行政書士 商法・会社法 問55:商法・会社法/機関(代表取締役)
代表取締役の権限および表見代表取締役に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア代表取締役は会社の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を有し、代表取締役の代表権に対する内部的な制限(定款・取締役会決議による制限)は、善意の第三者に対抗することができない。
- イ株式会社が、代表取締役以外の取締役に対して「社長」「副社長」その他代表権があると認められる名称を付した場合、当該会社は、その名称を信頼して当該取締役と取引をした善意の第三者に対して、代表権があるとみなした場合の責任を負う。
- ウ表見代表取締役の規定(会社法354条)が適用されるためには、第三者が代表権のない取締役を代表権を有する者と信頼したことが必要であり、第三者が無過失であることまでは要求されない。
- エ会社が取締役に「専務取締役」という名称を付した場合でも、当該名称が代表権を表示するものでなければ354条の「代表権があると認められる名称」には当たらず、表見代表取締役の規定は適用されない。正答
- オ表見代表取締役の責任は、会社が代表権のない取締役に代表権のある名称を付したことに帰責性がある場合に限り認められるものであり、代表権のない者が自ら代表権のある名称を詐称した場合には、354条は適用されない。
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代表取締役の権限と表見代表取締役が問われています。エが誤り。「専務取締役」という名称は、判例上「代表権があると認められる名称」に当たると解されています(最判昭和35.10.14等)。したがってエの「専務取締役は代表権を表示するものでなければ354条に当たらない」という記述は判例の理解と一致せず誤りです。アは正しい(349条5項:代表権の内部制限は善意の第三者に対抗不可)。イは正しい(354条:「社長」「副社長」等の名称を付した場合の責任)。ウは正しい(354条の要件に「無過失」は明文化されていない・判例は重過失を悪意と同視)。オは正しい(354条は会社の帰責行為として名称の付与が必要・自称の場合は354条の直接適用外・94条2項類推)。
代表取締役の権限(349条):349条4項「代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する」(包括的代表権)。349条5項「前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない」(内部制限の対抗不可:ア正しい)。表見代表取締役(354条):「株式会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役が行った行為について、善意の第三者に対してその責任を負う。」ポイントは①会社が名称を付したこと(帰責行為)、②当該名称が「代表権があると認められる名称」であること、③第三者が善意(代表権がないことを知らなかった)であることです(ウ:無過失は明文要件ではない)。「専務取締役」の扱い:判例(最判昭和35.10.14)は専務取締役を「代表権があると認められる名称」に該当するとしています。これは「専務」という語が実質的に代表権を示す名称として社会通念上認められているからです。エは「専務取締役は代表権を表示するものでなければ354条に当たらない」として判例と齟齬し誤りです。
【理論的背景:354条の外観法理と帰責性の要件】
会社法354条は外観法理(表見代理:民法109条・110条・112条)と同様の構造を持ちます。外観法理の3要素は①虚偽の外観の存在、②真正権利者の帰責性(外観作出・放置・黙認)、③相手方の信頼(善意・無過失)です。354条では①名称による代表権外観、②会社が名称を付与した(帰責行為)、③第三者の善意という要件が対応します。なお②の「会社が名称を付与した」という帰責行為が要件とされているため、自称(本人が勝手に名刺等に名称を記載した)場合は354条が直接適用されません(オ正しい)。この場合は民法94条2項の類推適用が検討されます(会社が自称を知りながら放置していた場合等)。353条・354条は「会社の責任(対外的効力)」を定め、会社内部の権限制限(定款・取締役会決議)が対外的に効力を失う場面(349条5項)とセットで理解することが重要です。
【条文構造:354条と判例による「代表権があると認められる名称」の解釈】
354条の「社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称」について、判例は拡張的に解釈しています。認められる名称の例:①社長(当然)、②副社長(当然)、③専務取締役(最判昭35.10.14:肯定)、④常務取締役(判例で肯定とする見解あり)、⑤頭取(銀行:肯定)。認められない名称の例:①理事(会社法上の取締役に相当しない法人の場合)、②ただの「取締役」(代表権外観を示さない)。354条の「善意」要件については、判例(最判昭52.10.14等)が「重過失ある第三者は悪意と同視する」として保護を否定しています。つまり実質的には「善意かつ無重過失」が保護要件となっています(ウの「無過失は不要」は正確には「無重過失で足りる」が正確)。ただし条文上「善意の第三者」とのみ規定されているため、ウの記述(無過失は要求されない)は条文文言としては正確です。
【試験での位置づけ:行政書士試験における表見代表取締役の頻出パターン】
行政書士試験での表見代表取締役(354条)の典型的な問われ方は①「社長・副社長・専務・常務」の名称が対象か、②「会社が名称を付与」という帰責行為要件(自称は354条の直接適用外)、③善意要件(重過失者は保護不可)、④349条5項(代表権の内部制限と善意第三者保護)との関係の4点です。エのような「専務は代表権名称ではない」という誤り肢は判例理解の確認として頻出です。また353条(代表取締役と利益が相反する場合の別代表権者の選定)との違いも整理しておくと有益です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい。349条5項の正確な内容。内部的制限(例:「不動産の売却は取締役会決議が必要」)は対外的に効力を失い、善意の第三者には対抗できない。代表権の包括性(4項)と一体で理解する。
- イ: 正しい。354条の「社長・副社長」は条文上明示された例示。これらの名称が付与された場合、会社は善意の第三者に責任を負う。
- ウ: 正しい。354条の条文上は「善意の第三者」とのみ規定され、無過失は明文要件ではない。判例は重過失を悪意と同視するが、無過失(軽過失を含む)は保護される。
- エ: 誤り。判例(最判昭和35.10.14)は「専務取締役」が「代表権があると認められる名称」に当たると判示している。エの「当たらない」という記述は判例と反対。
- オ: 正しい。354条は「会社が名称を付した」という会社の帰責行為を要件とする。取締役が自ら名称を詐称した場合は354条の直接適用範囲外(会社の帰責行為がない)。この場合は会社が自称を知って放置していたなら民法94条2項類推適用が検討される。
【根拠条文】
会社法 第349条第4項・第5項(代表取締役の包括的代表権・内部制限の対抗不可)
会社法 第354条(表見代表取締役・善意の第三者への会社責任)
最判昭和35年10月14日(専務取締役が「代表権があると認められる名称」に当たることの確認)
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 会社法第349条第5項(代表権の内部制限と対抗不可)、会社法第354条(表見代表取締役) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。