行政書士 民法 問48:賃貸借・現行規律・敷金・修繕義務
AはBに甲建物を賃料月額10万円で賃貸し、Bは入居時にAに対して敷金30万円を差し入れた。賃貸借に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか(現行民法に基づいて答えること)。
- アAはBに甲建物を使用収益させる義務を負い、甲建物に修繕が必要な場合、Aは常にその修繕義務を負う。
- イBが賃料を3か月分(30万円)滞納した場合、AはBに対して通知なしに敷金からその充当をすることができる。
- ウ賃貸借期間中、AはBの同意なしに甲建物をCに売却することができるが、その場合、Bは新所有者Cへの賃料支払いを拒絶することができる。
- エ賃貸借契約が終了し、BがAに甲建物を返還した場合、Aは敷金から賃料未払い・損害賠償額等を控除したうえで、残額をBに返還しなければならない。正答
- オBが正当な理由なくAの修繕のための立入りを拒んだ場合でも、Aは修繕義務を履行できないことを理由に賃料減額を認めなければならない。
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エが正しい記述です。民法622条の2第1項は「賃貸人は、敷金を受け取った場合において、次に掲げるときは、受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない」として、賃貸借終了・明け渡し後の敷金返還義務を定めます。アは誤りで、賃借人の責めに帰すべき事由による破損は修繕義務がAには生じません(606条1項ただし書)。イは誤りで、AがBの同意なく敷金を一方的に充当する権限を賃料滞納中に行使できるか否かは問題があり、622条の2第2項では賃借人からの充当の請求を認めていますが、賃貸人の一方的充当については問題があります(正確には、敷金は賃貸借終了まで担保的機能を持ち、Bは充当請求できるがAは一方的充当できないとするのが通説)。ウは誤りで、賃貸人がCに建物を売却した場合、BはCを新賃貸人として賃料を支払うべき関係(賃借権の対抗要件を具備していれば)。オは誤りで、Bの拒否による修繕不能はBの帰責事由によるものであり、賃料減額を認める必要はない。
エが正しい理由を622条の2第1項で確認します。同条1項1号は「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」に敷金残額の返還義務が生じるとし、控除額として「賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額」(未払賃料・損害賠償等)を控除後の残額を返還するとします。アについて、606条1項は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と規定しますが、「ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない」とし、賃借人の破損には修繕義務がないため「常に」は誤り。イについて、622条の2第2項は「賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができる」として賃借人(B)の充当請求権を認めますが、賃貸人(A)の一方的充当権については明文がなく(通説は終了まで担保的に保持)、「通知なしに充当できる」は誤り。ウについて、建物賃借人は建物の引渡しを受けていれば賃借権の登記がなくても第三者に対抗できる(借地借家法31条)。この対抗要件を備えた建物が譲渡されると、賃貸人たる地位は当然に新所有者(C)に移転する(民605条の2第1項)。よってBは賃借権をCに対抗でき、かつCを新賃貸人として賃料を支払う義務を負い、拒絶はできない(ただしCが賃借人に賃料を請求するには所有権移転登記が必要・605条の2第3項)。
【理論的背景】
賃貸借(民法601条〜622条の2)は、2020年改正で重要な明文化がなされた分野です。主な改正点は(1)賃貸人の地位の移転(605条の2の新設・賃貸目的物の譲渡に伴う賃貸人たる地位の当然移転と対抗要件)、(2)賃借人の修繕権(607条の2の新設・一定の場合に賃借人が自ら修繕してその費用を賃貸人に請求できる)、(3)賃借人の原状回復義務の明文化(621条の新設・通常損耗は原状回復義務なし)、(4)敷金規定の明文化(622条の2の新設・定義・返還時期・充当請求)です。特に敷金については改正前は条文なく判例・慣行に委ねられていましたが、改正により622条の2として明文化されました。
【条文構造の精密な理解】
- 601条: 賃貸借契約の定義(物の使用収益させること+賃料受領)。
- 606条1項: 賃貸人の修繕義務(ただし賃借人の責めに帰すべき事由による場合は除く)。
- 606条2項: 賃貸人の修繕のための立入権(Bが正当な理由なく拒否すれば修繕不能→Bの帰責・オの誤りの根拠)。
- 607条の2: 賃借人の修繕権→(1)賃貸人が修繕義務を負うのに相当期間内に修繕しない場合、(2)急迫の事情がある場合に、賃借人が自ら修繕し費用請求可。
- 605条の2第1項: 賃借人が対抗要件(不動産賃貸借の登記=605条/借地は借地借家法10条/建物は借地借家法31条の引渡し)を備えた不動産が譲渡された場合、賃貸人たる地位は当然に新所有者(C)に移転。
- 605条の2第3項: 賃貸人たる地位の移転を賃借人に対抗するには、譲受人が所有権移転登記を備える必要がある。
- 621条: 原状回復義務→賃借人は通常の使用収益で生じた損耗・経年変化は原状回復義務を負わない。
- 622条の2: 敷金→(1)定義(担保としての目的を有する金銭)、(2)返還時期(賃貸借終了+返還時)、(3)控除額(未払賃料等)、(4)賃借人の充当請求権。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における賃貸借の典型的な出題パターンは、(a)賃貸人の修繕義務と例外(賃借人帰責事由の場合・アのような問題)、(b)敷金の返還時期と控除額(622条の2・エのような正しい記述)、(c)賃貸目的物の譲渡と賃貸人たる地位の移転(605条の2・ウのような問題)、(d)原状回復義務と通常損耗(621条)、(e)賃借人の修繕権(607条の2)の5パターンです。特に(b)の敷金については改正で明文化されたため、現行法の正確な規律を条文から確認することが重要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 誤り。606条1項本文は修繕義務を規定するが、ただし書「賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない」があるため「常に」が誤り。Bが故意・過失で甲建物を破損した場合の修繕はBが費用を負担する(この場合はAに修繕義務なし)。
- イ: 誤り。622条の2第2項は「賃借人(B)が賃貸人(A)に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができる」として、充当請求権を賃借人に認める。賃貸人(A)は、通常は賃貸借終了時まで敷金を担保として保持するのが通説であり、賃料滞納中に「通知なしに充当できる」とする明文はない。
- ウ: 誤り。建物の引渡しを受けたBは賃借権をCに対抗できる(借地借家法31条)。対抗要件を備えた建物が譲渡されると、Aの賃貸人たる地位はCに当然移転する(民605条の2第1項)ため、BはCに賃料を支払うべき立場となり、拒絶はできない(CはBに「出て行け」とも言えない)。
- エ: 正しい(正答)。622条の2第1項各号の規律。賃貸借終了後・返還時に、未払賃料・損害賠償等を控除した残額を返還(敷金精算)。Bに延滞がなければ30万円全額返還、延滞があれば控除後の残額返還。
- オ: 誤り。606条2項は賃貸人の修繕のための立入権を認め、「賃借人は、正当な理由がある場合を除き、これを拒むことができない」と規定する。Bが正当な理由なく立入りを拒んで修繕が不可能になった場合、修繕不能の原因はBにあり(607条の2の賃借人修繕権も発動しない)、Aには修繕義務不履行がなく、賃料減額を認める必要はない。
【根拠条文】
民法 第606条第1項(賃貸人の修繕義務・賃借人帰責事由の例外)
民法 第606条第2項(修繕のための立入権)
民法 第605条の2第1項(賃貸目的物の譲渡と賃貸人たる地位の移転)/借地借家法 第31条(建物賃貸借の対抗力=建物の引渡し)
民法 第621条(原状回復義務・通常損耗は含まない)
民法 第622条の2第1項(敷金の返還・控除後の残額返還)
民法 第622条の2第2項(賃借人の充当請求権)
【参照判例】
(敷金・通常損耗については改正前の判例法理が622条・621条として明文化された)
【補足】
敷金規定(622条の2)は2020年改正で新設された明文規定。「賃借人からの充当請求(2項)」と「賃貸人の一方的充当」を区別すること。賃貸人たる地位の移転(605条の2)は頻出改正ポイント。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第601条・第606条・第607条の2・第621条・第622条の2 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。