衛生管理者 労働生理 問67:消化吸収
胃の機能と胃液の成分に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア胃液に含まれる塩酸(胃酸)は壁細胞(傍細胞)から分泌され、胃内pHを約1〜2に保つことで、ペプシノーゲンのペプシンへの活性化と食物中の細菌の殺菌に貢献する。
- イペプシンは主細胞から不活性な前駆体(ペプシノーゲン)として分泌され、胃内の酸性環境(強酸性pH)によってペプシノーゲンが自己切断されてペプシンに活性化される。活性化したペプシンはタンパク質をペプチドに分解する。
- ウ胃液中のムチン(粘液)は主細胞から分泌される糖タンパク質で、胃粘膜を胃酸とペプシンの自己消化から保護する。ストレスや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用はムチン分泌を低下させ、胃潰瘍のリスクを高める。正答
- エ胃の内因子(固有因子)は壁細胞から分泌される糖タンパク質で、ビタミンB₁₂(シアノコバラミン)と複合体を形成し、回腸末端でのビタミンB₁₂吸収に必須である。内因子が欠乏すると悪性貧血(巨赤芽球性貧血)を生じる。
- オ胃酸分泌の促進因子には、ガストリン(G細胞から分泌されるホルモン)、アセチルコリン(迷走神経刺激)、ヒスタミン(ECL細胞から分泌)があり、これらはいずれも壁細胞のプロトンポンプ(H⁺/K⁺-ATPase)を最終的に活性化する。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠法令も明記。
誤りはウです。ムチン(胃粘液)を分泌するのは表層粘液細胞(胃粘膜の表面上皮細胞)と頸粘液細胞です。主細胞(chief cell)が分泌するのはペプシノーゲンであり、ムチンではありません。ムチンは胃粘膜を保護する粘液層を形成し、胃酸・ペプシンからの自己消化を防ぎます。NSAIDsとストレスがムチン分泌を低下させて胃潰瘍のリスクを高めるという内容自体は正しいのですが、「主細胞から分泌される」という分泌部位が誤りです。
その他の選択肢は正しい内容です。壁細胞からの塩酸分泌(ア)。主細胞からのペプシノーゲン分泌と活性化(イ)。壁細胞からの内因子分泌とビタミンB₁₂吸収(エ)。胃酸分泌の三大促進因子(オ)はすべて正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 壁細胞(parietal cell・傍細胞ともいう)はH⁺/K⁺-ATPase(プロトンポンプ)によってH⁺を胃腔内に分泌し、Cl⁻とともに塩酸(HCl)を形成します。胃内pHは1〜2(強酸性)に保たれます。胃酸の役割: ①ペプシノーゲンの活性化(pH2以下が必要)②殺菌(経口感染病原体の多くを不活化)③食物タンパクの変性(消化の前処理)。
- イ(正): 主細胞(chief cell)はペプシノーゲン(zymogen: 不活性前駆体)を分泌します。胃内の酸性pH→ペプシノーゲンが自己活性化(N末端ペプチドが切断されてペプシンとなる)。ペプシンは至適pHが2〜3で機能するタンパク質分解酵素(エンドペプチダーゼ)であり、ポリペプチドをペプチドに分解します(完全なアミノ酸への分解は小腸で完結)。
- ウ(誤): ムチン(粘液)の分泌細胞は表層粘液細胞(胃表面上皮)と頸粘液細胞(胃腺頸部)です。主細胞が分泌するのはペプシノーゲンです(混同しやすい点)。胃粘膜防御機構は: 粘液-重炭酸塩バリア(ムチン+HCO₃⁻)・粘膜上皮の高速回転(数日ごとに更新)・プロスタグランジンE₂(粘液・重炭酸塩分泌促進・粘膜血流維持)の三層構造です。NSAIDsはプロスタグランジン合成(COX阻害)を抑制して防御機構を破綻させます。
- エ(正): 内因子(intrinsic factor)は壁細胞から分泌されます(壁細胞は塩酸と内因子の両方を産生)。ビタミンB₁₂(コバラミン)は内因子と回腸末端(terminal ileum)の特異的受容体(cubilin)を介して吸収されます。自己免疫性胃炎(萎縮性胃炎)では壁細胞が破壊→内因子欠乏→VB₁₂吸収障害→巨赤芽球性貧血(悪性貧血: pernicious anemia)となります。
- オ(正): 胃酸分泌の3大促進経路: ①ガストリン (G細胞→胃前庭部・十二指腸から分泌→血流を介してCCK-B受容体→壁細胞)、②ヒスタミン (ECL細胞から傍分泌→H₂受容体→壁細胞)、③アセチルコリン (迷走神経末端→M₃受容体→壁細胞)。三者はすべて最終的にH⁺/K⁺-ATPase(プロトンポンプ)を活性化します。プロトンポンプ阻害薬(PPI: オメプラゾール等)は三経路全てを遮断できるため強力な胃酸抑制効果を持ちます。
#### 1. 胃の細胞種と分泌物の完全マップ
胃腺を構成する細胞種と分泌物:
| 細胞名 | 位置 | 分泌物 | 主要機能 |
|-------|------|--------|---------|
| 表層粘液細胞 | 胃粘膜表面 | ムチン・HCO₃⁻ | 粘膜保護(粘液-重炭酸塩バリア) |
| 頸粘液細胞 | 胃腺頸部 | ムチン | 粘膜保護・細胞増殖の前駆細胞 |
| 壁細胞(傍細胞) | 胃腺体部 | HCl(胃酸)・内因子 | 酸性環境形成・VB₁₂吸収促進 |
| 主細胞 | 胃腺底部 | ペプシノーゲン・リパーゼ | タンパク質・脂質消化の前駆体 |
| G細胞 | 胃前庭部 | ガストリン | 壁細胞・主細胞の活性化 |
| ECL細胞 | 胃腺体部 | ヒスタミン | 壁細胞のH₂受容体を介した胃酸促進 |
| D細胞 | 胃腺 | ソマトスタチン | ガストリン・ヒスタミン分泌抑制(フィードバック) |
#### 2. 胃酸分泌の調節(三相性調節)
胃酸分泌は食事のフェーズに対応した三相性の調節を受けます:
頭相(cephalic phase):
- 食物を見る・嗅ぐ・想像する→迷走神経が活性化(条件反射)
- アセチルコリン→壁細胞のM₃受容体→胃酸分泌促進
- ECL細胞のヒスタミン分泌促進
- 全分泌量の約30%を占める
胃相(gastric phase):
- 食物が胃に入る→胃壁伸展→ガストリン分泌(G細胞)
- タンパク質・アミノ酸→ガストリン分泌促進
- 全分泌量の約60%を占める(最も大きな相)
腸相(intestinal phase):
- 十二指腸に食物が入る→ガストリン様物質(促進)→胃酸分泌促進
- 一方、十二指腸の酸・脂肪→セクレチン・GIP(胃抑制ペプチド)→胃酸抑制
- 胃排出の調節と統合(全分泌量の約10%)
#### 3. NSAIDsと胃潰瘍の予防(産業衛生上の重要知識)
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬: アスピリン・イブプロフェン・インドメタシン等)による胃障害メカニズム:
COX-1阻害による胃粘膜防御破綻:
- COX-1(シクロオキシゲナーゼ1)が胃粘膜のプロスタグランジンE₂(PGE₂)を産生
- PGE₂の役割: ①粘液・重炭酸塩分泌促進 ②粘膜血流維持 ③細胞増殖促進
- NSAIDs→COX-1阻害→PGE₂低下→粘膜防御力低下→胃潰瘍リスク
直接毒性:
- 経口NSAIDsの脂溶性→弱酸性薬が胃酸性環境でイオン化せず細胞膜を通過→粘膜細胞内蓄積→直接障害
職場での関連(産業衛生士・衛生管理者として):
- 痛みを抱えた労働者の自己投薬(市販NSAIDs)のリスク
- 健診で胃潰瘍・胃炎が発見された場合: NSAIDs・アスピリン使用歴の確認が重要
- H. pylori感染×NSAIDs→胃潰瘍リスクが相乗的に上昇
#### 4. 衛生管理者試験での頻出論点と職場への応用
試験では「胃の壁細胞=塩酸(胃酸)+ 内因子を分泌」「胃の主細胞=ペプシノーゲンを分泌(ムチンは表層粘液細胞)」「胃内pH=約1〜2」「内因子欠乏→VB₁₂吸収障害→悪性貧血」「胃酸分泌の三大促進因子=ガストリン・ヒスタミン・アセチルコリン(すべて壁細胞のプロトンポンプを活性化)」が頻出です。ウの誤りは「ムチンが主細胞から分泌される」という細胞種の混同です。主細胞→ペプシノーゲン、表層粘液細胞→ムチンという対比が重要です。
職場での応用として、ストレス性胃炎(急性ストレス潰瘍)は精神的負荷の高い職場で発生しやすく、衛生管理者は職場環境改善・健診での胃炎発見・産業医連携が重要な実務です。
【根拠】医学的事実(確立した消化生理学)。胃の細胞種と分泌物の対応・胃酸分泌調節・ムチンの分泌細胞は消化生理学の基礎として確立。
【補足】ウが誤り:ムチン(胃粘液)は表層粘液細胞・頸粘液細胞から分泌される。主細胞が分泌するのはペプシノーゲン(ムチンではない)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した消化生理学)。ムチン(胃粘液)は主細胞ではなく表層粘液細胞(表面上皮細胞)と頸粘液細胞から分泌される。主細胞からはペプシノーゲンが分泌される。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。