行政書士 行政法 問81:国賠法1条・立法不作為・司法不作為
国家賠償法第1条第1項の適用に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らして**誤っているもの**はどれか。
- ア立法行為(国会の立法又は立法不作為)は「公権力の行使」に当たりうるが、国会議員の立法行為が国家賠償法上違法となるのは、その立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うような、容易に想定しがたい例外的な場合に限られるとするのが判例である。
- イ最高裁判例によれば、在外邦人の選挙権行使を全面的に制限する公職選挙法の規定は違憲・無効であり、それを放置した立法不作為は国家賠償法上の違法を構成するとされている。
- ウ裁判官が行う裁判(判決・決定等)は、その内容がいかに誤っていても、国家賠償法上の違法を構成することはなく、国家賠償請求は認められない。正答
- エ検察官の公訴提起(起訴)が国家賠償法上違法と評価されるのは、起訴時の証拠関係に照らして有罪と認められる嫌疑がなかった場合に限られるとするのが判例である。
- オ公立学校の教師が授業中に生徒に対して行った不適切な指導(体罰等)は、国家賠償法第1条第1項の「公権力の行使」に当たり、国または公共団体が損害賠償責任を負いうる。
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ウが誤りです。裁判官の行う裁判であっても、国家賠償法上の違法を構成することが全くないわけではありません。判例(最判昭和57年3月12日)は、裁判官が行う裁判は「その内容が上訴等の手続において違法と判断された場合であっても直ちに国賠法上の違法とはならないが、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認められるような特別の事情がある場合には国賠法上も違法となりうる」と判示しています。つまり、高い要件のもとで裁判の国賠法上の違法が認められる余地があります。「いかなる場合も違法を構成しない」という絶対的否定は誤りです。
各選択肢を正確に整理します。ア(正しい): 立法行為の国賠上の違法については、最判昭和60年11月21日が「立法の内容が憲法の一義的文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うような容易に想定しがたい例外的な場合」に限定しており、非常に高いハードルを設けています。イ(正しい): 在外邦人選挙権訴訟(最大判平17.9.14)では、在外邦人に選挙権行使を認めない公職選挙法の規定が違憲・無効とされ、それを放置した立法不作為も国賠法上の違法を構成するとされました(立法不作為が違法とされた重要判例)。ウ(誤り・正答): 裁判官の裁判が国賠法上違法となるのは「例外的な特別事情がある場合」であり、「いかなる場合も違法を構成しない」という絶対否定は誤りです(最判昭57.3.12)。エ(正しい): 最判昭和53年10月20日は、公訴提起の違法性を「起訴時の証拠関係に照らし有罪と認められる相当な理由が存在しない場合」に限定しています。「有罪と認められる嫌疑がなかった」という表現は概ね同趣旨として正しい。オ(正しい): 公立学校教師の体罰等は「公権力の行使」に当たり、1条責任の対象となります。
【理論的背景】
国家賠償法1条は「公権力の行使」全般を対象とし、立法・司法・行政のすべての国家作用を射程に収めます。ただし立法行為・司法行為(裁判)については、それぞれ独立した制度上の要請(議会の民主的裁量・裁判の独立性)から、国賠法上の「違法」の認定には高い要件が課されています。これは「公権力の行使=対象となりうる」という入口論と、「違法評価の高いハードル」という実質論の二段構えとして理解することが重要です。
【実務・条文構造】
立法行為の国賠上の違法に関する判例法理の発展を整理します。①最判昭60.11.21(立法行為の一般論・「一義的文言に違反し国会があえて立法する例外的場合」に限定)→②在外邦人選挙権訴訟(最大判平17.9.14・立法不作為の違法を具体的に認定した先例的事件)。在外邦人訴訟では、長期にわたり選挙権行使を全面的に制限し続けた立法不作為について、通常想定しがたい「例外的な場合」として国賠違法が認定されました。これにより「立法不作為=常に国賠違法とならない」という従来の消極論は修正を受けています。裁判(司法行為)については、最判昭57.3.12が「裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認められるような特別の事情」がある場合に国賠違法を認める余地を残しています。これは実際にはほとんど認められないほど高いハードルですが、「一切認められない」という絶対否定ではない点がウの誤りの核心です。
【試験での位置づけ】
「立法不作為の国賠違法(在外邦人訴訟)」「裁判の国賠違法(高い要件だが皆無ではない・ウ型の誤り)」「起訴の国賠違法(有罪嫌疑のない場合)」は、行政書士試験の発展問題として出題される論点です。特に「立法不作為は国賠法上違法となりえない(×)」「裁判はいかなる場合も違法とならない(×・ウの誤り)」という誤りが典型的な引っかけです。記述式では「在外邦人選挙権訴訟の意義(立法不作為の違法を認定した先例)」が問われることがあります。
【各選択肢の発展補足】
- ア(正): 立法行為の国賠違法についての最判昭60.11.21の法理を正確に表現しています。「憲法の一義的な文言」に違反し「あえて行う」という二重の要件が高いハードルを設けています。
- イ(正): 在外邦人選挙権訴訟(最大判平17.9.14)は、立法不作為の国賠違法を具体的に認定した画期的な判例。「放置した立法不作為は国賠違法を構成する」という表現が判旨を正確に反映しています。
- ウ(誤・正答): 「いかなる場合も違法を構成することはない」という絶対否定が誤り。最判昭57.3.12は例外的場合に国賠違法を認める余地を明示しています。実際の認定はほぼ困難ですが、理論上の余地は認められています。
- エ(正): 最判昭53.10.20の法理を反映。公訴提起が国賠違法となるのは「起訴時の証拠関係に照らし有罪と認められる相当な理由が存在しない場合」という限定的な場合です。無罪判決が確定しても直ちに国賠違法にならない点が重要です。
- オ(正): 公立学校教師の行為は教育的権力作用として「公権力の行使」に含まれます。体罰については学校教育法が禁止しており(同法11条ただし書)、違法評価がなされます。
【根拠条文】
国家賠償法 第1条第1項(公権力の行使による損害賠償)
【参照判例】
最判 昭和57年3月12日(裁判官の裁判と国賠法上の違法)、在外邦人選挙権訴訟(最大判 平成17年9月14日・立法不作為の国賠違法を認定)、最判 昭和53年10月20日(公訴提起の国賠違法の基準)
【補足】
「立法行為・司法行為は国賠法の対象外」ではなく、「対象となりうるが高い要件が必要」という正確な理解が重要。「一切違法とならない」という絶対否定は必ず誤りになる選択肢パターン。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 国家賠償法 第1条第1項 判例: 最判昭和57年3月12日(裁判官の裁判と国賠)、在外邦人選挙権訴訟(最大判平成17年9月14日) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。