衛生管理者 労働生理 問18:消化吸収・代謝
基礎代謝量(BMR)に影響する因子に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア一般に、基礎代謝量は体表面積に比例して大きくなり、同じ体重でも体表面積が大きい人の方が基礎代謝量が高い傾向がある。
- イ甲状腺ホルモン(サイロキシン)は全身の代謝を促進する作用を持ち、甲状腺機能亢進症では基礎代謝量が増加し、甲状腺機能低下症では基礎代謝量が減少する。
- ウ体温が1℃上昇すると基礎代謝量は約13%増加するとされており、発熱時には基礎代謝量が増加する。
- エ基礎代謝量は20〜30歳代に最も高く、加齢とともに増加し続ける傾向がある。正答
- オ一般に、男性の基礎代謝量は体重・体表面積が等しくても女性より高い傾向があり、これは主に筋肉量の差によるものとされている。
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誤りはエです。基礎代謝量は加齢とともに低下します(増加し続けるは誤り)。基礎代謝量が最も高いのは乳幼児期(体重あたりで最大)あるいは10代後半〜20代前半頃で、その後は年齢とともに徐々に低下していきます。加齢による筋肉量の減少(サルコペニア)・ホルモン分泌の変化が主な原因です。「20〜30代に最も高く加齢とともに増加」という記述の後半「増加」が誤りです。
その他の選択肢はすべて正確です。基礎代謝量は体表面積に比例(ア)、甲状腺ホルモンが代謝を促進(イ)、体温1℃上昇で約13%増加(ウ)、男女差は筋肉量の差による(オ)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 基礎代謝量は体重より体表面積との相関が強いとされています。体表面積は高さ×幅の面積を示す概念で(デュボワの体表面積計算式等)、体温を体表面から放散する熱と関連します。体重が同じでも身長が高い(体表面積が大きい)人の方が、単位時間の熱放散が多いため基礎代謝量が高くなる傾向があります。
- イ(正): 甲状腺ホルモン(T₃・T₄)は細胞の酸素消費・エネルギー産生を全身レベルで促進します。甲状腺機能亢進症(バセドウ病等)では基礎代謝量が増加→体重減少・発汗・動悸・手の震えなどの症状。甲状腺機能低下症(橋本病等)では基礎代謝量が低下→体重増加・浮腫・低体温・便秘などの症状。
- ウ(正): 化学反応速度は温度が10℃上昇すると約2〜3倍になるとされますが、体温の生理的変化(1℃程度)では約10〜15%の代謝増加が生じます。発熱時に食欲が低下しても体重が落ちやすい理由の一つです。
- エ(誤): 基礎代謝量は乳幼児期(体重kg当たりで最大)から成長に伴い変化し、成人期(20〜30代)にピークを過ぎた後、加齢とともに低下します。60代以降は特に低下が顕著で、加齢に伴う筋肉量減少(サルコペニア)・ホルモン低下(成長ホルモン・性ホルモン等)が主因です。「増加し続ける」は誤りです。
- オ(正): 体重・体表面積が等しくても、男性の方が女性よりも筋肉量が多い傾向があります。筋肉組織は脂肪組織と比較して代謝活性が高い(安静時でも多くのエネルギーを消費する)ため、男性の基礎代謝量が女性より高くなります。
【理論的背景】
基礎代謝量(BMR: Basal Metabolic Rate)は「生命維持に必要な最小限のエネルギー消費量」であり、体温維持・心拍・呼吸・脳活動・細胞修復など不随意な生理機能に使われるエネルギーです。1日の総エネルギー消費量の約60〜70%を占め、体重管理・生活習慣病予防において極めて重要な指標です。
BMRの決定因子と加齢変化の詳細:
| 因子 | BMRへの影響 | 方向 |
|---|---|---|
| 体表面積 | 正の相関 | 体表面積↑→BMR↑ |
| 性別 | 男性>女性(体表面積調整後) | 筋肉量の差による |
| 年齢 | 乳幼児期に体重あたり最大・成人後は加齢で低下 | 加齢→BMR↓ |
| 甲状腺ホルモン | 亢進でBMR↑・低下でBMR↓ | 代謝促進/抑制作用 |
| 体温 | 1℃上昇で約13%増加 | 体温↑→BMR↑ |
| 筋肉量 | 筋肉量↑→BMR↑ | 筋肉は代謝活性が高い |
| 副腎皮質ホルモン(コルチゾール) | 過剰でBMR↑ | 糖新生・タンパク異化促進 |
| 成長ホルモン | BMR↑(タンパク合成・脂質代謝促進) | 成長・代謝促進 |
加齢によるBMR低下のメカニズム:
1. 骨格筋量の低下(サルコペニア): 加齢とともに筋肉量が減少(筋タンパク合成低下・利用の減少)→代謝活性の高い筋肉組織が減る
2. ホルモン変化: 成長ホルモン・テストステロン・エストロゲンの分泌低下→筋肉量维持の障害
3. 臓器機能の低下: 肝臓・腎臓等の代謝臓器の機能低下
4. ミトコンドリア機能の低下: 細胞レベルでのエネルギー産生効率の低下
【実務・条文構造】
職場の健康管理とBMR・エネルギー代謝の実際:
推定エネルギー必要量の計算:
- 推定エネルギー必要量 = BMR × 身体活動レベル(PAL)
- PAL: 低い(1.5)= 座位中心の生活、普通(1.75)= 座位中心だが立位・歩行も含む、高い(2.0)= 移動・立位・重労働が中心
- デスクワーク中心のオフィスワーカー(PAL=1.5)vs 重量物取扱作業者(PAL=2.0以上)では必要カロリーが大きく異なる
エネルギー産生とMETs(代謝当量):
- 1MET = 安静座位時のエネルギー消費量(約1 kcal/kg/時間)
- 労働のMETs: デスクワーク≒1.5〜2.0METs、歩行(4km/h)≒3METs、重量物取扱≒4〜6METs
- 熱中症リスク評価: 高温環境での作業はMETs×温度負荷で実際の代謝が大幅に増加
肥満・体重管理と代謝:
- 筋肉量を維持・増加させることでBMRを高く保つ→体重管理に有利
- 過度な食事制限(超低カロリー食)は筋肉量を減らしBMRを低下させる悪循環を生む
- 職場での健康増進:適切な栄養教育 + 運動習慣(筋肉量維持のための筋トレ・有酸素運動の組合せ)
【試験での位置づけ】
基礎代謝量問題では「体表面積が重要(体重より)」「甲状腺ホルモンが代謝を促進(亢進でBMR↑・低下でBMR↓)」「体温1℃上昇で約13%増加」「加齢でBMRは低下(増加しない)」「男性>女性は筋肉量の差による」が最頻出です。エのような「加齢でBMRが増加」という逆転した記述は典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: デュボワの体表面積計算式: BSA = 0.007184 × 体重(kg)^0.425 × 身長(cm)^0.725。現代ではBMIが体重管理の指標として広く使われますが、代謝評価には体表面積(または除脂肪体重)が適切です。BMIは体脂肪率と必ずしも一致せず、同じBMIでも筋肉質な人(代謝高い)と肥満の人(代謝低い)では健康状態が異なります。
- イ: 甲状腺ホルモンの職業医学的重要性: 職場のストレス・過重労働→下垂体−甲状腺軸への影響→甲状腺機能の変動。甲状腺機能低下症は「疲れやすさ・集中力低下・寒がり・体重増加」など非特異的症状が多く、職場での見落としが多い疾患です。健康診断では通常甲状腺機能検査(TSH・FT₃・FT₄)は含まれませんが、症状がある場合には医師への受診を勧める必要があります。
- エ: 筋肉量と代謝の関係を数値で理解すると: 骨格筋の安静時酸素消費量は約6 mL O₂/100g/分、脂肪組織は約2 mL O₂/100g/分(約3分の1)。筋肉量が10kg多ければ、それだけで1日あたり約120kcalの追加消費が見込まれます(体重×0.012 kcal/min のような計算の例)。筋肉量の維持がなぜ体重管理に重要かの数値的根拠です。
- オ: 女性のライフサイクルと代謝変化: 月経周期(黄体期にBMRが約8〜10%上昇)・妊娠(BMR増加)・更年期(エストロゲン低下→筋肉量低下→BMR低下)とBMRが変動します。閉経後の体重増加は「食べ過ぎ」だけでなく、BMRの低下が大きな原因であることを衛生管理者として理解しておくことが重要です。
【根拠】医学的事実(確立した生理学)。基礎代謝量が加齢とともに低下すること・体表面積・甲状腺ホルモン・体温・筋肉量との関係は代謝生理学の基礎概念として確立。
【補足】BMRは加齢とともに低下(増加ではない)。体表面積・甲状腺ホルモン・体温・筋肉量が重要な規定因子。体温1℃上昇で約13%BMR増加。男性>女性は筋肉量の差による。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。基礎代謝量は加齢とともに低下(増加ではない)する。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。