行政書士 憲法 問63:憲法
地方公共団体の長(知事・市長等)と議会の権限に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア普通地方公共団体の議会は、長の行う具体的な事業執行や個別の行政処分について、議決権を通じて直接取り消す権限を有する。
- イ地方公共団体の長は、地方自治法が定める事由(専決処分が認められる場合)に該当する場合には、議会の議決によらず専決処分を行うことができるが、この専決処分は事後的に議会の承認を必要としない。
- ウ地方公共団体の長は、議会の議決した事件について、再議(異議申立て)を提起することができ、再議において出席議員の過半数で再可決された場合、その議決は確定する。
- エ普通地方公共団体の議会は、長の不信任議決を行うことができ(地方自治法178条)、不信任議決後に長が辞職も議会解散もしない場合には、長は失職する。正答
- オ地方公共団体の長は、議会の議決(条例・予算等)に対して「再議に付す」という方法のみで対応することができ、法律に特定の規定がある場合を除き、議会の議決の執行を停止することはできない。
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地方自治法上の「長と議会の関係」を整理します。エの「不信任議決後に長が辞職も解散もしない場合には長が失職する」は地方自治法178条の規定を正確に表現しており正答です。アの「議会が個別の行政処分を直接取り消す権限を持つ」は誤りです(議会は議決権・検査権を持ちますが、個別処分の直接取り消し権はありません)。イの「専決処分は事後的な議会の承認を必要としない」は誤りです(地方自治法179条3項:「首長の専決処分については議会に報告し、承認を求めなければならない」)。ウの「再議において過半数で再可決された場合に確定する」は誤りです(一般事件の再議は出席議員の過半数、条例・予算等は3分の2以上の再可決が必要)。
長と議会の関係の主要制度を整理します。①不信任議決と解散・失職(178条):議会が不信任議決(出席議員の3分の2以上が出席し、うち4分の3以上の同意)→長は通知を受けた日から10日以内に議会を解散できる。この10日以内に解散しないとき(=辞職も解散もしないとき)は、期間経過日に長は失職する(178条2項前段。エが正答の根拠)。なお、解散した場合は解散後初めて招集された議会で再び不信任議決(出席議員の過半数の同意)がなされれば、長はその通知があった日に失職する(178条2項後段)。②再議権(176条):長は議会の議決に対して異議があるとき、10日以内に再議に付すことができる。一般事件の再議(176条1項)は出席議員の過半数で再可決されれば確定(ウの「過半数で確定」は一般事件については正しい面もあるが、条例・予算等は3分の2以上が必要)。条例・予算に関する再議(176条3項)は出席議員の3分の2以上の多数で再可決されれば確定(ウは「全て過半数」としており不正確・誤りです)。③専決処分(179条・180条):議会を招集する時間的余裕がない緊急の場合等、179条1項に定める事由に限り長が専決処分可。ただし179条3項・180条2項により事後的に議会への報告・承認手続きが必要(イが「承認を必要としない」とする点が誤り)。④議会の行政処分取消権(ア):議会は行政処分の是非を調査・監視(100条の調査権)することはできますが、個別の行政処分を直接取り消す権限は持ちません。
【理論的背景】
地方公共団体の機関(長と議会)の関係は、国における「内閣と国会」の関係に対応しますが、地方自治法は「二元代表制(首長制)」を採用しています。国会が唯一の立法機関であるのとは異なり、地方では住民が長(首長)と議会の双方を直接選出します(二元代表制)。この二元代表制のもとで、長と議会の間に制度上の抑制・均衡(チェックアンドバランス)が設けられており、不信任議決・解散・再議権・専決処分等がその主要な仕組みです。憲法93条は「地方公共団体には、議会を設置し、その議事機関として議会を設ける」(1項)および「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」(2項)と規定しています。
【実務・条文構造】
不信任議決と解散・失職(地方自治法178条)の手続きを整理します。
1. 議会が不信任議決(出席議員の3分の2以上が出席、その4分の3以上の同意)→長に通知
2. 長は通知を受けた日から10日以内に議会を解散することができる
3. この10日以内に解散しないとき(=辞職も解散もしないとき)→期間経過日に長は失職(178条2項前段。エが正答の根拠)
4. 解散した場合:解散後初めて招集された議会で再び不信任議決(今度は出席議員の過半数の同意)→長はその通知の日に失職(178条2項後段)
専決処分(179条・180条)の区別:
- 179条:長の専決処分(緊急の場合等・議会開催の余裕がない場合)→事後的に議会の承認が必要(179条3項)
- 180条:議会が長に委任した専決処分(専決委任)→事後的に議会への報告が必要(180条2項)
長の再議権(176条)の整理:
- 一般的な再議(176条1項):一般事件→再議の結果、出席議員の過半数で再可決→確定
- 条例・予算等の再議(176条3項):異議のある条例・予算について→3分の2以上で再可決→確定
【試験での位置づけ】
行政書士試験での長と議会の関係の出題ポイントは次の4つです。①不信任議決の要件:3分の2以上出席・4分の3以上同意(1回目)→10日以内に解散できる・解散しなければ失職。②解散後の2回目の不信任:過半数同意で長が失職。③専決処分:179条(緊急)・180条(委任)・いずれも事後的に議会への報告・承認が必要。④再議権:条例・予算は3分の2以上の再可決、一般事件は過半数の再可決で確定。「不信任議決の要件(過半数と3分の2以上の混同)」「専決処分の事後承認(不要とする誤り)」「再議の再可決要件(全て過半数とする誤り)」が典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 誤り。議会は議決権・調査権(100条)を持つが、個別の行政処分を直接取り消す権限は持たない。行政処分の取消しは行政不服申立て・抗告訴訟が担う。「直接取り消す権限を有する」は誤り。
- イ: 誤り。専決処分(179条)は事後的に議会の承認を必要とする(179条3項:「その結果を次の議会に報告し、その承認を求めなければならない」)。「承認を必要としない」は誤り。
- ウ: 不正確・誤り。再議において「過半数で確定」というのは一般事件の再議(176条1項)には正しいが、条例・予算等に関する再議(176条3項)は「出席議員の3分の2以上」の再可決が必要。「全て過半数」とする表現は不正確で誤り。
- エ: 正答。地方自治法178条2項により、不信任議決の通知を受けた長は、その通知を受けた日から10日以内に議会を解散することができ、解散しないとき(=辞職もせず解散もしないとき)はその期間経過日に失職する。エの「不信任議決後に長が辞職も議会解散もしない場合には、長は失職する」はこの178条2項の仕組みを正確に表現しており正答。
- オ: 概ね正しい方向だが断定的な表現に問題。長は再議権(176条)以外にも、自治事務に関する行政庁の権限として事情変更による必要措置が可能な場合があり「再議のみ」という断定は不正確。エが最も直接的な正答。
【根拠条文】
地方自治法 第176条(長の再議権・一般事件は過半数・条例予算は3分の2以上)、第178条(不信任議決・10日以内に解散or辞職・2回目不信任で失職)、第179条(緊急の専決処分・事後承認必要)、第180条(委任専決処分・事後報告必要)
【補足】
不信任議決の要件(3分の2以上出席・4分の3以上同意)と、2回目の不信任での失職、専決処分の事後承認義務、再議の再可決要件(一般:過半数、条例予算:3分の2以上)の4点を整理して押さえること。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 地方自治法 第176条(長の再議権)、第178条(不信任議決・解散・失職)、第179条・第180条(専決処分) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。