衛生管理者 労働生理 問27:神経・筋
自律神経系の働きに関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア交感神経が活性化すると心拍数が増加・血圧が上昇し、気道(気管支)が拡張して換気量が増加する。これはストレスや運動時の「闘争か逃走」反応の一部である。
- イ副交感神経(迷走神経が主要な神経)が活性化すると、心拍数が低下し、消化管の蠕動運動が促進されて消化液の分泌が増加する。
- ウ交感神経は皮膚・内臓の血管を収縮させる方向に働くが、骨格筋の血管に対してはアドレナリン(β₂受容体)を介して拡張させる作用も持つ。
- エ副交感神経は瞳孔を散大(拡大)させ、遠方を見るときに活性化される。正答
- オ自律神経系は交感神経と副交感神経が拮抗して多くの臓器を二重支配し、安静時は副交感神経優位、活動・ストレス時は交感神経優位となる。
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誤りはエです。瞳孔を「散大(拡大)させる」のは交感神経の作用です(副交感神経ではありません)。副交感神経が活性化すると瞳孔は縮小(縮瞳)します。暗い場所(交感神経優位)では瞳孔が散大して光を多く取り込み、明るい場所(副交感神経優位)では縮瞳して光量を調節するのが正しい方向です。「副交感神経が遠方を見るときに活性化」という記述も誤りで、近くを見るときに毛様体筋が収縮・水晶体が厚くなる(副交感神経)が正しいです。
その他の選択肢はすべて正確です。交感神経→心拍数増加・気管支拡張(ア)、副交感神経→心拍数低下・消化促進(イ)、骨格筋血管のβ₂受容体拡張(ウ)、二重支配・拮抗作用(オ)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 交感神経(「闘争か逃走」反応)の主要な効果: 心拍数・心収縮力↑(β₁受容体)、血圧↑、気管支拡張(β₂受容体→平滑筋弛緩)→換気量↑、骨格筋血流↑、肝臓でのグリコーゲン分解↑(アドレナリン・ノルアドレナリン作用)。これらはいずれも身体活動・危機対応に適した変化です。
- イ(正): 副交感神経(「休息・消化」反応)の主要な効果: 心拍数低下(M₂受容体)、消化管蠕動促進・消化液(胃液・膵液・唾液等)分泌増加(M₁・M₃受容体)、排尿促進、縮瞳(M₃受容体)、気管支収縮(M₃受容体)。
- ウ(正): 骨格筋血管への二重作用は重要な知識です。ノルアドレナリン(交感神経末梢から放出)→α₁受容体→血管収縮。アドレナリン(副腎髄質から分泌)→β₂受容体(骨格筋血管に多い)→血管拡張。運動時には副腎髄質からのアドレナリン増加→β₂作用で骨格筋血管拡張→骨格筋への血流増加が促進されます。
- エ(誤): 瞳孔の調節が逆です。 交感神経→瞳孔散大筋(虹彩の放射状筋)収縮→散瞳(瞳孔拡大)。副交感神経(動眼神経を介した毛様体神経節)→瞳孔括約筋(輪状筋)収縮→縮瞳(瞳孔縮小)。さらに調節(近くを見る)は副交感神経→毛様体筋収縮→水晶体が厚くなる(近くに焦点)。「遠方を見るときに副交感神経」という部分も逆(遠方を見るときは毛様体筋弛緩→水晶体が薄くなる=交感神経優位の弛緩状態)。
- オ(正): 自律神経系の拮抗的な二重支配の正確な記述。多くの臓器(心臓・消化管・気管支・瞳孔等)は交感・副交感の両方によって支配されており、状況に応じてバランスが変化します。
【理論的背景】
自律神経系は「自らの意思によらず(自律的に)」内臓・血管・腺を制御する神経系です。交感神経と副交感神経は多くの臓器で拮抗的に作用し、体の「準備モード(闘争・逃走)」と「回復モード(休息・消化)」のバランスを調節します。
自律神経系の体系整理:
| 効果器官 | 交感神経 | 副交感神経 |
|---|---|---|
| 心臓(拍動数) | 増加(β₁) | 低下(M₂) |
| 心臓(収縮力) | 増加(β₁) | 低下(M₂) |
| 冠動脈 | 拡張(β₂) | 軽度収縮 |
| 皮膚・内臓血管 | 収縮(α₁) | 支配なし(一部拡張) |
| 骨格筋血管 | 収縮(α₁)・拡張(β₂) | 軽度拡張 |
| 気管支 | 拡張(β₂) | 収縮・分泌↑(M₃) |
| 消化管蠕動 | 抑制(α₁・β₁) | 促進(M₃) |
| 消化液分泌 | 抑制 | 促進(M₁・M₃) |
| 瞳孔 | 散大(α₁:散大筋収縮) | 縮小(M₃:括約筋収縮) |
| 水晶体(調節) | 遠方(毛様体筋弛緩) | 近方(毛様体筋収縮・M₃) |
| 発汗 | 促進(コリン作動性交感神経) | なし |
| 立毛筋 | 収縮(寒毛立ち) | なし |
| 膀胱(排尿筋) | 弛緩(β₃) | 収縮→排尿促進(M₃) |
| 内尿道括約筋 | 収縮→尿閉(α₁) | 弛緩→排尿(M₃) |
| 副腎髄質 | アドレナリン・ノルアドレナリン分泌 | 支配なし |
自律神経の伝達物質:
- 交感神経節後線維→ノルアドレナリン(例外: 汗腺へはアセチルコリン)
- 副交感神経節後線維→アセチルコリン(ムスカリン受容体に作用)
- 全ての自律神経節前線維→アセチルコリン(ニコチン受容体に作用)
【実務・条文構造】
薬物と自律神経系(産業医学的に重要な薬物の副作用):
交感神経作動薬(アドレナリン・ノルアドレナリン類似物質):
- β₂刺激薬(気管支拡張薬: サルブタモール等)→気管支拡張(喘息治療)、骨格筋血管拡張(副作用:頻脈・振戦)
- α₁刺激薬(鼻づまりの内服薬: プソイドエフェドリン等)→鼻粘膜血管収縮(充血緩和)、副作用:高血圧・頻脈
- 作業適性評価: 交感神経作動薬服用中の労働者(高温環境作業・運転業務等)の適性確認が重要
副交感神経遮断薬(抗コリン薬):
- アトロピン・スコポラミン・抗ヒスタミン薬の多く→M受容体遮断
- 副作用:口渇・排尿困難・便秘・眩暈・散瞳(眼圧上昇リスク)・頻脈
- 職場の安全: 抗コリン薬を服用している労働者が精密作業・高所作業・運転をする場合は副作用(散瞳・眩暈・口渇)に注意
有機リン系農薬中毒(コリンエステラーゼ阻害)の副交感神経過活動症状:
- SLUDGE症状: Salivation(唾液過多)・Lacrimation(流涙)・Urination(頻尿)・Defecation(下痢)・GI distress・Emesis(嘔吐)
- さらに縮瞳・気管支収縮(呼吸困難)・徐脈・意識障害
- 解毒: アトロピン(抗コリン薬)でM受容体遮断→副交感神経過活動を抑制
【試験での位置づけ】
自律神経問題では「交感神経→散瞳・副交感神経→縮瞳(逆は誤り)」「副交感神経→心拍数低下・消化促進(副交感が心拍数を増加は誤り)」「交感神経→気管支拡張(副交感→気管支収縮)」「発汗は交感神経支配(コリン作動性)」が最頻出です。エのような「副交感神経が瞳孔散大」という誤りは交感・副交感の役割を入れ替えた典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 「闘争か逃走(Fight or Flight)」反応の実用例: 職場でのパワハラ・激しいプレッシャー→慢性的な交感神経亢進→高血圧・頻脈・不眠・消化不良。これが「過重労働・ストレスが心疾患を引き起こす」生理学的メカニズムです。衛生管理者は慢性ストレス曝露の労働者の血圧・心拍変動をモニタリングすることが重要です。
- エ: 散瞳と縮瞳の臨床的利用: 眼科での散瞳検査(眼底検査)ではアトロピン(副交感遮断薬)を点眼して散瞳させます。急性緑内障では散瞳すると前房角が閉塞→眼圧急上昇→激しい頭痛・嘔吐・視力低下(緑内障発作)。抗コリン薬が急性緑内障の禁忌である理由がこれです。
- ウ: 運動時の骨格筋血管拡張の機序は多段階です: ①代謝産物(CO₂・H⁺・K⁺・アデノシン・NO)の局所産生→血管平滑筋直接弛緩(最も重要)②アドレナリン(副腎髄質)→β₂受容体→拡張③交感神経の相対的な抑制。①の代謝産物による局所拡張が最も大きな割合を占め、運動強度に比例して骨格筋血流は増加します。
【根拠】医学的事実(確立した生理学)。副交感神経が縮瞳を起こす(散大ではない)こと・交感神経が散瞳を起こすこと、各臓器に対する交感・副交感神経の拮抗作用は自律神経生理学の基礎概念として確立。
【補足】瞳孔散大は交感神経の作用(副交感神経は縮瞳)。副交感神経→心拍数低下・消化促進・縮瞳。交感神経→心拍数増加・気管支拡張・散瞳・血圧上昇。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。瞳孔散大は交感神経の作用(副交感神経は縮瞳)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。