衛生管理者 労働生理 問35:感覚器・内分泌
甲状腺ホルモンおよび副腎髄質ホルモン(アドレナリン・ノルアドレナリン)に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア甲状腺ホルモン(チロキシンT4・トリヨードチロニンT3)は基礎代謝を抑制し、体温を低下させる作用を持つ。
- イ甲状腺機能亢進症(バセドウ病)では、甲状腺ホルモンの過剰分泌により、体重増加・むくみ・無気力・寒がりという症状が現れる。
- ウ副腎髄質ホルモン(アドレナリン)は交感神経が興奮したときに副腎髄質から分泌され、心拍数増加・血圧上昇・気管支拡張・血糖上昇をもたらす。正答
- エノルアドレナリンはアドレナリンと比べて、心拍数増加作用(β₁刺激)は強いが、末梢血管収縮作用(α作用)は弱い。
- オ甲状腺ホルモンの産生にはカルシウムが必要であり、ヨウ素(ヨード)は甲状腺ホルモンの合成とは直接関係がない。
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正しいのはウです。アドレナリン(エピネフリン)は副腎髄質から分泌され、心拍増加・血圧上昇・気管支拡張・血糖上昇をもたらします。「戦うか逃げるか(fight-or-flight)」反応の中心的ホルモンです。
各誤りの要点: ア→甲状腺ホルモンは代謝を促進し体温を上昇させる(「抑制・低下」は誤り)。イ→バセドウ病の症状は体重減少・動悸・眼球突出・暑がりであり、選択肢に挙げた症状は甲状腺機能低下症のもの。エ→ノルアドレナリンはアドレナリンより末梢血管収縮(α作用)が強く、心拍増加(β₁)は弱い(逆)。オ→甲状腺ホルモンの合成にはカルシウムではなくヨウ素が必須。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 甲状腺ホルモン(T3・T4)は基礎代謝を促進し体温を上昇させます。全細胞のミトコンドリアでのATP産生(酸化的リン酸化)を促進し、熱産生を高めます。「代謝抑制・体温低下」は甲状腺機能低下症(橋本病等)の所見です。
- イ(誤): バセドウ病(甲状腺機能亢進症)の症状は甲状腺ホルモン過剰による基礎代謝の亢進が原因です。正しい症状は体重減少・動悸(頻脈)・発汗増加・暑がり・手指振戦・眼球突出(プロプトーシス)・甲状腺腫大です。選択肢の「体重増加・むくみ・無気力・寒がり」は甲状腺機能低下症の症状です。
- ウ(正): 副腎髄質は交感神経の興奮(CRH→ACTH→とは別経路で、直接の交感神経節前線維支配)により、アドレナリン(約80%)とノルアドレナリン(約20%)を分泌します。アドレナリンはα・β₁・β₂受容体に作用し、心拍増加(β₁)・血圧上昇(α₁・β₁)・気管支拡張(β₂)・血糖上昇(肝グリコーゲン分解促進・β₂)をもたらします。
- エ(誤): ノルアドレナリンはアドレナリンよりα作用(末梢血管収縮)が強く、β₁作用(心拍増加)はアドレナリンより弱いです。したがってノルアドレナリン→血管収縮→血圧上昇が主で、心拍数はβ₁刺激が弱い分、むしろ反射性徐脈が起きることがあります。
- オ(誤): 甲状腺ホルモンの合成にはヨウ素(ヨード)が必須です。甲状腺はヨウ素を積極的に取り込み(ヨウ素トラップ)、甲状腺ペルオキシダーゼによってチログロブリンのチロシン残基にヨウ素を結合させてT3・T4を合成します。ヨウ素欠乏→甲状腺腫(発展途上国での「クレチン病」の原因)。カルシウムは骨代謝・血液凝固・神経・筋の機能と関連し、甲状腺ホルモン合成には直接関与しません。
【理論的背景】
甲状腺ホルモンと副腎髄質ホルモン(カテコールアミン)はともに「代謝亢進・交感神経様作用」を持ちますが、産生部位・化学的性質・作用機序が全く異なります。
甲状腺ホルモンの合成と分泌:
1. 下垂体前葉からTSH(甲状腺刺激ホルモン)分泌(TRHで調節)
2. TSH→甲状腺の濾胞細胞を刺激→チログロブリン合成
3. 血中からヨウ素(I⁻)を積極的に取り込み(NIS:ナトリウムヨウ素共輸送体)
4. 甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)でヨウ素を活性化→チロシン残基に結合
5. モノヨードチロシン(MIT)・ジヨードチロシン(DIT)が結合→T3(MIT+DIT)・T4(DIT+DIT)
6. T4は末梢組織でデヨードナーゼにより活性型T3に変換(T3の方が活性が約4倍高い)
甲状腺ホルモンの細胞内作用(核内受容体型):
- T3が細胞膜を通過(脂溶性)→核内受容体(TR)に結合→標的遺伝子の転写調節→タンパク質合成
- 作用発現まで数時間〜数日かかる(ステロイドホルモンと類似)
- 主な作用: 基礎代謝率(BMR)上昇・体温上昇・心拍出量増加・成長と発達促進(特に脳・骨)・腸管蠕動促進
副腎髄質カテコールアミン(アドレナリン・ノルアドレナリン・ドパミン):
- 前駆体: チロシン→DOPA→ドパミン→ノルアドレナリン→(+メチルトランスフェラーゼ)→アドレナリン
- 化学的性質: 水溶性(アミン型)→膜受容体(G タンパク質共役受容体)に作用→細胞内セカンドメッセンジャー(cAMP)経由→即効性
アドレナリン vs ノルアドレナリンの受容体選択性比較:
| 受容体 | 主な部位 | アドレナリン | ノルアドレナリン |
|---|---|---|---|
| α₁ | 末梢血管(収縮) | 中等度 | 強い |
| α₂ | シナプス前膜(抑制的) | 中等度 | 強い |
| β₁ | 心筋(心拍増加・収縮力増加) | 強い | 中等度(弱い) |
| β₂ | 気管支平滑筋(拡張) | 強い | 弱い |
| β₃ | 脂肪組織(脂肪分解) | 中等度 | 弱い |
【実務・条文構造】
職場での甲状腺疾患・カテコールアミン関連の産業保健:
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の職場での影響:
- 頻脈・不整脈→心疾患リスク→激しい肉体労働への適性評価が必要
- 手指振戦→精密作業・機械操作に影響
- 眼球突出→VDT作業・乾燥環境での目の疲れ
- 治療中の放射性ヨウ素(131I)服用後の職場復帰タイミング→放射線管理上の考慮
褐色細胞腫(カテコールアミン産生腫瘍)の職場リスク:
- 副腎髄質(または傍神経節)の腫瘍によりアドレナリン・ノルアドレナリンが過剰産生
- 発作性高血圧・頭痛・動悸・発汗→作業中の突然の症状→高所作業・機械操作中の発症が危険
- 高所作業・危険機械取扱い者の定期健康診断での高血圧管理が重要
【試験での位置づけ】
甲状腺ホルモン・副腎髄質ホルモンの問題では「甲状腺ホルモン=代謝促進・体温上昇・合成にヨウ素必須」「バセドウ病=体重減少・頻脈・暑がり(機能低下症の症状と逆)」「アドレナリン=心拍増加・気管支拡張・血糖上昇(β₁・β₂)」「ノルアドレナリン=末梢血管収縮(α作用)がより強い」が頻出です。イの誤りは「機能亢進症・低下症の症状の入れ替え」という典型的な引っかけで、亢進症(代謝UP→痩せる・暑がり・動悸)と低下症(代謝DOWN→太る・寒がり・無気力)の対比を確実に覚えておく必要があります。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 甲状腺ホルモンの「基礎代謝亢進」の実臨床的応用として、甲状腺機能低下症の患者にレボチロキシン(合成T4製剤)を補充すると体重減少・活力回復・体温上昇が起きます。逆に、甲状腺機能亢進症の治療(チアマゾール等による甲状腺ホルモン産生抑制)では体重増加・倦怠感(一時的)が起きることがあります。
- イ: 橋本病(慢性甲状腺炎)は自己免疫疾患で甲状腺が破壊され機能低下します。日本人女性に多く(男性の7〜10倍)、職場定期健診で発見されることがあります。TSHが上昇し(下垂体が甲状腺を刺激)、FT4・T3が低下します。
- エ: アドレナリンとノルアドレナリンの違いを利用した薬物: ①敗血症性ショック治療の第一選択はノルアドレナリン(末梢血管収縮→血圧維持)②アナフィラキシーショック治療の第一選択はアドレナリン(気管支拡張・心収縮力増加・末梢血管収縮の総合効果)③心停止蘇生時にも静脈内アドレナリン投与。衛生管理者としてアナフィラキシーへのアドレナリン自己注射(エピペン)の重要性を理解しておくことが望ましい。
- オ: ヨウ素欠乏は世界的な公衆衛生問題で、内陸部・山岳地帯の住民に多い。海藻・海産物が豊富な食生活(日本の食文化)はヨウ素摂取に有利。放射性ヨウ素(131I)は甲状腺に選択的に取り込まれる性質を利用して、甲状腺がんの診断・治療・バセドウ病治療に使用されます。
【根拠】医学的事実(確立した生理学・内分泌学)。アドレナリンの受容体別作用・甲状腺ホルモンの代謝促進・バセドウ病と甲状腺機能低下症の症状の違いは内分泌学の基礎概念として確立。
【補足】甲状腺ホルモン=代謝促進・体温上昇・ヨウ素が合成に必須。バセドウ病は体重減少・頻脈・暑がり(機能低下症と逆)。アドレナリン=心拍増加・気管支拡張・血糖上昇。ノルアドレナリン=α(末梢血管収縮)がより強い。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学・内分泌学)。アドレナリンの交感神経模倣作用(心拍増加・血圧上昇・気管支拡張・血糖上昇)は確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。