行政書士 民法 問14:物権変動・登記なく対抗できる第三者の範囲
民法177条の「第三者」に関する次のア〜オの記述のうち、判例の趣旨に照らして**誤っているもの**はどれか。
- ア不動産の所有権を取得した者は、登記がなければ、その不動産の不法占拠者に対して所有権を対抗することができない。正答
- イAが不動産を取得しても登記を備えていない間に、BがAと同じ不動産を取得して登記を備えた場合、AはBに対して所有権を対抗することができない。
- ウ土地所有者Aから土地を購入したBが未登記の間に、Aの債権者Cが当該土地を差し押さえた場合、BはCに対して所有権を対抗することができない。
- エ不動産に設定された不法行為に基づく損害賠償請求権を有するだけの者は、177条の第三者には当たらない。
- オ無効な売買契約によって不動産の所有権を得たと信じている者は、177条の第三者に当たる。
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アが誤りです。判例は、不法占拠者(正当な権利なく不動産を占有する者)は民法177条の「第三者」には当たらないとしており、所有権取得者は登記なくとも不法占拠者に対して所有権を主張できます。イは正しく(後順位取得者で登記を備えた者には登記なく対抗不可)、ウは正しく(差押え債権者は177条の第三者に当たり、差押え前に未登記の買主は対抗不可)、エは正しく(損害賠償請求権を有するだけの者は不動産との権利関係を有する第三者ではない)、オについては、無効な法律行為を根拠とする権利取得は認められないため、その相手方は「登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者」とはいえないとする立場が有力です(オの記述は一概に正しいとは言い切れない)。いずれにせよ、本問で最も明確に誤りなのはアです。
アが誤りです。民法177条の「第三者」とは「登記の欠缺(欠如)を主張する正当な利益を有する第三者」をいい(判例の解釈)、不法占拠者はこれに含まれません。不法占拠者は正当な権利に基づいて不動産を占有しているわけではないため、所有権取得者は登記なくとも不法占拠者に対して所有権(および所有権に基づく明渡請求・返還請求)を主張することができます。「登記なければ不法占拠者にも対抗不可」というアは誤りです。
イ:正しい。後順位取得者Bは177条の第三者に当たります。先に登記を備えたBに対して、未登記のAは所有権を対抗できません。これが二重売買における登記先行者優先の原則です。
ウ:正しい。差押え債権者(CがAの不動産を差し押さえた)は177条の第三者に当たることが判例上確立しています。Bが未登記の状態でCが差押えを行った場合、BはCに対して所有権を対抗できず、差押えの効力を争えません。
エ:正しい。不動産に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を有するだけの者は、177条の「第三者」(当該不動産についての物権的な利害関係を有する者)とはいえません。登記の欠缺を主張する正当な利益がないためです。
オ:無効な売買によって所有権を取得したと誤信している者が177条の第三者に当たるかは、事案によります。原則として、無効な法律行為を根拠とする権利取得は認められないため、177条の第三者から除外される場合があります(無効原因の種類によっては94条2項類推等で別途第三者保護が問題となりうる)。
【理論的背景】
民法177条の「第三者」をどの範囲で理解するかは、物権変動における動的安全(取引安全)と静的安全(所有者保護)の均衡を図る核心的論点です。判例は「当事者もしくはその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者」という定義を用い、単なる無関係の第三者や不法行為者・不法占拠者を排除しています。この解釈によって「177条の第三者」の範囲は限定されており、すべての第三者が登記を要求できるわけではありません。
不法占拠者が177条の第三者から除外される理由は、①不法占拠者は正当な権利に基づく利害関係を有さないこと、②不法占拠者に登記の対抗を認めると不法行為を助長するおそれがあること、③登記制度は適法な権利関係の公示・保護を目的とするものであることにあります。
【条文構造】
177条の「第三者」の類型を整理します(判例による):
[第三者に含まれる(登記なく対抗不可の相手方)]
- 二重売買の後順位買主(登記を先に備えた者)
- 差押え債権者
- 抵当権者
- 仮差押え債権者
- 地上権者・賃借人(民177条の類推問題もあり)
[第三者に含まれない(登記なく対抗可の相手方)]
- 不法占拠者・不法行為者
- 当事者(売主・買主)
- 包括承継人(相続人等)
- 背信的悪意者(判例)
- 無権利者・詐欺による無効登記を抱える者
- 単なる損害賠償請求権者(不動産との権利関係を持たない者)
【試験での位置づけ】
177条の「第三者」の具体的な包含・除外を問う問題は行政書士試験の定番です。「不法占拠者は含まれない」「差押え債権者は含まれる」「背信的悪意者は含まれない」という3つのキーポイントを覚えることが最重要です。また、「登記なく対抗できる=177条の第三者ではない」という逆の命題も確認できるようにしておく必要があります。問題の傾向として「次の者のうち、登記なく対抗できる(できない)のはどれか」という問われ方も多く、本問のような「177条の第三者に当たらない者」を問うパターンは頻出です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正答(誤りの選択肢)。不法占拠者(例:不正に占拠している者・正当権限なく他人の土地に建物を建てた者)は177条の第三者ではなく、所有権取得者は登記なくして不法占拠者に所有権・明渡請求を行使できる。これは物権の対世的効力(誰に対しても主張できる)の基本的な表れ。
- イ: 177条の典型的第三者。後順位取得者が先に登記を備えた場合、先順位(先契約)の未登記所有者が対抗できないのは177条の核心。「契約の先後ではなく登記の先後で決まる」という原則の適用。
- ウ: 差押え債権者が177条の第三者に当たることは確立した判例・実務上の扱い。差押え前に未登記の買主がいても、差押え後は差押え債権者が優先する。執行の場面での対抗問題は実務的にも重要。
- エ: 損害賠償請求権を有するだけの者は、当該不動産の物権的権利者ではなく、177条の「正当な利益を有する第三者」とはいえない。不動産の権利関係とは無関係の立場であるため。
- オ: 無効な売買の相手方の177条の第三者性は論点となる。無効な法律行為に基づく権利取得は認められないため、当該相手方は「登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者」とはいえないとする立場が有力(ただし無効原因の種類により94条2項類推等の保護が別途問題となる場合がある)。いずれにせよ本問ではアが明確に誤りであることから正答はアとなる。
【根拠条文】
民法 第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
【参照判例】
不法占拠者は177条の第三者でない(最判 昭和25年12月19日)
差押え債権者は177条の第三者(確立した判例・実務上の取扱い)
【補足】
「不法占拠者」「差押え債権者」「背信的悪意者」の3者が177条の第三者に含まれるか否かの整理が頻出。不法占拠者=第三者でない(登記なく対抗可)、差押え債権者=第三者(登記なく対抗不可)、背信的悪意者=第三者でない(登記なく対抗可)という対比で覚える。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件) 参照判例: 不法占拠者は177条の第三者でない(最判昭25.12.19)、差押え債権者は177条の第三者(確立した判例・実務) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。