行政書士 憲法 問52:憲法
人身の自由(憲法38条・自白に関する規定)に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア憲法38条1項は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と規定しており、この黙秘権は刑事事件において起訴された後(公判段階)のみに保障される権利であり、逮捕・捜査段階には及ばない。
- イ憲法38条2項は、強制・拷問・脅迫による自白や、不当に長期にわたる抑留・拘禁後の自白についても、証拠能力そのものは否定されず、証拠として用いた上で裁判官がその証明力(信用性)を自由に評価すれば足りるとしている。
- ウ憲法38条3項は、本人の自白のみを証拠として有罪の判決を言い渡すことを禁じており、自白のみで有罪とするには別の補強証拠が必要とされる(補強証拠の法則)。正答
- エ逮捕された被疑者が供述を拒否(黙秘権行使)した場合、その事実を不利益に推論することは憲法38条1項によって禁じられているため、裁判官は黙秘の事実を有罪認定の根拠の一つとしては評価してはならない。
- オ38条2項の「任意にされたものでない疑のある自白」は、単に証拠能力が否定されるだけでなく、内容の真実性も否定されるため、任意性のある証拠によって補強されても有罪の証拠とはなり得ない。
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憲法38条は、①黙秘権(1項・自己に不利益な供述を強要されない)、②任意性のない自白の証拠能力の否定(2項)、③補強証拠の法則(3項・自白のみで有罪不可)の3つの重要原則を定めています。ウは「自白のみを証拠として有罪とすることを禁じており、別の補強証拠が必要」という38条3項の補強証拠の法則を正確に表現しており正答です。アは「公判段階のみ」としている点が誤りです(黙秘権は逮捕・捜査段階から保障されます)。イは「証拠能力そのものは否定されず証明力を自由に評価すれば足りる」としていますが、これは誤りです。38条2項は「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない」と定めており、これは証拠能力そのものを否定する規定(証拠排除)だからです。ウが正答です。
憲法38条の3つの規定を整理します。①黙秘権(38条1項):「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」。この権利は逮捕段階から公判終結まで一貫して保障されます(アが「公判段階のみ」とする点が誤り)。刑事訴訟法198条2項も被疑者の黙秘権を明記しており、捜査段階から保障されることが法律上も確認されています。②任意性のない自白の排除(38条2項):「強制・拷問・脅迫による自白、又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない」。「証拠とすることができない」とは証拠能力の否定(証拠排除)を意味します。イは「証拠能力そのものは否定されず証明力を自由に評価すれば足りる」としていますが、これは38条2項が証拠能力を否定している点に正反対で誤りです。③補強証拠の法則(38条3項):「本人の自白が、自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」。自白だけを唯一の証拠として有罪判決を言い渡すことを禁じ、別途「補強証拠」が必要です(ウが正答の根拠)。オについて、38条2項が適用される自白(任意性を欠く自白)は証拠能力を否定されますが、任意性のある自白については証拠として使用可能です(「内容の真実性も否定される」はウの補強証拠の法則と別問題)。
【理論的背景】
憲法38条は、自己負罪拒否特権(nemo tenetur se ipsum accusare・英米法に由来する原則)を日本憲法が採用したものです。この原則は、国家が個人に対して自分が犯罪を行ったことを証言させることはできないという考え方に基づき、拷問・強制捜査による「自白」に依存した捜査・訴訟を防止し、無実の者が誤った自白によって処罰されるリスクを回避します。日本の歴史的な背景(戦前の自白重視捜査・拷問)を踏まえて、憲法制定過程で明示的に規定されました。38条の3項(補強証拠の法則)は、「自白は証拠の女王」として自白を唯一の有罪根拠とした誤判防止のために特に重要な規定です。
【実務・条文構造】
38条3項(補強証拠の法則)の実務上の意義を整理します。
- 要件: 「本人の自白が自己に不利益な唯一の証拠」である場合
- 効果: 有罪判決・刑罰の科すことが禁止
- 意義: 自白(共同被告人の供述ではなく本人の自白)だけでは有罪にできない。別の証拠(目撃証言・物証等)が必要
- 補強証拠の範囲: 自白の信用性を補強するものである必要はなく、犯罪事実の存在を裏付けるものであれば足りるとするのが判例の傾向
38条1項の黙秘権と逮捕段階の関係について:刑事訴訟法198条2項は「被疑者は、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げられなければならない」と規定しており、捜査段階(逮捕後の取調べ)においても黙秘権が保障されます(アが「公判段階のみ」とする点が誤りの根拠)。なお、黙秘権を行使した事実を有罪認定の根拠の一つとすることについて、エは「黙秘の事実を有罪認定の根拠にしてはならない」と述べていますが、日本の判例はこの点について明確な禁止を示しておらず(アメリカの Griffin v. California 法理との違い)、一律の禁止とは断定しにくいため、エは誤り(または少なくとも過度に断定的)と評価されます。
【試験での位置づけ】
行政書士試験での38条の出題ポイントは次の4つです。①黙秘権(1項):逮捕・捜査段階から公判段階まで一貫して保障。②任意性を欠く自白の排除(2項):強制・拷問・脅迫による自白や不当な長期拘禁後の自白は証拠能力なし。③補強証拠の法則(3項):本人の自白が唯一の証拠である場合は有罪不可。④これら3原則の条番号(38条1・2・3項)と内容の対応。特に「補強証拠の法則」は頻出論点で「自白のみで有罪は不可→別の証拠が必要」という原則を正確に覚えること。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 誤り。黙秘権(38条1項)は逮捕・取調べ段階(捜査段階)から保障される。刑訴法198条2項の黙秘権告知も捜査段階のものであり、「公判段階のみ」という断定は誤り。
- イ: 誤り。38条2項は「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない」と定め、これらの自白の証拠能力そのものを否定する(証拠排除)。イは「証拠能力そのものは否定されず、証拠として用いた上で証明力を自由に評価すれば足りる」とするが、これは2項が証拠能力を否定している点に正反対であり誤り。
- ウ: 正答。38条3項(補強証拠の法則)を正確に表現している。「自白のみを証拠として有罪の判決を言い渡すことを禁じる」「別の補強証拠が必要」という記述が条文と整合。
- エ: 過度に断定的で誤り。黙秘権行使の事実を有罪認定の根拠としてはならないという命題は、日本の判例上必ずしも明確に確立しておらず(アメリカのグリフィン法理の直接採用はない)、「評価してはならない」という断定は誤り又は不正確。
- オ: 誤り。38条2項が適用されるのは任意性を欠く自白であり、任意性のある自白は証拠能力を有する。「任意性のある証拠によって補強されても有罪の証拠とはなり得ない」というオの記述は、任意性のある自白の証拠能力を否定するものとして誤り。補強証拠の法則(3項)は「任意性のある自白(証拠能力あり)が唯一の証拠の場合は有罪不可」という別の問題。
【根拠条文】
日本国憲法 第38条第1項(黙秘権)、第38条第2項(任意性を欠く自白の排除)、第38条第3項(補強証拠の法則)
刑事訴訟法 第198条第2項(被疑者への黙秘権告知義務)
【補足】
38条1項(黙秘権・捜査段階から)・2項(任意性欠く自白の排除)・3項(補強証拠の法則)の三規定の内容と条番号の対応を正確に覚えること。補強証拠の法則は「自白のみで有罪は不可」という端的な命題で整理する。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 日本国憲法 第38条(黙秘権・自白の証拠能力・補強証拠の法則) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。