状回復の義務)、第122条(取消しうる行為の追認)、第124条(追認の要件等)、第125条(法定追認)、第126条(取消権の期間の制限)
【補足】
民法121条の2は2020年4月施行の債権法改正で明文化された原状回復規定。「給付を受けた物の返還義務」「代金等相当額の返還義務」が明確に規定された。改正前後の違いを意識すること。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第121条(取消しの効果)、第122条・第125条(追認)、第126条(取消権の期間の制限) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。