行政書士 行政法 問32:行政手続法
マンション建設業者Aは、建設予定地の地方公共団体B市から、近隣住民との話し合いをまとめるよう行政指導を受けた。AはB市の条例上は建築確認申請に先立って話し合いをする義務はなく、また建築確認申請の要件を充足していたが、B市の担当者は「話し合いがまとまるまで確認申請を受け付けない」と述べた。この事案に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- アB市の担当者の行為は、建築確認権限を背景に申請者に行政指導に従わせようとするものであり、行政手続法第34条(許認可等の権限を背景にした行政指導の禁止規定)に違反するが、Aはこれに対して何ら法律上の手段をとることができない。
- イAがB市の行政指導に従わない意思を明示した場合でも、近隣住民との紛争調整という公益目的のための行政指導であるため、B市は引き続き行政指導を継続し、確認申請の受付を留保することができる。
- ウAがB市の行政指導に従わない意思を明示したにもかかわらず、B市が当該行政指導を継続することにより申請に対する審査・応答を妨げることは、行政手続法第33条に違反する。正答
- エ建築確認は法令上の要件を充足した場合に義務的に発令される(覊束的な処分)とされているため、B市が確認申請の受付を留保する行為は、それ自体が建築確認処分の違法な留保として直ちに抗告訴訟の対象となる。
- オ申請に対する処分の権限を有する行政庁は、申請者が行政指導に従わない意思を明示した後も任意の協力が見込めると判断する限り、申請の受付を無期限に留保することが行政手続法上当然に認められる。
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本問は申請に関連する行政指導(行手法33条)の問題です。
ウが正しい。 建築確認の申請者Aが「行政指導に従わない」意思を明示したのに、B市が行政指導を続けて確認申請の審査・応答を妨げる(受付を留保し続ける)ことは、行手法33条に違反します。建築確認は要件を満たせば必ず行うべき覊束処分であり、近隣調整という公益目的であっても、明示的拒否の後に審査を妨げることは正当化されません(ア・イ・オはこの点を誤っています)。
各選択肢の詳しい正誤、Aがとれる救済手段(国家賠償・不作為の訴訟)、行手法36条の2(中止の求め)が本問では使えない理由は、標準・上級で詳しく扱います。
行政指導と申請受付留保の問題(行手法33条):
行手法33条は「申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない」と定めています。
本問では: Aが「行政指導に従わない意思を明示」→ B市は申請受付の留保(確認申請の審査妨害)を継続してはならない。
行手法34条(許認可等の権限に絡めた行政指導の禁止):
「申請の審査、許認可等の権限を有する行政機関がする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従わなかったことを理由として、当該申請に係る許認可等を与えないこと、その他の不利益な取扱いをしてはならない」。
本問のB市の行為(話し合いがまとまるまで受け付けない)は34条違反の疑いがあります。
行政指導の中止の求め(行手法36条の2)と本問の関係:
行手法36条の2は「法令に違反する行為の是正を求める行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)」を対象とします。本問のB市の行政指導は近隣住民との話し合いを求める任意の行政指導(条例上の義務もなく法律上の根拠もない)であるため、36条の2の中止の求めの対象外です。したがって本問でAの救済手段として36条の2を挙げることはできません。Aの救済は、行手法33条違反を前提とした受付留保の違法(→国家賠償請求)や、不作為に対する行訴法上の訴訟によることになります。
【理論的背景】
マンション建設における行政指導と確認申請の留保問題は、日本の行政実務で長年問題となってきました。建築確認申請は法令上の要件を充足すれば覊束的処分として受理・確認されるべきところ、行政指導を利用して実質的に申請を留め置く慣行(申請受付留保)が、特に開発・建設案件で多用されました。
最高裁は、建築確認申請の受付留保が行政指導による「任意の協力」の範囲を超えた場合、当該留保が違法な行政上の行為として国家賠償の対象となりうると判示しています。行政手続法33条・34条はこの問題への立法的対応です。
【実務・条文構造】
建築確認の法的性質: 建築基準法に基づく建築確認は、申請が建築基準法その他の関係法令の規定に適合しているかどうかを審査するものであり、法令の要件を充足している場合には確認をしなければならない覊束的処分です(建築基準法6条の2)。行政庁に拒否の裁量はありません。
行手法36条の2(行政指導の中止等の求め)の適用範囲: 36条の2は「法令に違反する行為の是正を求める行政指導で、その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る」(条文括弧書き)。すなわち税法・建築基準法違反の是正命令の前段としての行政指導など、法律に根拠のある是正型行政指導に限定されます。本問のような法律に根拠のない任意の調整型行政指導は対象外であり、Aは36条の2を用いることができません。この「法律に根拠規定があるものに限る」という限定は、行政書士試験でも引っかけとして問われるポイントです。
受付留保と損害賠償: 法律に根拠のない行政指導であっても、その行政指導による申請受付留保が(明示拒否後の継続として)違法であった場合、申請者は国家賠償請求(国賠法1条)により損害賠償を請求できます。また申請に対する不応答(申請到達後に相当期間を超えて処分しない場合)は不作為違法確認訴訟(行訴法3条5項)・申請型義務付け訴訟(行訴法37条の3)の対象となります。最高裁は、建築確認申請に対する行政指導を理由とする受付留保が、社会通念上合理的と認められる期間を超え、かつ申請者が不協力の意思を真摯かつ明確に表明したと認められる場合には、違法な公権力の行使に当たり国家賠償の対象となりうると判示しています(品川マンション事件・最判昭和60年7月16日)。
【試験での位置づけ】
本問の論点は行政書士試験でも出題される申請に関連する行政指導(33条)・許認可権限の濫用禁止(34条)・中止の求め(36条の2)の組合せ問題です。具体的事案に法条を当てはめる形式での出題が増えており、条文の要件と効果を正確に押さえておく必要があります。
【各選択肢の発展補足】
- ア(誤): 行手法36条の2の「行政指導の中止等の求め」という手段があります。また行政指導による受付留保が違法な場合、国家賠償請求も可能です。「何ら手段をとることができない」は完全な誤り。
- イ(誤): 行手法33条の明示的拒否後の審査妨害禁止は、公益目的であっても例外がありません。目的の正当性と手続の適法性は別の問題です。
- ウ(正): 行手法33条(明示拒否後の審査妨害禁止)を正確に適用した記述。Aの明示拒否後にB市が受付留保を継続して審査・応答を妨げることは33条違反。
- エ(誤): 建築確認の受付留保が「確認処分の違法な留保」として直ちに抗告訴訟(不作為違法確認訴訟)の対象となるかは、相当期間の経過と不作為の認定を要する問題であり、一律に「直ちに抗告訴訟の対象」とする断定は過度です。受付留保それ自体は処分ではありません。
- オ(誤): Aの明示拒否後も無期限に受付を留保できるとするのは、行手法33条の趣旨(明示拒否後は審査妨害禁止)に正面から反します。任意の協力が得られている間の一時的留保は許容されますが(品川マンション事件)、明示拒否後の留保継続は違法です。
【根拠条文】行政手続法 第33条(申請に関連する行政指導の規律)、第34条(許認可等の権限に絡めた行政指導の禁止)
【参照判例】品川マンション事件(最判 昭和60年7月16日)- 行政指導を理由とする建築確認留保が違法な公権力行使となる場合
【補足】明示的拒否後は審査妨害禁止(33条)。許認可権限を背景にした行政指導で不利益取扱い禁止(34条)。行手法36条の2(中止の求め)は「法律に根拠規定のある是正型行政指導」に限られ、任意の調整型行政指導には使えない(本問は対象外)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 行政手続法 第33条(申請に関連する行政指導)、第34条(許認可等の権限に絡めた行政指導)。品川マンション事件(最判昭和60年7月16日)。 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。