民法53不法行為・一般不法行為の成立要件

行政書士 民法 問53:不法行為・一般不法行為の成立要件

Aは道路を歩行中、BがCに向けて投げたボールが当たって負傷した。不法行為(民法709条)の成立に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか(現行民法に基づいて答えること)。

  • AがBに対して不法行為に基づく損害賠償請求をするためには、(1)Bの故意または過失、(2)AのBに対する権利侵害、(3)Aの損害の発生、(4)(2)(3)の因果関係、(5)Bの責任能力を立証しなければならない。
  • Bが責任能力のある未成年者であっても、BのCへのボール投げに過失がある場合には、BはAに対して不法行為責任を負う。
  • Bが12歳(責任能力なし)であった場合、BのBに対する不法行為責任は成立しないが、Bの監督義務者(親権者)は監督義務を怠らなかったことを証明しなければ損害賠償責任を負う。
  • AはBに対して損害賠償を請求する場合に、損害の発生および損害額を証明する必要があるが、精神的苦痛(慰謝料)については発生を証明しなくても当然に認められる。正答
  • 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者(A)が損害および加害者を知った時から3年(人身損害は5年)、または不法行為の時から20年(除斥期間)で消滅する。
正答:AはBに対して損害賠償を請求する場合に、損害の発生および損害額を証明する必要があるが、精神的苦痛(慰謝料)については発生を証明しなくても当然に認められる。

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エが誤りです。慰謝料(精神的苦痛に対する損害賠償・710条)は「証明しなくても当然に認められる」ものではありません。精神的苦痛が生じたことの主張・立証は被害者がすべきであり、裁判所が職権で慰謝料を認定するわけではありません(ただし、身体侵害等の場合には慰謝料が実務上当然のように認められる事案も多いですが、原則として主張・立証が必要です)。アは709条の一般不法行為の5要件として基本的に正しい。イは責任能力ある未成年者への712条の反面(責任能力あれば不法行為責任あり)として正しい。ウは714条の監督義務者責任として正しい(中間的過失責任・監督義務を怠ったことを推定し、監督義務者が「怠らなかった証明」をして免責を求める構造)。オは724条・724条の2の消滅時効として正しい記述です。

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エが誤りの根拠を確認します。民法710条は「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」と規定します。慰謝料は「財産以外の損害(精神的損害)」に対する賠償ですが、これも「損害の発生」という要件を具備する必要があります(発生した精神的損害の程度・性質は具体的事情によって異なります)。「証明しなくても当然に認められる」は誤りで、少なくとも「精神的苦痛が発生したこと」の主張が必要です(ただし実務上は身体侵害事案では慰謝料発生はほぼ推認されます)。アについて、709条の要件(故意過失・権利侵害・損害発生・因果関係)に加えて責任能力(712条の反面解釈)が必要であり、5要件の整理として正しい。ウについて、714条は監督義務者の責任を「その監督義務を怠ったとき」ではなく「監督義務を怠らなかったことを証明しなければ」責任を負うとして中間責任(推定過失責任)を採用しています。オについて、724条は「損害および加害者を知った時から3年」、724条の2は「人身損害については5年」、724条後段は「不法行為の時から20年」を定めます(20年は除斥期間→判例改正で消滅時効と解されるようになった)。

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【理論的背景】

一般不法行為(民法709条)の成立要件は、学説・判例上「故意または過失・権利侵害(違法性)・損害発生・因果関係・責任能力」の5要件として整理されています(旧法では「他人の権利を侵害した」という文言でしたが、2004年改正で「権利又は法律上保護される利益」に拡張)。不法行為の損害賠償制度は、不法行為の抑止(行為規範)と被害者救済(填補)という二つの機能を有します。2020年改正では消滅時効の整理(724条・724条の2の新設による人身損害の5年化)がなされました。慰謝料(710条)は実体法上の権利として被害者が請求でき、一身専属的な権利(相続の可否が問題となることがある)として機能しています。

【条文構造の精密な理解】

  • 709条: 一般不法行為の要件(故意・過失/権利侵害または法律上保護される利益の侵害/損害/因果関係)。
  • 710条: 財産以外の損害(慰謝料)の賠償義務→身体・自由・名誉・財産権の侵害で生じた精神的損害も賠償対象。
  • 712条: 責任能力のない未成年者(「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていないとき」)は不法行為責任なし→実務上概ね12歳未満。
  • 713条: 精神上の障害により責任能力を欠く者の責任否定と例外。
  • 714条: 監督義務者の責任(712条・713条の者の監督義務者→中間責任・監督義務を怠らなかったことを証明して免責可)。
  • 724条: 消滅時効→「損害及び加害者を知った時から3年」(短期・主観的起算点・1号)、「不法行為の時から20年」(長期・客観的起算点・2号)。後者の20年の法的性質は、旧法下では判例(最判平成元年12月21日)が「除斥期間」と解していたが、2020年改正により条文上「消滅時効」と明記された(現724条柱書が両期間とも「時効によって消滅する」と規定)。したがって現行法では20年も消滅時効であり、完成猶予・更新の対象となる。
  • 724条の2(2020年改正新設): 人身損害の場合→「損害及び加害者を知った時から5年」(生命・身体への侵害)。

【試験での位置づけ】

行政書士試験における一般不法行為の典型的な出題パターンは、(a)5要件の整理(アのような問題)、(b)責任能力のない者の不法行為と監督義務者責任(ウのような問題・714条)、(c)慰謝料の法的性質(エのような誤りを問う問題・710条)、(d)消滅時効(724条・724条の2・3年・5年・20年の区別・オのような問題)の4パターンです。特に(d)の改正(2020年改正で人身損害を5年に延長・724条の2新設)と(c)慰謝料の「発生を証明しなくても当然に認められる」という誤解を問う問題は頻出です。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 正しい(基本的に)。709条の4要件+責任能力(712条の反面)で5要件。「Aの権利侵害」という表現は「権利または法律上保護される利益の侵害」(2004年改正後の文言)と正確に言うべきだが、基本的な理解として正しい。証明責任はAにある。
  • イ: 正しい。712条は「責任能力のない未成年者」の不法行為責任を否定するため、責任能力のある未成年者(概ね12歳以上・個別判断)は不法行為責任を負う。「責任能力がある未成年者」はBとして709条に基づき損害賠償責任を負う。
  • ウ: 正しい(714条の中間責任の説明として)。714条1項は「責任能力のない者を監督する法定の義務を負う者は…賠償の責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない」(証明責任の転換:監督義務者が免責事由を証明する中間責任)。
  • エ: 誤り(正答)。710条による慰謝料(財産以外の損害)も損害賠償の一種として「損害の発生」の証明(主張・立証)が原則必要。「証明しなくても当然に認められる」は誤り。ただし実務上、身体侵害では慰謝料発生がほぼ認定され、その額(定型的な基準あり)が問題になることが多い。
  • オ: 正しい。724条(3年・20年)・724条の2(人身損害は5年)。短期消滅時効の起算点は「被害者が損害および加害者を知った時」(主観的起算点・認識時)。長期の20年は「不法行為の時から」(客観的起算点)。なお現行法では20年も条文上「消滅時効」と明記されている(旧法下では判例=除斥期間説だったが2020年改正で消滅時効に整理された)。

【根拠条文】

民法 第709条(一般不法行為の要件)

民法 第710条(財産以外の損害・慰謝料)

民法 第712条(責任能力のない未成年者の不法行為責任の否定)

民法 第714条第1項(監督義務者の責任・中間責任)

民法 第724条(消滅時効・知った時から3年/不法行為の時から20年・いずれも消滅時効)

民法 第724条の2(人身損害の消滅時効・知った時から5年・2020年改正新設)

【参照判例】

旧724条後段の20年を「除斥期間」と解した最判平成元年12月21日(民集43巻12号2209頁)。現行法は2020年改正により条文上「消滅時効」と整理(現724条柱書・2号)。

【補足】

2020年改正で人身損害の短期消滅時効が3年から5年に延長(724条の2新設)。これにより「3年・5年・20年」の3区分を正確に把握することが重要。慰謝料も損害であり発生の主張・立証は原則必要(「当然に認められる」は誤り)。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第709条・第712条・第714条・第710条・第724条 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

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