行政書士 行政法 問65:差止め訴訟・仮の差止め
行政事件訴訟法が定める差止め訴訟に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア差止め訴訟は、行政庁が一定の処分をしようとしている場合において、提起することができるが、処分がされた後はその性質上差止め訴訟を提起することができない。
- イ差止め訴訟を提起するには、行政庁が一定の処分をしようとしている場合において、「重大な損害を生ずるおそれ」があることが必要であり、損害の回復困難性等を考慮した上で判断される。
- ウ差止め訴訟の補充性要件として、「処分がされることにより生ずる損害を避けるため他に適当な方法があるとき」は提起することができないとされているが、取消訴訟による救済が考えられる場合は常にこの補充性要件を充たさないため差止め訴訟は提起できない。
- エ差止め訴訟において勝訴した場合、裁判所は処分庁に対し当該処分をしてはならないと命じる判決をすることができるが、この判決は当該具体的な処分の予防的差止めにのみ有効であり、将来同種の類似処分には及ばない。
- オ仮の差止めは、差止め訴訟を提起した場合に申立てることができ、その要件は「本案について理由があるとみえる」こと、および「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」こと(かつ公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと)である。正答
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠条文・判例も明記。
オが正しいです。仮の差止め(37条の5第2項)の要件は、①本案について理由があるとみえること、②償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること、③公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと、です。アは誤りで、処分がされようとしている段階で差止めを求めるのが差止め訴訟ですが、「処分がされた後」は取消訴訟によるべきです(差止め訴訟は事前的救済手段)という点は正しいですが、「一切提起できない」という断言は状況によります。イは正しい内容です(37条の4第1項・2項)。ウは誤りで、取消訴訟が考えられる場合でも、取消訴訟では「回復困難な損害」が生じる等の事情があれば補充性を充たす場合があります。エは誤りで、差止め判決の射程は判決主文の記載内容によりますが、「将来同種処分に及ばない」とは一律に言えません。
差止め訴訟(37条の4)の要件:
1. 重大な損害を生ずるおそれ(1項):処分がされることによる損害の重大性を要求(単なる損害では不足)
2. 補充性(1項ただし書):「損害を避けるため他に適当な方法があるとき」は不可
3. 原告適格(3項):「行政庁が一定の処分をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者」
損害の重大性判断(2項):損害の回復困難性・内容・性質・程度を考慮。生命・身体への影響、事業廃止に至る経済的損害等が典型的な「重大な損害」。
補充性の実質(ウが誤りの根拠): 補充性要件(「他に適当な方法があるとき」は不可)は、取消訴訟が利用可能な場合でも、取消訴訟では「処分後の争い」であり「処分されること自体による回復困難な損害」が生じる場合は補充性を充たします。例えば、個人情報を含む行政処分によるプライバシー侵害は、処分後に取消訴訟で争っても情報流出の事実は回復不能→差止め訴訟の補充性を充たす。
仮の差止め(37条の5第2項・オが正しい根拠):
- 要件①:本案について理由があるとみえること(本案の勝訴見込み)
- 要件②:償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること(単なる「重大な損害」より高い要件水準)
- 消極要件:公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと
- 内閣総理大臣の異議(27条)の準用あり(37条の5第4項)
【差止め訴訟の位置づけと2004年法定化の意義】
差止め訴訟(予防的禁止訴訟)は、行政行為が「まだなされていない」段階で、将来の処分を予防的に停止させる訴訟です。2004年改正前は、この種の訴訟が行訴法上明示されておらず、「法定外(無名)抗告訴訟」として論じられていました。下級審では一定の場合に認めた判例もありましたが、統一的な基準はなく実務上の不安定さがありました。
2004年改正で差止め訴訟(37条の4)が法定化された意義:
1. 予防的権利救済の制度的根拠が明確化
2. 要件(重大な損害・補充性・原告適格)が明文化され予見可能性が向上
3. 仮の差止め(37条の5第2項)と連動させた暫定的保護が制度化
差止め訴訟が問題となる典型場面:
- 行政庁が個人情報を含む資料を第三者に開示しようとしている場面(開示処分の差止め)
- 免許取消処分がなされる直前の段階(処分前の予防)
- 継続的な監視・立入検査処分の差止め(行政権力の濫用抑止)
【補充性要件の解釈(37条の4第1項ただし書)】
「損害を避けるため他に適当な方法があるとき」(補充性欠如)の判断基準:
補充性を充たさない場合(差止め訴訟不可)の例:
- 処分がされた後に取消訴訟を提起すれば損害を十分に回復できる場合(金銭的損害で回復可能等)
- 行審法上の審査請求で足りる場合
補充性を充たす場合(差止め訴訟可)の例:
- 処分がされることによって生じる損害が回復困難(プライバシー情報の流出・身体的危害等)
- 取消訴訟ではタイミング的に間に合わない緊急性
- 取消訴訟には処分の存在が前提となるが、差止めは処分前の防止なので代替不可
ウが誤りの核心:「取消訴訟が考えられる場合は常に補充性なし」という断言が誤りです。取消訴訟と差止め訴訟の選択は、「処分後に争えば十分か否か(損害回復可能性)」によって判断するものであり、取消訴訟が常に代替手段となるわけではありません。
【仮の差止めの実務(37条の5第2項)】
仮の差止めは差止め訴訟提起後に申立て可能な緊急保全措置です。要件が執行停止(25条・重大な損害)より厳格で「償うことのできない損害」(執行停止の「重大な損害」より一段厳しい)が求められます。
「償うことのできない損害」の意味:金銭賠償では回復できない性質の損害(プライバシー・名誉・身体的安全・事業廃止等)が典型です。将来の金銭賠償(国賠訴訟)でも十分に回復できない性質の損害という趣旨です。
仮の義務付け(37条の5第1項)との比較:
- 仮の義務付け:行政庁に一定の処分をさせるための緊急保全措置
- 仮の差止め:行政庁が一定の処分をすることを止めるための緊急保全措置
- 両者とも「償うことのできない損害・緊急の必要・公共の福祉に影響なし」が共通要件
- 両者とも内閣総理大臣の異議(27条)が準用(37条の5第4項)→仮の救済も内閣総理大臣が覆せる
実務上の注意点:仮の差止めの申立てには、「本案について理由があるとみえる」(勝訴見込み)の疎明が必要です。差止めの本案勝訴要件(処分をしてはならないことが行政庁の裁量権の範囲を超えまたは濫用となることの明白性)を一応説明する必要があります。
【差止め判決の射程と効果(エの詳細)】
差止め訴訟の認容判決は「行政庁が一定の処分をしてはならない旨を命ずる判決」です(37条の4第7項・準用)。この判決の効力は:
- 当該処分に対する禁止効(処分庁はその具体的処分をしてはならない)
- 拘束力(33条準用)が及ぶ→処分庁と関係行政庁を拘束
- 第三者効(32条準用)→対世効
エの「将来同種の類似処分には及ばない」という記述は一律には正確でなく、判決主文の射程内の処分であれば拘束力が及びます。一方、全く別の事情に基づく別個の処分であれば判決の拘束力が直接及ばないという場合もあります。エの記述は「常にそうとは言えない」という点で誤りですが、オが最もシンプルかつ正確なため、オを正答としています。
【根拠条文】
行政事件訴訟法 第37条の4第1項(差止め訴訟の要件:重大な損害・補充性)、第37条の4第2項(損害の重大性の考慮要素)、第37条の4第3項(原告適格)、第37条の5第2項(仮の差止めの要件:償うことのできない損害・緊急の必要)、第37条の5第3項(消極要件:公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき不可)、第37条の5第4項(内閣総理大臣の異議=27条の準用)
【補足】
仮の差止めの積極要件は「償うことのできない損害」(執行停止の「重大な損害」より厳格)。差止め訴訟の補充性は「取消訴訟で代替可能なら不可」だが、処分後に回復困難な損害が生じる場合は代替不可として差止め可。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 行政事件訴訟法 第37条の4(差止め訴訟)・第37条の5第2項(仮の差止め) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。