行政書士 商法・会社法 問66:商法・会社法/機関(取締役・役員の選任)
取締役の選任に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア取締役の選任は、株主総会の普通決議によることが原則であるが、取締役を1人ずつ個別に選任するか、または複数をまとめて一括で選任するかについては、定款の定めを問わず株主総会の判断で決定することができる。
- イ累積投票とは、2人以上の取締役の選任に際して、株主が自己の保有する議決権の総数に選任する取締役の数を乗じた数の議決権を有し、その議決権を任意の候補者に集中投票することができる制度であり、定款によっても廃除することはできない。
- ウ累積投票の制度は、少数株主が自己の支持する取締役を選任する機会を確保するための制度であり、株主は累積投票による選任を請求する権利を有するが、この請求に当たり持株数の要件はない。
- エ会社は、取締役を解任する場合には、株主総会の普通決議で足り、正当な理由なく解任した取締役に対しては損害賠償(残任期分の報酬相当額等)を支払わなければならないとされる(会社法339条)。正答
- オ取締役を2人選任する株主総会において、議決権100個を保有する株主は、累積投票制度を利用すれば最大200個の議決権を行使することができ、2人の候補者に各100個ずつ分配することも、1人の候補者に200個を集中投票することもできる。
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取締役の選任・解任・累積投票が問われています。エが正しい。取締役の解任は原則として普通決議で可能であり、正当な理由なく解任した場合は会社が損害賠償責任を負います(339条2項)。ただし、正当な理由がある解任(例:不正行為・職務怠慢)では損害賠償は不要です。アは誤りで、定款に一括選任の排除を定めている場合もあり得ます。イは誤りで、累積投票は定款で廃除することができます(342条1項但書)。ウは誤りで、累積投票の請求には持株数の要件(341条の定足数規制)はありませんが、「単独株主権」として請求できるのは定款で累積投票が廃除されていない場合のみです。オは正しい内容ですが(累積投票で議決権数が保有数×選任人数に増える)、エが正答として一義的です。
取締役選任の決議(341条):取締役の選任は普通決議が原則(341条:定足数は議決権の過半数・定款で3分の1まで緩和可・出席議決権の過半数で選任)。一括選任か個別選任かは原則として株主総会の判断(ただし、定款に定めがある場合や、累積投票請求がある場合は個別選任が求められる)。アの「定款の定めを問わず株主総会の判断で決定できる」は誤り(定款の定めが優先)。累積投票(342条):342条1項「株式会社は、2人以上の取締役の選任について、累積投票による選任を請求することができる旨を定款に定めることができる」とは規定していない実際は、定款で累積投票を「廃除する」ことができる(342条1項但書:「ただし、定款に別段の定めがある場合を除き」)。つまり,会社法は累積投票を原則として株主が請求できるものとし,定款による廃除を許容しています。イの「廃除できない」は誤りです。累積投票の議決権数(342条2項):株主は保有議決権数×選任人数分の議決権を持ち、任意の候補者に集中投票できます(オ正しい方向)。解任と損害賠償(339条):339条1項(解任は普通決議)・339条2項(正当な理由なき解任→損害賠償):エ正しい。
【理論的背景:累積投票の意義と少数株主の利益保護】
累積投票(cumulative voting)は少数株主が自己の支持する取締役候補を選任する機会を確保するための制度です。通常の多数決選任では「議決権51%以上を保有する多数株主が全取締役を選任できる」ため、少数株主(49%以下)は取締役選任に全く影響を与えられません。累積投票では「保有議決権×選任人数」の議決権が付与されるため、少数株主も特定の候補者に票を集中させることで当選させる可能性が高まります。例えば、選任人数3人・総議決権1000個(多数派700・少数派300)の場合、通常選任では少数派候補は当選不可ですが、累積投票では少数派は900票を1人に集中できるため当選の可能性があります。ただし日本の実務では多くの会社が定款で累積投票を廃除しているため(342条1項但書)、制度として認知されていても利用頻度は低いのが実状です。
【条文構造:341条・342条・339条の関係】
会社法341条(取締役の選任の決議):「役員(取締役・会計参与・監査役)の選任及び解任の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上を下らない割合を定款で定めた場合は、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合は、その割合以上)をもって行う」(普通決議の特別版:定足数の緩和下限が設定された特則)。会社法342条1項(累積投票):「株主は(中略)定款に別段の定めがある場合を除き(廃除可)、累積投票によって2人以上の取締役を選任することを株主総会に請求することができる」。342条2項(累積投票の議決権数):「各株主の有する議決権の数に取締役の選任の決議において選任する取締役の数を乗じた数」の議決権を持つ。会社法339条(解任・損害賠償):339条1項(解任は341条の決議→普通決議)・339条2項「役員を解任した場合において、解任について正当な理由がないときは、当該役員は、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる」。
【試験での位置づけ:行政書士試験における取締役選任・解任・累積投票の頻出論点】
行政書士試験での取締役選任・解任・累積投票の典型的な問われ方は①選任・解任は普通決議(ただし定足数の特則がある:341条)、②正当な理由なき解任による損害賠償(339条2項)、③累積投票の廃除(定款で廃除可:342条1項但書)、④累積投票の議決権計算(保有数×選任人数)の4点が典型です。イの「累積投票は定款で廃除不可(誤り:廃除可)」とエの「正当な理由なき解任→損害賠償(正しい)」が典型的な対比問題です。なお累積投票の利用は現実的に少ないですが、試験上は342条の仕組みとして確実に押さえる必要があります。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 誤り(不正確)。一括選任か個別選任かは、定款に定めがある場合はそれに従う。累積投票請求があれば個別選任が必要(342条4項:累積投票では各候補者を個別の選任決議とする)。「定款の定めを問わず株主総会の判断で決定できる」という絶対的な記述は誤り。
- イ: 誤り。342条1項は「定款に別段の定めがある場合を除き(定款で廃除可)」と明記。多くの実務会社が定款で累積投票を廃除している。「廃除することはできない」は342条1項に反する誤り。
- ウ: 誤り(不正確)。累積投票の請求は342条1項により「定款に廃除定めがない限り」単独株主権として請求できるが、ウの記述は「定款で廃除されている場合でも請求できる」と読まれる可能性があり不正確。「持株数の要件はない」という点は概ね正しい(単独株主権)。
- エ: 正しい。339条1項(解任は普通決議:341条の決議)・2項(正当な理由なき解任→会社の損害賠償責任)の正確な内容。損害賠償の内容は「解任によって生じた損害」であり、残任期間の報酬相当額が典型。
- オ: 正しい内容(累積投票の計算:100個×2人=200個の議決権・1人への集中投票可)。エが正答として一義的であるためオを誤りとする根拠はないが、エが明確に正しい。
【根拠条文】
会社法 第339条第1項・第2項(取締役の解任・普通決議・正当な理由なき解任の損害賠償)
会社法 第341条(取締役選任の普通決議要件・定足数特則)
会社法 第342条第1項・第2項・第4項(累積投票・定款廃除可・議決権計算・個別選任)
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 会社法第339条(取締役の解任・損害賠償)、会社法第342条(累積投票・定款廃除可)、会社法第341条(取締役選任の普通決議要件) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。