行政書士 商法・会社法 問56:商法・会社法/役員の義務・責任
役員等の第三者に対する損害賠償責任(会社法第429条)に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア取締役等の役員がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、当該役員は第三者(会社債権者等)に生じた損害を賠償する責任を負う。
- イ429条の「第三者」には、直接損害(役員の行為によって第三者が直接受けた損害)だけでなく、間接損害(会社が損害を受けたことで間接的に損害を受けた第三者の損害)も含まれるとするのが判例の立場である。
- ウ429条の責任が認められるためには、役員と第三者との間に契約関係(債権債務関係)があることが必要であり、役員と直接の契約関係がない者は429条の責任を主張することができない。正答
- エ取締役が計算書類・事業報告等に虚偽の記載をした場合、または株式・新株予約権・社債に係る募集書類等に虚偽の記載をした場合には、429条2項により取締役に無過失の特別責任が発生するが、取締役が自己に悪意・重過失がなかったことを立証した場合には責任を免れる。
- オ複数の取締役が共同して不正行為を行い第三者に損害を与えた場合、各取締役の429条の責任は連帯責任(不真正連帯)となり、第三者は各取締役に対して損害の全額を請求することができる。
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役員の第三者責任(429条)が問われています。ウが誤り。429条の責任は不法行為責任に準じた法定責任であり、役員と第三者との間に契約関係がなくても適用されます。この点が民法の不法行為(709条)との共通点であり、損害賠償を求めるために契約関係は要求されません。アは正しい(429条1項:悪意または重過失)。イは正しい(判例:直接損害・間接損害の双方が対象)。エは正しい(429条2項:虚偽記載の特別責任・推定規定で無過失証明による免責可)。オは正しい(複数役員の連帯責任・不真正連帯)。
429条1項(一般的な第三者責任):「役員等がその職務を行うにつき悪意または重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」。要件は①役員等の「職務を行うについて」の悪意または重過失、②第三者への損害、③因果関係(職務行為と損害の間)の3点。「契約関係」は不要(ウ誤り)。本条は一般的な不法行為(709条)とは異なる法定責任であり、①故意・過失の程度(悪意・重過失に限定)、②会社との関係に基づく特別の責任という点で異なります。直接損害・間接損害の区別(最大判昭44.11.26):判例は「会社に損害を与えることで間接的に株主・債権者に生じた損害(間接損害)」も429条で請求できると解しています(イ正しい)。429条2項(虚偽記載等の特別責任):2項は「計算書類・事業報告・募集書類等に虚偽の記載をした取締役」に対して、「当該記載を信じた第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」と規定し、「自己に悪意・重過失がなかったことを証明した場合は免責」という挙証責任転換型の規定です(エ正しい)。連帯責任(オ正しい):429条の複数取締役の責任は不真正連帯とされ(通説・判例)、各取締役に損害全額の請求が可能です。
【理論的背景:429条の立法趣旨と法的性質の議論】
429条の法的性質については「法定責任説」と「不法行為特則説」の対立があります。判例(最大判昭44.11.26)は「本条は、会社が経済社会において重要な地位を占めていること及び会社の活動がその機関である取締役の職務執行に依存するものであることにかんがみ、第三者保護の立場から、取締役が悪意または重大な過失によりその職務を行わなかった場合には、これによって生じた損害を直接第三者に賠償する責任を認めたもの」と述べ、法定の特別責任(法定責任説)を採用しています。この立場では、①会社自体が責任を負うことに加えて役員個人にも直接責任が課される点、②故意・過失ではなく「悪意・重過失」に限定される点(一般不法行為より要件が絞られる)、③第三者に直接請求権を付与することで、会社の倒産時に会社を介さずに役員個人に賠償を求めることが可能となる点が重要です。会社が倒産して会社への損害賠償請求が無意味になった場合でも、428条(特別背任)・429条によって役員個人への責任追及が可能となります。
【条文構造:429条1項・2項の適用関係】
429条1項(一般責任):要件①悪意または重過失(過失では不足・軽過失は対象外)、②職務を行うについて(職務と損害の関連性)、③第三者への損害(直接損害・間接損害の双方)。429条2項(特別責任・虚偽記載等):①取締役等が計算書類・事業報告・株式・社債等の募集に関する書類に虚偽の記載・記録をした場合、②当該書類等を信じた第三者への損害、③自己に悪意・重過失がなかったことを証明できれば免責(挙証責任が転換されており、取締役側が無過失を証明する必要がある)。2項の典型的場面は「粉飾決算(虚偽の計算書類作成)を信じて融資・投資した金融機関・株主が損害を受けた場合」です。なお429条は「役員等」(取締役・会計参与・監査役・執行役・会計監査人)を対象とし、代表取締役に限らず全ての取締役(業務執行に関与しない社外取締役を含む)が対象となります。
【試験での位置づけ:行政書士試験における429条の頻出論点】
行政書士試験での429条の典型的な問われ方は①要件(悪意・重過失に限定:軽過失不可)、②直接損害・間接損害の双方が対象(最大判昭44.11.26)、③契約関係の不要性(ウのような誤り肢として頻出)、④2項の虚偽記載の特別責任と挙証責任転換(無過失の証明で免責)の4点です。「過失があれば責任が生じる(誤り:悪意・重過失が必要)」「契約関係が必要(誤り:不要)」が典型的な引っかけです。また株主代表訴訟(847条)との対比(会社に対する責任 vs 第三者への直接責任)も整理しておくと有益です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい。429条1項の正確な内容。「悪意または重大な過失」に限定(軽過失は対象外)。役員の職務を行うについてという限定も重要(私生活上の行為は対象外)。
- イ: 正しい。最大判昭和44年11月26日が「間接損害も429条の対象」と判示。「会社の損害=会社財産の減少=株主・債権者の損失」という構造での間接損害が典型。ただし間接損害は株主については株主代表訴訟(847条)で別途対応可能。
- ウ: 誤り。429条は法定責任であり契約関係は不要。取引相手(会社債権者)・株主・投資家等、役員と直接契約関係がない者でも429条の適用を受ける。この点が民法上の契約責任(416条等)と異なる。
- エ: 正しい。429条2項は挙証責任転換(取締役が自己の無過失を証明すれば免責)。通常の不法行為(709条)では被害者が故意・過失を証明するが、2項では取締役側に立証責任が転換されており、虚偽記載をした取締役は「自分には悪意・重過失がなかった」ことを証明しない限り責任を負う。
- オ: 正しい。複数取締役の429条責任は不真正連帯(各自が損害全額について責任を負う)。連帯債務(民法432条〜)の絶対的効力事由(免除・時効等)は及ばないため「不真正連帯」とされる。第三者はいずれかの取締役に全額請求できる(資力のある取締役を選んで請求可能)。
【根拠条文】
会社法 第429条第1項(役員等の第三者責任・悪意または重過失)
会社法 第429条第2項(虚偽記載の特別責任・挙証責任転換)
最大判昭和44年11月26日(法定責任説・直接損害・間接損害の双方が対象)
民法 第709条(不法行為責任)との対比
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 会社法第429条第1項(役員等の第三者責任・悪意・重過失)、会社法第429条第2項(虚偽記載・挙証責任転換) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。