労働生理47神経・筋

衛生管理者 労働生理 問47:神経・筋

シナプス伝達および神経伝達物質に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • シナプスとは神経細胞間の接合部であり、神経インパルス(活動電位)はシナプスを介して化学的に(神経伝達物質を介して)伝達される。電気シナプスでは細胞間を電流が直接流れる場合もある。
  • アセチルコリン(ACh)は骨格筋神経筋接合部・副交感神経末端で放出される。骨格筋接合部ではニコチン受容体(NR)に結合して筋収縮を起こし、有機リン系農薬はコリンエステラーゼを阻害してAChを蓄積させる。
  • ドパミンは中脳の黒質から線条体に投射する(黒質線条体路)ほか、側坐核に投射する報酬系(メソリンビック系)にも関与する。パーキンソン病は黒質のドパミン神経細胞の選択的な変性・脱落によって生じる。
  • GABAはグルタミン酸と同様に中枢神経系の主要な興奮性神経伝達物質であり、GABA受容体への結合によって神経細胞が活性化される。正答
  • セロトニンは主に縫線核(raphe nucleus)から産生・分泌され、感情・気分・睡眠・食欲に関与する。SSRIはセロトニンの再取り込みを阻害してシナプス間隙のセロトニン濃度を高めることで抗うつ効果を発揮する。
正答:GABAはグルタミン酸と同様に中枢神経系の主要な興奮性神経伝達物質であり、GABA受容体への結合によって神経細胞が活性化される。

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誤りはエです。「GABAはグルタミン酸と同様に興奮性神経伝達物質」という部分が誤りです。GABAは中枢神経系の主要な抑制性神経伝達物質で、神経細胞の活動を抑制します(グルタミン酸は興奮性)。GABAとグルタミン酸は反対の作用を持つ重要な対概念です。GABAはベンゾジアゼピン系薬(睡眠薬・抗不安薬)の標的でもあります(GABAA受容体の作用を増強する)。

その他の選択肢は正しい内容です。シナプスの化学的伝達・電気シナプス(ア・正)。アセチルコリンとニコチン受容体・有機リン系農薬の機序(イ・正)。ドパミンの黒質線条体路・報酬系・パーキンソン病(ウ・正)。セロトニンの縫線核・気分・SSRI(オ・正)。

標準試験対策の基準レベル

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): 化学シナプスの伝達: 活動電位→シナプス前終末へ到達→Ca²⁺流入→シナプス小胞が細胞膜と融合(開口分泌)→神経伝達物質がシナプス間隙に放出→後シナプス受容体に結合→イオンチャネル開口→膜電位変化(興奮性または抑制性)。電気シナプス(ギャップジャンクション): 細胞間を直接電流が流れる→伝達が高速・同期性が高い(心筋等に存在)。
  • イ(正): 有機リン中毒(農薬・サリン等)の機序: コリンエステラーゼ(AChEase)を不可逆的に阻害→ACh蓄積→全身のコリン作動性受容体(ムスカリン受容体+ニコチン受容体)が過剰に刺激される。症状: SLUDGE(分泌過多・縮瞳・徐脈・痙攣・気管支収縮)+骨格筋の過剰収縮→痙攣→呼吸筋麻痺→死亡。解毒薬: アトロピン(ムスカリン受容体拮抗)+PAM(コリンエステラーゼ復活)。
  • ウ(正): ドパミンの主要な神経回路と疾患への関連: ①黒質線条体路(運動調節): 欠損→パーキンソン病(振戦・固縮・無動・姿勢反射障害)。②中脳辺縁系(報酬系・動機付け): 過活動→統合失調症の陽性症状・薬物依存。③中脳皮質系(認知・実行機能): 低下→統合失調症の陰性症状・認知機能障害。
  • エ(誤): GABA(γ-アミノ酪酸)は中枢神経系の主要な抑制性神経伝達物質です(神経細胞の活動を抑制→Cl⁻流入→過分極)。グルタミン酸は主要な興奮性神経伝達物質(Na⁺・Ca²⁺流入→脱分極→興奮)。「GABAがグルタミン酸と同様に興奮性」は誤りです。GABA作動薬(ベンゾジアゼピン・バルビツール酸系): 鎮静・抗不安・睡眠誘導・抗てんかん。グルタミン酸過剰(興奮毒性・excitotoxicity): 脳虚血・てんかん発作での神経細胞死の原因。
  • オ(正): セロトニン(5-HT: 5-ヒドロキシトリプタミン)は腸管神経系(腸の蠕動・嘔気の制御)にも多く存在します(全身のセロトニンの約90%が消化管)。脳内のセロトニン不足→うつ病・不安障害のリスク。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬): フルオキセチン・パロキセチン・セルトラリン等。副作用: 消化器症状(悪心)・性機能障害・セロトニン症候群(大量・過量で)。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

中枢神経系の神経伝達物質には、興奮性と抑制性の2大カテゴリーがあります。

主要な神経伝達物質の分類と役割:

| 神経伝達物質 | 種類 | 主な産生部位 | 主な作用・関連疾患 |

|---|---|---|---|

| グルタミン酸 | 興奮性(アミノ酸) | 広く分布 | 学習・記憶・てんかん・脳虚血障害 |

| GABA | 抑制性(アミノ酸) | 介在ニューロン | 抗不安・催眠・抗てんかん(BZP作用点) |

| アセチルコリン | 混合(モノアミン) | 脳幹・前脳基底核 | 記憶(アルツハイマー)・自律神経・NMJ |

| ドパミン | モノアミン(カテコールアミン) | 黒質・VTA | 運動(パーキンソン)・報酬・統合失調症 |

| ノルアドレナリン | モノアミン(カテコールアミン) | 青斑核(LC) | 注意・覚醒・うつ病・ADHD |

| セロトニン | モノアミン(インドールアミン) | 縫線核 | 気分・睡眠・食欲・うつ病 |

| エンドルフィン等 | ペプチド | 各所 | 鎮痛・報酬・ストレス応答 |

GABA受容体の2種類:

  • GABAA受容体: Cl⁻チャネル型(イオノトロピック)→Cl⁻流入→過分極→即時の抑制。ベンゾジアゼピン(BZP)・バルビツール酸系の標的。アルコールもGABAA増強作用を持つ。
  • GABAB受容体: Gタンパク質共役型(メタボトロピック)→K⁺チャネル開口・Ca²⁺チャネル抑制→緩やかな抑制。筋弛緩薬バクロフェンの標的。

グルタミン酸受容体(NMDA受容体)の重要性:

  • NMDA受容体はCa²⁺透過性が高い→大量のCa²⁺流入→カルパイン(Ca²⁺依存性プロテアーゼ)活性化→ミトコンドリア障害→神経細胞死
  • 脳梗塞・頭部外傷での「二次的神経障害」の主要機序
  • 長期増強(LTP)を通じて学習・記憶の分子的基盤にもなる

【実務・条文構造】

神経伝達物質と職場・産業保健の接点:

有機リン系農薬と精神神経症状(衛生管理者の実務):

  • 急性中毒(サリン等): SLUDGE症状+中枢性痙攣→死亡
  • 慢性低レベル曝露(農薬散布農作業者): コリンエステラーゼ活性の慢性的低下→疲労・記憶低下・集中力低下・うつ様症状
  • コリンエステラーゼ活性の定期測定(有機リン系農薬を扱う労働者の特殊健診項目)

精神科薬物を服用する労働者の就業管理:

  • ベンゾジアゼピン系薬(抗不安薬・睡眠薬): GABA増強→過鎮静・注意力低下→精密機械操作・高所作業・自動車運転のリスク
  • 抗精神病薬(ドパミンD₂遮断): 錐体外路症状(薬剤性パーキンソン症状:振戦・固縮)→精密作業への影響
  • 抗うつ薬(SSRI等): 治療開始初期の若年者での自殺念慮増加リスク→産業医・衛生管理者の経過観察が重要

メンタルヘルスと神経伝達物質(ストレスチェック制度との関連):

  • 過重労働・慢性ストレス→セロトニン・ドパミン系の機能低下→うつ病・バーンアウト
  • ストレスチェック高ストレス者の面接指導→初期の神経伝達物質不均衡の段階での介入が重要

【試験での位置づけ】

神経伝達物質の問題では「GABA=抑制性(ベンゾジアゼピンの標的)・グルタミン酸=興奮性(てんかん・脳虚血)」「アセチルコリン=骨格筋NMJ・副交感神経末端(有機リン農薬はAChEase阻害)」「ドパミン=黒質線条体路(パーキンソン病)・報酬系」「セロトニン=縫線核・気分・SSRI」が頻出です。エのような「GABAが興奮性」という誤りは「GABA=抑制性・グルタミン酸=興奮性」という最重要対比を逆にした典型的な引っかけです。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: シナプス可塑性(synaptic plasticity)は神経回路の変化の基盤です。長期増強(LTP)は繰り返しの刺激でシナプスの効率が上昇する現象で、学習・記憶の細胞生物学的基盤です。NMDA受容体の活性化とAMPA受容体の増加が鍵です。職業性の技能習得(反復練習・熟練)も神経科学的にはこの可塑性メカニズムです。
  • イ: アルツハイマー病とアセチルコリン: 前脳基底核(マイネルト核)からの広範なコリン作動性投射が変性→アセチルコリン低下→記憶・認知機能低下。コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル・ガランタミン等)はAChEaseを阻害してAChの分解を抑え、症状の進行を緩やかにする対症療法です。
  • ウ: 依存症(アルコール・薬物)のメカニズムも中脳辺縁系(報酬系)のドパミンと関係します。依存性物質→報酬系のドパミン放出→強い快感→強化学習→依存形成。コカイン・アンフェタミン(覚醒剤)はドパミン再取り込み阻害・遊離促進によって報酬系を強烈に活性化します。産業保健上、薬物依存者の就業支援と周囲の安全管理が課題です。
  • オ: セロトニン症候群(serotonin syndrome)は複数のセロトニン作動薬の組み合わせ(SSRI+MAO阻害薬・トリプタン等)で起きます。症状: 高体温・筋クローヌス(ぴくつき)・錯乱・自律神経不安定。重症例は死亡の可能性あり。職場の産業医が抗うつ薬の薬歴確認と相互作用の監視を行うことが重要です。

【根拠】医学的事実(確立した神経科学・薬理学)。GABAが主要な抑制性神経伝達物質(グルタミン酸が主要な興奮性)・ドパミンの黒質線条体路・パーキンソン病・セロトニンとSSRI・有機リン農薬のAChEase阻害は確立した知識。

【補足】GABA=主要な抑制性神経伝達物質(グルタミン酸が興奮性)。「GABAが興奮性」は誤り。ドパミン欠乏→パーキンソン病。セロトニン不足→うつ病→SSRI。有機リン農薬→コリンエステラーゼ阻害→ACh蓄積。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した神経科学・薬理学)。GABAは中枢神経系の主要な「抑制性」神経伝達物質であり、「興奮性」ではない。グルタミン酸が主要な興奮性神経伝達物質。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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