衛生管理者 労働生理 問54:循環器
血圧および高血圧に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア血圧(動脈圧)は、心拍出量(CO)と末梢血管抵抗(SVR)の積によって規定される。したがって血圧を下げるには、心拍出量を減らす(β遮断薬・利尿薬)か、末梢血管抵抗を下げる(カルシウム拮抗薬・ACE阻害薬)かのどちらかまたは両方を行う。
- イ高血圧の診断基準(診察室血圧)は、収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上または拡張期血圧(下の血圧)が90mmHg以上が高血圧(Grade Ⅰ〜Ⅲ)に分類される(JSH2019 高血圧治療ガイドライン)。
- ウ本態性高血圧(一次性高血圧)は高血圧の約90〜95%を占め、明確な原因疾患が特定できない。二次性高血圧(続発性高血圧)は腎疾患・内分泌疾患(原発性アルドステロン症・クッシング症候群・褐色細胞腫等)が原因で起きる。
- エ収縮期血圧(最高血圧)は心室が収縮したときの最大圧、拡張期血圧(最低血圧)は心室が弛緩したときの最低圧であり、脈圧は収縮期血圧から拡張期血圧を引いた値(正常成人で約40〜50mmHg)である。
- オ高血圧は自覚症状がほとんどなく「サイレントキラー」と呼ばれる。長期間の高血圧放置は末梢血管抵抗を低下させ(血管が拡張し)、心臓への負荷が軽くなるため、未治療でも健康への影響は少ない。正答
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠法令も明記。
誤りはオです。「高血圧の放置により末梢血管抵抗が低下し、心臓への負荷が軽くなるため健康影響が少ない」という部分が誤りです。実際は正反対で、高血圧を放置すると血管の壁が肥厚・硬化し(動脈硬化)、末梢血管抵抗は上昇します。これにより心臓への負荷はさらに増大し、脳卒中・心筋梗塞・腎障害などの重篤な合併症につながります。
その他の選択肢は正しい内容です。血圧=心拍出量×末梢血管抵抗(ア・正)。高血圧の診断基準140/90mmHg以上(イ・正)。本態性高血圧が90〜95%(ウ・正)。収縮期血圧・拡張期血圧・脈圧の定義(エ・正)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 血圧の規定式: MAP(平均動脈圧)≒ CO(心拍出量)× SVR(末梢血管抵抗)。CO=心拍数×1回拍出量(前負荷・後負荷・心収縮力に依存)。SVR=細動脈の内径・血管壁の弾性・血液粘度に依存。降圧薬の作用: β遮断薬(心拍数・収縮力↓→CO↓)・利尿薬(循環血液量↓→前負荷・CO↓)・Ca拮抗薬(血管平滑筋弛緩→SVR↓)・ACE阻害薬・ARB(アンジオテンシンⅡ阻害→SVR↓)。
- イ(正): 日本高血圧学会(JSH2019)の分類: 正常血圧<120/80mmHg、正常高値120-129/<80、高値血圧130-139/80-89、高血圧Grade Ⅰ(軽症)140-159/90-99mmHg、Grade Ⅱ(中等症)160-179/100-109、Grade Ⅲ(重症)≧180/≧110。職場健診では140/90以上で受診勧奨・管理職員への周知が重要です。
- ウ(正): 本態性高血圧の危険因子: 遺伝的要因・肥満・過塩分摂取(日本人の食塩過多)・アルコール過剰・運動不足・喫煙・ストレス・加齢。二次性高血圧の原因疾患: 慢性腎臓病(最多)・腎動脈狭窄・原発性アルドステロン症(副腎皮質のアルドステロン過剰→Na貯留→高血圧)・褐色細胞腫(カテコールアミン過剰)・甲状腺疾患・Cushing症候群。
- エ(正): 脈圧(pulse pressure)=収縮期血圧-拡張期血圧(正常約40〜50mmHg)。高齢者では脈圧が拡大(収縮期高血圧+拡張期血圧正常/低下): 動脈壁の硬化(コンプライアンス低下)による。脈圧の拡大は心血管リスクの指標。
- オ(誤): 高血圧の長期放置の影響: 高い血管内圧→内皮細胞への持続的なせん断応力→内皮障害→炎症→LDL侵入→動脈硬化プラーク形成→血管壁肥厚→内腔狭窄→末梢血管抵抗さらに上昇→「高血圧が高血圧を生む」悪循環。合併症: 心肥大(後負荷増大に対する代償)→心不全。脳血管疾患(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)。腎硬化症→慢性腎臓病→腎不全(透析)。大動脈瘤・大動脈解離。
【理論的背景】
血圧の調節機構は多段階で複雑ですが、本質は「心拍出量(CO)と末梢血管抵抗(SVR)の積=動脈圧(BP)」というシンプルな式に集約されます。
長期的血圧調節の3系統:
1. 神経系(即時調節・秒〜分単位): 圧受容体反射(頸動脈洞・大動脈弓)→交感神経→心拍出量・血管収縮の即時調節
2. 体液性調節(数分〜時間): レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAAS)系→アンジオテンシンⅡ(血管収縮+アルドステロン分泌)→Na・水貯留→循環血液量↑→血圧上昇
3. 腎臓による長期調節(日〜週): 血圧上昇→腎臓への灌流圧上昇→Na・水排泄↑(pressure natriuresis)→循環血液量↓→血圧低下(長期のセットポイントの決定)
高血圧の臓器障害機序(ターゲット臓器障害):
- 心臓: 後負荷増大→左室肥大→拡張機能障害→拡張型心不全→収縮機能障害(慢性の経過)
- 脳: 小血管の変性・ラクナ梗塞(白質病変)→認知機能低下・脳卒中
- 腎臓: 糸球体内圧上昇→糸球体硬化→タンパク尿→腎機能低下(高血圧性腎硬化症)
- 眼: 網膜動脈変化(Keith-Wagener分類)→高血圧性網膜症→眼底出血・綿花様白斑
白衣高血圧と仮面高血圧:
- 白衣高血圧: 診察室では高血圧でも家庭血圧では正常(ストレスによる一時的上昇)。心血管リスクは正常血圧〜中間程度。
- 仮面高血圧: 診察室では正常でも家庭血圧では高血圧(リスクが高い)。職場高血圧(job strain hypertension)もこのカテゴリー。
【実務・条文構造】
高血圧と職場の衛生管理(衛生管理者の最重要実務のひとつ):
特定健康診査・特定保健指導(高血圧管理):
- 収縮期130mmHg以上または拡張期85mmHg以上が動機付け支援・積極的支援の対象
- 高血圧管理(生活習慣改善): 減塩(6g/日未満)・適正体重維持・節酒・禁煙・有酸素運動・ストレス管理
- 血圧160/100以上または薬物治療中→産業医への報告・就業上の措置の検討
高血圧と業務適性:
- 脳卒中・心筋梗塞のリスク→高所作業・危険機械操作での突然発症→転落・事故のリスク
- 高度高血圧(180/110以上): 血圧コントロールなしの業務継続は産業医が制限を検討すべき場合がある
- 自動車運転・航空機操縦者: 医学基準(身体検査)で血圧の上限規定がある
職場の過重労働と血圧:
- 長時間労働・仕事の要求度高・裁量権低(デマンド-コントロールモデル)が高血圧リスクと関連
- 仕事の要求度が高く報酬が少ない(努力-報酬不均衡)→慢性ストレス→交感神経活性化→高血圧
【試験での位置づけ】
高血圧の問題では「血圧=心拍出量×末梢血管抵抗(ア・正)」「診断基準:収縮期140以上または拡張期90以上(イ・正)」「本態性高血圧が90〜95%(ウ・正)」「脈圧=収縮期-拡張期(エ・正)」「高血圧放置→末梢血管抵抗上昇・動脈硬化(「低下・健康影響少ない」は誤り:オが誤り)」が最頻出です。オの誤りは因果関係を逆にした典型的な引っかけで、「高血圧→血管硬化・末梢血管抵抗上昇→さらなる高血圧」という悪循環を逆に記述しています。
【各選択肢の発展補足】
- ア: レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAAS)系の降圧薬のターゲット: ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬:ペリンドプリル等)はアンジオテンシンⅡ産生を阻害→SVR↓・アルドステロン↓→Na排泄↑。ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬:ロサルタン等)はアンジオテンシンⅡ受容体を遮断→同様の効果。腎保護効果があり糖尿病性腎症の予防にも使用されます。
- イ: 家庭血圧(home BP)と診察室血圧の基準の違い: 診察室高血圧基準140/90以上に対して、家庭血圧での高血圧基準は135/85以上(5mmHg低い)。職場での血圧測定の活用: 定期健診の血圧測定値を個人の縦断的経過として追うことで、高血圧の早期発見・経過観察に有効です。
- ウ: 原発性アルドステロン症(PA: primary aldosteronism)は高血圧患者の約5〜10%に存在する二次性高血圧の中で最多の原因です。副腎皮質の球状帯からアルドステロンが自律的に過剰産生→腎臓でのNa貯留・K排泄増加→低カリウム血症・高血圧。スクリーニング: アルドステロン/レニン活性比(ARR)。治療: 片側性(副腎腺腫)は手術切除・両側性はミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン)。
- エ: 高齢者の「孤立性収縮期高血圧(ISH)」は収縮期血圧は高いが拡張期血圧は正常または低値という状態で、動脈壁の硬化(コンプライアンス低下)による脈圧拡大が機序です。かつては高齢者の「正常な変化」と考えられていましたが、現在は脳卒中・心血管疾患の独立したリスク因子として積極的治療の対象です。
【根拠】医学的事実(確立した循環器学)。高血圧の放置が末梢血管抵抗を上昇させ動脈硬化を促進すること(「低下・健康影響少ない」は誤り)・血圧の規定式(CO×SVR)・高血圧の診断基準・ターゲット臓器障害は確立した知識。
【補足】高血圧放置→末梢血管抵抗上昇・動脈硬化が促進される(「低下・健康影響少ない」は誤り)。血圧=心拍出量×末梢血管抵抗。診断基準:収縮期140以上または拡張期90以上。本態性高血圧が90〜95%。脈圧=収縮期-拡張期(正常40〜50mmHg)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した循環器学)。高血圧の放置は末梢血管抵抗を「低下させる」のではなく「上昇させる」(血管の肥厚・硬化)。未治療の高血圧は心血管疾患の主要リスク因子であり「健康への影響が少ない」は誤り。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。