行政法145行政法(損失補償)

行政書士 行政法 問145:行政法(損失補償)

損失補償の要否(補償の必要性)に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例の趣旨に照らして**正しいもの**はどれか。

  • 財産権に対する規制が「特別の犠牲」に当たるかどうかの判断において、最高裁判例は「侵害行為の対象が広く一般人を指向しているか(一般性)」と「その侵害行為が財産権に内在する社会的制約を超えるか(内容・程度)」の2要素を示しており、いずれか一方の要素だけを検討すれば足りるとしている。
  • 河川附近地制限令は、河川区域附近の土地での砂利採取等を制限する規制を定めていたが、最高裁(最大判昭43.11.27)はこの規制が財産権の内在的制約であり補償は不要であるとした。
  • 財産権に対する法律上の規制が財産権の内在的制約(社会的拘束)として補償不要であるためには、当該規制が「公共の福祉」に適合するものであることが必要であるが、内在的制約の範囲を超えるほど規制が強い場合でも、法律に「補償しない」旨の規定があれば補償は不要とされる。
  • 最高裁(河川附近地制限令事件)の判決は、規制を受ける土地の形状・位置・周辺状況等の個別的・具体的事情を考慮した上で、「特別の犠牲」に該当するかどうかを判断することを示した。正答
  • 土地収用法上の収用(土地を完全に剥奪する)とは異なり、土地の使用制限(一定の利用を禁止するが所有権自体は剥奪しない)については、補償が必要な「特別の犠牲」に該当することは原則としてなく、補償なしで規制することが常に許される。
正答:最高裁(河川附近地制限令事件)の判決は、規制を受ける土地の形状・位置・周辺状況等の個別的・具体的事情を考慮した上で、「特別の犠牲」に該当するかどうかを判断することを示した。

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エが正しい記述です。最大判昭43.11.27(河川附近地制限令事件)は、砂利採取を制限した河川附近地制限令の規制が補償を要する「特別の犠牲」に当たるかどうかを判断するにあたり、規制を受ける土地の具体的な形状・位置・周辺状況等の個別的・具体的事情を考慮すべきとしました(エ正しい)。アは「いずれか一方だけを検討すれば足りる」としていますが、特別の犠牲の判断は両要素(一般性・内容・程度)を総合的に考慮するものであり、一方だけで決まるとは言えません(ア誤り)。イは判決の内容が不正確で、最大判昭43.11.27は「補償規定なしに補償請求はできないが、具体的事情によっては補償が必要となる可能性を完全に否定しなかった」という内容です(イ誤り)。ウは「補償しない旨の法律規定があれば常に補償不要」としていますが、憲法29条3項を根拠に法律の規定なしでも補償請求できる可能性が判例上示されており(イと同様の文脈)、ウも誤りです。オは「使用制限は常に補償不要」という絶対的断定が誤りです。

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損失補償の要否判断(「特別の犠牲」論)と河川附近地制限令事件を整理します。

「特別の犠牲」の判断基準: 財産権制限が補償を要する「特別の犠牲」か、補償不要の「内在的制約(社会的拘束)」かを区別する基準として、判例・学説は以下を考慮します:

①侵害行為の一般性(対象が特定少数か不特定多数か)

②侵害の内容・程度(財産権の本質的部分を侵すか)

③公共の福祉のための目的の正当性

河川附近地制限令事件(最大判昭43.11.27): 補償規定のない河川附近地制限令による砂利採取制限が問題になった事案。最高裁は「一般的には補償が不要な内在的制約として整理できるが、具体的な土地の状況(その土地が砂利採取を唯一の経済的利用目的としていた等)によっては補償が必要になり得る」とし、具体的事情の考慮を示しました(エの根拠)。重要な点は、判決が「補償規定がなければ直ちに違憲」とはせず、解釈で補償請求の余地を残した点です。

イの誤りの精緻な分析: イは「最大判昭43.11.27が補償不要とした」と断定していますが、同判決は規制の性質上「一般的な補償規定は不要」と言いつつも、個別事情によっては補償が必要となる可能性に言及しており、「完全に補償不要」とは判示していません(エ正しい・イ誤り)。

上級誤答論破・条文/判例まで深掘り

【損失補償の憲法上の根拠と「特別の犠牲」論の構造】

日本国憲法29条3項「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」は、財産権の制限に際して正当な補償を要求します。この「正当な補償」が必要かどうかは「特別の犠牲」論によって判断されます。財産権には社会的拘束(内在的制約)があり、社会的拘束の範囲内の規制(公共の福祉による制限)は補償なしに許容されますが、社会的拘束を超えて財産権の本質を侵害するような特別の犠牲を課す場合には補償が必要です。

【「特別の犠牲」の判断基準の学説整理】

形式的基準(侵害の一般性): 規制の対象が特定少数の者に向けられているか(特別の犠牲:補償要)、不特定多数に向けられているか(一般的制限:補償不要)。

実質的基準(侵害の内容・程度): 財産権の本質的・核心的な部分(使用・収益・処分の全部または大部分)を侵害しているか(補償要)、周辺的な部分の制限にとどまるか(補償不要)。

判例(最大判昭43.11.27等)は両基準を総合的に考慮するとしており、いずれか一方のみで決定されるわけではありません(アの誤りの根拠)。

【河川附近地制限令事件の詳細分析(エの根拠)】

事案: 河川附近地制限令が定める規制(河川区域附近での砂利採取等の制限)により、砂利採取業者が損失を被ったとして補償を求めた。同令には損失補償規定がなかった。

最高裁判示(最大判昭43.11.27)の要点:

①河川附近地での土地利用制限は、公共の福祉のための適法な内在的制約として一般的には補償が不要。

②ただし、「特定の個人に対して、社会全体が受ける利益のために、当該個人の財産の本来的な使用・収益が不可能となるほどの著しい制約を課す」場合には、補償規定なしとしても、憲法29条3項を直接の根拠として補償を請求できる余地を排除しない。

③この判断は個別の土地の形状・位置・利用状況等の具体的事情を総合的に考慮してなされるべき。

この判決のポイントは「補償規定がない法律でも、憲法29条3項を直接根拠に補償請求ができる場合がある(直接請求説の余地を認めた)」という点です。

【ウの誤りの詳細:法律の補償排除規定と違憲性】

ウは「法律に補償しない旨の規定があれば補償は不要」としていますが、これは誤りです。仮に法律が「補償しない」と明記していても、その規制が「特別の犠牲」に当たる程度の財産権の侵害を伴う場合には、当該法律規定自体が憲法29条3項違反として違憲となります。法律の規定は憲法に反することができないため、「補償なし規定=常に合憲・補償不要」にはなりません。河川附近地制限令事件判決も、法律(制限令)に補償規定がない場合でも憲法29条3項に基づく直接の補償請求の余地を認めています。

【オの誤りの詳細:使用制限と補償の必要性】

財産権の「使用制限」は所有権の剥奪よりも制限が弱いため、補償が不要な場合が多いですが、「使用制限であれば常に補償不要」という絶対的ルールはありません。使用制限であっても、その制限が当該財産の唯一・主要な利用方法を完全に禁止するほど強度である場合には(特別の犠牲論の実質的基準)、補償が必要な場合があります。土地収用(完全な剥奪)と使用制限(部分的制限)の区別は補償必要性の目安の一つですが、絶対的な線引きではありません。

【根拠条文・判例】

日本国憲法 第29条第3項(財産権の制限・正当な補償)

最大判昭和43年11月27日(河川附近地制限令事件・補償の要否・個別的判断)

土地収用法(各種補償規定)

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 日本国憲法 第29条第3項(正当な補償) 判例: 最大判昭和43年11月27日(河川附近地制限令事件) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

関連論点

損失補償・河川附近地制限令事件・補償の要否・内在的制約と特別の犠牲頻出度B

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